「はあ、何のご用ですの?」〜元溺愛婚約者は復縁を望まない〜

小砂青

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イシュメルは最近夢を見る。まだフランチェスカが婚約者だった時の夢だ。

『イシュメル様、その……わたくし、シェフに教わってクッキー焼いてきましたの。もしよかったら受け取ってくださいますか…?』

明らかに自分に好意を向けているとわかる色づいた頬に、潤んだ瞳。

普段はツンとした澄まし顔が自分の前でだけ崩れるのが、気分がよくてで仕方なかった。

『…他人の手作りは気味が悪くて嫌いだが、仕方ない。一枚だけな』
『…!本当ですの!?ありがとうございます!』

クッキーをもらってやっただけで、美しい顔が幸せそうに緩む。当時は何とも思わなかったが、今は愛おしく思えて仕方ない。

(フランチェスカ……もう一度会いたい。今度こそお前を……)

しかし彼女の横顔に手を伸ばそうとしたところで、いつも目が覚めてしまう。

イシュメルはようやく気づいた。

フランチェスカとの婚約を破棄すべきではなかったのだと。




その日、イシュメルは父に殴られた。

食事の席で、

「父上、やはりフランチェスカとやり直したいのですが…」

と言ったからである。

「お前は自分が何を言ってるかわかっているのか?」

侯爵は失望しきった顔で、自らが育てた馬鹿息子を見下ろした。フランチェスカが婚約者を降りてから、侯爵家は碌なことがない。

それは自分の責任もあると感情を抑えてきたが、侯爵はついに怒りを爆発させた。

胸ぐらを掴まれ、イシュメルは真っ青な顔で疑問を口にした。

「え…っダメなのですか!?フランチェスカは私を愛しているのですよ!?きっと今でも私を想い泣いているはず…」
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたがここまでとはな!そもそもフランチェスカはとっくに伯爵家を出ているわ!」
「な…っなんですって!?どういうことですか!」

父の口から出た衝撃の事実にイシュメルは瞠目する。それを見て侯爵は舌を打った。

「自ら出て行ったのだ!こんな大々的に婚約破棄された娘など家の恥になるからと!」
「……!」
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