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第一章
初恋
しおりを挟む物心ついた時、いいや生まれた時すでに傍らにあった。
互いにとって唯一無二の存在。この感情をなんと例えようか?
すぐに初恋という言葉がピタリと当てはまる。他には何もいらない。そう思えた。
しかし、きっと自分だけがそう思っているのだろうと何故か互いに思っていた・・・そんな幼い二人。だって、二人は「お姉ちゃん」で「弟」だったから。
これは、まだ2人が幼かったころのある日の話。
「エスター、なにみてるの~?」
どこか常に『何か』を見ている緋色の瞳を、まるで朝焼けを思わせるルビー色の瞳を持つ少女が覗きこむ。ポニーテールにしたストロベリーブロンドの髪が窓から降り注ぐ陽光を浴びてキラキラと輝きを放ち、髪と瞳に宿る《聖痕》をクッキリと緋色の瞳に焼き付ける。
本当は目の前の少女を飽くことなく見詰めていたのだが、それを口に出すと何となくくすぐったいような気分になり、無理やり窓辺に視線を移す。
「ん・・・。ロザリー見てごらん。妖精たちがエスターの花を窓に置いてった。」
「ほんとだぁ!エスターの花ある!」
パァーと咲きこぼれる花のような笑顔とは、きっと、この表情を言うのだろう。ルビー色の瞳を大きく見開いたかと思えば、コロコロ変わる感情豊かな顔をエスターに向け、ロザリーは窓辺をビシッと指さした。
「妖精さんは!?どこ?どこ?」
好奇心旺盛なロザリーはキョロキョロと窓の周りから部屋の中まで、一生懸命に顔ごと動かし勢い余ってピョコピョコとポニーテールの髪が跳ねている。
「もう行っちゃったよ。ロザリーにはお目目に《聖痕》があるのに、どうして見えないのかなぁ?」
「精霊たちはみえるよ!みえないのは妖精さんと竜だけだもん!」
ぷくっと頬を膨らませたロザリーの頬っぺたを軽く指でつつくと、むぅ~っと更に頬を膨らせる。その仕草が可愛くて何度もぷにぷに頬っぺたをいじっていると、すっかりご機嫌斜めになってしまった。
「精霊たちは自分が加護を与えた人間には見えるようになってるんだって、ガイウス父さんが言ってたろ?ロザリーは6つの精霊全部見えてるしお話もできるからスゴイってミレア母さんも言ってた。」
「エスターは精霊も妖精だってみえてるんでしょ?ズルい~。」
ずるい、ずるいと何度も訴えるロザリーを前に苦笑しながら、つい先ほど妖精が残していったエスターの花を手に取る。
「これはボクの花だから気まぐれにくれたんだよ。」
エスターが生まれた日に村中を覆うほど咲いた花は、通常ほとんど村里で見ることは叶わない幻に近い花だった。だが確信に似た思いでエスターは自分の髪や瞳と同じ花を見ると何故だか感じるのだ。「これは自分の花だと」。
しかしエスターの言葉に納得しなかったのだろう。何を思ったのかロザリーは真剣な顔をして、思わぬことを言ってくる。
「妖精さんはエスターのことがスキなのね。わたしの方がエスターのことダイスキなのに~!」
「・・・」
何を言うのだろか?この可愛い姉は???
つい黙り込んでしまったエスターを前に、「ねぇ、ねぇ」と軽く服の袖を引っ張る姉ロザリーは、「エスターの花、またパパにあげちゃうの?」と不服そうに聞いてくる。
「だって、ガイウス父さんがエスターの花は魔物の毒によく効くって・・・」
「え~?だってエスターのために妖精さん、お花くれたんだよ?何だかもったいな~い」
それに・・・と何だかもじもじしながら、その手にある花をチラチラみるロザリー。
「どうしたの?ロザリーも、この花ほしいの?」
「うんっ!どうしてエスターったらわかったの!?」
丸わかりなんだか口にしたら、またご機嫌斜めになるだろうと思い、そしてふと思いついた。
「ロザリー、おてて出して?」
「おてて?」
反射的に両手で頂戴ポーズをするロザリーを前に笑いをかみ殺しながら、左手の薬指にくるっと花を巻き付ける。緋色の花はロザリーの指には大き過ぎたようだ。
「わぁ!指輪だぁ~!」
それでも左手に咲いた花の指輪を瞳を輝かせ、手を上げたり下げたりしながら大喜びしてロザリーを前に、くしゃりとエスターの顔もついつい綻ぶ。
そのうち、くるくる回り始めたロザリーを見て「これは目を回すな」と思ったのもつかの間、がばっとロザリーが抱き着いてきた。
「ぎゅー」
ハグしながら「ぎゅー」「ぎゅー」と叫びつつエスターを見つめて笑いかけるロザリー。
「指輪はね?ダイスキな人にプレゼントするんですって!パパとママ言ってたよ」
「えへへ!エスターもわたしがダイスキね!おそろいだ~!」
指輪を贈る意味を君はどこまでわかっているんだろうか?
どうか夢なら醒めないで・・・。
ボクの好きは君のスキとは、きっと違うから。
自分の花を君の指にはめるボクはどこか歪んでるから。
生まれた時から傍らにいた半身に素直になれず、何とも言えぬ表情で泣きそうに沈黙したのは、一体幾つの時のことだっただろう。
ロザリーのスキが初恋と気づくまで、エスターの好きが執着に変わるまで、そう長くはかからなかった。
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