彩の目覚め

朝日眞貴

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第十五話 先輩の予言

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 ぼくは、指輪を見続けている。
 本当に、嬉しい。明日翔さんとの繋がりを感じる。明日翔さんの指にも同じデザインの指輪が付けられている。

「ん?そうだ!」

 明日翔さんが、指輪を外す。
 え?なに?

「この指輪だけどな・・・」

 明日翔さんが、ぼくの指輪に明日翔さんの指を合わせる。

 え?デザインが同じだと思っていたけど、微妙に違う。それに・・・。二つを合わせると・・・。ねじれが、繋がっているように見える。

「それに・・・」

 指輪の内側を見せてくれる。

 明日翔さんが、恥ずかしそうに、指で示した場所には、宝石?が埋まっている。後ろに?見えない場所に、よく見ると、そこから左右にアルファベットが・・・。え?”SAYA”と”ASUKA”と書かれている。ぼくの名前と明日翔さんの名前?それから、数字は・・・。ぼくの誕生日!明日翔さんの誕生日も書かれている。それから、血液型?も・・・。

 ぼくの指輪を外したら、同じように彫られている。
 恥ずかしそうにしているのは、明日翔さんも知らされていなかったらしい。それじゃ、ぼくの誕生日や血液型は?そうだ。キャサリンさんと服を決めるときに、誕生日と血液型から好きそうな色を選ぶから教えてと言われた。あの時から・・・。

 あれ?でも、ぼくの指輪と明日翔さんの指輪では、宝石の色が違う?

「明日翔さん。宝石の色が違いますよね?」

「あぁ・・・。それは、俺が頼んだ。彩の指輪にはルビーを・・・。俺の指輪には、アメシストを入れてもらった」

「え?ルビー?」

「俺の指輪には、彩の誕生石。彩の指輪には俺の誕生石を、昌平に頼んだ」

 明日翔さんの言っていることは解ったが、理解ができない。誕生石?宝石?

「・・・。ぼく・・・。宝石なんて・・・。初めて・・・」

「そうか?お互いの誕生石だし、そんなに大きくない。表に宝石が出るのは恥ずかしいし、仕事の邪魔になる。シンプルなデザインで悪いけど、許してくれ」

「ううん。違います。すごく、綺麗で可愛くて、素敵で・・・。嬉しいです」

「そうか、そう言ってもらえると、この指輪にしてよかったよ」

「明日翔さん。この指輪に使われている金属は?お手入れとか、勉強したい」

「そうだな。手入れは、昌平にやらせればいいけど、日々のメンテナンスは、彩にやってもらおうかな」

「はい!お任せください。勉強します」

「ゴールドはわかるよな?」

「はい」

「こっちはピンクゴールド。銀色は、プラチナだ」

 指輪を指さしながら教えてくれた。手入れは、明日翔さんも解らないらしくて、エリザベスさんに聞いてくれるらしい。ぼくが聞きに行ってもいいのに・・・。と、思ったけど、そんなことをすれば、アイツらがマンションにやってくると言って、許可してくれなかった。

 なぜ?
 ダメなの?

「う・・・。ダメじゃないけど、彩。いいのか?」

「え?何が?」

「ふぅ・・・。彩。目を閉じて、俺が言うことを、想像してみてくれ・・・」

「はい」

 目を閉じる。

「隆司。あぁキャサリンと、エリザベスが、彫金の手入れを彩に教えるために、訪ねてくる」

「はい」

 想像したけど、確かに目立つ二人だけど、それだけだ。

「会社の面子には偶然・・・。出会わなかった。彩の部屋に入ってくる」

「はい」

 そうだ。ぼくの部屋に訪ねて来るのだ。でも、キャサリンさんとエリザベスさんとアスナさんと美穂さんなら・・・。平気。部屋は狭いけど、楽しそう。

「彩は、楽しそうだと、想像したかもしれない」

 ぎくっ
 確かに、楽しそうだと思った。

「・・・」

「アイツらが、彩の今の部屋を見たら・・・」

「え?」

「間違いなく、”女の子”だからとか適当なことを言って、まずはカーテンを変えようとする。そのあと、テーブルクロスとか、小物も持ってくるだろう。徹。アスナの奴は、化粧台を持ってくる可能性もある。それも可愛い感じの奴だ。彩が断りにくいように、俺の為だとか言って・・・。あいつらの趣味を押し付けてくる未来が俺には見える。確実だ」

「・・・。大丈夫・・・。じゃないですか?」

「本当に、彩。そうおもうか?今日の1-2時間。奴らに接して、あいつらの異常性を感じなかったか?」

「・・・」

 黙ってしまった。
 キャサリンさんが持ってくる服は可愛かった。素敵だった。美穂さんに勧められる下着も、インナーも・・・。アスナさんの化粧道具もすごかった。

 ぼくの殺風景な部屋をみたら、美穂さんに怒られそうだ。少ない下着の数や靴を見られたら、間違いなく怒られる。
 クローゼットの中を見られたら、キャサリンさんが何を言い出すのか解ってしまう。
 化粧品?ぼく、安売りで買ったメーカーもバラバラの化粧水とファンデーションと口紅だけしか持っていない。爪にマニュキュアくらいしなさいと、怒られた。足の爪にもマニュキュアを塗られた。毛が生えないから安心していたら、耳の毛や首筋の産毛を剃られた。恥ずかしかった。眉毛も整えなさいと怒られた。
 年齢を伝えたら、しっかりした技術は無理でも、ケアの方法は覚えなさいと言われた。

 うん。明日翔さんの言っている内容が想像できる。
 ぼくの部屋が大変なことになる・・・。

 でも、それも面白そう。

「まぁ・・・。そうなったら、彩の部屋は、彩の部屋として残して、俺の部屋で過ごせばいいか・・・」

「え?」

 驚いて目を開けてしまった。
 そうか、ぼく、先輩と・・・。明日翔さんと婚約したから、一緒の部屋で過ごしても・・・。おかしくない?

 うん。おかしくない。でも・・・。

「明日翔さん。会社には?」

「まずは、彩の母さんたちに伝えてからだな」

「うん。でも、大丈夫なのですか?その・・・。同棲のような・・・」

「ん?それは、大丈夫。他にも何組かいるぞ?」

「え?うそ?」

 知らなかった。
 会社は社内恋愛がOKで結婚しても、希望があればそのまま働き続けられると知っていた。ぼくが、結婚できるとは思っていなかったから、調べなかったし、興味もなかった。

 他にも居るのなら、問題はないのかな?

「でも、二部屋も・・・」

「皆、同じような感じだ。隣り合っている部屋を確保できている奴らは少ないけど、二部屋借りて、建前上は別々に住んでいるけど、金が溜まったら結婚して、二人で出ていくって感じだな」

「・・・。そうか、いつまでも・・・」

「そうだな。彩。もし、俺が引っ越し代から、新居の費用まで、負担するから、すぐに結婚して、一緒に住もうと提案しても、素直に頷いてくれないよな?」

「え・・・」

 明日翔さんの提案は魅力的だ。
 でも、夫婦になるのなら、部屋を借りて住むのなら、ぼくもお金を出さないと・・・。

「彩なら、半額を出すとか考えるだろう?」

 うなずく。
 明日翔さんに甘えてばかりではダメ。ぼくは、明日翔さんの荷物になりたくない。

「だから、婚約して、お金を貯めよう」

「二人で貯めて、二人で住む場所に引っ越しをしよう」

「はい!あっでも、ぼく・・・。奨学金を・・・」

「返済を始めればいい。その間は、俺も協力する」

「え?」

「これは、決定事項だ。妻の借金は、旦那の借金だからな。早めに返済をしよう。さっきの話では、それほどの金額ではないのだろう?」

 ぼくに取っては大きな金額だ。
 正確には覚えていないが、200万を超えないくらいだ。

「・・・。200万くらい?利息がどうなっているのか、資料をみないとわからないです。助成とかで多少は減ったのですが・・・」

「そうか、彩は一年目だけど、”補佐”待遇だから、来月から手当が着く」

「え?手当?」

「人事から聞いていないか?」

「はい。なにも?」

「あいつら・・・。仕事しろよ・・・。彩は、俺の部署で、唯一の部下だ」

「はい」

「彩の職制は、プログラマになっている」

「はい」

「プログラマが、他の作業。例えば、営業や事務仕事をするのは、過重労働だ」

「え?」

「彩の身分としては、営業の補佐になっている。事務は、丸投げしているから、そちらは何もない」

「・・・。はい」

「だから、俺がやっている営業の補佐をしている彩は、営業補佐の手当が出るってことだ」

「でも・・・。そうか・・・」

「そう。今月末で、彩の研修期間が終わって、来月から、社員と同じ待遇になる。だから、支給額も上がるし、手当も付く」

「先輩。それは?」

「うーん。今のところ、手取りで、12-3万だろう?」

「はい。そのくらいです。残業や出張したときには、増えています」

「正確な所は、人事に問い合わせてみないとわからないけど、たしか基本給が通常の7割だから、約3割アップして、営業補佐の手当は、7万だったはずだ」

「え?」

 12万として、給料が15万くらいになって、手当で7万ってことは、22万?ぼくが?えぇぇぇぇぇ!!

「ん?」

「先輩。ぼくの給料が22万?」

「そうだな。他にも資格手当とかあるから、彩はたしか、資格もあったよな。MOSとか?」

「あっ!大学生のときに取りました!」

「それなら、もう少し手取りが増える。休み明けに、人事に確認してみればいい。その時に、資格の証明書とかあれば、構わないから全部持っていけばいい。変わった資格も持っていたよな?あっ検定系もOKだぞ」

「え?わかりました!」

 ぼくが驚いていると、明日翔さんのスマホが振動した。
 誰かからのメッセージのようだ。読み終わった。明日翔さんは、近くにあった。呼び鈴を鳴らす。

「今の話は、帰ってから、ゆっくりしよう」

「はい!」

 情報も少ないから、しっかりと情報を揃えてから、話をしたい。ぼくも、驚いてばかりで、何も考えられない。

「昌平の奴からで、部屋の準備ができたと言ってきた・・・。連絡を待てと言っていたのは、このことだったのか・・・」

 ボーイさんが部屋に来た。
 ホテルの部屋まで案内をしてくれるようだ。ハンガーにかかっていた、ぼくの上着を持ってきて、ぼくに着せてくれる。明日翔さんも同じだ。

 ルームキーは電子ロックになっていようで、カードキーを二枚渡された。部屋の前まで案内をしてくれるらしい。
 このボーイさんが、ぼくたちの担当だということだ。
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