「はあ、何のご用ですの?」〜元溺愛婚約者は復縁を望まない〜

小砂青

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本編

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まだ日が昇る前の薄暗い倉庫の中。
二つの影が怪しく石の床に揺れる。

「──うん、完了。もう君に用はないよ」

まだ販売される前の新聞社をばさりとゴミ箱に捨て、青年はニコリと笑った。その美しい笑顔を直視した女性……アイラは、頬を少し蒸気させ上目遣いに彼を見上げる。

その青年は柔らかい微笑みとは裏腹に、どこか危なげでミステリアスな雰囲気を持つ、アイラが今まで出会ったことのないような美貌の持ち主だった。

アイラはうっとりとその姿を見つめ、彼に触れようと手を伸ばした。

「用はないだなんてそんな……ひどいわ。もう少し一緒にいたいのに」

そして無駄に露出度の高い肢体が青年の腕に巻きつこうとした次の瞬間。

どこからか現れた複数の男たちによって、彼女は取り押さえられていた。

「きゃあ!なに!?ちょっと離しなさいよ…!っ、誰か…っ、むぐっ」

アイラは暴れながら甲高い声をあげるが、その前に口を塞がれる。

それでもなお暴れ続けるアイラに、青年は柔らかい表情のまま、まるで状況に似合わない微笑みを浮かべた。彼女の指先が触れたジャケットを払いながら。

「汚いなぁ、触らないでよ」

その声は氷のように冷たく、獣の呻き声かのような威圧感を放っていた。

あまりの恐ろしさに、先程まで媚びた声をあげていたアイラはがくがくと震え出す。

「あーあ、このジャケットはフランが縫ってくれたやつなのに……最悪。じゃあお前たち、その女好きにしていいよ」
「んーーっんーーっ」

青年の目配せ一つで、男たちはくぐもった悲鳴をあげるアイラをずるずるとどこかへ引きずっていった。

そしてそれをじっと見送った青年……ルーカスは、彼らの背中が見えなくなるや否や、まるで少年のような笑顔で踵を返した。

「よし、フランのところにかーえろ!」



ルーカスは裏社会の人間であった。

優秀にも関わらず男を見る目が圧倒的に劣っているフランチェスカが再び選んだのは、やはり碌でもない男だったのである。
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