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本編

1.身勝手な召喚

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「先程の魔法すばらしかったです、聖女様!」
「まさか授業で神の御業が見られるだなんて……!」
「誰でもできるわよ、あんなの」

廊下を歩いていると、向い側からはしゃいだ声と、自慢げな声が聞こえてきた。

媚びを含んだ声音で賛辞をとなえる令嬢に、うっとりとした顔でため息をつく令嬢。その真ん中には、この国で唯一私と同じ、黒い髪を持つ美少女がいる。

どうやら藤岡さん…ううん、聖女様が新しい逸話をうんだらしい。

ぼんやりしながら無意識に聞き耳を立てていると、すれ違いざま、聖女様の肩にぶつかってしまった。

聖女様は尻餅をついた私をジロリと見下ろすと、不快そうに眉を顰め、冷たい声で言い放った。

「邪魔」

……私はちゃんと端を歩いていたし、広がって歩いていたのはそっちなのに。

しかしそんな弁解、したところで不敬だと取り巻きに詰られるだけだ。私はぐっと言葉をのみ、絞り出すような声で謝罪を述べた。

「…すみません」

俯く私に、取り巻きの令嬢たちはクスクスと笑い声をあげる。そして何度言われたかわからない言葉をわざと聞こえるような声量で言った。

「相変わらず見窄らしいわ。本当に聖女様と同じ異世界からきた転移者かしら」
「何の役にも立たない税金泥棒の分際で、聖女様と普通にすれ違おうとするなんて。お姿を拝見した途端こうべを垂れ跪くのが常識でしょうに」

正直言えば憎らしい。しかし『何の役にも立たない』のは確かなので、私は何も言い返せずに黙り込んだ。

そんな私に目もくれず、彼女たちは楽しげにその場を離れていく。

その背中を見送った後、私は止まっていた息をゆっくりと吐いた。

お願いです神様、私を帰してください……。



「…!成功したぞ!聖女様だ…!」

半年前。信じられない話だが、私、田坂タサカ美雨ミウはクラスメイトの藤岡さんと一緒に異世界に召喚された。

アニメやゲームの世界で見るような剣と魔法の世界。周りにはRPGに出てきそうな騎士みたいな格好の人や、王冠を被った人がいる。

その人たちが言うには、理由はよくわからないが今この国は滅亡の一途を辿っていて、それを治めるために異世界の聖女の力が必要だったという。

その聖女というのが藤岡フジオカ杏菜アンナだった。

藤岡さんは急に違う世界にやってきてパニックを起こし、召喚からたった数秒で光魔法を発現させたのだ。

藤岡さんはあっという間にお城の中へと連れて行かれた。

問題はそのあとだ。

『あの……帰りたいのですが』
『は?何を馬鹿なことを。2人目がいるのは予想外だったが、お前も国の役に立ってもらわねば』

藤岡さんにしか用がないなら、と私は帰りたいと主張したけど、それは通らなかった。

うっかり一緒に召喚されてしまった私は、聖女の同郷として王族に囲い込まれてしまったのだ。
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