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堕ちて、その先へ(梢SIDE)

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「ちょっと!冴子ちゃんっ!」
「!…あ、おはようございます」

月曜日朝の秘書課にて、私の怒号が響き渡る。

「おはようございます、じゃないよっ」
「…何か、怒らせるような事しましたか、私」

何をとぼけているのやら。
私は冴子ちゃんの腕を掴んで引きずるようにロッカールームへ連行した。
出勤直後でありついさっきまで着替えをしていた場所だけど。
使うのは、更衣室奥の簡易医務室スペースにする。

「おりゃ」と冴子ちゃんをベッドに転がすように座らせると、冴子ちゃんは斜めに倒れ込んだような恰好で私を見上げてきた。

…何故だか知らないけど今日は髪を下ろしてるし、身体の横に両手をついてるから胸もちょっと寄って大きさが強調されてるし、濡れた瞳でこわごわと私を見上げてくるあたりは微妙にそそるので困る。

「覚えがないとは言わせませんよ…あ!」
「今度は何ですか」

なんと、ベッドについた冴子ちゃんの右手薬指には、なんとも高級そうな指輪がはめられているではないか。
苦情を言う前にまずそちらから確認しなければならない。

「何これ」
「あ、あのこれは…」

今更もじもじしてどうする、冴子ちゃん。

「…買ってもらったの?ちょっと見せてよ」

冴子ちゃんは「はい」と指輪を外して私に見せてくれた。
その指輪は、まるでタイルか石畳のように、いやもっと隙間なく、四角いピンクダイヤが敷き詰められてセットされていて、上から見えるほぼ半周をぐるりと囲んでいる。
表面は綺麗な曲線になっていて、まるで石をくりぬいて作ったかのように見えるけれど、実際には小さな四角い石が細かくびっしりと敷き詰められているから、反射面も細かくてどの角度からでもたくさんキラキラ輝いて見えた。

よく見ると内側にはきちんと冴子ちゃんの名前が刻印されている。
つまりこれは単なる既製品ではなく、いや既製品だとしてもサイズや刻印などはオーダーして誂えたものなのだとわかった。

「もー、何これ、やらしい」
「そんな言い方しないでくださいよ」
「あ!」
「また、何ですか」
「ちょっと待ってて」

私は冴子ちゃんを簡易医務室に残したまま秘書課を飛び出した。
かろうじて始業時間前だから全速力で走れば遅刻にはなるまい。
躊躇なく企画部に突入し、八割方の社員が出勤したぐらいの執務スペースに突っ込んでいく。

「おはようございまーす」

大き目の挨拶で急いでいるのをごまかしつつ、目的の人物--つまり松浦部長のデスクへ突進した。

「おはようございますっ」

楚々とした様子で、松浦部長は既にパソコンを立ち上げて仕事を始めている。

「おはよう、小田さん…どうかした?」
「あ、いやその」

会話はもはや必要ない。なぜならもう松浦部長がマウスに乗せている右手を目視で確認できたからである。

「どうも、失礼しました」
「え?…何?」

文字通り嵐の如く企画部から立ち去り、もといた秘書課の更衣室奥へと戻った。

「どこ行ってたんですか」
「……」

冴子ちゃんはベッドに腰掛けたままで足をぶらぶらさせて手持無沙汰といった風情だ。
外と違ってビルの中を駆け回るのは案外気を使うので、私はさして走っていない割に息が乱れてしまっている。

「…やっぱり、やらしいよ」
「は?」

私は見た。お揃いの指輪かどうか、直接確かめたのだけど…デザインこそお揃いだが松浦部長の指輪にはまっていたのはピンクじゃなくてブルーダイヤだったのだ。

もう、何なのそのセンス。羨まし過ぎる。

「あーもう、これだからアッパー層とかその辺の人とかは」
「…どうしちゃったんですか、梢さん?しかも当初違う件で呼び出しましたよね」

いけない。急がないと始業時間になってしまう。

「冴子ちゃんに文句があるんだよー」
「え?…あの、晴香ちゃんをご紹介した件ですか」
「そうそう、それ」

私は指輪を冴子ちゃんに押し付けるように返却し、冴子ちゃんの隣に腰掛ける。

「確信犯にしても、あれからどうなったか、想像を絶する事態になったんだよぉ」
「え…」

冴子ちゃんの顔面が引きつる。
余計な事をしてしまったかともろに表情が暗くもなった。

「やっぱり、余計なお世話でしたよね…すみません」

冴子ちゃんはぺこりと頭を下げた。

「ううん、そういう方向性じゃないんだよ、逆、逆」
「…?」

手早く説明しなければと思うが、言葉にするのは憚られる。
しかしこちらからあれだけ激しい剣幕で冴子ちゃんを連行しているし、言わないわけにはいかない。

「困ってるのは、その…良い子過ぎてもう、始終身体が疼いちゃう件をどうしてくれようという話で」
「……?!」
「いや、いっぱいしたんだよ?朝から晩まで…でも止まらないって言うか、もう、離れている間も始終身体がうずうずしちゃうの…」

我ながらなんといやらしい告白をしているのだろうかと思うけど、しょうがない。
冴子ちゃんは、一瞬ほっとしたような顔を見せたけど、その後すぐにその頬を赤く染めて黙り込んでいる。

「あれでしょ?冴子ちゃん自分に矛先が向かないように、うまいこと身体を満たしてくれるんじゃないか的な感じで、私たちを引き合わせたんだよね?」
「…そういう側面もあるにはありましたけど」
「他は?」
「いや…相性が良いのではないかと、ただそう思って」
「……」

冴子ちゃんの読みは合ってると言えば合ってるけど。
と言うか私たち二人両方の身体を知ってるんだから、ある意味根拠のある理屈なのは間違いないけど。

…よくもまあとんでもないモンスターをよこしてきたものだと、半分呆れながらも、同時にもう一つ、冴子ちゃんに言おうと思っていた言葉を口にした。

「でも、ありがとう」
「……いえ」
「あ、もしかして私と晴香たんのエッチ想像してオナニーとかしちゃったりしてる?冴子ちゃん♪」

冴子ちゃんがぎくりとして固まる。どうやら図星らしい。

「ほんと、その指輪と言い…やらしいんだから」
「やめて下さいよ、それ連呼するの」

冴子ちゃんは誰かに立ち聞きされるのを恐れているのか、私の「やらしい」という発言に過剰反応している。

「やらしい娘にやらしいと言って何がいけないのよ、罰としてそのうち私と晴香たんがいかに濃厚なお付き合いをしているか、直接見せてあげようか」
「え…本当ですか?」

これだから冴子ちゃんは弄り甲斐があると言うものだ。
エッチなお誘いに対してちゃんとがっついてくるんだもの。実にわかりやすい。

「でも、その時は直接だからね?自分たちも見せるって事を覚悟しておいてよね」
「……」

またしても冴子ちゃんがぎくりとして固まった。

「んじゃお幸せに~」

それだけ言い残して私は先に更衣室を出た。

*-*-*-*-*-

「いや……あぁん…っきゃぁ」
「何が嫌なの?」

仕事が引けた夕方、私は晴香たんの部屋で着替えをする時間さえも惜しんで、彼女の前でショーツだけを脱ぎ捨てると、ベッドの上で両脚を大きく開きその場所を晒す。

今は、彼女の手に握られているローターが絶え間なく私の萌芽に振動を与え続けていて、放してもらえないのだ。

「あぁっ…そんなとこばっかりしちゃ、ダメ…っ」
「嘘、ここはすごいビショビショだよ?」

萌芽の先端に当てられたローターは全く動かしていないのだけど、彼女はタイミング良く振動の強さを変え手くるので、私はそれだけでも翻弄されっぱなしになっている。

「ほら」

急にローターの振動が強くなり、私は涙をこらえて懇願する。

「あぁぁっ…気持ちいいっ…もっとぉ」
「…やっぱり、欲しいんだ?梢ちゃんは」
「ほ、欲しい…いっぱい、おまんこ弄ってぇ」
「…よくできました」

ローターの向きが変わり、クリトリスの裏側から突き上げるようにあてがわれたかと思うと、一旦弱まったかと思われた振動が一気に強烈なものへと変わる。

「あひっ、い…いっちゃうっ…!」
「いいよ、イって…」
「イくの、イくの、あぁぁ…あん…ひゃぁっ…!」

四肢が痙攣してその後だらりと弛緩する。
ぼーっとしていると、知らないうちに手首が拘束され、目隠しをされた。
それからまた彼女はローターを使った緩やかな愛撫を延々と施してくる。

…あれ以来、ほとんど毎日のように私は仕事終わりに晴香たんの部屋を訪れては、いやらしい戯れに興じてばかりになっている。
晴香たんは忙しい日もあるはずなのに、今の所は時間を作ってくれているようだった。

…もしどうしてもダメな日があるなら無理しないでね、なんて形式的に言ってはいるけれど、そんなの全然本心じゃない。
仕事は一応ちゃんとやってるけど、できる事なら何日もこの戯れに興じていたくて、早く金曜日の夜にならないか、とそればかり考えるようになってしまったのだ。

そうでなければ私の身体は彼女を求め続けてしまって、昼も夜も疼きが止まらない。
冴子ちゃんに言いたかったのは、そういう苦情である。

今はこうして晴香たんの悪戯に悦んでいるけれど、今日もきっと、あの秘部同士のぴったりとしたディープキスは最後のお楽しみにとってあるに違いない。
そんなの、いちいち言葉で確認はしていないがそうに決まっているのだ。

「晴香たん、私…話したよ」
「…何を?」

手首を拘束され目隠しされた状態でも、絶頂の合間に私は話を切り出した。

「冴子ちゃんに、私たちがエッチしているとこ、見せてあげてもいいよ…って」
「……ほんとに?」
「うん」

目隠しで晴香たんの表情はわからないけど、きっと冴子ちゃんがどんな反応をしたのか気にはなっているはずと思い、私は話し続ける。

「私と晴香たんがどれだけ濃厚なお付き合いをしているのか、見せつけたくて…でも冴子ちゃんには『直接でしか見せないからね』って釘を刺したんだ、そしたらすっごく興奮してるみたいに固まってたよ」
「……そっか」

急に唇に温かい感触が伝わってくる。
あ…これキスされてるんだよね?

それを裏付けるように、彼女の指が私の顎や耳の辺りをくすぐってきて、私は首をすくめた。

「もう、冴子さんの話はそれくらいにして…」
「うん」
「いーーっぱい、ペロペロしてあげる」
「うんっ、ひ…あ…あくぅっ」

あの日以降この言い回しが私たちの間で共通語みたいになっている。
基本的にはこうして攻められている時に言われるけど。

冴子ちゃんの事はもう言わなかったけど、私はあの指輪を見てから、まあまあの頻度であの二人がセックスしてる所を想像するようになっている。
…そう言えば、晴香たんはそれを直接見たんだよね?
どんな感じだったんだろう。すごく気になってしまう。

私が考え事にふけっているのを咎めるように、秘部に施される口淫は激しくなり、唐突に繰り出されるローターの刺激も手伝って、そのうち私は思考ができなくなった。
…だって、全然予想もしない所で急にローターが振動し始めたりするから、くすぐったかったりびっくりしたりして、身体が忙しいんだもの。

ローターでの焦らしと、晴香たんのスペシャルな口淫によって私は何度か絶頂し、そうした所で甘えるように彼女を求めた。

「ねえ、もう…しよう?」
「うん、私もすっごく濡れちゃってる…」
「ほんと?」

目隠しと拘束が取り払われて、やっぱり私に口淫していたのは間違いなく晴香たんなんだとわかるようなぐらいに、彼女は唇とその周りを淫蜜で汚していた。
私は彼女の唇に吸い付いて、その周りも含めて彼女の顔を汚している自分の淫蜜を舐めて綺麗にする。

「私の…舐めてるだけで濡らしちゃったの?」
「…うん」

恥ずかしそうに頬を染める晴香たんが可愛いので、私は思い切り脚を広げながら「じゃ、こっちもチュウしよう」と彼女を招き入れた。

「あ…あ…また、凄い、気持ちいいっ…」

回数を重ねれば重ねるほど、私たちの秘部はスムーズに、上手に、そして卑猥にディープキスを交わす事ができるようになっていく。
それは外から見ているだけでは全然わからないと思うんだけど、私たちの間だけでは、すごくよくわかる事なのだ。

「うん、すごく上手…あ、あ、あ…」
「やだ、腰が勝手に…動いちゃう」

やっぱり不思議なんだけど、例えばお互いに向き合っていなくても、仰向け同士でも、どんな態勢からでも脚と脚を絡めて秘部がくっつきさえすれば、そこは自動的に秘唇を開き合って、きっちりと互いの包皮も潜り抜けて見事に最高の快感をもたらすように噛み合わせる事ができている。

…こんなの、他の娘とでは経験した事がない。と言うか現実離れしている話だ。
貝合わせというのは割と難しい、それが常識とも言える事であって、こうも簡単に、しかも片方は未経験だったと言うのにジャストフィットどころかどこでも気持ち良くなれてしまうのなんて、聞いた事がない。

…そうなんだよ晴香たん。
私たち、聞いた事もないぐらいに貝合わせの相性が良いみたい。

「あ、あ、…いっちゃうっ…」
「まだ…勿体ないよ…」

私は急に腰を引いて彼女の快感を一旦逃がすようにする。
すると彼女は切なそうな顔をして、私の腕にすがりついてきた。

…だから、攻めっ気満載のモードからいきなりこういう変化球は、ギャップにやられちゃうから困るんだってば。

「ね、梢ちゃん…」
「……」

くっそ、悔しいけどもう無理だ。
私はもうどうにでもなれと思いながら、重力に身体を預けて彼女への下半身ディープキスを再開する。
…これ、しちゃったらすぐにイっちゃうのに。

「あぁっ、あ、いいよ…気持ちいい、おまんこ気持ちいいぃ」
「…イっちゃいそう?私…もうダメだよ…はぁぁ、ん」

二人で何か別々の事を叫びながら、大きな絶頂を迎えた。

「…晴香たん明日も学校でしょ?…私も仕事だし、帰らないと」
「え、もう?帰っちゃうの…」

いや、身体はそうは言ってないんだよ、全然。
でも言葉だけでもそう言っておかなければ、私たちは本当に堕ちてしまう。
堕ちて何が悪い、とも思わなくはないが、最低限の社会生活をないがしろにするのはきっと良くない。

「うん…帰る」
「梢ちゃんっ」

必死に、そして逃げる小動物でも捕まえるように、彼女は私にしがみついて執拗に唇を重ねてくる。
その気持ち良さと嬉しさにぐらっと来てしまうんだけど、ここはやはり社会人のお姉さんとして、ちゃんとしなければ。

…冴子ちゃんへのあの苦情の申し立てが社会人としてちゃんとしていたかは置いといて、今は晴香たんだ。

「ん、好き…んむ…」

いけない。思わず「好き」などと口走ったら煽ってしまうではないか。
案の定、晴香たんはますます私に身体を押し付けてきて、顔をゆらゆらと左右に傾けながら私の唇を塞いできた。

…もう、知らない。
私は晴香たんの小さな頭をぐっと両手で掴み、綺麗な短い銀髪に指を絡めながら深いキスにふけった。

*-*-*-*-*-

「ダブルデート…?」

それはある平日ランチにて、冴子ちゃんが私からの苦情に対するお詫びとして、某パスタ屋のランチデザートをご馳走するからと言われて向かったお店での事。

私は吟味を重ねて、クレームブリュレをボツにしティラミスを選んでいる。

「ほら、梢さん有給とか全然使ってないでしょ?」
「そう言われればそうだけど」

学生時代から皆勤賞は必ずと言っていいほどいただいて来た。
ただ休まないで毎日学校へ行っただけで、何だかお高い辞書とか図書カードとかがもらえてしまうので、私にはこれの何が偉大な事なのかちっともわからないんだけど。

「だから、せっかくそれだけ貯まっている有給もまとめて使って、みんなで旅行に行くってのはどうかと思って」
「おぉっ、それは良いアイデア」

家とはまた違う環境で、開放的に晴香たんとイチャイチャしたい。
…それだけでもう、別に冴子ちゃんたちのエッチが見たいとかそういう欲望は鳴りを潜めてしまうほどだった。

「あ、でも…お休み合わせられるのかな?みんな忙しいのに」
「長期計画で前もって決めておけば、きっと大丈夫ですよ。社のイベントが重なりそうな時だけ外すようにすれば、そんなに問題ないでしょうし」
「そうだね」

にわかに心が浮き立つような、楽しみな気持ちになる。
…でも。

「ちょ、でも行き先とかホテルのグレードとかはちゃんと、考慮してよ?冴子ちゃんたち二人だけで行くのと同じ感じにはしないでね」
「わかってます」

これを言っておかなければ。ボーナスが丸ごとふっ飛ばされてしまいかねない。
別にボーナスで何か買い物するとか、カードローン返さないととかそういう事情はないけど、旅行一つでどかんとお金を使う事に、私は慣れていなかった。

…あれ、でも晴香たんってデザイナーとかモデルで収入があるんだよね?
もしかして、私より稼いでるのだろうか。

「…ちょっと、冴子ちゃんは晴香たんの収入とか知ってる?…私全然そんな話した事ないんだけど」
「さあ、どうでしょうね?」
「うぅ、もし年収レベルで一けた違うとかだったらけっこうショック」
「…ないない、とも言いづらいんですよねそれ」
「うーん、まあそのうち聞いてみようかな」
「払わせるつもりなんですか」
「そうじゃないけど、あんましショボい旅行で晴香たんががっかりしても可愛そうだし、普段どういう感じで家族旅行してるのかとかは、聞いておいた方が良いからさ」
「そうですね」

…しかし。
やっぱり冴子ちゃんと話していると、右手の指輪が気になって仕方ない。

「ついでに聞くけど、その指輪っていくらしたの?」
「これですか…」

冴子ちゃんは苦笑いしかしない。

「何、言うと引くような額とか?」
「それも…どうなんですかね」

ごまかし方が怪しい。と言うかごまかされるほど勘ぐってしまうので、さっさと教えてもらいたい。

「ペアで買ったから…値引きしてもらって一つ150ぐらいでした」
「……えぇぇっ!」
「ちょっと梢さん、静かに」
「う、うん」

慌てて口元を手で押さえてはみるものの、出た声が取り消される訳ではない。
…それって、もろ婚約指輪並みじゃないの?
しかしあれは、びっちりダイヤだし、それぐらいして当然か。

「あ、石の種類が違うから厳密にはどっちかが高いはずなんですけど」
「もう、いいから…ディテールはさ」
「はい…」
「大事に、するんだよ?それ」

言い方がお母さんみたいになってしまった。
地味に涙もこみ上げてくる。
…いや、松浦部長ったらなんと情熱的なのだろうか。
こんな物買ってしまったら、例え冴子ちゃんが松浦部長に愛想を尽かしても、別れてくれとは言えなくなるではないか。

…ん?そういう事と関係あるのこれ?
冴子ちゃんにとっては絶対、重過ぎるプレゼントだって事は松浦部長だってわかってるはずだよね。

「額が大きいから、全部とは言えないまでも少し自分でも払いましたけど」
「…どんぐらい?」
「なけなしの貯金をはたいて50ぐらいです」
「うーん、よく受け取ったね、それ」
「めちゃくちゃもめましたよ…大体、これが候補の中で一番リーズナブルで、これ以外になるともう無理って感じなので」
「なるほど」
「でも妥協できるのはここまでだと強情に言われまして」
「……」

これ、総合的にのろけだよね。
松浦部長的には別に、金の出所なんてどうでも良いんだろうけど、冴子ちゃんが過剰にプレッシャーを感じなくて済むように、好きな分払わせたんだろうな。

考えてみれば私と晴香たんもだいぶ年が離れている。10歳ぐらい?
しかも学生と社会人、ただ晴香たんはクリエイターとして稼いでいる方の学生だ。

「……」
「ティラミス、来ましたよ」
「あ、そうね」

私は小さな容器にこじんまりと鎮座するティラミスにスプーンを突き刺しつつ考えた。
…もし、冴子ちゃんたちみたいにお揃いの指輪なんか買おうって話になったら、割り勘になるのかしら。

その前に現在絶賛計画予定の旅行だよ。
…やっぱり、私が払う感じにしないとおかしいよね?

「…うーむ」
「食べないんですか」
「食べますよ」

私は味わいもせず小さなティラミスを口に運んだ。
どれだけエッチの相性が良くたって、真面目にお付き合いするとなれば、お財布事情はきちんと考えていかなければならない。

…ふいにモデル兼デザイナーの晴香たんを、主婦として支える自分の姿がイメージされてしまい、恥ずかしくなった。

主婦の私は悠々自適にジムでのワークアウトやランニングなんかを昼間からやっちゃったりして、あとはちょっと苦手だけど晴香たんの健康と美容を考えたご飯や、お風呂を用意しちゃったりなんかして。

…晴香たんがデザインにいそしんでいる時には邪魔をせず、モデルとしてスタジオへお出かけする時には車で送り迎えしたりして。
それで、毎日一緒にお風呂に入って晴香たんを綺麗に洗ってあげたい。
勿論その後は、たっぷりイチャイチャしまくりだ。

「あの…梢さん大丈夫ですか?」
「…何が?」

顔がにやにやしてたかな?それとも興奮して変な声でも出ていただろうか。

「顔がめっちゃ赤いですよ」
「…大丈夫、大丈夫」
「ホントかな…心配です」
「誰のおかげでこうなってると…?」
「す、すみません」

嬉し過ぎる妄想に浸っていたのをごまかすために、私はむっとしつつもデザート代は冴子ちゃんにお支払いいただき、昼休みの時間も迫っていたので私たちはパスタ店を後にした。
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