「はあ、何のご用ですの?」〜元溺愛婚約者は復縁を望まない〜

小砂青

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「ルーくん!もうっ遅いですわ!」

突然の出来事にイシュメルは瞠目した。

何故なら、あのフランチェスカが自分の手を振り払い、幸せそうな顔で知らない男に抱きついたからだ。

しかも語尾に♡が3つはつくであろう甘ったるい声で。

フランチェスカに甘えた顔で抱きしめられる茶髪の男は、虫でも見るような冷たい瞳でイシュメルを見ていたが、フランチェスカを視界に入れた途端とろけんばかりの甘い笑みを浮かべた。

「ごめんねフラン、帰ったら抱き上げてぐるぐるしてあげるから許して」
「本当ですの…?」
「もちろん、可愛いフラン」

合流して早々自分達の世界を繰り広げ始めた彼女たちを、町中の人々が「また始まった」とケラケラからかっている。

イシュメルは予想外の出来事に頭が追いつかず固まっていたが、みるみる顔を真っ赤にして、眉を吊り上げ問い詰めた。

「だっ、フランチェスカ!だれだその男は!」

甘い時間を邪魔され男の瞳が再びイシュメルを冷たく射抜くが、今度は気がつかなかった。

フランチェスカは先程男にむけていた熱視線が嘘のように、一瞬で無表情に戻り夫を紹介した。

しかしその間男から離れることはない。

「この方は私の夫のルーくん……ルーカス様ですわ」
「お、夫!?」

イシュメルは怒りとショックで素っ頓狂な声をあげた。眉間の皺がますます深まり、拳が震える。次の瞬間、イシュメルは怒鳴り声をあげていた。

「どういうことだ!?お前は私のことが好きだったはずだろう!?浮気ではないか!!」
「……何をおっしゃっていますの?わたくしとイシュメル様の婚約はとっくの昔に解消されたはずですのに」
「……っしかし!婚約破棄してからたった2年で他の男と結婚するなどと……!」
「それの何がおかしいんですの?」

困惑した表情で首を傾げるフランチェスカに、イシュメルの苛立ちが募る。

フランチェスカは考えるように俯いていたが、「まさか」とばかりに顔を上げた。

「まさかイシュメル様、わたくしがまだご自分のことを想っていると勘違いしていらっしゃるの?」
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