18 / 24
続編1:水面に緩ふ華の間章。
閑話/08 憑鬼2。
しおりを挟む
その日の夜更け。魄史は一人閨房にいた。妻とはもう何年も交わっていない。元々親戚に言われて娶った。妻子がないというのもおかしなものだから、世間の普通の家を装うのに必要だっただけだ。大人しく家の事を取り仕切っていれば、正室は誰でも良かった。子を産んでからは、滅多に顔を合わせることもなかった。同じ邸に住んでいるのに別居中のようだった。魄史には妾もおらず、また、妓楼で遊ぶこともなかった。
灯燭の下、祭儀殿から手渡された扇子を見る。
上等の漆塗りの骨、要には黄金の留め金。開くと白く輝くような紙の扇面が現れた。端正な筆跡で呪が書かれている。その文言を読んだ魄史はぎょっとした。
おい。
これ、妖魔召喚の祭文だ。多分、これで彼方の手の者である妖魔を喚んで連絡を取れ、ということだろう。
しかしながら妖魔の召喚は禁忌である。いや、もしかしたら祭儀殿は神宿だから何も問題ないのかも知れない。神宿の術は神の裁量によるところが大きい。そのため、天地を憚って、使用するだけなら何を使っても法に触れないことになっている。
神宿が術を用いて問題を起こした場合、法廷で問われるのは、結果である被害と神宿としての姿勢である。一方で魄史のような導師はそうはいかない。ただ、それも術の場合である。
そもそも規制に触れる呪具を他者に流してはいけない。製作者本人である神宿が使用することに問題はなかったが、他者の使用は特定の場合を除いて禁じられている。神殿間のやりとりにおいても書類が必要だった。
魄史の反応は禁忌の呪具を見たにしては鈍く、未だに扇子は掌にあった。一瞬驚いたものの実のところ、魄史は禁呪に手を染めることも厭わない悪辣な導師である。これまでに為してきたものが白日の下に晒されれば命はないどころか墓は穢され、輪廻できぬように厳重に遺体を燃やされるだろう。
表向き上役に頭が上がらず後輩からも舐められる、そんな官位のわりにうだつの上がらないへっぽこの振りをしているが、裏では数々の陰謀に手を差し伸べてきた。勿論、号魄史と裏の顔である導師の 鳴 笙師は別人で通っており、その関係性は誰にもばれていなかった。
「ねぇ、ご主人さまぁ……」
甘えるような舌っ足らずの声が後ろから聞こえてきた。
むにょりと背中に柔らかいものが当たる。白い手弱女の腕が首に回され、ほのかに甘い香りが漂う。
「シよ?」
首筋をぺろっと舐められる。
「おい、止めろ」
「えぇー 明媚のどこが不満なのさ。ご主人さまのためなら何でもするよ?可愛いがってよぉーねーねー」
べたべたと触れてくる憑鬼に眉間に皺が寄る。こいつは昨日まではこんなに煩くはなかった。従順で重宝していた。身から離れたときにじゃれ合ってくるのも、犬にでも懐かれているようで悪い気はしなかった。まさか、こんな奴だったとは。しかも雌だ。性別などないと思っていたし、何なら雄寄りのような気でいた。
魄史が自宅に戻って私室で人払いをした途端、憑鬼は身から離れ、十五、六程の美しい少女に 変化した。
丁度、初婚の年齢である。女は十代後半で嫁に行く。
ふわっとした触り心地のよい肌は真っ白く、小柄で少しふくよかな体型をしている。小振りの丸型に三日月型の整った眉、澄んだ大きな瞳、目尻は少しつり上がっているがくりっとした目は全体的に愛らしい。小さな鼻、唇はぷっくりとして小振り、豊かな黒髪は如何にも柔らかそうな風情である。その頭からふさふさとした狐の耳が生えていた。目尻に少し墨を入れ、唇に紅を佩いていた。
本当は何百歳かも知れない妖魔は明媚と名乗り魄史に性交を強請ってきた。
「ねぇ、ご主人さま?」
明媚はいつの間にか椅子に座る魄史の前にしゃがみ込み、上目遣いで秋波を送ってきた。彼の陽物を服の上から優しく撫ぜる。術にしか興味がなく、妻以外と交わったこともない男は妖しい色香にくらくらした。
「ふふ……ご主人さまのここもぉ、明媚とシたがってるよぉ」
やんわりと両腕が腰に回され、股の間に顔が埋められる。
「ご主人さま、だぁい好き。ご主人の雄々しいものを見たいなぁ」
むくりと自然現象に従って、それは起きだした。
「くっ……お前とはやらん」
「なんでぇ?明媚が妖魔だからぁ?明媚、良い妖魔だよ?永遠にご主人さまに都合のよい存在でいるよ?」
膝の上で妖魔が囁く。甘露のように甘く。
「これが成功したら、ご主人さまは死んでも生き返られるようになるし、上役の神様に頼んで祝福してもらってもいいんだよ」
灯燭の下、祭儀殿から手渡された扇子を見る。
上等の漆塗りの骨、要には黄金の留め金。開くと白く輝くような紙の扇面が現れた。端正な筆跡で呪が書かれている。その文言を読んだ魄史はぎょっとした。
おい。
これ、妖魔召喚の祭文だ。多分、これで彼方の手の者である妖魔を喚んで連絡を取れ、ということだろう。
しかしながら妖魔の召喚は禁忌である。いや、もしかしたら祭儀殿は神宿だから何も問題ないのかも知れない。神宿の術は神の裁量によるところが大きい。そのため、天地を憚って、使用するだけなら何を使っても法に触れないことになっている。
神宿が術を用いて問題を起こした場合、法廷で問われるのは、結果である被害と神宿としての姿勢である。一方で魄史のような導師はそうはいかない。ただ、それも術の場合である。
そもそも規制に触れる呪具を他者に流してはいけない。製作者本人である神宿が使用することに問題はなかったが、他者の使用は特定の場合を除いて禁じられている。神殿間のやりとりにおいても書類が必要だった。
魄史の反応は禁忌の呪具を見たにしては鈍く、未だに扇子は掌にあった。一瞬驚いたものの実のところ、魄史は禁呪に手を染めることも厭わない悪辣な導師である。これまでに為してきたものが白日の下に晒されれば命はないどころか墓は穢され、輪廻できぬように厳重に遺体を燃やされるだろう。
表向き上役に頭が上がらず後輩からも舐められる、そんな官位のわりにうだつの上がらないへっぽこの振りをしているが、裏では数々の陰謀に手を差し伸べてきた。勿論、号魄史と裏の顔である導師の 鳴 笙師は別人で通っており、その関係性は誰にもばれていなかった。
「ねぇ、ご主人さまぁ……」
甘えるような舌っ足らずの声が後ろから聞こえてきた。
むにょりと背中に柔らかいものが当たる。白い手弱女の腕が首に回され、ほのかに甘い香りが漂う。
「シよ?」
首筋をぺろっと舐められる。
「おい、止めろ」
「えぇー 明媚のどこが不満なのさ。ご主人さまのためなら何でもするよ?可愛いがってよぉーねーねー」
べたべたと触れてくる憑鬼に眉間に皺が寄る。こいつは昨日まではこんなに煩くはなかった。従順で重宝していた。身から離れたときにじゃれ合ってくるのも、犬にでも懐かれているようで悪い気はしなかった。まさか、こんな奴だったとは。しかも雌だ。性別などないと思っていたし、何なら雄寄りのような気でいた。
魄史が自宅に戻って私室で人払いをした途端、憑鬼は身から離れ、十五、六程の美しい少女に 変化した。
丁度、初婚の年齢である。女は十代後半で嫁に行く。
ふわっとした触り心地のよい肌は真っ白く、小柄で少しふくよかな体型をしている。小振りの丸型に三日月型の整った眉、澄んだ大きな瞳、目尻は少しつり上がっているがくりっとした目は全体的に愛らしい。小さな鼻、唇はぷっくりとして小振り、豊かな黒髪は如何にも柔らかそうな風情である。その頭からふさふさとした狐の耳が生えていた。目尻に少し墨を入れ、唇に紅を佩いていた。
本当は何百歳かも知れない妖魔は明媚と名乗り魄史に性交を強請ってきた。
「ねぇ、ご主人さま?」
明媚はいつの間にか椅子に座る魄史の前にしゃがみ込み、上目遣いで秋波を送ってきた。彼の陽物を服の上から優しく撫ぜる。術にしか興味がなく、妻以外と交わったこともない男は妖しい色香にくらくらした。
「ふふ……ご主人さまのここもぉ、明媚とシたがってるよぉ」
やんわりと両腕が腰に回され、股の間に顔が埋められる。
「ご主人さま、だぁい好き。ご主人の雄々しいものを見たいなぁ」
むくりと自然現象に従って、それは起きだした。
「くっ……お前とはやらん」
「なんでぇ?明媚が妖魔だからぁ?明媚、良い妖魔だよ?永遠にご主人さまに都合のよい存在でいるよ?」
膝の上で妖魔が囁く。甘露のように甘く。
「これが成功したら、ご主人さまは死んでも生き返られるようになるし、上役の神様に頼んで祝福してもらってもいいんだよ」
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【R18】禁断の家庭教師
幻田恋人
恋愛
私ことセイジは某有名私立大学在学の2年生だ。
私は裕福な家庭の一人娘で、女子高2年生であるサヤカの家庭教師を引き受けることになった。
サヤカの母親のレイコは美しい女性だった。
私は人妻レイコにいつしか恋心を抱くようになっていた。
ある日、私の行動によって私のレイコへの慕情が彼女の知るところとなる。
やがて二人の間は、娘サヤカの知らないところで禁断の関係へと発展してしまう。
童貞である私は憧れの人妻レイコによって…
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
堕ちていく私 陵辱女子大生日記
月乃綺羅
恋愛
あらすじ
地方の中高一貫女子校を卒業し、東京の大学に進学した恭子。垢抜けなさはあるものの、整った顔立ちと男好きのする少しふっくらとした体型もあり、言いよる男も少なくなかったが、地元に残した彼氏に義理立てをして、断り続けていた。
しかし、遠距離恋愛の壁によって破局。ちょうど彼との関係について相談に乗ってくれていた同級生、直樹と付き合うことに。元彼とはプラトニックな関係を貫いていた恭子だったが、直樹とは一線を越える。
いつも優しく、大人っぽい落ち着きのある直樹だったが、会うたびに過激化していく直樹とのセックスに不安を覚える恭子だった。
この作品はpixiv、ノクターンノベルスにも投稿しています。
愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界
レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。
毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、
お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。
そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。
お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。
でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。
でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる