「はあ、何のご用ですの？」〜元溺愛婚約者は復縁を望まない〜

本編

１０

その翌日、新聞記事の一面に飾られた記事を見た侯爵は、発狂じみた声をあげ息子を自ら叩き起こした。

「イシュメル！貴様なんてことをしてくれたんだ……！！」
「ち、父上……？こんな朝早くに何を…」
「いいからこれを見ろ！！」

イシュメルは寝ぼけ眼を擦り、気怠げに父の指差す先を見る。しかしその見出しを目撃した瞬間、一気に意識が冴え心臓が跳ねた。

何故ならそこにはこう記されていたからだ。

『フェネリー家次期当主イシュメル、元婚約者の夫に脅迫か』

「……っなななんだこれは！」
「それはこっちのセリフだ！貴様…！最近何か探していると思ったら、まさかフランチェスカに付き纏っていたとはな！」
「つっつきまとってなんか！」
「ではこの写真はなんだ！」

冷や汗をたらしながら見出しの下の写真を見ると、そこにはフランチェスカに執拗に近寄る姿、そして後から来たルーカスに怒鳴り散らしている姿がばっちり押さえられている。

さらにそれだけではない。

侯爵すら知らないイシュメルの不正や横領の内容が、ことこまかに記されている。

親子共に呆然としていると、激しいノックの音と共に、長年仕えている侍従長が珍しく焦った様子で部屋に飛び込んできた。

「旦那様…！記事を見た領民や親戚の方々から問い合わせが殺到しています！」
「く……っわかった今行く！」

侯爵は息子の肩から手を離し、真っ青な顔で部屋を走り去った。

しかし唖然としている暇もなく、震えるイシュメルの耳に、さらにとんでもないニュースが飛び込んできた。

「イシュメル様！緊急事態でございます！」
「……っこ、今度はなんだっ」
「アイラ様の部屋がもぬけの殻です！それに金庫の宝石たちも、ごっそりなくなっています！」
「な、ななななんだと…！」

イシュメルは混乱した頭でよろよろと立ち上がり、長いこと入っていない婚約者の部屋へと駆け込んだ。

───そこは絨毯やシーツさえ残すことなく、文字通り空っぽだった。