上 下
14 / 14

第十三話 特別強化試験――G

しおりを挟む
 魔王城の廊下は俺が現在見た中では例外なく白を基調とした石壁にろうそくを使った照明、木の縁の窓、床は左右が金色で中央が赤色の絨毯が引かれている。
 この絨毯は相当高級な様で靴の上からでもふかふかな感触が伝わってくる。

 これが中々気持ちいい……筈だったのに、これからゴキブリに会いに行くとなると憂鬱になってくる。

 俺の前を歩く二人の男もいくらゴキブリが得意と言っても限度があるらしく、足元がおぼつかない。

「では、入ります」
 二人が茶色の両開き扉の前に立ち止まってそう言う。
「今の目的はあくまでやつを見つけて目を離さないようにすること。そして武器が届き次第、攻撃開始だ」
 キイ―……
 扉が開かれると同時に男たちが踏み込む。瞬時に左右を確認して、
「ふう……」
 そんな息を吐く。
 どうやら見える範囲の中には取り敢えずゴキブリはいないようだ。
「では、私たちで探索を行いますから、魔王様は魔剣が届き次第攻撃をお願いします」
「ああ、分かった」
 魔王城で最強の武器は魔剣か。

 俺の自室と言うのをのぞいてみれば広さのわりに大したものは置いておらず、あるのは茶色で豪華なクローゼット、同色のタンスが二つ並び、端には足の部分が金で装飾された椅子と机があるだけだ。
 寝室と自室は別物なのかベットの類は無い。
「詳しく見てもいないですね。やはり、タンスの裏でしょうか」
「そうですね」
 男たちのささやき声が聞こえる。
「魔王様、タンスを動かしたいのですが、よろしいでしょうか」
 一人が話しかけてくる。
「ああ、構わない」
「ありがとうございます」
 一人が並んだタンスに手を掛けて動かし始める。

 出てくるか、出てこないのか。
 どちらでも嫌だ。
 さあ、どうなる……!

「ぎゃあああああ‼‼」
 来てしまった!

 奴の狂気に当てられた男は既に失神して、全身がけいれんしている。
 まさに地獄だ。
 扉を閉めたい。俺だけでも安全になりたい。

 ……嫌駄目だ。
 仮にも今は魔王。それらしく対応しなければ。

「大丈夫だ。殺されるわけではない! だから。目を離すなよ!」
「は、はい!」
 奴は失神した男の胸元をはいずり、顔に向かっている。

 やばいやばいやばいやばい……魔剣、早く来てくれ。

「ご主人様ー! 魔剣、届に来ましたー」
「ナイスだ」
「はい、どうぞ」
 そう言われて、俺を魔王城に案内してくれた少女から短刀を受け取る。
 紫色の鞘は中央に金で装飾が行われており、柄の先端には赤色の宝石が埋め込まれている。
「じゃ、じゃあ、行くぞ……」
 俺はまだ落ち着いている奴を刺激しないようにゆっくりと歩く。

 失神した男の口元で触角を動かし、今にも口内へ侵入せんとするその姿は余りにも狂気じみている。

 鞘から短剣を抜き取る。
 刃の部分は紫色の妖しい光を出している。

「先手必勝だ」
 俺は剣を振り上げ、振り下げる。

 しかし、
「逃がした……」
 剣は男の唇に軽い損傷を加えただけで、既に奴は視界の外へと逃げてしまっていた。
「まずい……ぞ」
 後ろを振り向くと、そこには縦横無尽に部屋の中を飛びまわるゴキブリの姿が。
「魔王様!」
「大丈夫だ。今度は配下もいないしな、本気で戦える」

 ここでやらなければ確実に俺の生活は終わる。
 何としてでも殺してやる。

「死ね――!」
 全力疾走で、やつまで走る。
 そして、俺の振り払った一撃がやつの羽を見事に切り裂いた。

「勝ったぞーー‼‼」

 俺は城の全体でパーティーを開催を決めた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...