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本編

4.胸騒ぎ

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最近、妙な夢を見るようになった。

今まで聞いたどんな声よりも美しい、優しい声で囁かれる夢だ。

『待っていて、もう少しで……から』

いつも同じ箇所がうまく聞き取れない。

ふわりと頭を撫でられる感触と同時に毎度はね起きる。

「これは……ただの夢……?」

所詮夢の話。しかし私は、たかが夢とは思いたくなかった。

───もう少しって、なんのこと……?




その日は雲ひとつない晴天で、風のない静かな日だった。

私は妙な胸騒ぎを感じながら、いつものようにギリギリの時間に布団から這い出た。

今日は1限から防御魔法の演習授業がある。今まで教えられた魔法の中でも防御魔法は他の魔法に比べて得意ではあるけど、せいぜい中の下だ。

(…また藤岡さんと比べられて叱られるんだろうなぁ)

最初は転移者だからと親切にしていた教師たちも、王族の態度や私の成績を見て、すっかり馬鹿にしてくるようになった。

『皆さん、これは悪い見本です!ミウ・タサカのようにはならないようにしましょう!』
『はーい』
『言われなくても、あんなのやろうとしたってできないわよ』

授業ではわざと前に連れ出され、恥をかかされた上に笑われる。そのあと藤岡さんが登場して完璧な魔法を見せるのまでがセットだ。

「……大丈夫、明日の顔合わせを思えば、こんなの1時間で終わるし…」

自分に何度もそう言い聞かせ、私は重たい腰を上げた。目の前にかかった安っぽいドレスは見ないふりだ。

朝食……は、寮にはカフェテリアがあるけれど、お金がないし一度行った時頭にスープをかけられたから2度と行きたくない。

こんな朝だと食欲も湧かないので、冷蔵庫の中のものを適当に容器に詰め家を出た。



「今日は防御魔法です。まずはお手本にミウ・タサカ……は使いものにならないので、我が国の聖女様にしてもらいましょう」

学院の敷地内の森の中に、堪えられないとばかりにいくつかの笑い声が響き渡る。

私はうつむき、折りたたんだ膝を抱えることしかできない。

最近また一段と自信に満ち溢れた顔になった藤岡さんは、ゆるい攻撃をうつ教師に、今日も堂々と完璧な防御魔法を見せた。

そして毎回恒例のペアを組む時間が始まり、もちろん組む相手がいないので、教師に容赦ない炎魔法を打たれようという頃。

教師の耳についた通信魔道具が突然鳴り出した。教師は億劫な様子で着信に応じる。

「はいもしもし……え?学院内の結界が破れた?そんな馬鹿な……はい、はい……わかりました。すぐ向かいます」

どうやら深刻な事態が起きているらしい。学院の強固な結界が剥がれるなんて聞いたこともない。

面倒そうに通信を切った教師は、申し訳なさそうにクラス全体を見渡した。

「すみません、呼び出されてしまったので少し外しますが、引き続き演習を続けていてください」

結界が破れたなら先生はここにいるべきなのでは?

そう思ったが、困惑しているうちに教師は演習場を後にした。
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