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第三話 雷
しおりを挟む二人が雨に気がついたのは、窓を叩く雨音が強くなって遠くで雷が鳴り出したからだ。
「桜内。そろそろ、終わりにするか?雨も降っているし駅か家の近くまで送っていくぞ」
「本当ですか!」
奈々は、傘を持ってきていなかった。それに、家に帰っても両親になにか言われる可能性だってある。先生が一緒に来てくれたら少しは抑止効果があると思った。
「あぁ。桜内の都合がいい所まで乗せていくぞ?」
「それなら、もう少しだけ、第一次世界大戦の時に、アメリカの介入に関して教えて下さい」
「あぁ。当時のアメリカは、協商国側に武器や弾薬を供給していた。ルシタニア号事件以前と以後で・・・」
先生の説明が終わりそうになった。
窓の外を光の矢が降り注いだ。
その瞬間に、屋上の方向から”バリバリ。ドゴーン”となにかが壊れる音がなった。
「え?」「あ!」
二人が声を上げた瞬間。窓の外に光の矢の二撃目が降り注いだ。
その瞬間。大きな破裂音がなり響いた。
二人は窓の外を見てしまって、光で目をやられてしまった。
そして、窓の外の光が収まってくるのだが、明るさを取り戻さない。
奈々は立ち上がろうとするが足腰に力が入らない。そして、周りを見るが暗くてよく見えない。
「桜内。大丈夫か!」
先生には何が起こったのかある程度は理解できているようだ。
部屋の明かりが付いていない。最初は、停電しているのかと思ったのだが、空調は動いている。動いているのだが、先程まで温かい空気を出していた送風口からは冷たい風が吹かれ始めている。
入り口の近くにある明かりのスイッチを押しても明かりが点かないことから一部の回路が切れてしまっているかブレーカーが落ちてしまっているのだと理解した。
先生の予想は半分だけあたっていた。
旧校舎の電源系統は3つに分かれている。各部屋の電源系統が一つ。廊下などの共有部分が一つ。空調関連が一つ。そして落雷でダメージを受けたのは各部屋の電源系統だ。廊下には電気が来ているのだが、二人が廊下を通る時に点けなかったのでで暗いままなのだ。空調の電源も壊れていない。空調の制御を行っている部分が落雷で故障して冷風で固定されてしまったのだ。制御基板が壊れた為に空調を切ることもできない状況になってしまった。二人が居る部屋の空調は徐々に温度が下がって最終的には14度の冷風が出ることになってしまう。
少し目が慣れてきた先生が奈々を見るが椅子に座ったまま動かない状態だった。それで声をかけたのだ。
「あっ大丈夫です。少しびっくりしただけです」
「そうか、それならいい。明かりが点かないから少し不便だけど帰るぞ。怖かったら手を握ってやるぞ」
「先生。子供じゃないから暗くても平気です!怖くはないです!」
「そうだったな。桜内は大人だったな」
「そうです」
やっと力が入る状態なった奈々はドアまで移動した。ドアを開けようとするが開かない。
力を入れるがドアはびくともしない。ギシギシと軋む音がするだけだ。
「どうした?」
「先生。ドアが開かない」
「は?桜内。俺がやってみる」
先生がドアに手をかけて引くが本当にびくともしない。大きく軋む音だけが虚しく響くだけだ。
「桜内。少し離れろ。壊す」
「え?いいのですか?」
「問題になったら俺が謝れば済む」
奈々はドアから少し離れた。
机が有った場所まで戻って机により掛かるように体を預けた。
先生が何度かドアを蹴ったり勢いをつけて体当たりをしたりするがドアが壊れる様子がない。
このドアは中に鉄板が仕込まれて居る。そして、地震のときにドアが倒れないように工夫されていた。下部に遊びが作られて、その部分から工具を使って”外側”からは簡単に開けられるようになっていた。先程先生がドアを蹴ったことで下部に少し隙間ができてしまって、奈々が起きたときに南京錠が溝に入ってしまったのだ。その状態でドアを閉めたために完全にロックされてしまって開けることも壊すこともできない状況になってしまったのだ。
そして雷に驚いてしまった奈々が自分のロッカーの鍵と先生の荷物を入れたロッカーの鍵を机から落としてしまった。先生の荷物を入れたロッカーには工具が入っていて壊すときの手助けになった。そして、奈々のロッカーが開けば携帯で助けを呼ぶことができた。しかし、暗闇で鍵を探すこともできない状況になってしまった二人にはどちらの方法も採用することができない。
「ふぅ・・・」
10分近くドアと格闘していた先生は流石に疲れたのか椅子に座った。
暗闇に二人だけで狭い部屋に閉じ込められいまう結果になったのだ。
なんとなく二人は最初に座っていた椅子に腰を落ち着かせる。
ただ、元々の位置からかなり動いてしまっていて、肩が触れ合うくらいの距離になってしまっていた。
気まずい雰囲気が場を支配する。
先生は、奈々から漂ってくる焦りの感情と同時に汗の匂いに混じった雌の匂いともう一つの匂いを感じていた。
奈々も、激しく動いたことで、どこか怪我をしたかもしれない先生から漂ってくる血の匂いと汗に感じられる力強い雄の匂いを感じていた。
「・・・。そうだ!桜内。ロッカーの鍵は?俺の使ったロッカーに工具が入っていた。あれがあれば壁が壊せる。ドアがダメなら壁を壊せばいい!」
「・・・。ごめんなさい。携帯で明かりを作ろうと思ってロッカーから荷物を出そうと思って鍵を探したけど・・・」
「見当たらないのか?」
「うん。机の上に置いておいたけど・・・」
「そうか・・・」
二人で協力してドアを壊そうとタックルするときに机を動かした。
そのときに何かに引っかかって3つあった机が連鎖的に倒れてしまった。悪いことに壁に立てかけていた鏡の数枚が割れた音がした。ロッカーの鍵を明かりがない状態で探すのは不可能になっている。手元にあるのは売店で買ったときに渡されたビニール袋と2つの紙コップ。あとは身につけている物と3脚の椅子だけだ。
また雷が光る。
奈々は、雷の光で先生の顔を見るが表情を読み取ることはできなかった。3秒後に音が鳴り響いた。
その後、何回か雷の光と落ちる音がした。
「平均3秒か・・・」
「え?」
「いや、何回か雷が落ちただろう?その音の平均が3秒くらいだろう?」
「あ!雷雲は1キロくらい離れた?」
「おおよそだけどな。雷雲が去ってくれれば、後は明かりがあれば鍵を探せるし、ロッカーを開けて・・・」
その瞬間。
今までで一番と言えるような眩い光が二人を包み込む。同時に、今まで以上の音が鼓膜を刺激する。脳を揺さぶるような爆音が部屋に響いた。
そして、音と同時に地震でも発生したかのような揺れを感じた。
離れたと安心していた雷が旧校舎の屋上に設置されているポールを直撃したのだ。
奈々は恐怖心で立ち上がってしまった。立ち上がった時に座っていた場所から音がした。
”バッチン”
金属が弾けるような音がしたが、その音を掻き消すような悲鳴が部屋に響いた。
「きゃぁぁ!!!」
奈々が大きな悲鳴を上げて先生に抱きついた。
先生が立派だったのは、奈々の悲鳴を聞いて咄嗟に立ち上がって抱きついてくる奈々を抱きしめたことだ。しかし、抱きしめたことによって奈々を受け止める形になり、そのまま抱きしめた状態のまま床に押し倒される形になってしまった。奈々が先生を跨ぐ形で上に乗る状態になってしまった。先生の股間の辺りを跨ぐ形になってしまっていたのだ。
そのままの体勢で揺れがおさまるのを待っていた。
実際には揺れていた時間は1秒未満だったのが、二人には1分にも10分にも感じられた。
特に、奈々には長く永遠に揺れているのかと思えた。下半身が熱くなっているのにも気が付かず先生に抱きしめられていた。
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