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パンツ問答
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「だから辞めておきましょうよ」
「…なんで?」
美咲さんは「あの時冴子は朝から履いていたのだから自分もそうする」などとワケのわからない事を言い出した。
対等な恋人として初めて交わった最中の事。
先日私が美咲さんを驚かせようと思って履いた、過激なデザインのパールビーズ付きショーツを美咲さんにも履いてみて欲しいと私は確かに言ったけど。
そして美咲さんの「うん、いいよ」という返答に興奮し過ぎて倒れそうになったけど。
だからと言って何も私とシチュエーションまで合わせる事はないのだ。
秘書だからそんな事しても良いなどという決まりは一切ないけれど、役職者である美咲さんがそんな事をするのはいくら何でもまずいだろう。
いや…ちょっと待って。
私と違って美咲さんはあのパールビーズをもってしてもそこまで感じ過ぎて具合が悪くなるなんて事もなく、さっそうと仕事をこなすかもしれない。
そういう姿も想像できそうな気はしないでもなく、それはそれで何かそそるような感じ、なんて事が頭をよぎった。
「……」
「今変な事考えたよね?冴子」
「いえ、その」
だいたい会話の内容そのものが十分変なのだから、その中で更に変な想像を咎められてもという気分になる。
美咲さんの手にはその現物のビーズ付きショーツがあるし、私たちは着替えの真っ最中だ。
これから二人で出勤するのである。もめている時間はあまり残されていない。
「とにかく、だめです」
「なんで」
「…普通に考えて、良いわけないじゃないですか」
「だって履いて欲しいって言ったのは冴子だよ?」
「そうだけど」
あの時以来、美咲さんに対するプライベートな言葉遣いは丁寧語とタメ口が混在する、変な感じになっていた。
頑なな美咲さんに、どこまでなら譲歩させられるだろうかと思案する。
…とにかく、会社でこんな過激なショーツを履いたままにさせる時間は極力短くしなければと思う。
「じゃ…こうしましょう、帰る間際にでもどこかで落ち合って、そこで私の前でこれに履き替える所を見せてもらうって事で、どうですか?」
「…わかった」
良かった。
だがなぜそこまでしぶしぶ顔なのだ、美咲さん。
…もしかして、これをあえて長時間履いてみたいのだろうか。
それ自体は歓迎なんだけど、平日ではなく休日でお願いしたい。
…私に比べれば全然顔には出ない方だろうけど、それでも誰かに見咎められるような事があっては困る。
何しろ交わりの最中に、もはや可憐とも言うべきリアクションで私に甘えて来た所は衝撃が大きすぎて時々フラッシュバックするほどなのだ。
「冴子の方がよっぽどおかしくなってるのに」
「なってませんよ」
「…だって、あーして私が意図的に見せるまで、全然想像すらしなかったでしょ?」
「……うん」
美咲さんは正にその時の事を言っているのだろう。
誰彼構わずあんな態度を示す事など絶対にないと言いたいのだ。現に私に対しても、先日までは一貫してそれを通していた訳で。
「…でも、心配なんです」
「そういう事ならわかった、それで良いよ」
「すみません、でもお休みの日にちゃんと…」
「うんうん」
美咲さんに笑顔が戻りほっとする。
…私は、これまでこんなにも美咲さんの気持ちの動きに敏感だっただろうか。以前はそんなでもなかった気がする。
今は、美咲さんが少しでも暗い表情をしていないか気になって仕方ないし、笑顔になると嬉しい。
一日のうちで顔を合わせている間中そんなだから、何だか疲れてしまう。
「これは私が持ってますから」
「…大丈夫なの?秘書課の誰かに見つかったら絶対弄られるか履けとか言われるんじゃないの」
その可能性は大いにある。
腰の周りを一周するベールのような生地と、中央にゴム紐一本を通したパールビーズの粒。
それは黒い大粒ビーズ2粒を挟むように、前後に純白の小粒ビーズが3つずつ連なっているものだ。
私は不用意にもこれを朝からこっそり履いて出勤し、危うく倒れかけて真帆さんに介抱された過去がある。
「これ、ここに入れておけば大丈夫でしょう」
私はアクセサリー用のハードケースを取り出して、その中にショーツをしまった。
これなら仮にバッグから飛び出したりしても、中身まで出てくる事はないはずだ。
「あの時衝動買いしちゃったけど、こんな形で役に立つとは思いませんでした」
今回のショーツの件とはまた別に約束していた、お揃いのアクセサリーを買いに行った時に、ついでにこのハードケースを買った。
旅行の時などに役立つだろうと思っての事だったけど、案外早く日の目を見る事になったな、と思う。
まさか、入れる物がパールはパールでも、こんな物になるとは思わなかったが。
*-*-*-*-*-
アクセサリーの方は、何にするか大いにもめた。
店先で話がつかず、一旦近隣のカフェに移動して相当な時間話し合ったほどだ。
私はあまり重くならない物が良いと思ってイヤリングを希望したのに対して、美咲さんは指輪以外考えられないと言って譲らない。
私が「それはちょっとハードルが高いのでは」と遠慮するとますます頑として指輪案を譲らなかった。
恥ずかしい、おこがましいと思う私の気持ちはあまり伝わらず、美咲さんにはヘタレ呼ばわりまでされる有様である。
一応言葉では対等という事になってはいるものの、スイッチが切り代わるようにいきなりなんて、気持ちの方は追いつかない。
そうでなくても、日々自分なりにどうにかして美咲さんと並んでもおかしくない程度にまで成長しなければとは思っていたのに、一足飛びにこんな事になって私も戸惑っていた。
「何回言わせるの?私は冴子じゃなきゃダメなの」
「それは非常にありがたいんですが」
「…だったら」
「ちょ、あのだからと言っていきなりというのは」
「物を買うのにじんわりなんて事ある訳ないでしょ、全部いきなりよ」
「そういう意味ではなくて」
「ダメ、絶対指輪以外認めない」
「…」
美咲さんって、こんな頑固な人だったっけ?
…嬉しい提案には変わりないし、別に私としては美咲さんがそこまで言うならそれで良い、とは思っていたのだけど。
もしかすると仕事の時はこんな感じなのかも、などと全く関係のない事をオープンカフェのテラス席で考える私に、美咲さんは軽く苛立っているようだった。
「冴子、本気で嫌がってる?」
「…全然、むしろ喜んでる」
「じゃなんでそんな顔してるのよ」
今度はちょっと泣きそうな顔で私を見てくる。
…私が他の娘の事でも考えていたのではないかと嫉妬してるのだろうか。それともその推測は己惚れだろうか。
「指輪にしましょう」
「…うん」
変なタイミングで私が折れたので、美咲さんは拍子抜けしたようだった。
いや、私はいつでも折れるつもりだったのだけど。
怒ったような、拗ねているような美咲さんの手を握って指を絡ませ店まで歩いた。
もう一度店先で開き直り「どの指にするんですか?」と左手を差し出したら今度は美咲さんが焦って「右手にしてよ」と言う。
からかい甲斐がある人だと思った。
まだ実物はできていないけれど、試しに着けた時には美咲さんの視線が自分の指ではなく私の指ばかり見ていたのが忘れられない。
*-*-*-*-*-
指輪問答の次はパンツ問答になっているなあ、とまた他人事のように考えている。
「今日はお忙しいんですか」
「そんなでもない、ちょっと打合せがある程度で」
なるほど。それで今日ならいけると思ったのだろうか。
…私の方はどうだったろうか。頭の中に進藤部長、袴田部長それぞれのスケジュールを可能な限り思い出してみる。
多分、こちらもそれほど大きな予定もなく、いくつも予定が詰まっている事もなかったはずだ。
…そうだ。
「お姉さまそう言えば今日じゃないですかっ」
「何が?」
袴田部長には「ランチミーティング」と称して美咲さんとのランチの予定が入っていたはずだ。忘れていた自分が実に腹立たしい。
「ランチミーティング」
「…何だっけそれ」
「袴田部長のですよ」
「あー……」
何故、遠い目をしているのだ。
袴田部長、いやあえて今は袴田氏というかつての私の中での呼称に戻させてもらうけど、袴田氏の方は気合い満点で昨日からそわそわしていた。
気合いが入り過ぎて軽く私を挑発までしてきていたし。
そういう意気込み自体は評価できるけど、私の方は対抗意識のかけらも芽生えはしない。
「その余裕っぷりがかえって俺の戦意を向上させるんだよね」などとまで言われたが、私は「お仕事ですよね?これ」とだけ返しておいた。
「妬かないの?変わったね」
「そうですね、彼女が変わりましたから」
「……」
袴田氏にはメチャクチャ恨みがましく睨まれたけど、私は優越感を隠さずにはいられなかった。
「あーめっちゃ悔しい、その態度を後悔させてやるとか言いたいけど自信ないわ」
「まあ、頑張ってください、本日はこれにて失礼いたします」
だめ押しの言葉を浴びせて私は昨日の業務を終えたのだ。
「これにて失礼」にも、たっぷりと優越感をにじませて。
これから彼女と暮らす部屋に帰って、たっぷりイチャイチャさせてもらうぞという念を込めての発言である。
まあ袴田氏との抗争は日常の挨拶替わりのようなもので特に意味はないけれど、美咲さん本人が予定自体忘れていたとは。
「ったくめんどくさいなあ」
「お仕事…じゃないんですか」
確かにあの袴田氏の張り切りぶりと言い、話の内容より違う所に力が入っている感はあった。
美咲さんはブラウスに袖を通しつつ「ほとんど違うわよ」と言う。
…こうやって、徐々に仕事モードの服装に変わっていく所は、映画に出てくるスーパーヒーローのように私には見えてしまうので、本当はずっと眺めていたいのだが、そうもしていられない。
「…そうなんだ」
私の方は出勤後に制服に着替えるので、私服はごくカジュアルで脱ぎ着しやすいものを選んでいる。
今日は、柄物のカットソーとくるぶしが出るくらいの丈のパンツにノーカラージャケットを合わせている。
洋服選びにおいては美咲さんと並んで歩いた時にあまりチグハグにならないよう、気を付けるようになった。
「打合せするほどじゃないんだけどって言われて、じゃあ適当な所でスケジュール入れておいてって言ったらあーなってた」
「…夜じゃないだけあの方としては我慢してると思いますけど」
「それだと断られると思ったんでしょ」
「そうですね…」
二人で部屋を出て駅までの道を歩く。
でも、その前にここ最近は玄関を出る直前でけっこう激しいキスを交わしてから出かけるようになっていた。
美咲さんが先に出勤する場合には「いってらっしゃい」のキスだとわかりやすいのだが、二人で同時に出る場合「いってらっしゃい」を言う人はいない。
だから、お互いに「いってらっしゃい」の意味を込めて、外に出る直前ギリギリの時間で、名残惜しむようにキスをしてから、一緒に部屋を出るという事にした。
正直な所を言えば、せっかく綺麗に施したメイクや髪型が崩れる可能性が高いので、そんなタイミングでべったりキスするのは効率で言えば良くはない。
でも…そうしない訳にはいかなくて、とにかく身体を密着させて、唇は極力触れ合うだけにして擦るような事はせず、主に舌先を絡めるようなキスを交わすようになった。
どちらからともなくそういう感じで、玄関先のキスは行うものという習慣がついている。
だけどこれが実際にやってみると、鼻からも口からも簡単に息ができてしまうから、悶えるような呼吸が塞がれる事なくきっちりとお互いの耳に届いてしまう。
それが何だかかえっていやらしい雰囲気を増長させるので、これはこれで悪くはなかった。
つい先ほども、今日夕方には美咲さんのセクシーショーツ姿を拝めるのかと思いながらキスしてしまったので、ついつい興奮してしまって唾液はやたらと出てしまうし、くんくんと鼻は鳴ってしまうしで美咲さんにたしなめられたくらいなのだ。
「んもうっ」と言われながら、危うくこぼしそうになった唾液を美咲さんが受け止めてくれたから事なきを得たのだけれど。
「…秘書課もだけど、袴田君にもそれ見つからないように注意してね」
「ロッカーにしまっておくので大丈夫ですよ」
…どうも、ここまで念押しされると、むしろ振りなのではないかと思えて嫌な汗が出てしまう。
私と美咲さんは同じ電車に乗り、二人で並んで歩いて社のエントランスまで入っていった。
以前は到底考えられない事だったけど、今は普通に二人で出勤するようになっている。
これも、「ちゃんとした」恋人宣言を互いに交わして以降の事だ。
私と美咲さんが並んで歩いていると、かつての私の後輩である所の受付女子たちは若干頬を赤らめて、初めての時に至っては「キャッ」などと声まで出してガン見されたものだが、今は多少それも落ち着き始めている…と思う。
よほど目立つのだろうか、受付女子に限らずエントランスにいる人や私たちを追い越して歩く人たちなんかは決まって私たち二人を見てくるのだけど。
真帆さんからは「目立つなんてもんじゃないわよ」と言われてしまったのだが、それならやっぱり二人で出勤するのは控えた方が良いのだろうかと聞いてみると、「そんな事は必要ないわ」と返された。
「目立つっていうのもある意味正しいかもしれないけど、それよりもみんな見とれてるのよ」「お互い、自慢の彼女なんでしょ?だったらこそこそする事ないわ、見せつけてやればいいのよ」とまで言われてしまった。
そう言われても、見せつけるなどというのは私の本意ではない。
…でも、努力してもそう見えてしまうんなら開き直っても良いのかもしれない。
今日もまたそのエントランスが近づいてくる。
「お姉さま、ちょっと試したい事があるんです」
「…何?」
美咲さんは首をかしげて問い返してくる。
「受付女子に、挨拶替わりに手を振ってもらえませんか、私と一緒に」
「…いいけど、冴子は平気なの?目立ちたくないみたいな事いつも言ってるのに」
「まあ…そうなんですが気が向いたので」
「あら、そう」
それは後輩をからかうぐらいの、ほんの出来心のつもりだった。
…だけど、実際にやってみたらとんでもない事になってしまった。
私はつい半年ほど前には受付に立っていた。だからどういうタイミングで朝の挨拶をするのか、やる側の事は理解している。
今だと思って、受付女子の視線がこちらに向いた瞬間を狙い、美咲さんと二人で手を振ってみる。
「おは……きゃーっ」
「え?」
受付担当は二人ペアで表に立つのだが、二人が二人とも私たちを指差して興奮しきりなのだ。
「…ほら」
小さく言う美咲さんの声が聞こえる。
やり過ぎだったのだろうか。怖くなって美咲さんを見上げるけれども「知らない」と冷たく突き放されてしまった。
二人の後輩は互いに手を取り合いながら「ちょっと今の写真撮っとけば良かった」とか、「先輩明日もやってくれないかしら」とかごちゃごちゃ騒いでいる。
私は美咲さんを先に行かせて二人に近づいた。
「ちょっと、真面目に仕事してよ…」
「真面目にやってたのにそれを先輩が邪魔してるんじゃないですか、あんな事しちゃって罪ですよ、罪!懺悔してください!」
「はぁ?…もうっ何言ってるの」
「ねー、ホント困るよね、綺麗だからって気軽にあんな事してただで済むわけないじゃないですか」
「え?」
二人それぞれから猛烈に抗議される。
「そう、悪いのは先輩ですからね」
「何でそうなるの」
「でも、もう一回やって欲しいなあ…明日もしてもらえます?」
「は、え?何」
「ダメよ、明日私たち当番じゃないでしょ?えーと」
二人のうちの片方が朝の当番表を確認し始める。
「そんなの代わってもらえばいいだけの事じゃない」
「あ、そうか…じゃ明日もお願いします♪」
「だから、なんでそうなるの…」
「お疲れ様でした~」
それは、受付女子が夕方の退勤時間に従業員を送り出す時の挨拶の型である。
ここだけ綺麗にハモらせてるし。…つまりここから立ち去れという合図だった。
「明日もやるかどうかは私のさじ加減なのに」
「宜しくお願いしま~す」
これまた綺麗にハモらせて元気にご挨拶されてしまった。
今のは、外のイベントヘルプ等の仕事で景気づけに行う、ちょっと媚びたパターンの挨拶だ。
…挨拶練習を真面目にしているのは良い事だけど。
「ほんと今日はいい物見せて頂きました♪」
「…当分は思い出しただけで胸がいっぱいです」
背中を向けている相手に投げる言葉なのか、それが。
私はエレベーターホールへと急いだが、美咲さんの姿はもうなかった。
*-*-*-*-*-
「冴子ちゃ~ん♪」
「な、何ですか…なんか怖いんですけど」
着替えを済ませてデスクに就くと、梢さんに不気味な声をかけられた。
「私は知ってるのよ」
「…何をですか」
まさか今朝の出来事ではあるまい。
「その、まさかです」
いや私は「まさか」は言葉にしていない。
顔に書いてあったという事か。
「…だって私が入った時には受付の女の子ちゃん達、キャッキャ騒いでばかりだったんだもん、つい事情を聞いちゃいましたよ」
「あ…そういう事ですか、彼女達騒ぎ過ぎなんですよ」
「いやいや、殺伐とした会社の朝に一服の清涼剤を提供したんだから、怒らないで」
「それを享受してるのは受付女子のあの二人だけじゃないですか」
「…まあまあ」
梢さんはデスクチェアに座る私の両肩に手を置いて、肩を揉んでくる。
「…冴子ちゃん、ちょっと明るくなったよね、前のアンニュイな感じも影があって魅力的だったけど」
「ここで口説いてるんですか」
「違うよ~」
梢さんと私の軽口の押収はいつもの事だから周りは特に気にしていないけど、真帆さんだけはくすくす笑っていた。
「…大変ね、冴子ちゃんも」
「……」
私が困惑していると梢さんが構わず割り込んでくる。
「本当はさ、聞かせて欲しいんだよね…冴子ちゃんのプライベートを」
冗談じゃない、知りたいのは美咲さんのプライベートなんじゃないのと心の中で毒づいてしまう。
「言うわけないじゃないですか」
「ケチ」
「だからなんでそうなるんですか」
朝の受付女子と言い、梢さんと言い、喜んでるような感じなのに所々余計な要望を混ぜてくる。
そもそも答える義務はないものなのに、断ると不服そうにされるのは納得がいかない。
「…あ!」
「何、いきなりどうしたの、冴子ちゃんっ」
私にしてはいいタイミングで思いついた。
梢さんが不純な動機で私と美咲さんの事を知りたがっているのだ、多少不純な願望交じりの提案をしたって構わないだろう。
「梢さんに、紹介したいと思う人がいるんですが」
「…えぇっ?誰?」
「ちょっと今はまだ…詳しく言えません」
「何?気になるなぁ」
それはズバリ晴香ちゃんである。
動機は超不純だけど、お友達として親しくなる分には、双方にも損はないだろう。
…ただ、晴香ちゃんの方に切り出すには少し配慮が必要だと思ったから、梢さんにはあまり情報を出さないようにしておいた。
晴香ちゃんのどSっぷりと、梢さんのMっぷりは間違いなくそういう事になれば悪い相性ではないと思うが、それについて美咲さんに話した時には「確認しようがない」という指摘を受けている。
そうかもしれないが、二人が実際に友達にでもなれば、それだけで十分私の中の妄想は強化されるから、別に良かった。
…まあこれについては別途検討するとして、夕方になれば美咲さんに例のショーツを履いてもらう予定がある。
それまではやるべき仕事をしっかりやらなければいけない。
できれば早めに仕事を片付けて、空き時間を作りつつ「いつ」「どこで」それを決行するかを考えないと。
梢さんに「明るい」と思われたのも、もしかするとこの計画により気持ちが盛り上がっているから、それをなんとなく察知されたのかな、という気もしてきた。
だが特に変な意味で言われたわけでもなし、それはそれとして聞いておこう。
「…なんで?」
美咲さんは「あの時冴子は朝から履いていたのだから自分もそうする」などとワケのわからない事を言い出した。
対等な恋人として初めて交わった最中の事。
先日私が美咲さんを驚かせようと思って履いた、過激なデザインのパールビーズ付きショーツを美咲さんにも履いてみて欲しいと私は確かに言ったけど。
そして美咲さんの「うん、いいよ」という返答に興奮し過ぎて倒れそうになったけど。
だからと言って何も私とシチュエーションまで合わせる事はないのだ。
秘書だからそんな事しても良いなどという決まりは一切ないけれど、役職者である美咲さんがそんな事をするのはいくら何でもまずいだろう。
いや…ちょっと待って。
私と違って美咲さんはあのパールビーズをもってしてもそこまで感じ過ぎて具合が悪くなるなんて事もなく、さっそうと仕事をこなすかもしれない。
そういう姿も想像できそうな気はしないでもなく、それはそれで何かそそるような感じ、なんて事が頭をよぎった。
「……」
「今変な事考えたよね?冴子」
「いえ、その」
だいたい会話の内容そのものが十分変なのだから、その中で更に変な想像を咎められてもという気分になる。
美咲さんの手にはその現物のビーズ付きショーツがあるし、私たちは着替えの真っ最中だ。
これから二人で出勤するのである。もめている時間はあまり残されていない。
「とにかく、だめです」
「なんで」
「…普通に考えて、良いわけないじゃないですか」
「だって履いて欲しいって言ったのは冴子だよ?」
「そうだけど」
あの時以来、美咲さんに対するプライベートな言葉遣いは丁寧語とタメ口が混在する、変な感じになっていた。
頑なな美咲さんに、どこまでなら譲歩させられるだろうかと思案する。
…とにかく、会社でこんな過激なショーツを履いたままにさせる時間は極力短くしなければと思う。
「じゃ…こうしましょう、帰る間際にでもどこかで落ち合って、そこで私の前でこれに履き替える所を見せてもらうって事で、どうですか?」
「…わかった」
良かった。
だがなぜそこまでしぶしぶ顔なのだ、美咲さん。
…もしかして、これをあえて長時間履いてみたいのだろうか。
それ自体は歓迎なんだけど、平日ではなく休日でお願いしたい。
…私に比べれば全然顔には出ない方だろうけど、それでも誰かに見咎められるような事があっては困る。
何しろ交わりの最中に、もはや可憐とも言うべきリアクションで私に甘えて来た所は衝撃が大きすぎて時々フラッシュバックするほどなのだ。
「冴子の方がよっぽどおかしくなってるのに」
「なってませんよ」
「…だって、あーして私が意図的に見せるまで、全然想像すらしなかったでしょ?」
「……うん」
美咲さんは正にその時の事を言っているのだろう。
誰彼構わずあんな態度を示す事など絶対にないと言いたいのだ。現に私に対しても、先日までは一貫してそれを通していた訳で。
「…でも、心配なんです」
「そういう事ならわかった、それで良いよ」
「すみません、でもお休みの日にちゃんと…」
「うんうん」
美咲さんに笑顔が戻りほっとする。
…私は、これまでこんなにも美咲さんの気持ちの動きに敏感だっただろうか。以前はそんなでもなかった気がする。
今は、美咲さんが少しでも暗い表情をしていないか気になって仕方ないし、笑顔になると嬉しい。
一日のうちで顔を合わせている間中そんなだから、何だか疲れてしまう。
「これは私が持ってますから」
「…大丈夫なの?秘書課の誰かに見つかったら絶対弄られるか履けとか言われるんじゃないの」
その可能性は大いにある。
腰の周りを一周するベールのような生地と、中央にゴム紐一本を通したパールビーズの粒。
それは黒い大粒ビーズ2粒を挟むように、前後に純白の小粒ビーズが3つずつ連なっているものだ。
私は不用意にもこれを朝からこっそり履いて出勤し、危うく倒れかけて真帆さんに介抱された過去がある。
「これ、ここに入れておけば大丈夫でしょう」
私はアクセサリー用のハードケースを取り出して、その中にショーツをしまった。
これなら仮にバッグから飛び出したりしても、中身まで出てくる事はないはずだ。
「あの時衝動買いしちゃったけど、こんな形で役に立つとは思いませんでした」
今回のショーツの件とはまた別に約束していた、お揃いのアクセサリーを買いに行った時に、ついでにこのハードケースを買った。
旅行の時などに役立つだろうと思っての事だったけど、案外早く日の目を見る事になったな、と思う。
まさか、入れる物がパールはパールでも、こんな物になるとは思わなかったが。
*-*-*-*-*-
アクセサリーの方は、何にするか大いにもめた。
店先で話がつかず、一旦近隣のカフェに移動して相当な時間話し合ったほどだ。
私はあまり重くならない物が良いと思ってイヤリングを希望したのに対して、美咲さんは指輪以外考えられないと言って譲らない。
私が「それはちょっとハードルが高いのでは」と遠慮するとますます頑として指輪案を譲らなかった。
恥ずかしい、おこがましいと思う私の気持ちはあまり伝わらず、美咲さんにはヘタレ呼ばわりまでされる有様である。
一応言葉では対等という事になってはいるものの、スイッチが切り代わるようにいきなりなんて、気持ちの方は追いつかない。
そうでなくても、日々自分なりにどうにかして美咲さんと並んでもおかしくない程度にまで成長しなければとは思っていたのに、一足飛びにこんな事になって私も戸惑っていた。
「何回言わせるの?私は冴子じゃなきゃダメなの」
「それは非常にありがたいんですが」
「…だったら」
「ちょ、あのだからと言っていきなりというのは」
「物を買うのにじんわりなんて事ある訳ないでしょ、全部いきなりよ」
「そういう意味ではなくて」
「ダメ、絶対指輪以外認めない」
「…」
美咲さんって、こんな頑固な人だったっけ?
…嬉しい提案には変わりないし、別に私としては美咲さんがそこまで言うならそれで良い、とは思っていたのだけど。
もしかすると仕事の時はこんな感じなのかも、などと全く関係のない事をオープンカフェのテラス席で考える私に、美咲さんは軽く苛立っているようだった。
「冴子、本気で嫌がってる?」
「…全然、むしろ喜んでる」
「じゃなんでそんな顔してるのよ」
今度はちょっと泣きそうな顔で私を見てくる。
…私が他の娘の事でも考えていたのではないかと嫉妬してるのだろうか。それともその推測は己惚れだろうか。
「指輪にしましょう」
「…うん」
変なタイミングで私が折れたので、美咲さんは拍子抜けしたようだった。
いや、私はいつでも折れるつもりだったのだけど。
怒ったような、拗ねているような美咲さんの手を握って指を絡ませ店まで歩いた。
もう一度店先で開き直り「どの指にするんですか?」と左手を差し出したら今度は美咲さんが焦って「右手にしてよ」と言う。
からかい甲斐がある人だと思った。
まだ実物はできていないけれど、試しに着けた時には美咲さんの視線が自分の指ではなく私の指ばかり見ていたのが忘れられない。
*-*-*-*-*-
指輪問答の次はパンツ問答になっているなあ、とまた他人事のように考えている。
「今日はお忙しいんですか」
「そんなでもない、ちょっと打合せがある程度で」
なるほど。それで今日ならいけると思ったのだろうか。
…私の方はどうだったろうか。頭の中に進藤部長、袴田部長それぞれのスケジュールを可能な限り思い出してみる。
多分、こちらもそれほど大きな予定もなく、いくつも予定が詰まっている事もなかったはずだ。
…そうだ。
「お姉さまそう言えば今日じゃないですかっ」
「何が?」
袴田部長には「ランチミーティング」と称して美咲さんとのランチの予定が入っていたはずだ。忘れていた自分が実に腹立たしい。
「ランチミーティング」
「…何だっけそれ」
「袴田部長のですよ」
「あー……」
何故、遠い目をしているのだ。
袴田部長、いやあえて今は袴田氏というかつての私の中での呼称に戻させてもらうけど、袴田氏の方は気合い満点で昨日からそわそわしていた。
気合いが入り過ぎて軽く私を挑発までしてきていたし。
そういう意気込み自体は評価できるけど、私の方は対抗意識のかけらも芽生えはしない。
「その余裕っぷりがかえって俺の戦意を向上させるんだよね」などとまで言われたが、私は「お仕事ですよね?これ」とだけ返しておいた。
「妬かないの?変わったね」
「そうですね、彼女が変わりましたから」
「……」
袴田氏にはメチャクチャ恨みがましく睨まれたけど、私は優越感を隠さずにはいられなかった。
「あーめっちゃ悔しい、その態度を後悔させてやるとか言いたいけど自信ないわ」
「まあ、頑張ってください、本日はこれにて失礼いたします」
だめ押しの言葉を浴びせて私は昨日の業務を終えたのだ。
「これにて失礼」にも、たっぷりと優越感をにじませて。
これから彼女と暮らす部屋に帰って、たっぷりイチャイチャさせてもらうぞという念を込めての発言である。
まあ袴田氏との抗争は日常の挨拶替わりのようなもので特に意味はないけれど、美咲さん本人が予定自体忘れていたとは。
「ったくめんどくさいなあ」
「お仕事…じゃないんですか」
確かにあの袴田氏の張り切りぶりと言い、話の内容より違う所に力が入っている感はあった。
美咲さんはブラウスに袖を通しつつ「ほとんど違うわよ」と言う。
…こうやって、徐々に仕事モードの服装に変わっていく所は、映画に出てくるスーパーヒーローのように私には見えてしまうので、本当はずっと眺めていたいのだが、そうもしていられない。
「…そうなんだ」
私の方は出勤後に制服に着替えるので、私服はごくカジュアルで脱ぎ着しやすいものを選んでいる。
今日は、柄物のカットソーとくるぶしが出るくらいの丈のパンツにノーカラージャケットを合わせている。
洋服選びにおいては美咲さんと並んで歩いた時にあまりチグハグにならないよう、気を付けるようになった。
「打合せするほどじゃないんだけどって言われて、じゃあ適当な所でスケジュール入れておいてって言ったらあーなってた」
「…夜じゃないだけあの方としては我慢してると思いますけど」
「それだと断られると思ったんでしょ」
「そうですね…」
二人で部屋を出て駅までの道を歩く。
でも、その前にここ最近は玄関を出る直前でけっこう激しいキスを交わしてから出かけるようになっていた。
美咲さんが先に出勤する場合には「いってらっしゃい」のキスだとわかりやすいのだが、二人で同時に出る場合「いってらっしゃい」を言う人はいない。
だから、お互いに「いってらっしゃい」の意味を込めて、外に出る直前ギリギリの時間で、名残惜しむようにキスをしてから、一緒に部屋を出るという事にした。
正直な所を言えば、せっかく綺麗に施したメイクや髪型が崩れる可能性が高いので、そんなタイミングでべったりキスするのは効率で言えば良くはない。
でも…そうしない訳にはいかなくて、とにかく身体を密着させて、唇は極力触れ合うだけにして擦るような事はせず、主に舌先を絡めるようなキスを交わすようになった。
どちらからともなくそういう感じで、玄関先のキスは行うものという習慣がついている。
だけどこれが実際にやってみると、鼻からも口からも簡単に息ができてしまうから、悶えるような呼吸が塞がれる事なくきっちりとお互いの耳に届いてしまう。
それが何だかかえっていやらしい雰囲気を増長させるので、これはこれで悪くはなかった。
つい先ほども、今日夕方には美咲さんのセクシーショーツ姿を拝めるのかと思いながらキスしてしまったので、ついつい興奮してしまって唾液はやたらと出てしまうし、くんくんと鼻は鳴ってしまうしで美咲さんにたしなめられたくらいなのだ。
「んもうっ」と言われながら、危うくこぼしそうになった唾液を美咲さんが受け止めてくれたから事なきを得たのだけれど。
「…秘書課もだけど、袴田君にもそれ見つからないように注意してね」
「ロッカーにしまっておくので大丈夫ですよ」
…どうも、ここまで念押しされると、むしろ振りなのではないかと思えて嫌な汗が出てしまう。
私と美咲さんは同じ電車に乗り、二人で並んで歩いて社のエントランスまで入っていった。
以前は到底考えられない事だったけど、今は普通に二人で出勤するようになっている。
これも、「ちゃんとした」恋人宣言を互いに交わして以降の事だ。
私と美咲さんが並んで歩いていると、かつての私の後輩である所の受付女子たちは若干頬を赤らめて、初めての時に至っては「キャッ」などと声まで出してガン見されたものだが、今は多少それも落ち着き始めている…と思う。
よほど目立つのだろうか、受付女子に限らずエントランスにいる人や私たちを追い越して歩く人たちなんかは決まって私たち二人を見てくるのだけど。
真帆さんからは「目立つなんてもんじゃないわよ」と言われてしまったのだが、それならやっぱり二人で出勤するのは控えた方が良いのだろうかと聞いてみると、「そんな事は必要ないわ」と返された。
「目立つっていうのもある意味正しいかもしれないけど、それよりもみんな見とれてるのよ」「お互い、自慢の彼女なんでしょ?だったらこそこそする事ないわ、見せつけてやればいいのよ」とまで言われてしまった。
そう言われても、見せつけるなどというのは私の本意ではない。
…でも、努力してもそう見えてしまうんなら開き直っても良いのかもしれない。
今日もまたそのエントランスが近づいてくる。
「お姉さま、ちょっと試したい事があるんです」
「…何?」
美咲さんは首をかしげて問い返してくる。
「受付女子に、挨拶替わりに手を振ってもらえませんか、私と一緒に」
「…いいけど、冴子は平気なの?目立ちたくないみたいな事いつも言ってるのに」
「まあ…そうなんですが気が向いたので」
「あら、そう」
それは後輩をからかうぐらいの、ほんの出来心のつもりだった。
…だけど、実際にやってみたらとんでもない事になってしまった。
私はつい半年ほど前には受付に立っていた。だからどういうタイミングで朝の挨拶をするのか、やる側の事は理解している。
今だと思って、受付女子の視線がこちらに向いた瞬間を狙い、美咲さんと二人で手を振ってみる。
「おは……きゃーっ」
「え?」
受付担当は二人ペアで表に立つのだが、二人が二人とも私たちを指差して興奮しきりなのだ。
「…ほら」
小さく言う美咲さんの声が聞こえる。
やり過ぎだったのだろうか。怖くなって美咲さんを見上げるけれども「知らない」と冷たく突き放されてしまった。
二人の後輩は互いに手を取り合いながら「ちょっと今の写真撮っとけば良かった」とか、「先輩明日もやってくれないかしら」とかごちゃごちゃ騒いでいる。
私は美咲さんを先に行かせて二人に近づいた。
「ちょっと、真面目に仕事してよ…」
「真面目にやってたのにそれを先輩が邪魔してるんじゃないですか、あんな事しちゃって罪ですよ、罪!懺悔してください!」
「はぁ?…もうっ何言ってるの」
「ねー、ホント困るよね、綺麗だからって気軽にあんな事してただで済むわけないじゃないですか」
「え?」
二人それぞれから猛烈に抗議される。
「そう、悪いのは先輩ですからね」
「何でそうなるの」
「でも、もう一回やって欲しいなあ…明日もしてもらえます?」
「は、え?何」
「ダメよ、明日私たち当番じゃないでしょ?えーと」
二人のうちの片方が朝の当番表を確認し始める。
「そんなの代わってもらえばいいだけの事じゃない」
「あ、そうか…じゃ明日もお願いします♪」
「だから、なんでそうなるの…」
「お疲れ様でした~」
それは、受付女子が夕方の退勤時間に従業員を送り出す時の挨拶の型である。
ここだけ綺麗にハモらせてるし。…つまりここから立ち去れという合図だった。
「明日もやるかどうかは私のさじ加減なのに」
「宜しくお願いしま~す」
これまた綺麗にハモらせて元気にご挨拶されてしまった。
今のは、外のイベントヘルプ等の仕事で景気づけに行う、ちょっと媚びたパターンの挨拶だ。
…挨拶練習を真面目にしているのは良い事だけど。
「ほんと今日はいい物見せて頂きました♪」
「…当分は思い出しただけで胸がいっぱいです」
背中を向けている相手に投げる言葉なのか、それが。
私はエレベーターホールへと急いだが、美咲さんの姿はもうなかった。
*-*-*-*-*-
「冴子ちゃ~ん♪」
「な、何ですか…なんか怖いんですけど」
着替えを済ませてデスクに就くと、梢さんに不気味な声をかけられた。
「私は知ってるのよ」
「…何をですか」
まさか今朝の出来事ではあるまい。
「その、まさかです」
いや私は「まさか」は言葉にしていない。
顔に書いてあったという事か。
「…だって私が入った時には受付の女の子ちゃん達、キャッキャ騒いでばかりだったんだもん、つい事情を聞いちゃいましたよ」
「あ…そういう事ですか、彼女達騒ぎ過ぎなんですよ」
「いやいや、殺伐とした会社の朝に一服の清涼剤を提供したんだから、怒らないで」
「それを享受してるのは受付女子のあの二人だけじゃないですか」
「…まあまあ」
梢さんはデスクチェアに座る私の両肩に手を置いて、肩を揉んでくる。
「…冴子ちゃん、ちょっと明るくなったよね、前のアンニュイな感じも影があって魅力的だったけど」
「ここで口説いてるんですか」
「違うよ~」
梢さんと私の軽口の押収はいつもの事だから周りは特に気にしていないけど、真帆さんだけはくすくす笑っていた。
「…大変ね、冴子ちゃんも」
「……」
私が困惑していると梢さんが構わず割り込んでくる。
「本当はさ、聞かせて欲しいんだよね…冴子ちゃんのプライベートを」
冗談じゃない、知りたいのは美咲さんのプライベートなんじゃないのと心の中で毒づいてしまう。
「言うわけないじゃないですか」
「ケチ」
「だからなんでそうなるんですか」
朝の受付女子と言い、梢さんと言い、喜んでるような感じなのに所々余計な要望を混ぜてくる。
そもそも答える義務はないものなのに、断ると不服そうにされるのは納得がいかない。
「…あ!」
「何、いきなりどうしたの、冴子ちゃんっ」
私にしてはいいタイミングで思いついた。
梢さんが不純な動機で私と美咲さんの事を知りたがっているのだ、多少不純な願望交じりの提案をしたって構わないだろう。
「梢さんに、紹介したいと思う人がいるんですが」
「…えぇっ?誰?」
「ちょっと今はまだ…詳しく言えません」
「何?気になるなぁ」
それはズバリ晴香ちゃんである。
動機は超不純だけど、お友達として親しくなる分には、双方にも損はないだろう。
…ただ、晴香ちゃんの方に切り出すには少し配慮が必要だと思ったから、梢さんにはあまり情報を出さないようにしておいた。
晴香ちゃんのどSっぷりと、梢さんのMっぷりは間違いなくそういう事になれば悪い相性ではないと思うが、それについて美咲さんに話した時には「確認しようがない」という指摘を受けている。
そうかもしれないが、二人が実際に友達にでもなれば、それだけで十分私の中の妄想は強化されるから、別に良かった。
…まあこれについては別途検討するとして、夕方になれば美咲さんに例のショーツを履いてもらう予定がある。
それまではやるべき仕事をしっかりやらなければいけない。
できれば早めに仕事を片付けて、空き時間を作りつつ「いつ」「どこで」それを決行するかを考えないと。
梢さんに「明るい」と思われたのも、もしかするとこの計画により気持ちが盛り上がっているから、それをなんとなく察知されたのかな、という気もしてきた。
だが特に変な意味で言われたわけでもなし、それはそれとして聞いておこう。
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