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嬉しい日
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【今度、我が家に遊びに来て下さい。待っております。】
この手紙を使用人から受け取り、自室に戻った瞬間、私は声を出して喜んでしまいました。
差出人の名前はユークレース・アリュール様。
私はユーク様と愛称で呼ばせていただいております。
ユーク様の生家であるアリュール公爵家はローゼルク建国当時から存在する、国内で指折りの名家。
数日前に話をすることができ、お手紙のやり取りをしているということをまだ信じることができません。
それにユーク様は、すごくお綺麗でした…絵本で読んだ女神様のようです。
最初に挨拶した時も、すごく綺麗なお二人ですね…と思いましたが、近くで見ると圧倒されました。
「ヴェラ!聞いてくださいませ!ユーク様から遊びのお誘いをいただきました!」
『ふむ、あの有名な精霊王様と魔王様の血を引く小娘ね。ファーちゃん、俺もつれていくね!』
「?精霊王様と魔王様ですか?」
『つまり俺からしてもすごい小娘なのだよ。』
むう、ユーク様を小娘というのは解せませんが、ヴェラはいつもこうですからね…それにこれでも精霊様ですし。
「わかりました。ですが私がいいと言うまで出てこないでくださいね?」
私の誕生会の時に、ユーク様が見たいと言ってくださったこの能力。
社交辞令かもしれませんが…ヴェラがいてくれたら安心しますし、ついてきてもらいましょう。
そのために、まずは許可を頂かないと。
ちょうど今日はお父様もお母様もいらっしゃいますし、夕餉の時にでもお話ししましょう。
「お父様、お母様。ユーク様から遊びのお誘いをいただいたのですが、よろしいでしょうか?」
許可が下りるといいのですが…あら?金属の音が。
お父様がナイフを落とされたのですね。お母様は急にむせて…。
お二人ともどうなさったのかしら?いつもはしっかりとしていられるのに。
「ファール、ユーク様とは…まさかユークレース様のことかい?」
「はい。誕生会の時、お話をさせていただきました。手紙のやりとりもさせていただいております。」
「…もちろん、許可しよう。それで、その…いきさつを話してくれるか?」
それから私はどれだけユーク様が美しかったか、どれだけ優しかったか、どれだけ心の救いになったかを両親に伝えました。
「そうか…ユークレース様には感謝しきれないな。粗相のないように、気をつけてくれ。」
「はい。お父様。」
「ファールにいい友達が出来たのですね。手土産を用意しますので日時を教えてくださいね。」
「はい。お母さま。」
よかった。許可が下りました。
では手紙のお返事を書きませんと…。メイドに便箋の用意をしてもらいましょう。
『ファーちゃん、そんなにその小娘のことが好きなのかね?』
「はい。」
『どれくらいね?』
好きの大きさ、ですか…
「今の時点では、お父様やお母様と同じくらい、好きですわ。両親への愛とは少し種類が違いますけれど。」
『ふうん、ファーちゃんは小娘のことを恋愛対象として見ているのかね?』
「はい。初めて会って、お話した時からユーク様のことを考えるだけで顔が真っ赤になったり、しっかりと話せなくなります。」
『最近のファーちゃんの挙動不審はそれが原因かね。』
失礼ですね。少しベッドの上で悶えるだけですわ。
『でも人間は同性婚、女同士で結婚はできないね?どうするつもりね?』
「ヴェラ、結婚はできなくても、辺境で一緒に暮らすという手がありますわ。それに学園の学科が同じだったらずっと一緒にいられますもの。」
『へえ、やっぱりファーちゃんは面白いね。』
さあ、お返事を書かないと。ヴェラに構っている暇などありませんわ。
「お、お招きありがとうございます。」
はあ…ユーク様、今日も綺麗です。ああ、いい香り…
あら?ユーク様からいい匂いが。
「ファールのためにお菓子を作ったよ!」
え?幻聴でしょうか?私の為、と聞こえたのですが…ま、まさか本当に?
「甘い物嫌だった?その前に私の手作りが嫌い!?」
ああ、ユーク様に心配される…。違うんです、違うんです。嬉しすぎるんですよ…!
それから無事、ユーク様の部屋に招待されました。はあ、本当にユーク様が美しい…。横にいて大丈夫なのかしら…
ヴェラを紹介し、ユーク様が作って下さった“ふぉんだんしょこら”を食べて、学園のことを話している時、ノックの音が聞こえた。
公爵様がユーク様を呼んでいるらしいです。
ユーク様が不在の間、お兄様が相手をしてくれる、と言われたのですが…なんだかお兄様の威圧感が凄いのですが…
「言っておくけど。」
「はい?」
暫くの沈黙のあと、急にお兄様が口を開かれた。
「俺の方がユークを好きだから。」
…突然宣戦布告をされました。
「どういうことでしょうか?」
「俺、分かるんだよね。誰がユークのことを好きになっているか、どれだけ好きか、とか。その中でも君、見逃せないから。それだけ。」
なるほど、お兄様もユーク様のことが好きなのですね。
「失礼を承知で申し上げますわ。ユーク様とお兄様は」
「やめて、それ。俺のことを兄と呼んでいいのはユークだけ。」
「わかりました。ユーク様とオブシディアン様はご兄妹。血も繋がっておられます。」
「それがなにか?親と本人が認めたら結婚できるよ?何も問題ない。」
…思ったより深刻ですわね。
オブシディアン様はすべての物に無頓着とお聞きしたので大丈夫だと思ったのですが…。
思わぬ強敵が現れましたわ。
「それを言ったら君とユークは女性。結婚できないでしょ?」
「結婚できなくとも、一緒に暮らすことはできますわ。一生を共に過ごすことも勿論。」
「でも、世間はそれを黙っていない。少なくとも、兄妹婚よりも風当たりが強いのは確か。」
…確かにそんなこと誰一人として認めないでしょう。
愛があれば、なんてそんな無責任なことは言えません。
「そうですね。その時は、私の持てる力全てを使い、認めさせます。」
「出来るかもわからないのに?」
「いえ、出来る出来ないの問題ではありませんわ。いつ実行するか、どんな手段を用いるか。それが問題ですから。」
今までは何の目標も意味もなく勉強をしてきたけれど、おそらくユーク様と出会うためだったのでしょう。
そしてこれからも勉強はしていくつもりです。誰も反論できないようにするために。この人も含めて。
「…へえ、俺と同じ考えだ。」
「そうですか。無礼を承知で言わせていただきますと、すごく不満です。」
「それも俺と同じ考え。」
…なぜでしょう、この人に勝てる気が全くしません。
なんだか、不安になってくる。
それから暫くして、ユーク様が帰ってきた。
どうやら公爵様からは呼ばれていないらしいです。
牽制するために来たのですね。オブシディアン様は。
帰り際、
「言っておくけど、俺、手加減しないからね。」
と言われた時は寒気がしました。ああ、私は途方もないような相手を敵に回したのだと。
でも、ユーク様に大丈夫と言ってもらえた。
それを聞いて、ああ、この人と一緒に人生を歩むためなら、大丈夫かな。そう思えた。
そのためにまずはユーク様にお礼の手紙を書くことにしましょう。
そして、今度は私の家に遊びに来て下さい、と最後に付け加えて。
この手紙を使用人から受け取り、自室に戻った瞬間、私は声を出して喜んでしまいました。
差出人の名前はユークレース・アリュール様。
私はユーク様と愛称で呼ばせていただいております。
ユーク様の生家であるアリュール公爵家はローゼルク建国当時から存在する、国内で指折りの名家。
数日前に話をすることができ、お手紙のやり取りをしているということをまだ信じることができません。
それにユーク様は、すごくお綺麗でした…絵本で読んだ女神様のようです。
最初に挨拶した時も、すごく綺麗なお二人ですね…と思いましたが、近くで見ると圧倒されました。
「ヴェラ!聞いてくださいませ!ユーク様から遊びのお誘いをいただきました!」
『ふむ、あの有名な精霊王様と魔王様の血を引く小娘ね。ファーちゃん、俺もつれていくね!』
「?精霊王様と魔王様ですか?」
『つまり俺からしてもすごい小娘なのだよ。』
むう、ユーク様を小娘というのは解せませんが、ヴェラはいつもこうですからね…それにこれでも精霊様ですし。
「わかりました。ですが私がいいと言うまで出てこないでくださいね?」
私の誕生会の時に、ユーク様が見たいと言ってくださったこの能力。
社交辞令かもしれませんが…ヴェラがいてくれたら安心しますし、ついてきてもらいましょう。
そのために、まずは許可を頂かないと。
ちょうど今日はお父様もお母様もいらっしゃいますし、夕餉の時にでもお話ししましょう。
「お父様、お母様。ユーク様から遊びのお誘いをいただいたのですが、よろしいでしょうか?」
許可が下りるといいのですが…あら?金属の音が。
お父様がナイフを落とされたのですね。お母様は急にむせて…。
お二人ともどうなさったのかしら?いつもはしっかりとしていられるのに。
「ファール、ユーク様とは…まさかユークレース様のことかい?」
「はい。誕生会の時、お話をさせていただきました。手紙のやりとりもさせていただいております。」
「…もちろん、許可しよう。それで、その…いきさつを話してくれるか?」
それから私はどれだけユーク様が美しかったか、どれだけ優しかったか、どれだけ心の救いになったかを両親に伝えました。
「そうか…ユークレース様には感謝しきれないな。粗相のないように、気をつけてくれ。」
「はい。お父様。」
「ファールにいい友達が出来たのですね。手土産を用意しますので日時を教えてくださいね。」
「はい。お母さま。」
よかった。許可が下りました。
では手紙のお返事を書きませんと…。メイドに便箋の用意をしてもらいましょう。
『ファーちゃん、そんなにその小娘のことが好きなのかね?』
「はい。」
『どれくらいね?』
好きの大きさ、ですか…
「今の時点では、お父様やお母様と同じくらい、好きですわ。両親への愛とは少し種類が違いますけれど。」
『ふうん、ファーちゃんは小娘のことを恋愛対象として見ているのかね?』
「はい。初めて会って、お話した時からユーク様のことを考えるだけで顔が真っ赤になったり、しっかりと話せなくなります。」
『最近のファーちゃんの挙動不審はそれが原因かね。』
失礼ですね。少しベッドの上で悶えるだけですわ。
『でも人間は同性婚、女同士で結婚はできないね?どうするつもりね?』
「ヴェラ、結婚はできなくても、辺境で一緒に暮らすという手がありますわ。それに学園の学科が同じだったらずっと一緒にいられますもの。」
『へえ、やっぱりファーちゃんは面白いね。』
さあ、お返事を書かないと。ヴェラに構っている暇などありませんわ。
「お、お招きありがとうございます。」
はあ…ユーク様、今日も綺麗です。ああ、いい香り…
あら?ユーク様からいい匂いが。
「ファールのためにお菓子を作ったよ!」
え?幻聴でしょうか?私の為、と聞こえたのですが…ま、まさか本当に?
「甘い物嫌だった?その前に私の手作りが嫌い!?」
ああ、ユーク様に心配される…。違うんです、違うんです。嬉しすぎるんですよ…!
それから無事、ユーク様の部屋に招待されました。はあ、本当にユーク様が美しい…。横にいて大丈夫なのかしら…
ヴェラを紹介し、ユーク様が作って下さった“ふぉんだんしょこら”を食べて、学園のことを話している時、ノックの音が聞こえた。
公爵様がユーク様を呼んでいるらしいです。
ユーク様が不在の間、お兄様が相手をしてくれる、と言われたのですが…なんだかお兄様の威圧感が凄いのですが…
「言っておくけど。」
「はい?」
暫くの沈黙のあと、急にお兄様が口を開かれた。
「俺の方がユークを好きだから。」
…突然宣戦布告をされました。
「どういうことでしょうか?」
「俺、分かるんだよね。誰がユークのことを好きになっているか、どれだけ好きか、とか。その中でも君、見逃せないから。それだけ。」
なるほど、お兄様もユーク様のことが好きなのですね。
「失礼を承知で申し上げますわ。ユーク様とお兄様は」
「やめて、それ。俺のことを兄と呼んでいいのはユークだけ。」
「わかりました。ユーク様とオブシディアン様はご兄妹。血も繋がっておられます。」
「それがなにか?親と本人が認めたら結婚できるよ?何も問題ない。」
…思ったより深刻ですわね。
オブシディアン様はすべての物に無頓着とお聞きしたので大丈夫だと思ったのですが…。
思わぬ強敵が現れましたわ。
「それを言ったら君とユークは女性。結婚できないでしょ?」
「結婚できなくとも、一緒に暮らすことはできますわ。一生を共に過ごすことも勿論。」
「でも、世間はそれを黙っていない。少なくとも、兄妹婚よりも風当たりが強いのは確か。」
…確かにそんなこと誰一人として認めないでしょう。
愛があれば、なんてそんな無責任なことは言えません。
「そうですね。その時は、私の持てる力全てを使い、認めさせます。」
「出来るかもわからないのに?」
「いえ、出来る出来ないの問題ではありませんわ。いつ実行するか、どんな手段を用いるか。それが問題ですから。」
今までは何の目標も意味もなく勉強をしてきたけれど、おそらくユーク様と出会うためだったのでしょう。
そしてこれからも勉強はしていくつもりです。誰も反論できないようにするために。この人も含めて。
「…へえ、俺と同じ考えだ。」
「そうですか。無礼を承知で言わせていただきますと、すごく不満です。」
「それも俺と同じ考え。」
…なぜでしょう、この人に勝てる気が全くしません。
なんだか、不安になってくる。
それから暫くして、ユーク様が帰ってきた。
どうやら公爵様からは呼ばれていないらしいです。
牽制するために来たのですね。オブシディアン様は。
帰り際、
「言っておくけど、俺、手加減しないからね。」
と言われた時は寒気がしました。ああ、私は途方もないような相手を敵に回したのだと。
でも、ユーク様に大丈夫と言ってもらえた。
それを聞いて、ああ、この人と一緒に人生を歩むためなら、大丈夫かな。そう思えた。
そのためにまずはユーク様にお礼の手紙を書くことにしましょう。
そして、今度は私の家に遊びに来て下さい、と最後に付け加えて。
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