「はあ、何のご用ですの?」〜元溺愛婚約者は復縁を望まない〜

小砂青

文字の大きさ
上 下
1 / 13
本編

しおりを挟む

伯爵令嬢フランチェスカといえば、誰もが知る社交界の華であり、一途に愛し献身した婚約者にこっぴどくフラれた不遇の令嬢である。

こんな話が周知になるなどまさに不遇だが、それほどまでにフランチェスカの婚約者への溺愛ぶりは有名であった。

「イシュメル様!差し入れですわ。皆さまと食べてくださいまし」
「また来たのか?」
「もう、またとは何ですの?愛する殿方に尽くすことは婚約者の特権ですの」

次期侯爵である婚約者のため常にひたむきに努力し、自らも忙しいにも関わらず、婚約者へのフォローはかかさない。

美貌とスタイルは言わずもがな、社交も芸事も全て高い評価を保ち、彼に必要な人脈はどんな人間でも邪険にしない。

普段は貴族令嬢として非の打ち所がない澄ました笑みだが、婚約者を前にすれば恋する乙女の顔に変わる。

「わたくし、イシュメル様のためならなんでもしますのよ?」

その献身ぶりは彼女に懸想する男たちも諦めるほどで、彼女に嫉妬していた女たちもいつのまにか感心するようになっていた。

……そんなフランチェスカだったが、よりによって彼女の誕生日の日、

「婚約を解消してくれ」

大勢の来客の前で、婚約破棄をされた。

しかも、フランチェスカの友人たちが彼女にプレゼントを渡し終えたタイミングで話しかけた為に、フランチェスカが『まあ、イシュメル様も何かくださるの?』とはしゃぎ声を直後のことである。

幸せそうな顔で振り返ったフランチェスカは、神妙な顔つきの婚約者とその隣に寄り添う見知らぬ少女を見て、みるみる驚愕をあらわにした。

「な……ぜ…?」
「…お前に申し訳ないと言い出せずにいたが、1年前から私はアイラを伴侶としたいと思っていた。しかしもう限界だ。婚約破棄してくれ、フランチェスカ」

要するに1年も前から二股をかけていたと暴露していた。

まるでフランチェスカの一途な愛を責めるかのような言い草で、見ていた貴族たちは一様に眉を顰めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

初恋の結末

夕鈴
恋愛
幼い頃から婚約していたアリストアとエドウィン。アリストアは最愛の婚約者と深い絆で結ばれ同じ道を歩くと信じていた。アリストアの描く未来が崩れ……。それぞれの初恋の結末を描く物語。

【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!

たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」 「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」 「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」 「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」 なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ? この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて 「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。 頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。 ★軽い感じのお話です そして、殿下がひたすら残念です 広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います

【完結済み】婚約破棄したのはあなたでしょう

水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のマリア・クレイヤは第一王子のマティス・ジェレミーと婚約していた。 しかしある日マティスは「真実の愛に目覚めた」と一方的にマリアとの婚約を破棄した。 マティスの新しい婚約者は庶民の娘のアンリエットだった。 マティスは最初こそ上機嫌だったが、段々とアンリエットは顔こそ良いが、頭は悪くなんの取り柄もないことに気づいていく。 そしてアンリエットに辟易したマティスはマリアとの婚約を結び直そうとする。 しかしマリアは第二王子のロマン・ジェレミーと新しく婚約を結び直していた。 怒り狂ったマティスはマリアに罵詈雑言を投げかける。 そんなマティスに怒ったロマンは国王からの書状を叩きつける。 そこに書かれていた内容にマティスは顔を青ざめさせ……

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

俺の不運はお前が原因、と言われ続けて~婚約破棄された私には、幸運の女神の加護がありました~

キョウキョウ
恋愛
いつも悪い結果になるのは、お前が居るせいだ! 婚約相手のレナルド王子から、そう言われ続けたカトリーヌ・ラフォン。 そして、それを理由に婚約破棄を認める書類にサインを迫られる。 圧倒的な権力者に抗議することも出来ず、カトリーヌは婚約破棄を受け入れるしかなかった。 レナルド王子との婚約が破棄になって、実家からも追い出されることに。 行き先も決まらず、ただ王都から旅立つカトリーヌ。 森の中を馬車で走っていると、盗賊に襲われてしまう。 やはり、不運の原因は私だったのか。 人生を諦めかけたその時、彼女は運命的な出会いを果たす。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

処理中です...