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続編1:水面に緩ふ華の間章。

閑話/08 憑鬼2。

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 その日の夜更け。魄史は一人閨房にいた。妻とはもう何年も交わっていない。元々親戚に言われて娶った。妻子がないというのもおかしなものだから、世間の普通の家を装うのに必要だっただけだ。大人しく家の事を取り仕切っていれば、正室は誰でも良かった。子を産んでからは、滅多に顔を合わせることもなかった。同じ邸に住んでいるのに別居中のようだった。魄史には妾もおらず、また、妓楼で遊ぶこともなかった。
 灯燭の下、祭儀殿から手渡された扇子を見る。
 上等の漆塗りの骨、要には黄金の留め金。開くと白く輝くような紙の扇面が現れた。端正な筆跡で呪が書かれている。その文言を読んだ魄史はぎょっとした。
 おい。
 これ、妖魔召喚の祭文だ。多分、これで彼方の手の者である妖魔を喚んで連絡を取れ、ということだろう。
 しかしながら妖魔の召喚は禁忌である。いや、もしかしたら祭儀殿は神宿だから何も問題ないのかも知れない。神宿の術は神の裁量によるところが大きい。そのため、天地を憚って、使用するだけなら何を使っても法に触れないことになっている。
 神宿が術を用いて問題を起こした場合、法廷で問われるのは、結果である被害と神宿としての姿勢である。一方で魄史のような導師はそうはいかない。ただ、それも術の場合である。

 そもそも規制に触れる呪具を他者に流してはいけない。製作者本人である神宿が使用することに問題はなかったが、他者の使用は特定の場合を除いて禁じられている。神殿間のやりとりにおいても書類が必要だった。
 
 魄史の反応は禁忌の呪具を見たにしては鈍く、未だに扇子は掌にあった。一瞬驚いたものの実のところ、魄史は禁呪に手を染めることも厭わない悪辣な導師である。これまでに為してきたものが白日の下に晒されれば命はないどころか墓は穢され、輪廻できぬように厳重に遺体を燃やされるだろう。
 表向き上役に頭が上がらず後輩からも舐められる、そんな官位のわりにうだつの上がらないへっぽこの振りをしているが、裏では数々の陰謀に手を差し伸べてきた。勿論、号魄史と裏の顔である導師の めい 笙師しょうしは別人で通っており、その関係性は誰にもばれていなかった。
 
「ねぇ、ご主人さまぁ……」  

 甘えるような舌っ足らずの声が後ろから聞こえてきた。
 むにょりと背中に柔らかいものが当たる。白い手弱女の腕が首に回され、ほのかに甘い香りが漂う。 
「シよ?」
 首筋をぺろっと舐められる。
「おい、止めろ」
「えぇー 明媚めいびのどこが不満なのさ。ご主人さまのためなら何でもするよ?可愛いがってよぉーねーねー」
 べたべたと触れてくる憑鬼に眉間に皺が寄る。こいつは昨日まではこんなに煩くはなかった。従順で重宝していた。身から離れたときにじゃれ合ってくるのも、犬にでも懐かれているようで悪い気はしなかった。まさか、こんな奴だったとは。しかも雌だ。性別などないと思っていたし、何なら雄寄りのような気でいた。
 
 魄史が自宅に戻って私室で人払いをした途端、憑鬼は身から離れ、十五、六程の美しい少女に 変化へんげした。
 丁度、初婚の年齢である。女は十代後半で嫁に行く。
 ふわっとした触り心地のよい肌は真っ白く、小柄で少しふくよかな体型をしている。小振りの丸型に三日月型の整った眉、澄んだ大きな瞳、目尻は少しつり上がっているがくりっとした目は全体的に愛らしい。小さな鼻、唇はぷっくりとして小振り、豊かな黒髪は如何にも柔らかそうな風情である。その頭からふさふさとした狐の耳が生えていた。目尻に少し墨を入れ、唇に紅を佩いていた。
 本当は何百歳かも知れない妖魔は明媚と名乗り魄史に性交を強請ってきた。

「ねぇ、ご主人さま?」
 明媚はいつの間にか椅子に座る魄史の前にしゃがみ込み、上目遣いで秋波を送ってきた。彼の陽物を服の上から優しく撫ぜる。術にしか興味がなく、妻以外と交わったこともない男は妖しい色香にくらくらした。
「ふふ……ご主人さまのここもぉ、明媚とシたがってるよぉ」

 やんわりと両腕が腰に回され、股の間に顔が埋められる。

「ご主人さま、だぁい好き。ご主人の雄々しいものを見たいなぁ」
 むくりと自然現象に従って、それは起きだした。
「くっ……お前とはやらん」
「なんでぇ?明媚が妖魔だからぁ?明媚、良い妖魔だよ?永遠にご主人さまに都合のよい存在でいるよ?」

 膝の上で妖魔が囁く。甘露のように甘く。

「これが成功したら、ご主人さまは死んでも生き返られるようになるし、上役の神様に頼んで
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