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市井弟の成功談
ガッカリ。
しおりを挟む「いや、何でもない。
兎に角、研究所の方も心配ないよ。
曲がりなりにも研究職だよ。
情報の真偽を、その側面だけで推し量ったりしない。
提示された情報がその全てだ、なんて考える人はウチのラボには居ないよ。」
「でも・・・。」
「それに、俺も高校生の告白なんてよく分からなかったから、色々調べたんだ。
健の意見はsampleとして例の1つに挙げただけだからね。」
「・・・?
そうなの・・・??」
兄ちゃん、研究じゃ無くて、雑談で出た話題だって言ってたのに、ちゃんと調べたんだ。
僕の意見も“大勢の高校生の一人”で、大丈夫って事だ。
誰にも迷惑かけてなくてよかったハズなのに、何故かモヤモヤする。
・・・何だろ?
「そうだな、健、ちゃんと説明するね。
今回のリサーチ、俺の場合は、始めのテーマを“若年層の恋愛について”にして、調べ始めたんだ。
徐々にテーマ絞って、最終的には“告白方法について”までね。
ちゃんと統計を取ったし、大丈夫。」
今の兄ちゃんは、『何の研究をしていて、今回は何を発表するか。』を僕に説明する研究中、出張前の兄ちゃんみたい。
兄ちゃん格好いい。
「うん、成る程、大きな枠組みから調べ始めて、ターゲットを絞っていったんだね。
統計って?」
「ああ、統計って言うのは、『ある集団について、その特性を数量的に測って得られる数値』の事だよ。
今回は恋愛感情を持てる16~18才の男女について、告白方法の例を挙げて、どのパターンが多いか、その割合を数値化したんだ。
SNS・手紙・電話・対面など、色々あったよ。
電報は居なかったけど、やまびこって子が1人居た。」
「ふーん。
ヤッホー告白かな??
統計は何となく分かる気がする。」
専門的なお話しする兄ちゃんは、いつもキリッとしてて格好いい。
兎も角、僕の理想が誰にも迷惑かけてなくてよかった。
そう思う。
「うん、受験勉強の方が大切だもんね。
統計はまだ分からなくていいよ。
そうやって情報の地盤固めをして、実際の意見の1つとして健の意見を採用した。
つまり健は間違ってないって事だよ。」
「うん。
ごめんなさい・・・。」
本当にそう思う。
ただ、兄ちゃんの話は・・・指輪からもプロポーズからも遠くて。
最近の兄ちゃんの行動が、僕の妄想に全く擦りもしてなかったって思い知らされて。
僕の恥ずかしい勘違いが誰にもバレなくて良かった、と思う反面、少しだけ心の中でションボリした。
「俺は健に怒ったりしてないよ。
本当だよ。
愛してる、俺の奥さん。」
困った表情で僕のオデコにキスしてくれた兄ちゃん。
しまった。
僕の心のションボリが兄ちゃんに伝わっちゃった。
僕は更にションボリした。
「健、気にしなくていいよ。
間違っても兄ちゃんがフォローするからね。
健は世界たった1人の俺の天使だから。」
「うん・・・。」
慌てた兄ちゃんが僕を膝に乗せてギュッとハグしてくれた。
兄ちゃんが困ってる、僕、元気出さないと。
でも、指輪とプロポーズを盛大に期待してた分、ションボリ心から簡単に脱出できない。
回復には時間がかかりそうなの。
ごめんね、兄ちゃん。
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