「はあ、何のご用ですの？」〜元溺愛婚約者は復縁を望まない〜

本編

６

その日の王都は休日ということもあり、いつも以上に一通りが多かった。

馬車や人が多く行き交う賑やかな大通りの中、フードを深く被り挙動不審に辺りを見回す男が、地味に注目を浴びていた。

「ママー、あの人不審者？」
「しっ見るんじゃありません！」

そんな子供の声が耳に入ってくるが、本人はこれでも忍んでいるつもりなので自分のことを言われている自覚はない。

「すまないご老人、フランチェスカという女性を知らないか？」
「フランチェスカ？そんな子知らないねぇ」

フードを深く被った明らかに怪しい男、もといイシュメルは、八百屋を経営する妙齢の男の困り顔にわかりやすく落胆した。

しかしフランチェスカほどの美人であれば、すぐに見つかるはずだ。

気合を入れ直したイシュメルは「そうか」と呟きその場を去ろうとしたが、そのあと聞いた言葉に思わず息を飲んだ。

「フランちゃんって子はいるんだけどね。それはもうとんでもない美少女で、」
「……っ本当か！それはどこにいる！？」

掴みかかるような勢いで距離を積めるイシュメルに、八百屋の彼は面食らったように目を瞬かせた。

しかしイシュメルに他人の様子を気遣う神経は存在しない。

(フラン……フランチェスカに違いない！)

フラン、それはフランチェスカの愛称だった。興奮して詰め寄るイシュメルに、彼は困惑しつつ答える。

「さ、さっきそこの喫茶店で見たよ」
「……っ失礼する！」

イシュメルは居ても立っても居られず、男の教えた喫茶店に向かって走り出した。