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幸福だから困る(晴香SIDE)
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梢さんからシュノーケリングに誘われた時はさほど気乗りしていなかったけど、実際に海の中を覗いて見て本当にびっくりした。
海中がこんなにも、鮮やかな色彩に溢れているという事に。
終わってみて、半分謝罪の意味も込めて梢さんに「ありがとう」と伝える。
「晴香たんきっと喜ぶと思ったんだ、でも…海のリゾートは家族でも行ってるんじゃないの?」
「…そうだけど、私はインドア派だから」
身体から機材を外しながらそんな会話を交わす。
梢さんはどう思っているか知らないけれど、私は家族の中では孤立している。その事も、お姉ちゃんからの苦言が多い一因となっているだろう。
家族で旅行をしても、部屋でずっと絵を描いていたり本を読んだりしている方が楽しいと思うと、あまり出かける気になれなくて、皆と観光するのは気が向いた時だけにする、というのが家族内の暗黙の了解となっていた。
そもそも、同じ人と二日も三日も離れずに一緒の空気を吸っている事自体が私にとっては息苦しい。
私には絶対的に一人きりの時間が必要だと、家族も私自身も思っていた。
でもなぜか、梢さんに対してはそうでもなく思えるのだ。
勿論それでも一人になる時間が全く必要ないとは感じていないけど、例えばお風呂に一緒に入るのなんて面倒なだけじゃないかと、どちらかと言うと毛嫌いする方だったのに、何故だか冴子さんや梢さんは大丈夫な感じがするのだ。
厳密には、冴子さんに対しては「思いつくけど緊張して無理」という感じだったが、梢さんに対しては本人がどう思うかは別として、気負いも何も感じない。自然体でいられるのだが、その事自体が私にとっては珍しい。
真水のシャワーで身体を流して、それから冴子さん達と合流し今回の旅では最後の夕食を共にした。
…今どうしてこの四人で一緒に食事をしているのか、私にすれば全く現実感がない。
幸い梢さんがよく喋ってくれているから、私のその感情は皆には悟られにくかっただろうけど。
基本的には梢さんと冴子さんがよく喋っていて、私とあの人は静かにしている感じが多い旅行だった。
ちょうど、梢さんと冴子さんの二人旅にそれぞれパートナーがついて来た感じと言うか。
…それに。
そんなに口は利かないようにしてるけど、あろう事か私はあの人と身体を重ねてしまったのだ。
それでいて普通にみんなで食事したり、そういう感じについていくのが難しいぐらいに私は動揺していると言うのに。
私が冴子さんの浮気相手認定をされて受けた罰は、それでも十分しんどかったけど、あの場だけの事であってそこさえ過ぎれば問題はない。
でも今回の旅行のやつはそれとは違っている。
「不本意だけど挿入する」とあの人に言われて、じゃあ挿入しないでくれよと思ったけど、場の空気としてもそんな弱気な事は言えず、私は一生懸命に気を張って「やりたきゃ好きにしろ」という態度で臨むよりなかった。
私は、直接されてはいないまでもあの人と冴子さんの交わりを間近で見ているから、そうする前から「自分とは全然違う」とわかってはいたものの、それでも…あの人自身が心でどう思っているかは別にしても、偽竿を入れるという行為そのものに優しさを感じるという事が、実在するのだとわからされた。
身体はちゃんと反応しているのに、心の中では嫌なものだと思う。
貴女も不本意だろうが、それに対して反応してしまっているこちらもかなり不本意だ、という事はおそらく相手も十分理解していた事だろう。
それこそ、挿入されている最中でさえ「何故今私はこの人に挿入されてるんだ」という疑問が消える事はなかった。
それに、本来の私であれば身体に触れられる事でさえ嫌な気持ちになるはずなのに、どういうわけだかその場はおかしくなっていたのか、されるがままになっていたし。
何か婉曲に梢さんの為だとか言われても、本当に余計なお世話である。
二十歳近くも年上の、姉というより親に近いぐらいの歳の人と、そして私の為にではなく梢さんの為に…って、意味がわからない。
そんな風に言いつつ私に入れたいだけなんじゃないの、という発想になるのがいつもの私なのに、それは皆無だったし。
行為そのものが上手いとかそういう事はわからなかった。他をあまり知らないから。
ただ、あの人が言ったように「学べ」「覚えろ」という気持ちは確かなものだと思える、そういう事しかわからなかった。
梢さんの口淫や指使いも、下手だなんて全然思わない。多分梢さんも言わないだけで人並み以上の経験はしているはずなのだ。
…だけど、そういうものとも違う感じがした。
私は、冴子さんが何故この人を選んで、また何故この人から選ばれたのかを知りたかった。
そういう考えもあり精神はともかく身体は全力で明け渡す事を心がけた。
緩く長時間挿入されているうちに、何だかだんだん泣きたいような気持になってくる。
挙句そうしながら、梢さんのどこが好きかなどを語らせるという羞恥プレイじみた事までさせられた。
本当にこんなものに付き合う意味があるのかと、考えてしまったら終わりな気がしてただ流されていた。
…大丈夫、この人は未熟な私をバカになんてしない、とはわかっていながらも、だからと言って素直に全てを受け入れられる訳ではない。
しかし身体に与えられていく官能は絶対的なもので、それは強制的に訪れた。
…中を擦っている、その行為そのものが猛烈に気持ちいいと感じ始める。
擦れば擦るほど、文字通りそのまま気持ち良くなっていく。
…嘘、なんで?さっきと同じ事してるだけなのに。
私は混乱した。でもそれはすぐにどうでも良く思えるぐらいに、下半身からせり上がってくる官能に抗う事ができなくなり、故意にではなく自然に、信じられないような甘い声が漏れ始めてしまう。
「あ、あ…ん…っはぁん」
これでは何も言わずにいても、感じているのがバレバレになってしまうではないかと思うけれど、声は止められない。
それに目の前の人物は、そんな私の反応を直に感じていても、態度が変わるでもなく興奮するでもなく、作業のように同じ動作を繰り返しているだけだ。
これではものすごく恥ずかしい。自分だけが一人で盛り上がっているみたいで。
「あ、あの…あぁ、んっ…」
「なんとなくわかってきた?」
そうだった。手筋を増やして梢さんを悦ばせる為の学びの時間である事を忘れかけていた事に気付く。
「…えっと」
「あー…まあいいわ、それならそれで」
梢さんを感じさせるような手筋を自分の身体で覚えるのだから、とりあえず私が感じている件は問題ないはずなのだが。
「あの、もっと…」
「はいはい」
不本意、その事はお互い変わっていないのだ。
だからそんな素っ気ない言い方をされても何もがっかりはしない、当然だと思う。
「あ…ひ、あんっ」
実の所梢さん達は既に二人で楽しみ始めてしまっているし、二人の目がない分私としては自分の快感だけに集中できている。
「…なんにも、変な事してないでしょ?」
「……んん」
その通り、何も変わった事はされていない。激しくもされていない。むしろ淡々と動いているだけの事のように思える。
「こういう、事なんじゃないの?…私はそうだけど」
「……」
擦られている場所から生まれてくる快感の量も質も、既にかなり上昇してきているのだ。それなのにあえて今、そういうロジックについて語るというのか。全く基準が高いものだ、と思う。
頭がぐるぐるしてきた所で、突然彼女の上半身が倒れてきて、私の耳元のごく近くで、小さな声で囁かれた。
「ね、特別な事はなんにも…してないでしょ?…それなのに感じちゃうんだよ」
一瞬ものすごい緊張が全身を駆け抜けていき、その直後急激に脱力する。
…今のは何だ。別人みたいな声だった。
「…あ、あ…そういう感じの事、冴子さんには…っ」
私は喘ぎながらも必死で尋ねてみる。きっとまだこれはこの人の本気ではないし、それがこの人の年代として年相応なのかそれ以上に長けているのかも、知りようがない。
彼女はさっと身体を起こして再び元の角度とペースでの緩い挿入をキープしながら、「冴子には…もっと、やってる間中こうだけど」と爽やかに笑って言われてしまった。
下半身はどろどろに溶けてしまいそうなぐらいにだらしなく弛緩しているのに、頭は殴られたかのような重い衝撃があって酷い状況だ。
…やっぱり、この人とガチンコで向き合うとか交わるとか、私には計り知れないものが多すぎる。
そしてこの人でないと、と冴子さんが思うならもう、降参するより他にないと思った。
「…多分、ぎりぎりまでしか行けないと思う」
「…え、あ、あぁ……んっあんっ」
そうか、絶頂まではない…のか。
ぼんやりと考えてみるが、今既にもう十分過ぎるほど気持ちいいし、だんだんとどうでも良くなってきている。
「だから申し訳ないけど、ある程度の所でやめるからね、でもそこそこ満足感はあると思う」
「…わ、かりました…っ、んひ…っ、あぁぁんっ」
やられている事は変わり映えしないのに。自分一人がどんどん感じてしまっているしそれがエスカレートする。
ああ、だからセックスで感じる事を俗に「乱れる」と言うんだな、と私は納得した。
「あ、あ…気持ちいい…っ、ん…はぁっ」
それが挿入を始めてから何分ぐらい後の事かはわからないが、途中からはもう、相手がこの人である事とか、だから感じてしまうのが悔しいとか、これで本当に私の技術が上がるのかとか、この人が本気を出すと冴子さんとどういうセックスになるんだろうとか、そういったあらゆる思考が少しずつ落ちていって、ただ自分が生命体として、言葉も思考も失って与えられる快感にのみ支配され、消えてなくなりそうな気分になっていた。
…多分この先にきっと絶頂がある、と思えたが、手が届かなくてもそれで十分だと思った。
それぐらい、たくさん気持ち良くなれているから。
*-*-*-*-*-
「……」
ここは居酒屋で、四人でご飯を食べているのだ。
それでもその事を、まだ忘れられない。時間が経っていないのだから当たり前だけど。
私をさんざん乱れさせながらも、あの人はそれ以降もこれといって態度も変わらず。それも当たり前なんだけど、目を合わせてしまったら、私が少しこの人に心を奪われているみたいな表情をしているかもしれない気がして、素直に顔を見る事ができない。
仕方がないのでとにかく早々に食べる物を食べてこの場から立ち去りたくなっていた。
梢さんも空腹なのが手伝って食べるペースは速い。
ヴィラに二人で戻り、身体は昼間真水のシャワーを浴びたきりなので、改めてのんびりと入浴を楽しんだ。
どういうわけだか梢さんは当たり前のように一緒に浴室に入ってくる。
ダメだとは言わないが、こういう所が何かペットっぽくて嗜虐心を刺激されてしまうんだけど。
「…晴香たん、日焼けとか大丈夫だった?」
洗ってあげる、と言い出した梢さんが勝手に自身の掌にソープを泡立てて私の身体を撫でさすってくる。
旅行の間中こうして身体を洗われているのだが、私としてはどちらかと言うとボディタオル等でしっかり擦って洗いたいのに、梢さんはそれをさせようとしない。
「手で洗った方が肌に負担がかからないんだよ?…せっかく私がいるんだから、背中も洗ってあげられるし」
「……」
梢さんの触り方がどうもくすぐったいと言うか、軽く愛撫してるんじゃないか的な感じがするから精神的に疲れる。
別に毎回狙っているわけではないだろうが、そのうちの2回に1回ぐらいは本当にいやらしい目的で愛撫してくるし。
さすがに今日になれば慣れたけど、はじめのうちはどうも身体がこわばってしまい、梢さんには「お風呂嫌いの猫ちゃんじゃないんだから」とたしなめられる有様だった。
梢さんは知らないのだ。元来私が身体を触られるのを嫌う人間である事を。
「…焼けてはないと思うけど」
「うーん…」
私の身体に泡を伸ばしながら、梢さんはかなり真剣に私の全身を確認する。
「…うん、大丈夫そうだね…でもお風呂上がったら、なんかそれ用のやつ塗ってあげるね」
「持って来てるんだ?」
「当たり前じゃない、愚問ですよ、ご主人様」
「…そうですか」
「じゃー、ハイ前向いて」
椅子に座らされてじっとしていると、梢さんは実に楽しそうに私の身体を洗った。
全身に触れる事がよほど嬉しいらしい。
「あ~、本当は毎日、背中だけでも洗ってあげたいのに」
「…なんで」
「洗いにくくない?一人だと」
「そうは思わないけど」
「え、ちゃんと洗えてる所とそうじゃない所がむらになったりするんだよ?」
梢さんは大雑把なようでこういう事はやたらと詳しい。
長らく身体を酷使する生活を送っていたからか、単に健康の為の工夫ばかりでなく、美容的な事についても、案外医学的ロジックからのケア知識が豊富だ。
「はー」とうっとりしながらいきなり梢さんが私の背中に自分の胸を押し付けてくる。
「ちょ、何してるの」とたしなめるけど、梢さんの身体は離れていかない。
「…これで洗ってもいい?」
「…って始めないでよっ」
くっつけた胸を上下に動かして、梢さんはおっぱいで私の背中を洗い始める。
そもそもこれは「洗う」行為なのだろうか。謎だけど。
「…んっ」
背中に擦れるのはどう考えても硬く尖った乳首だし、梢さんはなんか変な声出してるし。
洗うというより私の背中を使って自分を昂らせているだけのような気がしてならない。
「…ちょ、洗うんならちゃんと洗ってよ」
「…あぁ、ごめんなさい、つい」
ようやく梢さんは我に返って、それでも自分の胸の谷間に私の腕を挟んで擦り洗いしてきたりして、まだ諦めていないようである。
「頭も、洗ってあげよっか?」
「…え」
ぎくりとして思わず固まってしまう。
美容院でもない所で人に頭を洗ってもらうのって、相当勇気がいりはしないだろうか。
「いや~、実は上手いんだ、私…合宿とかででもよく人の頭洗ってたし」
そんなの一体どういうシチュエーションなんだ。
「あと、子供の頭とかも洗ってあげたりしたし」
「こ、子供…?」
「…違う違う、自分の子供じゃなくて、ボランティアで養護施設の子供のを、とかね」
なんだ、びっくりした。いや…梢さんに子供がいるのかと一瞬でも疑った自分の方が異常な気がする。
ただでさえ身体に触れられるのが苦手なのに、頭もとなると更に微妙だ。考え込んでいると、「いや、無理にとは言わないんだけど…」と梢さんの方が遠慮し始めた。
でもその時の私はどうしても、自分を変えたいような気がして梢さんに全て任せる事にしてみる。
…洗うのが上手いかどうかは何とも言えないけど、美容室でされるよりかはすっきりするような感じで気分は良かった。
「だけど~、本命はね」
「?」
「髪の毛を、乾かしてあげるのが一番のお楽しみなんだよね」
「…わかった、どうぞ」
「…いいの?ホントに?」
洗い場で勢いよく回り込んでくるので、梢さんは転びそうになり私が慌てて彼女の肩を捕まえて支えた。
「…ったく、何やってるの」
「えーだって超勇気がいったから、これ言うの」
「……」
多分気付いていたんだろう。私がそれを苦手に思っている事を。
だからこの旅の中でも梢さんは、今日までそれを言い出さなかったのだ。
「なーんだ、やらせてくれるんならさっさとお願いすれば良かった」
これまでのどの梢さんより嬉しそうに見えるのが不思議だ。
…それの何がそんなに楽しい事なのか、私にはわからないけれど。
「私も、梢ちゃんの身体ぐらいは洗ってあげようか」
「いいよ、いいよ」
「…どうして」
「なんか、ひっぱたかれそうだし」
冗談で、しかも遠慮しているのだろうとは思ったけど、それを聞いて思わず私は梢さんの腕をひっぱたいていた。
「ほらやっぱり…」
「……梢ちゃんが悪いんだからね」
「…うううう」
「じゃ早くしてよ」
「はい…」
私が湯船に浸かっている間に梢さんは手早く自分の身体と髪を洗い、それから浴室を出た。
そこからも、よくわからない接待プレイの如く身体に何かひんやりするジェルを塗られ、髪にもオイルを付けられ、バスローブ姿の梢さんにドライヤーで髪を乾かしてもらった。
だんだんこの状況に慣れてきて、髪を乾かしてもらう間若干眠くなってしまう。
「梢ちゃん、美容師になりたかったとか…そういうんじゃないんだよね」
「んー、子供の頃はちょっと考えてたかも」
ドライヤーを構える梢さんがやたらと真剣な顔つきである。最初のうちだけかと思っていたけど、終始そうなのだ。
「やっぱり、色こそ特別だけど、健康的で綺麗な髪だよね」
「…うん」
「お見せの人なんかより、私の方がぜーったい、大事に大事に扱ってあげられる自信はあるんだよ」
「うん…」
変な気分だった。
梢さんはそれこそ、命がけで私を大切にしてくれようという意気込みを感じられるけれど、当の私は平気で梢さんの身体を何度も傷つけては壊そうとしてばかりいるのだ。
わざわざ自分を傷つける女の身体を、大切に洗い清めてケアをしてあげるという行為は、心底倒錯しているとしか思えない。
そこに対して私の中には、やっぱりこの後彼女を張り倒して犯してやろうという邪な気分がもやもやと立ち上がってくる。
梢さんは、自分の手で丁寧に世話した女から無造作に引っかかれる事に悦びを覚えてしまうような、そんな人なのだから。
先に部屋へ戻った私はベッドのヘッドボードに背中を付けて、足は投げ出したまま室内にあった女性向けファッション雑誌を眺めて待った。
身支度を終えた梢さんがようやく出てきて、私の足元あたりにちょこんと座ったかと思うと、着ていたバスローブを脱いで全裸になる。
「…お水とか、飲んだ?」と私が尋ねると梢さんは「うん、飲んできた」と答える。
お風呂上りで暑かったので、私も服や下着は着ていない。
「ねえ、足の指…舐めてもいい?」
「…うん」
やっぱりだ。こういう事の為に、あれだけ丁寧に準備をしたのだと、もう今の私はその程度に梢さんの心理は理解できるようになっている。
「…どうぞ」
雑誌は手に持ったままでそう告げると、梢さんは恥ずかしそうに、でもものすごく嬉しそうな顔でおずおずと私の足に顔を寄せて、かなり控え目な感じで足の指の間を舐め始める。
「あ……んっ」
妙な緩慢さでチロ、チロ、と間延びした水音が聞こえてくるし、それに応じるように私の膝下あたりもぴくっと反応してしまう。
「はぁ……」
舐めている梢さんの方が感じてしまっているようで、熱い吐息もまたよく聞こえた。
いつもなら、梢さんの意図しないタイミングで口内にわざと指をねじ込んだりしてしまうのだけど、今日に限ってはそれをせず梢さんのするままにさせた。
「……はむ、ん…」
喘ぎながら私の足指をしゃぶるという高度な芸当を披露しながらも、時折梢さんの視線が私の顔ではなくお腹の下あたりに行っているのが私にもわかる。
…次はそこを舐めたくてしょうがない、そういう顔つきで。
それでも私がいいと言うまでは、舐める場所を変えるつもりはないようだし、そもそもそこを舐めているだけでもかなり幸せそうな顔をしているのだ。
正直、そこだけで終わりと言ってもそこそこ満足してしまうのではないかと思うぐらいに。
「…そんなに、嬉しいの?これが」
放っておくとずっとそうしていそうなので、私は尋ねてみる。
「…うん、だって…指ちっちゃくて白くて、いい匂いがするし、しゃぶっているだけでも気持ちよくなっちゃう」
「……そう、それだけで梢ちゃんはいやらしく濡らしちゃうんだね」
「…うん」
私からその場所は全く見えないので、それは想像で言っている事だが、梢さんはいつでもそうなのだ。だから間違えようがない。
「…ほんっと、いやらしいんだ…梢ちゃんって」
「…うん」
ごまかすように梢さんはまた私の足指を口に含むけれど、それはまるで男の肉茎でもしゃぶっている時のように顔を紅潮させているし、甘ったるい吐息も混じっていて、口の中からも通常以上に唾液が分泌されているようである。
…いつからか無意識にそう思うようになったのだが、口に溢れる唾液の量と、秘部から溢れる蜜の量は概ね共通したものがある、とわかった。
だから今もきっと、梢さんは秘部をますます濡らしているに違いない。
シーツの上でお尻を突き出すように座った恰好で私の足指を咥えている梢さんの、腰が微かに揺れている。
多分、我慢できなくて内腿を擦り合わせているのだろう。
「梢ちゃん、どっちがいいの?」
「…え」
「そこと、ここと…どっちを舐めたいのか聞いてるんだけど」
「それは…」
答えるまでもなく梢さんの目は私の股間を凝視しているし、そういう視線の状態の割には名残惜しそうにうだうだと足指を咥えている所が、やけにだらしなく思えた。
「いいよ…こっち舐めて」
「うん」
梢さんは這い上がるようにして私の両脚を軽く開き、その間に顔を埋めるやいなや唇を秘部に押し付けてくる。
「あぁ…凄い、濡れてる」
こんな事はもう何回もしてるんだから、いちいち感動するような事でもないと思うのに、梢さんは改めて感嘆の吐息を漏らした。
それから幸せでたまらないといった様子で、媚びるように喘ぎながら私の花弁を揺らすようにぺろぺろと舐め始める。
「は、美味し……晴香たんの、おまんこ…っん、ふぅ…」
毎回思うけど、この人は本当に美味しそうに人の秘部を舐めるのだ。
冴子さんにもそうしていたし、基本的にここを舐めるのが大好きな人なんだろう。
「あ、梢ちゃんっ…舐め方がやらしい…っん…」
「…これ?……冴子ちゃんがやってたの」
またそうやって自分から倒錯しに行く所が。駄目なんだよな、梢ちゃんは。
…それに。
あの人の偽竿で膣内を緩く擦られた影響なのかはわからないが、以前よりも明らかに私の秘部は濡れやすくなった。
それもあって梢さんが盛大にすすり音を立ててくるので、やられているこちらが恥ずかしくなってしまう。
「…なんか、どんどん溢れてきて…凄く、いやらしい…んぐ、んん…」
行為そのものは以前と変わらないし気持ちいいのだって前から同じ事だ。
だけど、攻めと受けの関係性がグラデーションのように私たちそれぞれに濃淡を変え手現れてくるようになった事は、この旅行ではっきり変わった事のように思う。
舐めさせるという攻めをしているはずの私が、梢さんに秘部の溢れ具合を知らされる攻めも受ける、そんな感じで。
二人の間でそれが入れ替わるというよりも、二人どちらにも両方が同時に存在しているような、それはつまり攻めや受けという概念のない、いわゆる普通の交わりに近いものが多くなっているという事か。
それでもやっぱり、私と梢さんはそれぞれの役割を強く意識して交わる事が圧倒的に多いけれど。
「あ、そう…梢ちゃん、もっとぐちゃぐちゃってして…っ」
返事はなく舌の動きが返ってくると、私は「あぁっ」と高く鳴いてしまった。
味をしめた梢ちゃんの舌が、私の膣口付近で縦横無尽に動き回る。
「あっ、あ…あんっ、それ…」
彼女の頭を手で強く押さえつけてしまいたい衝動をぐっとこらえ、手は軽く添えるようにしながらも、それでもほんの少し力を入れて両手で彼女の頭を自分の股間に引き寄せた。
…もっと、深い所で舌を動かして欲しいから。
心得た彼女の舌はぐっと伸ばされ膣内をえぐるように引っかけていく。
同時に上唇をクリトリスに擦りつけるようにしてきっちり刺激してくるあたりは絶妙だ。
「あ、き、気持ちいいっ…イっちゃいそう…んふぅ」
多分指なんだろうけど、それが私の会陰の辺りに予期せず触れた。
それを合図に私は大きく達してしまった。
「あぁぁ…い、っちゃうっ…あ……!」
私は四肢を投げ出してぐったりと横たわる。
「晴香たん」と私の股間の近くで梢さんの声がした。
「なんかほんと、すっごくぐしょぐしょになってて…窒息するかと思った」
「……」
「いつもより、感じた?」
「…うん」
その時の彼女は、嬉しそうでもあったけど複雑な表情を浮かべていた。
…私があの人に犯された事を、地味に気にしているのかもしれないと思う。
なんとなくだけど、そういう気配を感じたので私は彼女の身体を引き寄せるようにしてぎゅっと抱き締める。
すると私の太腿にだらだらと、少し粘着質な液体が垂れ落ちてきた。
「……何、これ」
「あ……ごめんなさい」
太腿を動かして、液体が通った場所を梢さんの太腿に擦りつける。
舐めているだけでこんなにも濡らすなんて、信じられない。
「…そんなに、欲しくなっちゃったの?ここに」
彼女の内腿の間に、強引に自分の太腿を割り込ませて上下に擦った。
「あぁ…だって」
「だって、何…?」
「晴香たんもすっごく濡らしてて、だから…私も」
一秒でも早くその場所をくっつけたいと思った。
自分でもかなり乱暴だなと思うほどの勢いで、彼女の身体の向きを変えさせ最小限の動きで貝合わせを始める。
「あ、いきなりは…あく、ん……」
「…梢ちゃん、すっごくいやらしくて、好き」
「…ダメだよ…そんな事言われたら、ん…すぐにいっちゃいそう」
「すぐにイって見せてよ」
「あ、あぁんっ」
貝合わせの時はいつもそうだけど、どちらの声だかわからなくなるぐらいに二人してあんあん喘いでしまう。
互いの腰に手を添えて支え合っているのに、自ら腰をくねらせる。
そうしていても私と彼女の秘部は離れない。ぴたっとくっついて、捩じれながら重なっていくのだ。
「あぁっ、気持ちいいね…梢ちゃん」
「うん、いっぱいくっついて…ヌルヌルで…あぁん」
口ではそんないやらしい言葉を吐いたり、気分で時々キスをしたり、また離れて喘ぎ声を上げてみたり。
しかもそれが、いくらでも続けられるのだ。
「…ね、外のプールでも、こうやってしたよね…っんふぅ…あ」
「そう、でもまた…しちゃってるよ?…あ…」
旅先で数日間を一緒に過ごせば、思う存分、もういいと思えるほどこういう事ができると思っていたのに。
ある意味、旅行の目的はそういう「解消」的なもののはずだったのに。
こんなに身体を重ねても、いっこうに状況は変わらなかった。
それどころか彼女をもっと欲しくなっている。
…どうしたら良いんだろう。幸福なはずなのに、私は困っている。
海中がこんなにも、鮮やかな色彩に溢れているという事に。
終わってみて、半分謝罪の意味も込めて梢さんに「ありがとう」と伝える。
「晴香たんきっと喜ぶと思ったんだ、でも…海のリゾートは家族でも行ってるんじゃないの?」
「…そうだけど、私はインドア派だから」
身体から機材を外しながらそんな会話を交わす。
梢さんはどう思っているか知らないけれど、私は家族の中では孤立している。その事も、お姉ちゃんからの苦言が多い一因となっているだろう。
家族で旅行をしても、部屋でずっと絵を描いていたり本を読んだりしている方が楽しいと思うと、あまり出かける気になれなくて、皆と観光するのは気が向いた時だけにする、というのが家族内の暗黙の了解となっていた。
そもそも、同じ人と二日も三日も離れずに一緒の空気を吸っている事自体が私にとっては息苦しい。
私には絶対的に一人きりの時間が必要だと、家族も私自身も思っていた。
でもなぜか、梢さんに対してはそうでもなく思えるのだ。
勿論それでも一人になる時間が全く必要ないとは感じていないけど、例えばお風呂に一緒に入るのなんて面倒なだけじゃないかと、どちらかと言うと毛嫌いする方だったのに、何故だか冴子さんや梢さんは大丈夫な感じがするのだ。
厳密には、冴子さんに対しては「思いつくけど緊張して無理」という感じだったが、梢さんに対しては本人がどう思うかは別として、気負いも何も感じない。自然体でいられるのだが、その事自体が私にとっては珍しい。
真水のシャワーで身体を流して、それから冴子さん達と合流し今回の旅では最後の夕食を共にした。
…今どうしてこの四人で一緒に食事をしているのか、私にすれば全く現実感がない。
幸い梢さんがよく喋ってくれているから、私のその感情は皆には悟られにくかっただろうけど。
基本的には梢さんと冴子さんがよく喋っていて、私とあの人は静かにしている感じが多い旅行だった。
ちょうど、梢さんと冴子さんの二人旅にそれぞれパートナーがついて来た感じと言うか。
…それに。
そんなに口は利かないようにしてるけど、あろう事か私はあの人と身体を重ねてしまったのだ。
それでいて普通にみんなで食事したり、そういう感じについていくのが難しいぐらいに私は動揺していると言うのに。
私が冴子さんの浮気相手認定をされて受けた罰は、それでも十分しんどかったけど、あの場だけの事であってそこさえ過ぎれば問題はない。
でも今回の旅行のやつはそれとは違っている。
「不本意だけど挿入する」とあの人に言われて、じゃあ挿入しないでくれよと思ったけど、場の空気としてもそんな弱気な事は言えず、私は一生懸命に気を張って「やりたきゃ好きにしろ」という態度で臨むよりなかった。
私は、直接されてはいないまでもあの人と冴子さんの交わりを間近で見ているから、そうする前から「自分とは全然違う」とわかってはいたものの、それでも…あの人自身が心でどう思っているかは別にしても、偽竿を入れるという行為そのものに優しさを感じるという事が、実在するのだとわからされた。
身体はちゃんと反応しているのに、心の中では嫌なものだと思う。
貴女も不本意だろうが、それに対して反応してしまっているこちらもかなり不本意だ、という事はおそらく相手も十分理解していた事だろう。
それこそ、挿入されている最中でさえ「何故今私はこの人に挿入されてるんだ」という疑問が消える事はなかった。
それに、本来の私であれば身体に触れられる事でさえ嫌な気持ちになるはずなのに、どういうわけだかその場はおかしくなっていたのか、されるがままになっていたし。
何か婉曲に梢さんの為だとか言われても、本当に余計なお世話である。
二十歳近くも年上の、姉というより親に近いぐらいの歳の人と、そして私の為にではなく梢さんの為に…って、意味がわからない。
そんな風に言いつつ私に入れたいだけなんじゃないの、という発想になるのがいつもの私なのに、それは皆無だったし。
行為そのものが上手いとかそういう事はわからなかった。他をあまり知らないから。
ただ、あの人が言ったように「学べ」「覚えろ」という気持ちは確かなものだと思える、そういう事しかわからなかった。
梢さんの口淫や指使いも、下手だなんて全然思わない。多分梢さんも言わないだけで人並み以上の経験はしているはずなのだ。
…だけど、そういうものとも違う感じがした。
私は、冴子さんが何故この人を選んで、また何故この人から選ばれたのかを知りたかった。
そういう考えもあり精神はともかく身体は全力で明け渡す事を心がけた。
緩く長時間挿入されているうちに、何だかだんだん泣きたいような気持になってくる。
挙句そうしながら、梢さんのどこが好きかなどを語らせるという羞恥プレイじみた事までさせられた。
本当にこんなものに付き合う意味があるのかと、考えてしまったら終わりな気がしてただ流されていた。
…大丈夫、この人は未熟な私をバカになんてしない、とはわかっていながらも、だからと言って素直に全てを受け入れられる訳ではない。
しかし身体に与えられていく官能は絶対的なもので、それは強制的に訪れた。
…中を擦っている、その行為そのものが猛烈に気持ちいいと感じ始める。
擦れば擦るほど、文字通りそのまま気持ち良くなっていく。
…嘘、なんで?さっきと同じ事してるだけなのに。
私は混乱した。でもそれはすぐにどうでも良く思えるぐらいに、下半身からせり上がってくる官能に抗う事ができなくなり、故意にではなく自然に、信じられないような甘い声が漏れ始めてしまう。
「あ、あ…ん…っはぁん」
これでは何も言わずにいても、感じているのがバレバレになってしまうではないかと思うけれど、声は止められない。
それに目の前の人物は、そんな私の反応を直に感じていても、態度が変わるでもなく興奮するでもなく、作業のように同じ動作を繰り返しているだけだ。
これではものすごく恥ずかしい。自分だけが一人で盛り上がっているみたいで。
「あ、あの…あぁ、んっ…」
「なんとなくわかってきた?」
そうだった。手筋を増やして梢さんを悦ばせる為の学びの時間である事を忘れかけていた事に気付く。
「…えっと」
「あー…まあいいわ、それならそれで」
梢さんを感じさせるような手筋を自分の身体で覚えるのだから、とりあえず私が感じている件は問題ないはずなのだが。
「あの、もっと…」
「はいはい」
不本意、その事はお互い変わっていないのだ。
だからそんな素っ気ない言い方をされても何もがっかりはしない、当然だと思う。
「あ…ひ、あんっ」
実の所梢さん達は既に二人で楽しみ始めてしまっているし、二人の目がない分私としては自分の快感だけに集中できている。
「…なんにも、変な事してないでしょ?」
「……んん」
その通り、何も変わった事はされていない。激しくもされていない。むしろ淡々と動いているだけの事のように思える。
「こういう、事なんじゃないの?…私はそうだけど」
「……」
擦られている場所から生まれてくる快感の量も質も、既にかなり上昇してきているのだ。それなのにあえて今、そういうロジックについて語るというのか。全く基準が高いものだ、と思う。
頭がぐるぐるしてきた所で、突然彼女の上半身が倒れてきて、私の耳元のごく近くで、小さな声で囁かれた。
「ね、特別な事はなんにも…してないでしょ?…それなのに感じちゃうんだよ」
一瞬ものすごい緊張が全身を駆け抜けていき、その直後急激に脱力する。
…今のは何だ。別人みたいな声だった。
「…あ、あ…そういう感じの事、冴子さんには…っ」
私は喘ぎながらも必死で尋ねてみる。きっとまだこれはこの人の本気ではないし、それがこの人の年代として年相応なのかそれ以上に長けているのかも、知りようがない。
彼女はさっと身体を起こして再び元の角度とペースでの緩い挿入をキープしながら、「冴子には…もっと、やってる間中こうだけど」と爽やかに笑って言われてしまった。
下半身はどろどろに溶けてしまいそうなぐらいにだらしなく弛緩しているのに、頭は殴られたかのような重い衝撃があって酷い状況だ。
…やっぱり、この人とガチンコで向き合うとか交わるとか、私には計り知れないものが多すぎる。
そしてこの人でないと、と冴子さんが思うならもう、降参するより他にないと思った。
「…多分、ぎりぎりまでしか行けないと思う」
「…え、あ、あぁ……んっあんっ」
そうか、絶頂まではない…のか。
ぼんやりと考えてみるが、今既にもう十分過ぎるほど気持ちいいし、だんだんとどうでも良くなってきている。
「だから申し訳ないけど、ある程度の所でやめるからね、でもそこそこ満足感はあると思う」
「…わ、かりました…っ、んひ…っ、あぁぁんっ」
やられている事は変わり映えしないのに。自分一人がどんどん感じてしまっているしそれがエスカレートする。
ああ、だからセックスで感じる事を俗に「乱れる」と言うんだな、と私は納得した。
「あ、あ…気持ちいい…っ、ん…はぁっ」
それが挿入を始めてから何分ぐらい後の事かはわからないが、途中からはもう、相手がこの人である事とか、だから感じてしまうのが悔しいとか、これで本当に私の技術が上がるのかとか、この人が本気を出すと冴子さんとどういうセックスになるんだろうとか、そういったあらゆる思考が少しずつ落ちていって、ただ自分が生命体として、言葉も思考も失って与えられる快感にのみ支配され、消えてなくなりそうな気分になっていた。
…多分この先にきっと絶頂がある、と思えたが、手が届かなくてもそれで十分だと思った。
それぐらい、たくさん気持ち良くなれているから。
*-*-*-*-*-
「……」
ここは居酒屋で、四人でご飯を食べているのだ。
それでもその事を、まだ忘れられない。時間が経っていないのだから当たり前だけど。
私をさんざん乱れさせながらも、あの人はそれ以降もこれといって態度も変わらず。それも当たり前なんだけど、目を合わせてしまったら、私が少しこの人に心を奪われているみたいな表情をしているかもしれない気がして、素直に顔を見る事ができない。
仕方がないのでとにかく早々に食べる物を食べてこの場から立ち去りたくなっていた。
梢さんも空腹なのが手伝って食べるペースは速い。
ヴィラに二人で戻り、身体は昼間真水のシャワーを浴びたきりなので、改めてのんびりと入浴を楽しんだ。
どういうわけだか梢さんは当たり前のように一緒に浴室に入ってくる。
ダメだとは言わないが、こういう所が何かペットっぽくて嗜虐心を刺激されてしまうんだけど。
「…晴香たん、日焼けとか大丈夫だった?」
洗ってあげる、と言い出した梢さんが勝手に自身の掌にソープを泡立てて私の身体を撫でさすってくる。
旅行の間中こうして身体を洗われているのだが、私としてはどちらかと言うとボディタオル等でしっかり擦って洗いたいのに、梢さんはそれをさせようとしない。
「手で洗った方が肌に負担がかからないんだよ?…せっかく私がいるんだから、背中も洗ってあげられるし」
「……」
梢さんの触り方がどうもくすぐったいと言うか、軽く愛撫してるんじゃないか的な感じがするから精神的に疲れる。
別に毎回狙っているわけではないだろうが、そのうちの2回に1回ぐらいは本当にいやらしい目的で愛撫してくるし。
さすがに今日になれば慣れたけど、はじめのうちはどうも身体がこわばってしまい、梢さんには「お風呂嫌いの猫ちゃんじゃないんだから」とたしなめられる有様だった。
梢さんは知らないのだ。元来私が身体を触られるのを嫌う人間である事を。
「…焼けてはないと思うけど」
「うーん…」
私の身体に泡を伸ばしながら、梢さんはかなり真剣に私の全身を確認する。
「…うん、大丈夫そうだね…でもお風呂上がったら、なんかそれ用のやつ塗ってあげるね」
「持って来てるんだ?」
「当たり前じゃない、愚問ですよ、ご主人様」
「…そうですか」
「じゃー、ハイ前向いて」
椅子に座らされてじっとしていると、梢さんは実に楽しそうに私の身体を洗った。
全身に触れる事がよほど嬉しいらしい。
「あ~、本当は毎日、背中だけでも洗ってあげたいのに」
「…なんで」
「洗いにくくない?一人だと」
「そうは思わないけど」
「え、ちゃんと洗えてる所とそうじゃない所がむらになったりするんだよ?」
梢さんは大雑把なようでこういう事はやたらと詳しい。
長らく身体を酷使する生活を送っていたからか、単に健康の為の工夫ばかりでなく、美容的な事についても、案外医学的ロジックからのケア知識が豊富だ。
「はー」とうっとりしながらいきなり梢さんが私の背中に自分の胸を押し付けてくる。
「ちょ、何してるの」とたしなめるけど、梢さんの身体は離れていかない。
「…これで洗ってもいい?」
「…って始めないでよっ」
くっつけた胸を上下に動かして、梢さんはおっぱいで私の背中を洗い始める。
そもそもこれは「洗う」行為なのだろうか。謎だけど。
「…んっ」
背中に擦れるのはどう考えても硬く尖った乳首だし、梢さんはなんか変な声出してるし。
洗うというより私の背中を使って自分を昂らせているだけのような気がしてならない。
「…ちょ、洗うんならちゃんと洗ってよ」
「…あぁ、ごめんなさい、つい」
ようやく梢さんは我に返って、それでも自分の胸の谷間に私の腕を挟んで擦り洗いしてきたりして、まだ諦めていないようである。
「頭も、洗ってあげよっか?」
「…え」
ぎくりとして思わず固まってしまう。
美容院でもない所で人に頭を洗ってもらうのって、相当勇気がいりはしないだろうか。
「いや~、実は上手いんだ、私…合宿とかででもよく人の頭洗ってたし」
そんなの一体どういうシチュエーションなんだ。
「あと、子供の頭とかも洗ってあげたりしたし」
「こ、子供…?」
「…違う違う、自分の子供じゃなくて、ボランティアで養護施設の子供のを、とかね」
なんだ、びっくりした。いや…梢さんに子供がいるのかと一瞬でも疑った自分の方が異常な気がする。
ただでさえ身体に触れられるのが苦手なのに、頭もとなると更に微妙だ。考え込んでいると、「いや、無理にとは言わないんだけど…」と梢さんの方が遠慮し始めた。
でもその時の私はどうしても、自分を変えたいような気がして梢さんに全て任せる事にしてみる。
…洗うのが上手いかどうかは何とも言えないけど、美容室でされるよりかはすっきりするような感じで気分は良かった。
「だけど~、本命はね」
「?」
「髪の毛を、乾かしてあげるのが一番のお楽しみなんだよね」
「…わかった、どうぞ」
「…いいの?ホントに?」
洗い場で勢いよく回り込んでくるので、梢さんは転びそうになり私が慌てて彼女の肩を捕まえて支えた。
「…ったく、何やってるの」
「えーだって超勇気がいったから、これ言うの」
「……」
多分気付いていたんだろう。私がそれを苦手に思っている事を。
だからこの旅の中でも梢さんは、今日までそれを言い出さなかったのだ。
「なーんだ、やらせてくれるんならさっさとお願いすれば良かった」
これまでのどの梢さんより嬉しそうに見えるのが不思議だ。
…それの何がそんなに楽しい事なのか、私にはわからないけれど。
「私も、梢ちゃんの身体ぐらいは洗ってあげようか」
「いいよ、いいよ」
「…どうして」
「なんか、ひっぱたかれそうだし」
冗談で、しかも遠慮しているのだろうとは思ったけど、それを聞いて思わず私は梢さんの腕をひっぱたいていた。
「ほらやっぱり…」
「……梢ちゃんが悪いんだからね」
「…うううう」
「じゃ早くしてよ」
「はい…」
私が湯船に浸かっている間に梢さんは手早く自分の身体と髪を洗い、それから浴室を出た。
そこからも、よくわからない接待プレイの如く身体に何かひんやりするジェルを塗られ、髪にもオイルを付けられ、バスローブ姿の梢さんにドライヤーで髪を乾かしてもらった。
だんだんこの状況に慣れてきて、髪を乾かしてもらう間若干眠くなってしまう。
「梢ちゃん、美容師になりたかったとか…そういうんじゃないんだよね」
「んー、子供の頃はちょっと考えてたかも」
ドライヤーを構える梢さんがやたらと真剣な顔つきである。最初のうちだけかと思っていたけど、終始そうなのだ。
「やっぱり、色こそ特別だけど、健康的で綺麗な髪だよね」
「…うん」
「お見せの人なんかより、私の方がぜーったい、大事に大事に扱ってあげられる自信はあるんだよ」
「うん…」
変な気分だった。
梢さんはそれこそ、命がけで私を大切にしてくれようという意気込みを感じられるけれど、当の私は平気で梢さんの身体を何度も傷つけては壊そうとしてばかりいるのだ。
わざわざ自分を傷つける女の身体を、大切に洗い清めてケアをしてあげるという行為は、心底倒錯しているとしか思えない。
そこに対して私の中には、やっぱりこの後彼女を張り倒して犯してやろうという邪な気分がもやもやと立ち上がってくる。
梢さんは、自分の手で丁寧に世話した女から無造作に引っかかれる事に悦びを覚えてしまうような、そんな人なのだから。
先に部屋へ戻った私はベッドのヘッドボードに背中を付けて、足は投げ出したまま室内にあった女性向けファッション雑誌を眺めて待った。
身支度を終えた梢さんがようやく出てきて、私の足元あたりにちょこんと座ったかと思うと、着ていたバスローブを脱いで全裸になる。
「…お水とか、飲んだ?」と私が尋ねると梢さんは「うん、飲んできた」と答える。
お風呂上りで暑かったので、私も服や下着は着ていない。
「ねえ、足の指…舐めてもいい?」
「…うん」
やっぱりだ。こういう事の為に、あれだけ丁寧に準備をしたのだと、もう今の私はその程度に梢さんの心理は理解できるようになっている。
「…どうぞ」
雑誌は手に持ったままでそう告げると、梢さんは恥ずかしそうに、でもものすごく嬉しそうな顔でおずおずと私の足に顔を寄せて、かなり控え目な感じで足の指の間を舐め始める。
「あ……んっ」
妙な緩慢さでチロ、チロ、と間延びした水音が聞こえてくるし、それに応じるように私の膝下あたりもぴくっと反応してしまう。
「はぁ……」
舐めている梢さんの方が感じてしまっているようで、熱い吐息もまたよく聞こえた。
いつもなら、梢さんの意図しないタイミングで口内にわざと指をねじ込んだりしてしまうのだけど、今日に限ってはそれをせず梢さんのするままにさせた。
「……はむ、ん…」
喘ぎながら私の足指をしゃぶるという高度な芸当を披露しながらも、時折梢さんの視線が私の顔ではなくお腹の下あたりに行っているのが私にもわかる。
…次はそこを舐めたくてしょうがない、そういう顔つきで。
それでも私がいいと言うまでは、舐める場所を変えるつもりはないようだし、そもそもそこを舐めているだけでもかなり幸せそうな顔をしているのだ。
正直、そこだけで終わりと言ってもそこそこ満足してしまうのではないかと思うぐらいに。
「…そんなに、嬉しいの?これが」
放っておくとずっとそうしていそうなので、私は尋ねてみる。
「…うん、だって…指ちっちゃくて白くて、いい匂いがするし、しゃぶっているだけでも気持ちよくなっちゃう」
「……そう、それだけで梢ちゃんはいやらしく濡らしちゃうんだね」
「…うん」
私からその場所は全く見えないので、それは想像で言っている事だが、梢さんはいつでもそうなのだ。だから間違えようがない。
「…ほんっと、いやらしいんだ…梢ちゃんって」
「…うん」
ごまかすように梢さんはまた私の足指を口に含むけれど、それはまるで男の肉茎でもしゃぶっている時のように顔を紅潮させているし、甘ったるい吐息も混じっていて、口の中からも通常以上に唾液が分泌されているようである。
…いつからか無意識にそう思うようになったのだが、口に溢れる唾液の量と、秘部から溢れる蜜の量は概ね共通したものがある、とわかった。
だから今もきっと、梢さんは秘部をますます濡らしているに違いない。
シーツの上でお尻を突き出すように座った恰好で私の足指を咥えている梢さんの、腰が微かに揺れている。
多分、我慢できなくて内腿を擦り合わせているのだろう。
「梢ちゃん、どっちがいいの?」
「…え」
「そこと、ここと…どっちを舐めたいのか聞いてるんだけど」
「それは…」
答えるまでもなく梢さんの目は私の股間を凝視しているし、そういう視線の状態の割には名残惜しそうにうだうだと足指を咥えている所が、やけにだらしなく思えた。
「いいよ…こっち舐めて」
「うん」
梢さんは這い上がるようにして私の両脚を軽く開き、その間に顔を埋めるやいなや唇を秘部に押し付けてくる。
「あぁ…凄い、濡れてる」
こんな事はもう何回もしてるんだから、いちいち感動するような事でもないと思うのに、梢さんは改めて感嘆の吐息を漏らした。
それから幸せでたまらないといった様子で、媚びるように喘ぎながら私の花弁を揺らすようにぺろぺろと舐め始める。
「は、美味し……晴香たんの、おまんこ…っん、ふぅ…」
毎回思うけど、この人は本当に美味しそうに人の秘部を舐めるのだ。
冴子さんにもそうしていたし、基本的にここを舐めるのが大好きな人なんだろう。
「あ、梢ちゃんっ…舐め方がやらしい…っん…」
「…これ?……冴子ちゃんがやってたの」
またそうやって自分から倒錯しに行く所が。駄目なんだよな、梢ちゃんは。
…それに。
あの人の偽竿で膣内を緩く擦られた影響なのかはわからないが、以前よりも明らかに私の秘部は濡れやすくなった。
それもあって梢さんが盛大にすすり音を立ててくるので、やられているこちらが恥ずかしくなってしまう。
「…なんか、どんどん溢れてきて…凄く、いやらしい…んぐ、んん…」
行為そのものは以前と変わらないし気持ちいいのだって前から同じ事だ。
だけど、攻めと受けの関係性がグラデーションのように私たちそれぞれに濃淡を変え手現れてくるようになった事は、この旅行ではっきり変わった事のように思う。
舐めさせるという攻めをしているはずの私が、梢さんに秘部の溢れ具合を知らされる攻めも受ける、そんな感じで。
二人の間でそれが入れ替わるというよりも、二人どちらにも両方が同時に存在しているような、それはつまり攻めや受けという概念のない、いわゆる普通の交わりに近いものが多くなっているという事か。
それでもやっぱり、私と梢さんはそれぞれの役割を強く意識して交わる事が圧倒的に多いけれど。
「あ、そう…梢ちゃん、もっとぐちゃぐちゃってして…っ」
返事はなく舌の動きが返ってくると、私は「あぁっ」と高く鳴いてしまった。
味をしめた梢ちゃんの舌が、私の膣口付近で縦横無尽に動き回る。
「あっ、あ…あんっ、それ…」
彼女の頭を手で強く押さえつけてしまいたい衝動をぐっとこらえ、手は軽く添えるようにしながらも、それでもほんの少し力を入れて両手で彼女の頭を自分の股間に引き寄せた。
…もっと、深い所で舌を動かして欲しいから。
心得た彼女の舌はぐっと伸ばされ膣内をえぐるように引っかけていく。
同時に上唇をクリトリスに擦りつけるようにしてきっちり刺激してくるあたりは絶妙だ。
「あ、き、気持ちいいっ…イっちゃいそう…んふぅ」
多分指なんだろうけど、それが私の会陰の辺りに予期せず触れた。
それを合図に私は大きく達してしまった。
「あぁぁ…い、っちゃうっ…あ……!」
私は四肢を投げ出してぐったりと横たわる。
「晴香たん」と私の股間の近くで梢さんの声がした。
「なんかほんと、すっごくぐしょぐしょになってて…窒息するかと思った」
「……」
「いつもより、感じた?」
「…うん」
その時の彼女は、嬉しそうでもあったけど複雑な表情を浮かべていた。
…私があの人に犯された事を、地味に気にしているのかもしれないと思う。
なんとなくだけど、そういう気配を感じたので私は彼女の身体を引き寄せるようにしてぎゅっと抱き締める。
すると私の太腿にだらだらと、少し粘着質な液体が垂れ落ちてきた。
「……何、これ」
「あ……ごめんなさい」
太腿を動かして、液体が通った場所を梢さんの太腿に擦りつける。
舐めているだけでこんなにも濡らすなんて、信じられない。
「…そんなに、欲しくなっちゃったの?ここに」
彼女の内腿の間に、強引に自分の太腿を割り込ませて上下に擦った。
「あぁ…だって」
「だって、何…?」
「晴香たんもすっごく濡らしてて、だから…私も」
一秒でも早くその場所をくっつけたいと思った。
自分でもかなり乱暴だなと思うほどの勢いで、彼女の身体の向きを変えさせ最小限の動きで貝合わせを始める。
「あ、いきなりは…あく、ん……」
「…梢ちゃん、すっごくいやらしくて、好き」
「…ダメだよ…そんな事言われたら、ん…すぐにいっちゃいそう」
「すぐにイって見せてよ」
「あ、あぁんっ」
貝合わせの時はいつもそうだけど、どちらの声だかわからなくなるぐらいに二人してあんあん喘いでしまう。
互いの腰に手を添えて支え合っているのに、自ら腰をくねらせる。
そうしていても私と彼女の秘部は離れない。ぴたっとくっついて、捩じれながら重なっていくのだ。
「あぁっ、気持ちいいね…梢ちゃん」
「うん、いっぱいくっついて…ヌルヌルで…あぁん」
口ではそんないやらしい言葉を吐いたり、気分で時々キスをしたり、また離れて喘ぎ声を上げてみたり。
しかもそれが、いくらでも続けられるのだ。
「…ね、外のプールでも、こうやってしたよね…っんふぅ…あ」
「そう、でもまた…しちゃってるよ?…あ…」
旅先で数日間を一緒に過ごせば、思う存分、もういいと思えるほどこういう事ができると思っていたのに。
ある意味、旅行の目的はそういう「解消」的なもののはずだったのに。
こんなに身体を重ねても、いっこうに状況は変わらなかった。
それどころか彼女をもっと欲しくなっている。
…どうしたら良いんだろう。幸福なはずなのに、私は困っている。
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