「はあ、何のご用ですの?」〜元溺愛婚約者は復縁を望まない〜

小砂青

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本編

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(すぐそこにフランチェスカがいる……!やはり私を待っていたんだ!)

気がつくと口角が上がっていた。まだそんなに走っていないのに息があがり、全身に熱がまわる。

もうすぐ喫茶店に辿り着くという時。

可愛らしい青い扉から出てきた小柄な女性を見て、イシュメルは叫んでいた。

「フランチェスカ!」

風にたなびく金色の髪。
ミルクのような白い肌。
長いまつ毛に縁取られたサファイアの瞳が、ぱちぱちと瞬きイシュメルを見る。

「………どなた?」

目の覚めるような美しい顔は、間違いなくフランチェスカその人だった。平民の中にいながら、その美貌は全く衰えていない。

小鳥のような声で尋ねてくる彼女に、イシュメルは迷わずフードを外す。

そして目があった途端、フランチェスカは驚いたように目を見開いた。

「……イシュメル様?」
「久しぶりだな……フランチェスカ」

信じられないという顔で首を傾げる彼女に苦笑する。夢か何かだと思っているらしい。細い腕をそっと取ると、びくりと肩が揺れた。感激しているのだろうか。

「どうしてここにいらっしゃいますの?」
「お前を迎えにきたんだ」
「はあ、何のご用ですの?」
「は……?」

泣いて喜ばれ抱きつかれることを期待したが、予想外の対応にイシュメルは呆気に取られた。

かつて自分への好意でいっぱいだった瞳は、何故かひどく冷めている。

いつも自分を見つけるたびに満面の笑みを浮かべていた顔は、困ったように曇るだけだ。

フランチェスカのそんな顔を見るのは初めてだった。

「何、とは……?」
「わたくしに用があるのでしょう?よくわたくしがここにいるとわかりましたわね。貴方がわざわざ来なくても使いを寄越してくださればよかったのに」
「……拗ねているのか?やはり妻はお前しかいないと思い迎えにきたと言っている」
「……………は?」
「ん?」

どこからかとてつもなく低い女性の声が聞こえた気がしたが、気のせいだろうか。

きょろきょろと辺りを見回したその時、前方から訝しげな低い声が聞こえた。

「───誰、きみ」
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