お姉様に夢中なはずなのにその他の誘惑が多すぎます

那須野 紺

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大好きな貴女と迎える夜明け

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「……」

目が覚めると明け方だった。
美咲さんは私の隣で寝息を立てている。

二人とも状況は酷くて、互いに浴びた、あるいは垂れ流したたくさんの蜜の跡を身体中に残している。勿論無意識的にかぶせたシーツ以外は何も身に着けてはいない。
さながらシャワーを浴びる余力さえも残らず使い果たしたという感じだ。

私は極力身体を動かさないようにしながら、それでも覚醒した頭で考える。
こういう時間帯に一人で目を覚ますと、美咲さんと出会ったばかりの頃の気持ちをよく思い出せるから、できるだけそれに浸っていたい気分になるのだ。

あの頃はいつだって、これが最後と思って美咲さんの身体を貪っていたし、自身もまた美咲さんに全てを差し出すような気持で事に及んでいた。
…その気持ち自体は基本的に大きく変わってはいない。でも特に、こうして一緒に暮らすようになってからはそれでも気持ちに安定感や余裕が生まれていたのも事実だ。

そういう関係になってからだいぶ経つような気もするけれど、私にとって美咲さんはあの時と全く変わっていない。
身体のすみずみまでを知り尽くしてもなお、私はやっぱり美咲さんに憧れているし、もっと心の奥底までも触れ合うようなぐらい傍にいたいと願っている。

でも自分自身はどうだろうか。
結果的に美咲さんを裏切るような事や失望させたり嫉妬させるような事もしているし、唯一自分で決めて約束した目標の「美咲さんの担当秘書になる」も、自力のみでは実現できなかった。

これもあの頃からずっと思っている事なのだけれど、美咲さんの相手は本当に私で良いのだろうか。
わかりやすく表明したりはしないように気を付けているけれど、私自身が誰より「良いはずない」と思っている事もまた、今なお変わらない。

白い天井が夜明けの青みがかった光に染まっていて、何故だか見飽きなかった。
だけど、ものの十秒と経たないうちにその天井が歪んで見える。

…これもあの頃からよくある事だ。考え込むと泣いている。それも何の音も立てずに泣けるようになった。
それはまるで美咲さんが自分にとっては過ぎた相手で、ともすると重く感じている証拠のようでもあり自分で自分を情けなく思うけど、それでも涙はしばらくの間ただ流れていき、気が付くと止まっていたりして、自分としてはその事自体に特別な意味や何かがあるとまでは思っていない。

「……」

付き合うようになってわかった事だけど、美咲さんは決して奔放な女性ではなく仁義や情を重んじる人だ。
心の中では捨ててしまいたいぐらいに飽きている相手にも、情が移って冷たく突き放したりはできない人なのだろうと思う。

だから相手がどんな娘であれ美咲さんは同じようにするのかもしれないけれど、私としてはそこまで配慮してもらう事がかえって申し訳ないし、自分には似つかわしくないと思っていたりする。

頼むから目を覚まさないでと念じつつ、視線に力がこもらないように注意しながら美咲さんの寝顔を盗み見る。
この人は寝ている時が実は一番若々しく見えるのだ。それこそ思春期の女子高校生のようにさえ見えるぐらいに。

本質的に美咲さんはこの寝顔通り無垢な人なのだろう。私はそう信じている。
勿論様々な嫌な目にも合ってきたろうとは思うけど、起きた現象と、それによって美咲さんの心が澱んだり濁ったりするかどうかはまた別問題だ。

無垢だからこそ、汚れっぽい空気感のある私に惹かれたのだろうか。
それともそんな事さえ判別できなかったりするのだろうか。

…わからない。出会った頃はそこを判別できている上で、それでもあえて私に構ってくれていたものと思うけど、容子社長の、勿論巧妙に脱臭されてはいるものの--あの感じに気付かないのは変だと思う。
私は直観的に容子社長をそっち側の人だと認定したけれど、それは間違っているのだろうか。

危機感、というのとは少し違う。
美咲さんが奪われるかもとか、私たちの関係性が壊れてしまうかも、なんて事は思わないからだ。
ただ、私は明らかに容子社長の存在を、美咲さんを巡る関係性においてかなり意識している。

…そうか、腑に落ちた。
美咲さんの恋人である所の私と、実際に会った事で容子社長のスイッチは、もしかすると入ったかもしれないのだ。
この感覚を美咲さんに説明するのは難しい。

一般的には趣味が悪いと思われるかもしれないけど、カップルの片方ではなく両方を知っている方が、そのどちらかと浮気しやすいという指向性の人は確実に存在する。
いや、容子社長の場合はそういう複雑な感じとも違うのだけれど。

「…冴子」

美咲さんが目を覚ましたのかと思ってどきりとしたが、それは寝言のようだった。
言いながら私の肩にすがるようにしがみついてくる。

それがすごく無防備なように見えて、私は思わず美咲さんの頭を抱えるように腕を巻き付けた。
そっと髪を撫で腕をさすり、背中を温めるように掌で包み込む。
美咲さんが身じろぎする事で身体が擦れて、それでまた少し欲情しそうになるがぐっとこらえた。

いつだったか美咲さんは、ずっと先の未来が怖いような事を言っていた気がする。
勿論私たちの関係性がこの先どうなるか、私にもわからない。どんなに努力しても壊れてしまう事だってあるかもしれないし、恐ろしいほど自然に、なかった事のように消えてなくなるかもしれない。

でも美咲さんが不安に思う理由は多分私にあるのだと思う。
今が幸せだから先の事が不安になるという考えもあるかもしれないけど、そんな事を考える暇も与えないぐらいもっと幸せなら、話は違うのではないだろうか。現に私がそうであるように。

腕の中で寝息を立てる美咲さんの顔をもう一度見つめる。
そうすると、

「…好き」

普段何度も、言われている言葉だけど。
寝言として聞く新鮮さと破壊力は格別だった。
わたしは息を吸ったまま固まってしまったけど、それでもこれは誰への言葉か全然確定していないじゃないか、などと自重してみたりする。

あれこれと思う事はあるけれど、美咲さんが私を傍に置いておきたいと思ってくれている事が純粋に嬉しい。
それでも容子社長の事はどこかデンジャラスな存在として気にはなる。

私はそっと、でも深く息を吐いてもう一度吸う。
ほんのわずかにだけど美咲さんの匂いが鼻から入ってきて、これを落ち着く香りだと認識している自分に気付いて驚いた。

身体だけの関係でいい、遊び相手ぐらいでちょうどいい、そんな風に思っていたが、それは結局強がりで、そんな事を自分に言い聞かせる一方でそれでも、少しでも好意に繋がるような事があればどれだけ幸せだろうかと思っていた。

…だから。
だからこそ、私は袴田氏でも真下課長でもなく、容子社長にだけは警戒しているのだろう。
自分で認めてしまうけど、そういう行為の良し悪しなり量的満足においては絶対に負けられないという意地があるからだ。

もはや美咲さんの心が動くかどうかは問題ではない。
容子社長に身体をまさぐられた時に、意図せずだったとしても美咲さんの身体が反応したり官能を覚えてしまう事を、私は恐れているし、多分機会さえあればその予感は的中する。

容子社長が美咲さんの身体に触れれば多分、普段私たちがどのように交わっているのか、そんな事だって手に取るようにわかってしまう事だろう。
美咲さんがそれを直観できなくても、私にはそれも恥ずかしい。

…考えてもしょうがないんだよな、と私は思考を止めた。
避ける手段もなければ対策のしようもない。
それに美咲さんが官能を覚えてもそれは多分、嫌なものではないはずだから、その事自体は悪い事ではないのかもしれない。
私の技術や経験だけでは感じる事のできない高揚を得られる機会になって、いいじゃないかと思わないといけないのかもしれない。

それでも私は自分でわかっているのだ。
自分の武器はそういう事しかないと言いながら、それでもその一点突破で美咲さんを夢中にさせたいなどという大それた願望が膨らんでいる事を。
謙遜や自嘲と、あさましい独占欲や意地が同居している自分の心がやっぱりまだ、こなれていない気がして美咲さんに申し訳なく思う。

それならいっそもっと無邪気に、嫉妬心を露わにできる性格の方がよほどましなのに。

そして美咲さんはそんな私の素直な嫉妬心を間違いなく、受け止めてくれるとわかるだけに、甘えてしまったらもう終わりなような気がしてならないのだ。
そうなってしまったらもう、自分を抑えられなくなりそうで。

…でも。
そういう気持ちは行為の中で爆発させれば良い事なのだと私はわかっている。

休日の朝よくやる事なのだが、私はもう遠目に確認できる時計に目をやって、それからゆっくりと美咲さんの背中に回していた腕を解いた。
起こさないように注意深く美咲さんを横たえて、やはり気配を消したままシーツの中に身体を潜り込ませる。

勿論私もそうされるのは大好きだし、美咲さんだって悦んでくれる事。
眠っている美咲さんの脚をそっと、無理のない角度に開いてそこに唇を寄せていく。
昨晩の常時の残り香だけで私の身体に流れる血が沸騰しそうになるほど熱くなった。

…これは紛れもなく私との交わりによる痕跡なのだけれど、例えこの、常時の相手が容子社長であったとしても、私はやはりその残り香で同じように高揚できるだろうなと想像してしまった。
いや、むしろそちらの方が燃えるかもしれないとさえ思う。

心の中だけで、私だけが許されている呼び方である所の「お姉さま」という言葉を呟いてから、私は静かに口淫を始めた。
美咲さんを起こしてしまわないよう、できるだけソフトに花弁の先端を舌先でくすぐるように割り開いてその間にチロチロと舌先を侵入させる。

あまり濡れていないその場所に、少し自分の唾液を塗り付けるようにしながら花弁を軽く食んでいく。
そうやって花弁の内側を丁寧に舌先で刺激していくと、ゆるゆると、でも溢れるようにそこから蜜が染み出してくるのがわかった。

私は嬉しくなりその場所を何度も何度も舌先を使って刺激する。
激しくならないよう音を抑えて、それにあまり強くすするような事もしない。
口に流れ込んだ蜜を自然に飲み下すのを繰り返しながら、徐々に花弁全体を口で包むようにして、美咲さん自身がこぼしたヌルヌルの蜜を纏わせその場所の快感を広げていくようにした。

舌や唇も、ぬめりによってどんどんスムーズに動くようになり、こちらも口から気持ちよさを覚え始める。
脚を開くように添えていた両手の指先で、知らず美咲さんの内腿や膝裏、脚の付け根なんかをごく軽く撫でてみたりして、まるで美咲さんを焦らすかのように身体への刺激を増やしていった。
…勿論、今は美咲さんを起こさない為にこうしている訳であって焦らしている訳ではないのだけれど。

シーツに潜り込んで美咲さんの股間に唇を這わせながら、私は時折「はぁ」と感嘆の吐息を漏らす。
そして閉じている自分の両内腿をスリスリと擦り合わせて、自分の内側に湧き出すもどかしさをどうにかごまかした。

…ずっと美咲さんが目を覚まさなければいいのにと思う瞬間もあれば、そうではなくこの口淫で目を覚まして、あの可愛い良がり声を惜しみなく聞かせて欲しいとも思ってしまう。

美咲さんの秘部を舐め回しながら、今はまだ聞こえない美咲さん本人の「あ…あん」という喘ぎ声を想像して私は口淫を続けた。
徐々に美咲さんの身体が弛緩したり硬直したりを繰り返し、それから美咲さんの寝息が一定のペースではなくなって「…はぁ」と音の混じったものへと変わっていき、覚醒が近い事を知らせてくる。

…美咲さん、もう起きちゃうのかな。
起きてもきっとこれは続けさせてもらえるだろうけど。
私はモードを切り替えて、残りわずかであろう「美咲さんの態度を気にせずやらせてもらえる時間」を満喫するために思うままに美咲さんの秘部に顔を押し当てた。

ぐりぐりと顔を左右に回すようにしながら、鼻先を押し付けて包皮ごとクリトリスを擦る。
舌ももっと広範囲にまで伸ばしていき、花弁の内側と外側を弾くように嬲ってみたり、蜜穴から会陰を通り抜けてお尻の穴の方にまで舌先を使ってくすぐってみたりした。

さすがにそこまでやれば美咲さんも覚醒したらしく、一瞬だけ内腿をぴくりとさせた後、また身体を弛緩させ仰け反ったような気配が来る。

明確に意識までも覚醒したかはわからないけど、私は聞こえるかどうかギリギリぐらいの小声で何度も呟きながら、一心不乱に美咲さんの秘部を舐め続けた。

「お姉さま…好きです」


-END-
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