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浄化の儀式(美咲SIDE)
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それ以来、光江とは時々メールのやり取りはしていたが、直接会う事はなかった。
女性のためだけのマッチングアプリを作ったので是非参加して欲しい、と光江に誘われて、ようやく彼女は城を持つ事ができたのだな、とわかった。
付き合いの意味でとりあえず登録を行いそれを光江に報告した。それから、ひとまず彼女が目指していた独立を果たした事をお祝いしたくて、私は光江を食事に誘った。
完全個室の和食店を選び光江と現地集合する。多少遅れて来る事もあるだろうと思い、私は時間通りに入店しそのまま席に着いて一人で始める事にした。
食前酒替わりに甘口の日本酒をちびちびやっていると、光江が現れた。
「すみません遅れてしまって」
「いいのいいの、勝手に始めてたから」
「本当だ」
光江は笑っている。会うのが2年ぶりくらいで、光江の見た目は若干印象が変わっていた。激務なのは変わらないだろうが、あの頃より少し顔や身体まわりも肉がついたようで、ただひたすらに戦う人間から、少し幸せも感じているような空気も漂うようになったなと思い好感が持てた。
「もうあの頃の知り合いなんて全員切れちゃいましたよ、美咲さん以外は」
この店は初めてのようだったが、光江はメニューを一瞥するだけでさっとオーダーを決めてしまう。それだけで、彼女の情報処理能力が非常に高い事を伺わせる。
「全員、なんて事はないでしょ」
私は軽く返すが、光江は真面目だった。
「いえ、誰も、です。ベンチャーなんて一瞬で沈む所がほとんどですし、あの頃それなりに仲良くしているつもりだった女性たちも、結婚して降りるか出世を諦めるかという感じで、繋がりは残ってないですね」
「そうなんだ」
「いやー、美咲さんが変わらずいてくれて本当に良かった、実は美咲さんは私の心の支えでしたから」
「大げさでしょそれ」
「そんな事ありませんよ」
光江の頼んだお酒が運ばれてきて、改めて乾杯をしてお祝いの気持ちを伝えた。
「とにかく、とりあえず立ち上げできたみたいで良かった、おめでとう」
「これからですけどね」
そう言いながらも光江は嬉しそうにお酒を飲んでいた。きっと2年前には人に見せようともしなかったであろう素直な笑顔を、今は躊躇なく晒している。
「なんか年下だからため口利いちゃってるけど、会社じゃ社長って呼ばれてるんだよね?」
「いえいえそんな言葉は使わせてないですよ、誰も私を役職でなんて呼ばないですね。第一私がどういう役職を名乗っているか、みんな知らないんじゃないのかな」
営業職の頃は髪もメイクもすきのない完成度を追求しているようなスタイルだった光江だが、経営者となり髪型や服装も以前に比べ親しみを感じられるようになったなと思う。髪色は以前と同じ赤系だが、肩にかかるぐらいの長さで毛先を遊ばせたようなスタイルに変わっている。そしてお酒を飲む時や笑った時などに耳元で揺れるパールのイヤリングが可愛らしかった。
光江は、あくまでも自分はマネジメントをやっている、という言い方で下の人間と関わっているのだと言う。組織が小さいから上下関係はかえって邪魔だとも思っているようだった。
「みんな好き勝手やってますよ、大変だけど、それはそれで楽しいんです」
私の経験した事のない、そしておそらくこれからも経験し得ないであろう世界の話にはとても興味を惹かれた。光江が自らの手でその環境を作り、そこに何人もの人が集まっている。文字通り彼女は創造主になったのだな、と思った。
「…でもね、美咲さん」
お酒も回ってきて、光江の目が少し虚ろになっている。
彼女の抱える闇が顔を出す、そういう予感があった。
「ちょっと、急ぎ過ぎたかなという後悔もあります」
「そうなの?」
「あの頃は、とにかく独立するために、やった方がいいのかどうかわからない事も全部やりました。多分、寝なくていい男とも相当寝たなあと、今となっては思いますね」
そう言う光江は笑っていなかった。
重い話をする時、光江は笑う癖がある事にようやくその時気付いた。今この瞬間以外はそうだったから。
「…後悔してるの?」
「うーん、してると言えばしてますね」
光江は、何のためかはわからないが目じりのあたりを片手で少し押さえるようにしている。
「あの頃、あれだけがむしゃらにやれた動機は、それこそ男だったんです」
私は驚いて光江を見る。光江は、思い出したくもないという様子で続きを語った。
「代理店は、殺伐とした職場でしたけど、それでも私はこの環境こそこの国で一番過酷であり高度だと信じて、そこで生き抜く事ができればどこへ行っても苦労には感じないぐらい鍛えられているはずと信じてやってましたし、それは私にとっては一種の満足感にも繋がっていたんです。でも、その頃付き合っていた彼氏に振られました」
「なんで?」
「バリバリやってる光江とは、結婚するイメージがわかないと言われて」
「……」
たとえなりふり構わず戦っても、きっと彼女の周囲の男性は、一人のライバルとして彼女を認め競おうという気持ちは持つ事もなく、単に潰す相手としてしか取り扱っていなかっただろう。その上心を許した男性さえも、結婚を引き合いに出して、しかもあくまで仕事というフィールドで戦うための武装をしているにすぎない光江を、あっさりと自分の基準だけで判断し切り捨てたのだ。
「心が折れました。でもそれと同時に全員に負けたくないと思うようになって」
そこから、あの光江が生まれたという事なのか。
それでも結局彼女の人生は、間接的に男に振り回されたという事を意味している。彼女自身もそれは理解しているだろう。
「…だからって、あんなに片っ端からバカみたいに行く必要はなかったなと思うと、やっぱりちょっと無駄遣いしましたかね、とは思います」
光江は男を嫌悪している。しかしそれは同時に男を意識の外には追いやれないという事も意味している。
戦う相手として、見返すべき敵として、彼らが存在しなければ、今の光江はいないのだ。
「それで?」
私はわざと感情のない声で問いかける。
「美咲さんがものすごく羨ましいと思ってます」
言い終わるかどうかぐらいのタイミングで光江は箸を取り刺身に手をつけた。あえて私の反応を見ないようにしているのだとわかる。
「……」
私が黙っていると、光江は私を見ないようにしながら言葉を続ける。
「美咲さんはあの時と変わってない、ずっと綺麗なままです、少なくとも私にはそう見える」
「それは貴女だってそうよ」
「どうですかね」
そんなの社交辞令だろ、という心の声が聞こえてくるようだった。
「ただ寝ただけですけどね、それでもある数を超えてくると、やっぱりわかるものはわかってしまうんですよ、だから私は男はもういいやってなっちゃいました」
光江は今回は笑った。自嘲気味ではあったけれど。
「まあそういう経験のおかげでふっきれた部分もあったのかもしれないですけど」
「…なるほど」
私たちは運ばれる料理とお酒を堪能した。光江の苦労話はいい酒の肴になった。
ただ、光江はそういう話をしていくうちに、逆に闇の色に染まっていくような気もして危うさを感じる。
つまり「自分は女として汚れた気がする」というコンプレックスにさいなまれているのだ、とわかった。そして私をまぶしそうに見つめてくるので、何が彼女の中で展開されているのか不思議に思った。
「初めて会った時にも思った事ですけど、美咲さんはいつも自然体で、そこが素敵だなと思います。私はやりたくてもできないんですよね」
「自然体ね、そう見えるだけじゃないかな」
「やっぱり」
そうだ。新たな轍を踏む者が無傷のままでいられるはずがない。光江はそれを知っている。婉曲に揶揄されたのだと思った。
私が自然体を演じている、と彼女は言いたいのだろう。
そして光江は一度ならず私のそんな態度を余裕綽綽で鼻持ちならないと思った事もあったのではないか。
「私相手には本音でくるんだね」
「…なんか、言っても大丈夫そうな気がしちゃうんですよね、だからつい」
そして光江はアプリ開発に込めた思いを語る。本当に出会いたい人に出会えるアプリでなければ意味がないと。利害関係も、マウンティングも関係なく、自分にとって心が必要とする相手は、やっぱり必要なのだと。
「私にとってそれは美咲さんだったんですけどね」
「そう言うわりに会ったの二度目でしょ、今日が」
「そうなんですけど」
「ずっと私は自分が汚れた女だという真っ只中にいて、今日みたいに美咲さんと普通に話せる自信がなかったから、時間がかかっちゃいました」
「それもかなり思い込みがきついと言うか…美化しすぎだと思うんだけど」
「いいんです、私にはそうあって欲しかったから、勝手な思い込みでも」
まあ過去についてはもう良いだろう。光江は一つの山を越えて少し余裕ができたのだから、これからはコンプレックスも薄れていくに違いない。
「それで今日はどうしてもお願いしたい事がありまして」
急に光江がおちょこを置いて姿勢を正す。もしかして金の工面とかそんな話なのかと一瞬身構えた。
「…どうしたの?」
「私の、初めての女の人になって欲しいんです」
「……え」
光江が開発したのは確かに女性専用マッチングアプリで、言ってしまえば出会い系のアプリをプロデュースしている、という事になる。
「なんだかんだ言っても、女性との経験がないんです」
「はあ…」
「開発メンバーも女性のみで固めてます。ほとんどは××女子大の後輩たちなんですが、学生時代からして私は高嶺の花扱いをされていたし、かえって気楽に女子同士でいちゃつくなどという機会がありませんでした」
「いや、だからって…」
「お願いします!」
そういう事を頼む姿勢としてあまりに真剣というか、真面目すぎて場違い感が凄い。これでは始められるものも始められない雰囲気だ。
「光江の事嫌いじゃないけど…」
「じゃあ、是非」
どうもノリが違う。こういう事は、せーので始めるようなものでもない。
「ちょっと待ってよ、私に丸投げはないでしょ」
「どういう事ですか?」
私は頬杖をついて光江を見た。
「あなたのために一肌脱ぐのは構わないけど、それをして私には何も残らないわ」
「まあ、そうですね」
要はこうだ。アプリ開発者含め彼女の周囲では当たり前のように女性同士が出会い、そういう関係を結んでいる環境にあって、彼女は取り残されそうになっているのだろう。女を知らずして女の喜ぶサービスを仕切れるのか、という事を気にしてのお願いなのだろう事はすぐに想像がついた。経営者として知らないという訳にはいかない、という所だろう。
だから光江にはメリットがある。そして利害関係抜きで頼める相手は私しかいないと言いたいのだ。
「もっとちゃんとした理由が必要ですか?」
「そうね」
光江は考え込んでいた。確かに自分の勝手なお願いである事も十分理解しているだろうから、私がそれなりに納得できる理由は必要だという考えには至っているのだろう。
私は明確に、冗談だというニュアンスを込めて告げる。
「何十人か知らないけど、男に汚された身体なんでしょ?そんなの抱く気になれないわよ」
「美咲さん…そうだ」
何を思いついたのかわからないが、光江の表情が一瞬明るくなる。だがすぐにまた思案顔に戻ってしまった。
「なかなか美咲さんのメリットというのがしっかり思いつかないです」
「と言うか単に私を利用しようってだけの話なら、本気で断るからね」
「それは違いますよ」
「じゃ全力で私をその気にさせてみてよ、それによってはそういう流れになるんだし」
「なるほど」
欲しいものがあれば汗をかけと、そういう事でどうにか落としどころにせざるを得なかった。
結局、私がやれるのは光江の持つテクニックをあるだけ暴いて、それで一応過去をリセットした感じにもっていくぐらいの事しかできない。
「そうそう、女を口説く所から学ばないとね」
「…でも、どうすれば…」
昔の光江を知る私としては、こうも困惑する光江の姿は衝撃的でさえある。
そこで悩むのか?というか男を引っかける時も全て計算でやっていただろうに、それは私には通用しないという判断をしているのか。頭が良いのか悪いのかわからない、と思う。
「…ほんとにそんなんで男を数々たらしこんで来たなんて全然想像できないんだけど」
可笑しくなってきて私は笑ってしまった。光江は顔を赤くしてうつむくばかりだった。
「……すみません」
「しょうがないなあ、じゃこっち来て」
私たちは個室の掘りごたつ席に向かい合って座っている。私は自分の隣に座るよう光江を促した。
「ほんと、こんな人が経営者で大丈夫なのか心配になってくるわ」
恥ずかしそうに私の横に来た光江にそんな冗談を言うが、光江は案外真に受けていた。
私は光江の肩を抱き寄せて一言伝える。
「女同士はいきなり始まるのよ」
その言葉に反応して光江がこちらに顔を向ける。私の言葉通り、もう始められる空気は出来上がっていた。でも私はそのまま行かなかった。
光江の顔に自分の顔を近づけて「ほらね」と付け加える。光江はただ静かに頷いた。
私は一旦光江から手を離して食事に箸を付ける。光江は追いすがるように私の足に手を置いて身体を寄せてきた。
「始めないんですか」
「うん、まだ料理も残ってるし」
「……」
なんとなく横目で光江の表情を確かめると、光江は困ったような顔でもじもじとしている。
「そのイヤリング、可愛いね」
私が料理に箸をつけながらそう声をかけると、光江は「ほんとですか」と少女のように恥ずかしがりながらも喜んでいるようだった。
なんだか29歳という実年齢よりえらく幼く見えてくる。
私は更に「光江はちっとも汚れてなんか見えないよ」とも伝えた。
「もう食べないの?」
「私はもう大丈夫です」
少しの間光江を横に座らせたままで私は料理やらお酒を楽しんでいたが、光江はあまり進んでいないようだった。
「なんか、早く触って欲しくなっちゃって」
「…」
仕方ない、そう思ってテーブルチェックを済ませようとすると、光江が半分は払うと言って現金を出してきた。遠慮なく受け取る事にする。
「一応協力はするけど、やった所で光江のコンプレックスがすっきり解消するなんて保証はないからね」
「わかってます、美咲さんには無理を言ってお願いしてるんですから、楽しんでもらえるように頑張ります」
長く喋らせると雰囲気が壊れる。そういう話じゃないんだよな、と思いながら私たちは場所を変えた。
タクシーの中で私はわざと光江の手を握ったり、足を触ったりなどした。招かれたのは光江の住むマンションだった。広告業界でバリバリ稼いで今はベンチャービジネスの立ち上げを果たしたというだけあって部屋はそこそこに広い。ただ、その様相は男の書斎か何かのようで、なかなか趣というものからは縁遠い印象だった。
「聞いていい?」
「何ですか」
「あなたこんな部屋に男連れ込んだりしてたわけ?」
「いいえ、それはないです、基本はホテル使ってましたし」
「…」
汚いとか、散らかっているというわけではないが、とにかく巨大な書棚には本がぎっしりと詰まっており、中にはファイリングされた書類などもかなりあった。いわゆるリビングにあたる広い部屋に、そんな巨大な書棚とそこそこ大きなデスクが置かれているので、この部屋そのものが大きな書斎のようであると思ったのだ。
男に紛れて戦っているうちに暮らしまでこんな風になるものだろうかと驚きもしたが、そこ以外はものものしさもなく普通の部屋という感じである。
「けっこう、服とかは処分してしまったんですよね、営業職でなくなったらなんだか着られないなというものが多くなってしまって」
「…ふーん」
私は、答えながらも目では「で、どうするの?」と光江に問いかける。一瞬でできあがるはずの空気を、光江は自分から作れないようだった。
「…ごめんなさい、じゃこっちにお願いします」
セミダブルのベッドに私は腰を下ろした。すると急に光江が抱き付いてきて、子供のように甘えてくる。
「ちょっと、どうしたの」
「その、私、どうしたらいいのか全然わからなくって」
何についての話なのだろうかという疑問が頭をよぎる。
まあこういう事の始め方という意味なのだろうが。
「ねえ、そんなに無理しなくてもいいんじゃないのかな」
「なんでですか」
「だって、光江の動機って、今のままじゃみんなに顔向けできないみたいな、プライドに関わる話でしょ?…そんなの経営とは関係のない事だもの」
「……」
「あなたが本当に、我慢できないぐらいになる相手と出会ったら自然とできるようにもなるし、その時知れば十分だと思うんだけどなあ」
私にしがみつく光江の背中を撫でながら私は言った。
「でも私は美咲さんの事、それぐらい思ってます」
「嘘でしょ」
「嘘じゃないです、でも私が近づいたら美咲さんまで汚してしまいそうで、怖かっただけです」
「それ、今もそんな事考えてるの?」
「…はい」
「…誰と何があったらそういう考えになるんだか、知らないけど」
私は呆れたが、ならば光江の身体検査をして、自信を取り戻させるぐらいの事はした方がいいのかもしれないと思った。
「じゃあなたが言うように、ほんとに汚い身体なのかどうか、私が確認してあげる、私は光江は綺麗だと思ってるけど、言葉だけじゃ信用できないんでしょうから」
「…触ってくれるんですか」
「そうね」
光江は私から離れてさっさと服を脱ぎ始めてしまう。あっという間にショーツ一枚の姿になってしまった。
「ちょっと、早いんだけど」
かなり調子が狂ってしまう。ビジネス以外の事はむしろ人並み以下なのではないかと勘ぐってしまうぐらいだ。
「すみません…」
「そんなに代理店の男性陣ってのはガツガツしてたって事なのかしら」
「まあ、そうですね」
光江はいつものように笑う。自分から何もしなくても、百人いれば百人がリードしてくれたという事なのかもしれない。光江のような若くてそこそこ綺麗な女性相手であればそういう流れは当然だとは思うのだが、今こうして調子外れの素の光江の姿を、見る事もなく終わってきたのかと思うと、それらの男性陣は光江の一体何を知った事になっているのかと、そちらを考えると頭が痛くなりそうだった。
「ほんと調子狂っちゃうわ」
「こっちも脱いだ方がいいですか?」
だんだん面倒になってきたので、もう全部脱がせてしまう事にした。「そうね」とだけ答えると光江は素直にショーツも脱いで私の座るベッドサイドに立ち尽くしている。
「何やってるの」
そんなつもりではなかったが、この感じだと多分私は光江を言葉で追い詰めるような事をしてしまいそうな予感があった。光江は望んでいないかもしれないが、自分自身を汚れていると思っている光江にはそれもありかもしれない、と考える。
私のさきほどの言葉に、光江は困惑していた。先読みができないから、自分からは行動を起こせないのだ。
本来光江のIQは高い。賢いはずの光江は、ひょっとすると直接的に言葉で罵られるという経験が乏しいかもしれない。男性からのそれには慣れているだろうが、女性からの場合はどうだろう。
そんな事を考えているうちに、知らず私の中でスイッチが入ってしまった。
「…やっぱり、わからないみたいね」
「す、すみません」
立ち尽くす光江を一瞥してわざとらしく溜め息を吐いてみせる。光江を焦らせるために。
「あなたが綺麗な身体かどうか、確認してあげるって言ってるでしょ?だったら確認しやすいように自分からやってくれないと」
そうやってわずかなヒントを与えると、光江は弾かれたように動き出した。ベッドによじ登り両脚を開いて見せてくる。
「こういう、事ですか…」
「そうそう、それで?」
「……」
半ばばかばかしいと思いながらも、従順な光江の姿にはそれなりに惹かれるものがある。
私と光江との間には1m以上の距離があった。私はじっと光江の次の行動を待つ。
「もっと、近くで見てください」
「何を?」
「その…」
両脚が閉じてしまいそうになるが、光江は自分でそれをこらえながら言葉を絞り出そうとする。
「私の、身体を…全部見て欲しいんです」
「…」
「あんまり虐めないでください、美咲さん」
光江は耐えられないという様子で、自分からこちらに近づいてきた。それでいい。そうでなければこちらも乗れない。
女性のためだけのマッチングアプリを作ったので是非参加して欲しい、と光江に誘われて、ようやく彼女は城を持つ事ができたのだな、とわかった。
付き合いの意味でとりあえず登録を行いそれを光江に報告した。それから、ひとまず彼女が目指していた独立を果たした事をお祝いしたくて、私は光江を食事に誘った。
完全個室の和食店を選び光江と現地集合する。多少遅れて来る事もあるだろうと思い、私は時間通りに入店しそのまま席に着いて一人で始める事にした。
食前酒替わりに甘口の日本酒をちびちびやっていると、光江が現れた。
「すみません遅れてしまって」
「いいのいいの、勝手に始めてたから」
「本当だ」
光江は笑っている。会うのが2年ぶりくらいで、光江の見た目は若干印象が変わっていた。激務なのは変わらないだろうが、あの頃より少し顔や身体まわりも肉がついたようで、ただひたすらに戦う人間から、少し幸せも感じているような空気も漂うようになったなと思い好感が持てた。
「もうあの頃の知り合いなんて全員切れちゃいましたよ、美咲さん以外は」
この店は初めてのようだったが、光江はメニューを一瞥するだけでさっとオーダーを決めてしまう。それだけで、彼女の情報処理能力が非常に高い事を伺わせる。
「全員、なんて事はないでしょ」
私は軽く返すが、光江は真面目だった。
「いえ、誰も、です。ベンチャーなんて一瞬で沈む所がほとんどですし、あの頃それなりに仲良くしているつもりだった女性たちも、結婚して降りるか出世を諦めるかという感じで、繋がりは残ってないですね」
「そうなんだ」
「いやー、美咲さんが変わらずいてくれて本当に良かった、実は美咲さんは私の心の支えでしたから」
「大げさでしょそれ」
「そんな事ありませんよ」
光江の頼んだお酒が運ばれてきて、改めて乾杯をしてお祝いの気持ちを伝えた。
「とにかく、とりあえず立ち上げできたみたいで良かった、おめでとう」
「これからですけどね」
そう言いながらも光江は嬉しそうにお酒を飲んでいた。きっと2年前には人に見せようともしなかったであろう素直な笑顔を、今は躊躇なく晒している。
「なんか年下だからため口利いちゃってるけど、会社じゃ社長って呼ばれてるんだよね?」
「いえいえそんな言葉は使わせてないですよ、誰も私を役職でなんて呼ばないですね。第一私がどういう役職を名乗っているか、みんな知らないんじゃないのかな」
営業職の頃は髪もメイクもすきのない完成度を追求しているようなスタイルだった光江だが、経営者となり髪型や服装も以前に比べ親しみを感じられるようになったなと思う。髪色は以前と同じ赤系だが、肩にかかるぐらいの長さで毛先を遊ばせたようなスタイルに変わっている。そしてお酒を飲む時や笑った時などに耳元で揺れるパールのイヤリングが可愛らしかった。
光江は、あくまでも自分はマネジメントをやっている、という言い方で下の人間と関わっているのだと言う。組織が小さいから上下関係はかえって邪魔だとも思っているようだった。
「みんな好き勝手やってますよ、大変だけど、それはそれで楽しいんです」
私の経験した事のない、そしておそらくこれからも経験し得ないであろう世界の話にはとても興味を惹かれた。光江が自らの手でその環境を作り、そこに何人もの人が集まっている。文字通り彼女は創造主になったのだな、と思った。
「…でもね、美咲さん」
お酒も回ってきて、光江の目が少し虚ろになっている。
彼女の抱える闇が顔を出す、そういう予感があった。
「ちょっと、急ぎ過ぎたかなという後悔もあります」
「そうなの?」
「あの頃は、とにかく独立するために、やった方がいいのかどうかわからない事も全部やりました。多分、寝なくていい男とも相当寝たなあと、今となっては思いますね」
そう言う光江は笑っていなかった。
重い話をする時、光江は笑う癖がある事にようやくその時気付いた。今この瞬間以外はそうだったから。
「…後悔してるの?」
「うーん、してると言えばしてますね」
光江は、何のためかはわからないが目じりのあたりを片手で少し押さえるようにしている。
「あの頃、あれだけがむしゃらにやれた動機は、それこそ男だったんです」
私は驚いて光江を見る。光江は、思い出したくもないという様子で続きを語った。
「代理店は、殺伐とした職場でしたけど、それでも私はこの環境こそこの国で一番過酷であり高度だと信じて、そこで生き抜く事ができればどこへ行っても苦労には感じないぐらい鍛えられているはずと信じてやってましたし、それは私にとっては一種の満足感にも繋がっていたんです。でも、その頃付き合っていた彼氏に振られました」
「なんで?」
「バリバリやってる光江とは、結婚するイメージがわかないと言われて」
「……」
たとえなりふり構わず戦っても、きっと彼女の周囲の男性は、一人のライバルとして彼女を認め競おうという気持ちは持つ事もなく、単に潰す相手としてしか取り扱っていなかっただろう。その上心を許した男性さえも、結婚を引き合いに出して、しかもあくまで仕事というフィールドで戦うための武装をしているにすぎない光江を、あっさりと自分の基準だけで判断し切り捨てたのだ。
「心が折れました。でもそれと同時に全員に負けたくないと思うようになって」
そこから、あの光江が生まれたという事なのか。
それでも結局彼女の人生は、間接的に男に振り回されたという事を意味している。彼女自身もそれは理解しているだろう。
「…だからって、あんなに片っ端からバカみたいに行く必要はなかったなと思うと、やっぱりちょっと無駄遣いしましたかね、とは思います」
光江は男を嫌悪している。しかしそれは同時に男を意識の外には追いやれないという事も意味している。
戦う相手として、見返すべき敵として、彼らが存在しなければ、今の光江はいないのだ。
「それで?」
私はわざと感情のない声で問いかける。
「美咲さんがものすごく羨ましいと思ってます」
言い終わるかどうかぐらいのタイミングで光江は箸を取り刺身に手をつけた。あえて私の反応を見ないようにしているのだとわかる。
「……」
私が黙っていると、光江は私を見ないようにしながら言葉を続ける。
「美咲さんはあの時と変わってない、ずっと綺麗なままです、少なくとも私にはそう見える」
「それは貴女だってそうよ」
「どうですかね」
そんなの社交辞令だろ、という心の声が聞こえてくるようだった。
「ただ寝ただけですけどね、それでもある数を超えてくると、やっぱりわかるものはわかってしまうんですよ、だから私は男はもういいやってなっちゃいました」
光江は今回は笑った。自嘲気味ではあったけれど。
「まあそういう経験のおかげでふっきれた部分もあったのかもしれないですけど」
「…なるほど」
私たちは運ばれる料理とお酒を堪能した。光江の苦労話はいい酒の肴になった。
ただ、光江はそういう話をしていくうちに、逆に闇の色に染まっていくような気もして危うさを感じる。
つまり「自分は女として汚れた気がする」というコンプレックスにさいなまれているのだ、とわかった。そして私をまぶしそうに見つめてくるので、何が彼女の中で展開されているのか不思議に思った。
「初めて会った時にも思った事ですけど、美咲さんはいつも自然体で、そこが素敵だなと思います。私はやりたくてもできないんですよね」
「自然体ね、そう見えるだけじゃないかな」
「やっぱり」
そうだ。新たな轍を踏む者が無傷のままでいられるはずがない。光江はそれを知っている。婉曲に揶揄されたのだと思った。
私が自然体を演じている、と彼女は言いたいのだろう。
そして光江は一度ならず私のそんな態度を余裕綽綽で鼻持ちならないと思った事もあったのではないか。
「私相手には本音でくるんだね」
「…なんか、言っても大丈夫そうな気がしちゃうんですよね、だからつい」
そして光江はアプリ開発に込めた思いを語る。本当に出会いたい人に出会えるアプリでなければ意味がないと。利害関係も、マウンティングも関係なく、自分にとって心が必要とする相手は、やっぱり必要なのだと。
「私にとってそれは美咲さんだったんですけどね」
「そう言うわりに会ったの二度目でしょ、今日が」
「そうなんですけど」
「ずっと私は自分が汚れた女だという真っ只中にいて、今日みたいに美咲さんと普通に話せる自信がなかったから、時間がかかっちゃいました」
「それもかなり思い込みがきついと言うか…美化しすぎだと思うんだけど」
「いいんです、私にはそうあって欲しかったから、勝手な思い込みでも」
まあ過去についてはもう良いだろう。光江は一つの山を越えて少し余裕ができたのだから、これからはコンプレックスも薄れていくに違いない。
「それで今日はどうしてもお願いしたい事がありまして」
急に光江がおちょこを置いて姿勢を正す。もしかして金の工面とかそんな話なのかと一瞬身構えた。
「…どうしたの?」
「私の、初めての女の人になって欲しいんです」
「……え」
光江が開発したのは確かに女性専用マッチングアプリで、言ってしまえば出会い系のアプリをプロデュースしている、という事になる。
「なんだかんだ言っても、女性との経験がないんです」
「はあ…」
「開発メンバーも女性のみで固めてます。ほとんどは××女子大の後輩たちなんですが、学生時代からして私は高嶺の花扱いをされていたし、かえって気楽に女子同士でいちゃつくなどという機会がありませんでした」
「いや、だからって…」
「お願いします!」
そういう事を頼む姿勢としてあまりに真剣というか、真面目すぎて場違い感が凄い。これでは始められるものも始められない雰囲気だ。
「光江の事嫌いじゃないけど…」
「じゃあ、是非」
どうもノリが違う。こういう事は、せーので始めるようなものでもない。
「ちょっと待ってよ、私に丸投げはないでしょ」
「どういう事ですか?」
私は頬杖をついて光江を見た。
「あなたのために一肌脱ぐのは構わないけど、それをして私には何も残らないわ」
「まあ、そうですね」
要はこうだ。アプリ開発者含め彼女の周囲では当たり前のように女性同士が出会い、そういう関係を結んでいる環境にあって、彼女は取り残されそうになっているのだろう。女を知らずして女の喜ぶサービスを仕切れるのか、という事を気にしてのお願いなのだろう事はすぐに想像がついた。経営者として知らないという訳にはいかない、という所だろう。
だから光江にはメリットがある。そして利害関係抜きで頼める相手は私しかいないと言いたいのだ。
「もっとちゃんとした理由が必要ですか?」
「そうね」
光江は考え込んでいた。確かに自分の勝手なお願いである事も十分理解しているだろうから、私がそれなりに納得できる理由は必要だという考えには至っているのだろう。
私は明確に、冗談だというニュアンスを込めて告げる。
「何十人か知らないけど、男に汚された身体なんでしょ?そんなの抱く気になれないわよ」
「美咲さん…そうだ」
何を思いついたのかわからないが、光江の表情が一瞬明るくなる。だがすぐにまた思案顔に戻ってしまった。
「なかなか美咲さんのメリットというのがしっかり思いつかないです」
「と言うか単に私を利用しようってだけの話なら、本気で断るからね」
「それは違いますよ」
「じゃ全力で私をその気にさせてみてよ、それによってはそういう流れになるんだし」
「なるほど」
欲しいものがあれば汗をかけと、そういう事でどうにか落としどころにせざるを得なかった。
結局、私がやれるのは光江の持つテクニックをあるだけ暴いて、それで一応過去をリセットした感じにもっていくぐらいの事しかできない。
「そうそう、女を口説く所から学ばないとね」
「…でも、どうすれば…」
昔の光江を知る私としては、こうも困惑する光江の姿は衝撃的でさえある。
そこで悩むのか?というか男を引っかける時も全て計算でやっていただろうに、それは私には通用しないという判断をしているのか。頭が良いのか悪いのかわからない、と思う。
「…ほんとにそんなんで男を数々たらしこんで来たなんて全然想像できないんだけど」
可笑しくなってきて私は笑ってしまった。光江は顔を赤くしてうつむくばかりだった。
「……すみません」
「しょうがないなあ、じゃこっち来て」
私たちは個室の掘りごたつ席に向かい合って座っている。私は自分の隣に座るよう光江を促した。
「ほんと、こんな人が経営者で大丈夫なのか心配になってくるわ」
恥ずかしそうに私の横に来た光江にそんな冗談を言うが、光江は案外真に受けていた。
私は光江の肩を抱き寄せて一言伝える。
「女同士はいきなり始まるのよ」
その言葉に反応して光江がこちらに顔を向ける。私の言葉通り、もう始められる空気は出来上がっていた。でも私はそのまま行かなかった。
光江の顔に自分の顔を近づけて「ほらね」と付け加える。光江はただ静かに頷いた。
私は一旦光江から手を離して食事に箸を付ける。光江は追いすがるように私の足に手を置いて身体を寄せてきた。
「始めないんですか」
「うん、まだ料理も残ってるし」
「……」
なんとなく横目で光江の表情を確かめると、光江は困ったような顔でもじもじとしている。
「そのイヤリング、可愛いね」
私が料理に箸をつけながらそう声をかけると、光江は「ほんとですか」と少女のように恥ずかしがりながらも喜んでいるようだった。
なんだか29歳という実年齢よりえらく幼く見えてくる。
私は更に「光江はちっとも汚れてなんか見えないよ」とも伝えた。
「もう食べないの?」
「私はもう大丈夫です」
少しの間光江を横に座らせたままで私は料理やらお酒を楽しんでいたが、光江はあまり進んでいないようだった。
「なんか、早く触って欲しくなっちゃって」
「…」
仕方ない、そう思ってテーブルチェックを済ませようとすると、光江が半分は払うと言って現金を出してきた。遠慮なく受け取る事にする。
「一応協力はするけど、やった所で光江のコンプレックスがすっきり解消するなんて保証はないからね」
「わかってます、美咲さんには無理を言ってお願いしてるんですから、楽しんでもらえるように頑張ります」
長く喋らせると雰囲気が壊れる。そういう話じゃないんだよな、と思いながら私たちは場所を変えた。
タクシーの中で私はわざと光江の手を握ったり、足を触ったりなどした。招かれたのは光江の住むマンションだった。広告業界でバリバリ稼いで今はベンチャービジネスの立ち上げを果たしたというだけあって部屋はそこそこに広い。ただ、その様相は男の書斎か何かのようで、なかなか趣というものからは縁遠い印象だった。
「聞いていい?」
「何ですか」
「あなたこんな部屋に男連れ込んだりしてたわけ?」
「いいえ、それはないです、基本はホテル使ってましたし」
「…」
汚いとか、散らかっているというわけではないが、とにかく巨大な書棚には本がぎっしりと詰まっており、中にはファイリングされた書類などもかなりあった。いわゆるリビングにあたる広い部屋に、そんな巨大な書棚とそこそこ大きなデスクが置かれているので、この部屋そのものが大きな書斎のようであると思ったのだ。
男に紛れて戦っているうちに暮らしまでこんな風になるものだろうかと驚きもしたが、そこ以外はものものしさもなく普通の部屋という感じである。
「けっこう、服とかは処分してしまったんですよね、営業職でなくなったらなんだか着られないなというものが多くなってしまって」
「…ふーん」
私は、答えながらも目では「で、どうするの?」と光江に問いかける。一瞬でできあがるはずの空気を、光江は自分から作れないようだった。
「…ごめんなさい、じゃこっちにお願いします」
セミダブルのベッドに私は腰を下ろした。すると急に光江が抱き付いてきて、子供のように甘えてくる。
「ちょっと、どうしたの」
「その、私、どうしたらいいのか全然わからなくって」
何についての話なのだろうかという疑問が頭をよぎる。
まあこういう事の始め方という意味なのだろうが。
「ねえ、そんなに無理しなくてもいいんじゃないのかな」
「なんでですか」
「だって、光江の動機って、今のままじゃみんなに顔向けできないみたいな、プライドに関わる話でしょ?…そんなの経営とは関係のない事だもの」
「……」
「あなたが本当に、我慢できないぐらいになる相手と出会ったら自然とできるようにもなるし、その時知れば十分だと思うんだけどなあ」
私にしがみつく光江の背中を撫でながら私は言った。
「でも私は美咲さんの事、それぐらい思ってます」
「嘘でしょ」
「嘘じゃないです、でも私が近づいたら美咲さんまで汚してしまいそうで、怖かっただけです」
「それ、今もそんな事考えてるの?」
「…はい」
「…誰と何があったらそういう考えになるんだか、知らないけど」
私は呆れたが、ならば光江の身体検査をして、自信を取り戻させるぐらいの事はした方がいいのかもしれないと思った。
「じゃあなたが言うように、ほんとに汚い身体なのかどうか、私が確認してあげる、私は光江は綺麗だと思ってるけど、言葉だけじゃ信用できないんでしょうから」
「…触ってくれるんですか」
「そうね」
光江は私から離れてさっさと服を脱ぎ始めてしまう。あっという間にショーツ一枚の姿になってしまった。
「ちょっと、早いんだけど」
かなり調子が狂ってしまう。ビジネス以外の事はむしろ人並み以下なのではないかと勘ぐってしまうぐらいだ。
「すみません…」
「そんなに代理店の男性陣ってのはガツガツしてたって事なのかしら」
「まあ、そうですね」
光江はいつものように笑う。自分から何もしなくても、百人いれば百人がリードしてくれたという事なのかもしれない。光江のような若くてそこそこ綺麗な女性相手であればそういう流れは当然だとは思うのだが、今こうして調子外れの素の光江の姿を、見る事もなく終わってきたのかと思うと、それらの男性陣は光江の一体何を知った事になっているのかと、そちらを考えると頭が痛くなりそうだった。
「ほんと調子狂っちゃうわ」
「こっちも脱いだ方がいいですか?」
だんだん面倒になってきたので、もう全部脱がせてしまう事にした。「そうね」とだけ答えると光江は素直にショーツも脱いで私の座るベッドサイドに立ち尽くしている。
「何やってるの」
そんなつもりではなかったが、この感じだと多分私は光江を言葉で追い詰めるような事をしてしまいそうな予感があった。光江は望んでいないかもしれないが、自分自身を汚れていると思っている光江にはそれもありかもしれない、と考える。
私のさきほどの言葉に、光江は困惑していた。先読みができないから、自分からは行動を起こせないのだ。
本来光江のIQは高い。賢いはずの光江は、ひょっとすると直接的に言葉で罵られるという経験が乏しいかもしれない。男性からのそれには慣れているだろうが、女性からの場合はどうだろう。
そんな事を考えているうちに、知らず私の中でスイッチが入ってしまった。
「…やっぱり、わからないみたいね」
「す、すみません」
立ち尽くす光江を一瞥してわざとらしく溜め息を吐いてみせる。光江を焦らせるために。
「あなたが綺麗な身体かどうか、確認してあげるって言ってるでしょ?だったら確認しやすいように自分からやってくれないと」
そうやってわずかなヒントを与えると、光江は弾かれたように動き出した。ベッドによじ登り両脚を開いて見せてくる。
「こういう、事ですか…」
「そうそう、それで?」
「……」
半ばばかばかしいと思いながらも、従順な光江の姿にはそれなりに惹かれるものがある。
私と光江との間には1m以上の距離があった。私はじっと光江の次の行動を待つ。
「もっと、近くで見てください」
「何を?」
「その…」
両脚が閉じてしまいそうになるが、光江は自分でそれをこらえながら言葉を絞り出そうとする。
「私の、身体を…全部見て欲しいんです」
「…」
「あんまり虐めないでください、美咲さん」
光江は耐えられないという様子で、自分からこちらに近づいてきた。それでいい。そうでなければこちらも乗れない。
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