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はじめてを差し出す相手(晴香SIDE)
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「あ…っ…っん…」
いつものように、私はベッドの中で自慰にふけっていた。
両親とも姉とも同じ家に住んではいるけど、自分の部屋が与えられているからこれぐらいは平気だ。
布団の中でこっそりと、着ているパジャマを脱いでショーツもずらして、大切な所を弄る。念の為、頭も半分くらいは布団をかぶって、声を殺しながら。
目を閉じればいつだって、思い出す事ができる。
少ないけれど、冴子さんに見つめられ、触れられた時の事を。
容姿を褒められるのには慣れているけど、それが正に、素晴らしい容姿の持ち主からであると、同じ「褒める」でも違った意味を持つ。
冴子さんもきっと、その感覚をわかっているはずだ。
他の誰かに言われた事より、私がかけた褒め言葉はきっと、冴子さんの記憶に刻まれているのではないだろうか。
「…あっ、冴子、さん…」
ぐっと全身に力が入る。
達してしまいそうになるがまだだと自分に言い聞かせる。
だけど、同時に私の前で自慰を見せてくれた冴子さんの姿が頭に浮かんできた。
ローションを身体に塗って、いやらしく喘ぎながら、こなれた手つきで自分自身に触れる冴子さん。
女の人は皆そうなのかもしれないけど、そういうモードに入ると冴子さんは特に、様子ががらりと変わる人だ。
清楚で真面目そうなイメージから、欲望に忠実でちょっと動物的な印象さえ感じさせるぐらいになる。
「……」
あれでわかった事だが、冴子さんの身体はしなやかと言うか、若い女性の身体ではあるのだけれど、肉体的にこなれた印象が強い。
肌も、体形もケアされているのだが、そこには冴子さん自身とは別な人の手が触れている事が、私にはわかる。
ケアしている事そのものもきっと関係あるだろうけど、性的な意味でも、冴子さんは自分を明け渡すようなセックスができているのだと、なんとなく思った。
愛されている気持ちを確かめるためでも、そういう行為にふける自分に酔うためでもなく、純粋に行為としてのセックスが好きなのだろう。
いやらしい自分の姿を見られて恥ずかしいと感じてはいても、それ以上に興奮の方が大きすぎてしまうのだろうか。
「……はぁ、ん…」
あまり声を張らないようにしながらも、わざといやらしい声で喘いでみる。
声は布団の中にこもって、そのまま吸収されてしまうはずだ。
…こうやって、計算したリアクションだってできるはずなのに、多分冴子さんはそういう事をしない。
私は、そんな事を考えながらも自身の指先でひっきりなしに萌芽を弄った。
指先を上下に動かして萌芽の先端をかすめる動きを繰り返す。
「あ、あんっ…っく……」
こうして、冴子さんの事を考えて自慰にふけるのは、もはや私の日常となっている。
『WS』アプリ内ではきっと、毎日たくさんの、性的なメッセージが行きかっているはずだ。
人によっては、自身の裸の写真をやり取りしているかもしれないし、メッセージや通話機能で性の趣向について語らっていたり、次の逢瀬についてどんな事をするのか、想像を膨らませて盛り上がっている人もいる事だろう。
私にはわかる。
冴子さんは今、心も身体もきっと満たされているはずだ。
思考を切り替えて、ほんの一瞬だけど、冴子さんのお相手らしき人を見かけた時の事も思い出しながら、あの二人がどんな交わりをするのか想像する。
私には実はよくわからない。女の人同士で、普通に交わるというのはどの程度の所までを指すのか。
自慰を見せ合う事だって、交わりの一つのような気もするし、道具を介して繋がる事を交わりと呼んでいいのか、厳密に考えればよくわからなくなる。
あれから私なりにたくさん調べた。女性同士で交わるシーンが出てくる映像作品、漫画、小説…テクニック指南サイトなんかも見た。
でも、一番リアルで役に立つのはきっと、『WS』開発メンバーの、個人的な体験談を聞く事なんだろうな、とも思う。
「あ、んっ……はぁ」
いよいよ身体がぶるっと痙攣し、こらえる間もなく私は達した。
達してから、「達してしまった」という、後悔にも似た気分に陥るのは何故なんだろうか。
「…冴子さん」
目の前にはいない人の名前をあえて口にしてみる。
私は、本気になれれば冴子さんを性的な意味で落とす事はできるような気がしているけど、それをしたらせっかく満たされている冴子さんに、罪悪感を持たせてしまうのではないかという不安もあって、思うままに踏み込めない気持ちをくすぶらせていた。
「…はぁ……」
なんとなくショーツの位置だけ元に戻して、だらりと天井を仰ぐ。
この所しょっちゅう考えている事、それは冴子さんに全てを見せて、私の「初めて」を奪って欲しい、という事だ。
どうせ経験するなら、冴子さんの手ほどきを受けたい。
いや、むしろそれ以外は考えられないぐらいだ。
冴子さんの、清楚な顔の下に隠れた貪欲な顔を目の前にしたら、さっきみたいにわざとらしい作り声など出せる余裕はなくなるのかもしれない。
…けど、そうなってみたいのだ。
どこか冷めた気持ちで、よくわからない男の自己満足に付き合うような形で、自分の「初めて」を差し出すのは嫌だ。
そうなれば、出したくもない作り声をあげて、感じているふりをしなければならないかもしれない。
冴子さんには私のそんな冷めた考えを引きはがして欲しいのと、冴子さんの経験値があればそれが可能なのではないかという期待もあって、もうそれしか考えられなくなっている。
自分以外の身体を理解するために、本当は練習台が欲しかった。
でも、そんな下心で誰かと関わるのは良くない気がして、できずにいる。それは『WS』があってもなくても、きっと変わらない。
知らない他人を練習台にする事とどちらが悪質か、自分でもわからなかったが、ある日私はお姉ちゃんの部屋に忍び込んだ。
*-*-*-*-*-
火曜の日中、家には誰もいない。
大学の授業は午前だけで、私は昼過ぎには帰宅していた。
お姉ちゃんには過去に彼氏がいた事もあるし、だから当然、好きかどうかは置いておいても、性的経験値はそれなりにあるだろう。
お姉ちゃんはやたらと自慰をするタイプではないだろうけど、何か性的なにおいのするものがないか、こっそりと部屋を探る事にする。
「…」
ベッドの下にそれらしき物入れがあった。そこを調べると、まず出てきたのがコンドームの予備だったので焦る。
…忘れていたが、私は一度お姉ちゃんの「そういう」場面に遭遇した事があった。その時の事が思い出される。
もろに見たわけじゃないけど、絶対にそうだと思える声が、お姉ちゃんの部屋から聞こえてきたのだ。
…という事は、と考え私は禁断の行為に及んだ。
実の姉のパソコンを改める行為を思いつき、それを考えたら最後、気が付くと簡単に認証画面を突破していた。
一般の人で、完全な乱数のパスワードを設定している人はむしろ少数派だろう。簡単な組み合わせのパターンのどれかには当たると考え適当に入力したものが正に当たりだった。
こんなものを見ても、間違いなく楽しい気分にも、幸せな気分にもなれないのに。
でも、WSアプリの個人情報の含まれたサーバーにアクセスするよりは罪悪感が軽い。行為としてはいずれも犯罪だろうに。
WSのサーバーと比較して、身内のパソコンならいいんじゃないかという、判断としてはかなり狂った状態なら、そりゃ勢いで見るものを見てしまえるわけだ。
「…あ」
あった。
多分、削除し忘れなんだろうけど。
いかにもそうとわかるファイルネームではなかったが、3年くらい前の日付のムービーが出てくる。
見る気でいたのは確かだが、開く瞬間は指が振るえた。
開いてしまってから、わずかなロード時間の間にパソコンの音量を下げる。
案の定、おそらくお姉ちゃんが当時付き合っていた彼氏によって撮影された、行為のムービーだった。
カメラがゆらゆら揺れて、恥ずかしがるお姉ちゃんの様子や、たわいのない会話が最初に流れた。
『じゃ服脱いじゃおっか』
『やだっ』
カメラの前でお姉ちゃんが恥ずかしそうに、でもそれなりに楽しそうに服を脱いでいく。そして裸になった身体に彼氏の手が触れて、ムードは急に変かする。
私はその一部始終をしっかりと記憶に焼き付けた。
このムービーを消していないという事は、このセックスは決してつまらないものではなかったから、という推測も成り立つ。
少なくともお姉ちゃんにとって、ない方がましだという類の思い出ではないはずだ。
まだ誰かが帰宅する時間ではなかったから、私は一旦ムービーを止めて部屋からイヤホンを持参し、今度は音を大きくして、ムービーの続きを再生した。
『あぁ…す、ごい……奥に、当たってるよぉ…』
この行為は、私のすぐ後ろにあるベッドで行われているものだ。それは映像から一目瞭然である。
「いい根性してるなあ」
私は思わず笑ってしまっていた。自宅に彼氏を連れ込んでいた事も、それなりに大胆な事だけど、その上こんなムービーまで残していたなんて。
彼氏に頼まれて断り切れなかったのかもしれないけど、男性に対してちょっと甘い所は、お姉ちゃんの数少ない短所だと思う。
『あ、はぁっ…あ…』
そしてお姉ちゃんは、おそらく撮影者の名前であろう、男の名前を連呼した。あろう事かその合間に「好き」なんて言葉まで口走りながら。
名前を聞いて即座に私の記憶にある一人の顔が合致する。
…あんな男にね、という気分になる。やっぱり自分は乗りきれていない。
『…出していい?』
『中はだめ、っあ……きゃ』
いよいよ情けなくなってくる。自分の姉に「だらしない女」の看板がかかったという気がした。
さっきあったあのコンドームは使わなかったのか。それともこれがあって以来用意するようにしたのか。
…それとも、付けた上でそういう会話だけしているのか?
可能な限りさかのぼりつつ、興味がなかったのでスルーしていた彼氏側の動きを確認すると、特にコンドームを付けている様子はなかった。
撮影を途中で止めている所もなかったから、結局非避妊状態を容認したのかと、知らず溜め息がこぼれる。
「…」
しょーもない、という感想しか出ない。
こんなもののためにリスクを取ってパソコンまでチェックしたのかと思うと、お姉ちゃんの情けなさと自分の情けなさはいい勝負かもしれない、と思った。
姉がしているのは、結局の所男に媚びるセックスだ。
冴子さんがしていると思われるものとは違う気がするから、参考にならない。
…だったらやっぱり、練習台なんて無意味ではないか。直接冴子さんと交わって、冴子さんのやり方を理解するべきだ。
パソコンの電源を落として、私は部屋の様子がきちんと元に戻っているかを確認した。
ふとベッドに目がいった。
たたまれた布団、ほとんど乱れのないシーツ。実にお姉ちゃんらしく、見られる事がないはずのものもきちんとしている。
「…」
私はわざとそのシーツを軽くつかんでしわを作ってみる。さっきのムービーの中でお姉ちゃんがしていたように。
私は疑っている。
シーツをつかむ行為、あれだってどうせ演出だろう?と。
本当に行為に没頭して我を忘れている時に、そんな真似ができるものか、と。
セックスを盛り上げるために視覚、聴覚に訴える行為そのものを否定するつもりはないけど、そこに終始するのは違うはずだ。
第一お姉ちゃんのように、頭も良く美人に生まれて、そんなものまで必要な理由なんてない。
型にはまる事で自分の価値が下がる事だってあるのだから。
無難な反応をして、無難なセックスをして、それでそこそこ男に満足してもらって、その先に何があると言うのか。
お姉ちゃんは、本当にそれで満足しているのだろうか。
…考えてもわからず、そこそこにしておこうと諦めた。
あれこれ言っても、お姉ちゃんは淡白な方に違いないし。
さっきのムービーを見てわかった事は、やはり私がどうしたいのか、それはもうはっきりしているし、今更それを諦めるなんてできないという事だった。
欲しいものは何が何でも手に入れたい。
本来私はそういう我儘な人間なのだから。
いても立ってもいられなくなり、私は冴子さんに「ご相談があるのですが」とメッセージを送っていた。
いつものように、私はベッドの中で自慰にふけっていた。
両親とも姉とも同じ家に住んではいるけど、自分の部屋が与えられているからこれぐらいは平気だ。
布団の中でこっそりと、着ているパジャマを脱いでショーツもずらして、大切な所を弄る。念の為、頭も半分くらいは布団をかぶって、声を殺しながら。
目を閉じればいつだって、思い出す事ができる。
少ないけれど、冴子さんに見つめられ、触れられた時の事を。
容姿を褒められるのには慣れているけど、それが正に、素晴らしい容姿の持ち主からであると、同じ「褒める」でも違った意味を持つ。
冴子さんもきっと、その感覚をわかっているはずだ。
他の誰かに言われた事より、私がかけた褒め言葉はきっと、冴子さんの記憶に刻まれているのではないだろうか。
「…あっ、冴子、さん…」
ぐっと全身に力が入る。
達してしまいそうになるがまだだと自分に言い聞かせる。
だけど、同時に私の前で自慰を見せてくれた冴子さんの姿が頭に浮かんできた。
ローションを身体に塗って、いやらしく喘ぎながら、こなれた手つきで自分自身に触れる冴子さん。
女の人は皆そうなのかもしれないけど、そういうモードに入ると冴子さんは特に、様子ががらりと変わる人だ。
清楚で真面目そうなイメージから、欲望に忠実でちょっと動物的な印象さえ感じさせるぐらいになる。
「……」
あれでわかった事だが、冴子さんの身体はしなやかと言うか、若い女性の身体ではあるのだけれど、肉体的にこなれた印象が強い。
肌も、体形もケアされているのだが、そこには冴子さん自身とは別な人の手が触れている事が、私にはわかる。
ケアしている事そのものもきっと関係あるだろうけど、性的な意味でも、冴子さんは自分を明け渡すようなセックスができているのだと、なんとなく思った。
愛されている気持ちを確かめるためでも、そういう行為にふける自分に酔うためでもなく、純粋に行為としてのセックスが好きなのだろう。
いやらしい自分の姿を見られて恥ずかしいと感じてはいても、それ以上に興奮の方が大きすぎてしまうのだろうか。
「……はぁ、ん…」
あまり声を張らないようにしながらも、わざといやらしい声で喘いでみる。
声は布団の中にこもって、そのまま吸収されてしまうはずだ。
…こうやって、計算したリアクションだってできるはずなのに、多分冴子さんはそういう事をしない。
私は、そんな事を考えながらも自身の指先でひっきりなしに萌芽を弄った。
指先を上下に動かして萌芽の先端をかすめる動きを繰り返す。
「あ、あんっ…っく……」
こうして、冴子さんの事を考えて自慰にふけるのは、もはや私の日常となっている。
『WS』アプリ内ではきっと、毎日たくさんの、性的なメッセージが行きかっているはずだ。
人によっては、自身の裸の写真をやり取りしているかもしれないし、メッセージや通話機能で性の趣向について語らっていたり、次の逢瀬についてどんな事をするのか、想像を膨らませて盛り上がっている人もいる事だろう。
私にはわかる。
冴子さんは今、心も身体もきっと満たされているはずだ。
思考を切り替えて、ほんの一瞬だけど、冴子さんのお相手らしき人を見かけた時の事も思い出しながら、あの二人がどんな交わりをするのか想像する。
私には実はよくわからない。女の人同士で、普通に交わるというのはどの程度の所までを指すのか。
自慰を見せ合う事だって、交わりの一つのような気もするし、道具を介して繋がる事を交わりと呼んでいいのか、厳密に考えればよくわからなくなる。
あれから私なりにたくさん調べた。女性同士で交わるシーンが出てくる映像作品、漫画、小説…テクニック指南サイトなんかも見た。
でも、一番リアルで役に立つのはきっと、『WS』開発メンバーの、個人的な体験談を聞く事なんだろうな、とも思う。
「あ、んっ……はぁ」
いよいよ身体がぶるっと痙攣し、こらえる間もなく私は達した。
達してから、「達してしまった」という、後悔にも似た気分に陥るのは何故なんだろうか。
「…冴子さん」
目の前にはいない人の名前をあえて口にしてみる。
私は、本気になれれば冴子さんを性的な意味で落とす事はできるような気がしているけど、それをしたらせっかく満たされている冴子さんに、罪悪感を持たせてしまうのではないかという不安もあって、思うままに踏み込めない気持ちをくすぶらせていた。
「…はぁ……」
なんとなくショーツの位置だけ元に戻して、だらりと天井を仰ぐ。
この所しょっちゅう考えている事、それは冴子さんに全てを見せて、私の「初めて」を奪って欲しい、という事だ。
どうせ経験するなら、冴子さんの手ほどきを受けたい。
いや、むしろそれ以外は考えられないぐらいだ。
冴子さんの、清楚な顔の下に隠れた貪欲な顔を目の前にしたら、さっきみたいにわざとらしい作り声など出せる余裕はなくなるのかもしれない。
…けど、そうなってみたいのだ。
どこか冷めた気持ちで、よくわからない男の自己満足に付き合うような形で、自分の「初めて」を差し出すのは嫌だ。
そうなれば、出したくもない作り声をあげて、感じているふりをしなければならないかもしれない。
冴子さんには私のそんな冷めた考えを引きはがして欲しいのと、冴子さんの経験値があればそれが可能なのではないかという期待もあって、もうそれしか考えられなくなっている。
自分以外の身体を理解するために、本当は練習台が欲しかった。
でも、そんな下心で誰かと関わるのは良くない気がして、できずにいる。それは『WS』があってもなくても、きっと変わらない。
知らない他人を練習台にする事とどちらが悪質か、自分でもわからなかったが、ある日私はお姉ちゃんの部屋に忍び込んだ。
*-*-*-*-*-
火曜の日中、家には誰もいない。
大学の授業は午前だけで、私は昼過ぎには帰宅していた。
お姉ちゃんには過去に彼氏がいた事もあるし、だから当然、好きかどうかは置いておいても、性的経験値はそれなりにあるだろう。
お姉ちゃんはやたらと自慰をするタイプではないだろうけど、何か性的なにおいのするものがないか、こっそりと部屋を探る事にする。
「…」
ベッドの下にそれらしき物入れがあった。そこを調べると、まず出てきたのがコンドームの予備だったので焦る。
…忘れていたが、私は一度お姉ちゃんの「そういう」場面に遭遇した事があった。その時の事が思い出される。
もろに見たわけじゃないけど、絶対にそうだと思える声が、お姉ちゃんの部屋から聞こえてきたのだ。
…という事は、と考え私は禁断の行為に及んだ。
実の姉のパソコンを改める行為を思いつき、それを考えたら最後、気が付くと簡単に認証画面を突破していた。
一般の人で、完全な乱数のパスワードを設定している人はむしろ少数派だろう。簡単な組み合わせのパターンのどれかには当たると考え適当に入力したものが正に当たりだった。
こんなものを見ても、間違いなく楽しい気分にも、幸せな気分にもなれないのに。
でも、WSアプリの個人情報の含まれたサーバーにアクセスするよりは罪悪感が軽い。行為としてはいずれも犯罪だろうに。
WSのサーバーと比較して、身内のパソコンならいいんじゃないかという、判断としてはかなり狂った状態なら、そりゃ勢いで見るものを見てしまえるわけだ。
「…あ」
あった。
多分、削除し忘れなんだろうけど。
いかにもそうとわかるファイルネームではなかったが、3年くらい前の日付のムービーが出てくる。
見る気でいたのは確かだが、開く瞬間は指が振るえた。
開いてしまってから、わずかなロード時間の間にパソコンの音量を下げる。
案の定、おそらくお姉ちゃんが当時付き合っていた彼氏によって撮影された、行為のムービーだった。
カメラがゆらゆら揺れて、恥ずかしがるお姉ちゃんの様子や、たわいのない会話が最初に流れた。
『じゃ服脱いじゃおっか』
『やだっ』
カメラの前でお姉ちゃんが恥ずかしそうに、でもそれなりに楽しそうに服を脱いでいく。そして裸になった身体に彼氏の手が触れて、ムードは急に変かする。
私はその一部始終をしっかりと記憶に焼き付けた。
このムービーを消していないという事は、このセックスは決してつまらないものではなかったから、という推測も成り立つ。
少なくともお姉ちゃんにとって、ない方がましだという類の思い出ではないはずだ。
まだ誰かが帰宅する時間ではなかったから、私は一旦ムービーを止めて部屋からイヤホンを持参し、今度は音を大きくして、ムービーの続きを再生した。
『あぁ…す、ごい……奥に、当たってるよぉ…』
この行為は、私のすぐ後ろにあるベッドで行われているものだ。それは映像から一目瞭然である。
「いい根性してるなあ」
私は思わず笑ってしまっていた。自宅に彼氏を連れ込んでいた事も、それなりに大胆な事だけど、その上こんなムービーまで残していたなんて。
彼氏に頼まれて断り切れなかったのかもしれないけど、男性に対してちょっと甘い所は、お姉ちゃんの数少ない短所だと思う。
『あ、はぁっ…あ…』
そしてお姉ちゃんは、おそらく撮影者の名前であろう、男の名前を連呼した。あろう事かその合間に「好き」なんて言葉まで口走りながら。
名前を聞いて即座に私の記憶にある一人の顔が合致する。
…あんな男にね、という気分になる。やっぱり自分は乗りきれていない。
『…出していい?』
『中はだめ、っあ……きゃ』
いよいよ情けなくなってくる。自分の姉に「だらしない女」の看板がかかったという気がした。
さっきあったあのコンドームは使わなかったのか。それともこれがあって以来用意するようにしたのか。
…それとも、付けた上でそういう会話だけしているのか?
可能な限りさかのぼりつつ、興味がなかったのでスルーしていた彼氏側の動きを確認すると、特にコンドームを付けている様子はなかった。
撮影を途中で止めている所もなかったから、結局非避妊状態を容認したのかと、知らず溜め息がこぼれる。
「…」
しょーもない、という感想しか出ない。
こんなもののためにリスクを取ってパソコンまでチェックしたのかと思うと、お姉ちゃんの情けなさと自分の情けなさはいい勝負かもしれない、と思った。
姉がしているのは、結局の所男に媚びるセックスだ。
冴子さんがしていると思われるものとは違う気がするから、参考にならない。
…だったらやっぱり、練習台なんて無意味ではないか。直接冴子さんと交わって、冴子さんのやり方を理解するべきだ。
パソコンの電源を落として、私は部屋の様子がきちんと元に戻っているかを確認した。
ふとベッドに目がいった。
たたまれた布団、ほとんど乱れのないシーツ。実にお姉ちゃんらしく、見られる事がないはずのものもきちんとしている。
「…」
私はわざとそのシーツを軽くつかんでしわを作ってみる。さっきのムービーの中でお姉ちゃんがしていたように。
私は疑っている。
シーツをつかむ行為、あれだってどうせ演出だろう?と。
本当に行為に没頭して我を忘れている時に、そんな真似ができるものか、と。
セックスを盛り上げるために視覚、聴覚に訴える行為そのものを否定するつもりはないけど、そこに終始するのは違うはずだ。
第一お姉ちゃんのように、頭も良く美人に生まれて、そんなものまで必要な理由なんてない。
型にはまる事で自分の価値が下がる事だってあるのだから。
無難な反応をして、無難なセックスをして、それでそこそこ男に満足してもらって、その先に何があると言うのか。
お姉ちゃんは、本当にそれで満足しているのだろうか。
…考えてもわからず、そこそこにしておこうと諦めた。
あれこれ言っても、お姉ちゃんは淡白な方に違いないし。
さっきのムービーを見てわかった事は、やはり私がどうしたいのか、それはもうはっきりしているし、今更それを諦めるなんてできないという事だった。
欲しいものは何が何でも手に入れたい。
本来私はそういう我儘な人間なのだから。
いても立ってもいられなくなり、私は冴子さんに「ご相談があるのですが」とメッセージを送っていた。
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