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いいとこ取りで妄想(梨々香SIDE)
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冴子様の落ち込みぶりはもう、あからさまと言って良いレベルだった。
いつも通り食材を購入して、それを手に美咲様と冴子様の暮らすお部屋へ入った途端、空気からして普段と違うと感じる。
冴子様だけが帰宅している状況で、私は極力平静を装いキッチンへと歩を進めた。
「お帰りなさいませ」
後から入った私が言うのも変かもしれないが、メイドの性と言うのかついそんな言葉をかけてしまう。
冴子様はただダイニングチェアに座っているが、姿勢はうつむき加減だし、こちらを見るでもなく「お疲れ様です」と力なく声を発するのみで。
とりあえず、食材を調理台に置いて冴子様のもとへ向かい表情を伺った。
「如何されましたか?」
「……考えているうちに、落ち込むような事でもないかなとは思うんですが、やっぱり微妙にショックなんです」
「…はい」
聞けば、美咲様が容子様と一緒に近々台湾へ出張されるとの事。
つごう4日間の滞在らしいが、美咲様の秘書である冴子様は当然自分も同行するものとばかり思っていたのに、実際に言い渡された指示は日本での留守番だったそうで。
「何故か愛美さんが二人に同行するらしいです」
「そうですか…」
これはもう、愛美が容子様の事業後継者として育成され始めているという事で間違いなさそうだ。
それと同時に思ったのは、冴子様が悔しがっているポイントは…自分ではなく愛美がお二人に同行するという事でもあろう。
単に容子様と美咲様だけで行くのであればこうはならなかっただろうから。
「…でもまあ、リモートで会議もメールも普通にできる訳だし、私がこっちに残って、というのも合理的なようにも思ってきてはいるんですけど」
「…はい」
冴子様の気持ちは、なんとなくだが理解できる気がする。
けれどもそれを言葉にして「わかります」とまで伝えるのには躊躇して、ただ話を聞く立場を貫いた。
「あの…ご出張の目的というのは、視察か何かでしょうか」
「そうです」
なるほど。
ひょっとすると、台湾か、もしくはアジア圏内への新規出店計画でもあるのだろうか。逆に台湾の高級ホテルを参考に、コンセプトを取り入れたホテルを国内で新規展開する為の視察かもしれない。
「…そうなると、その間冴子様もお忙しくなりますね」
「…そうかも、しれませんけど…」
多少気持ちが持ち直してきたようで、どんよりとした空気は若干緩和された気がする。
私は冴子様に断りを入れて傍を離れ、ロイヤルミルクティーを淹れる事にした。
その前に、買い込んだ食材を手早く整理し冷蔵庫に納めていく。
*-*-*-*-*-
茶葉をミルクで煮出して作るロイヤルミルクティーはけっこう手間がかかるけど、濃くてしっかり甘味のある味わいは他には代え難い。
鍋を見張っている間精神的には緊張するが、何とか冴子様の機嫌を取るために、できる事をしたいと思ったのだ。
4日間とは言え、美咲様の居ないこのお部屋で冴子様一人で過ごすというのは寂しいだろうと思う。
…そんな風に考えていると、よせば良いのに真逆のシチュエーションに自分が加担した事を思い出してしまった。
……そう、私と冴子様が逃避行宜しく数日間留守にしていた間、美咲様は一人このお部屋で過ごしていた。
ここは元々美咲様が一人で暮らしていたお部屋ではあるものの、それでも唐突に置き手紙一つで冴子様が居なくなった訳だから、さぞかし驚いたろうし、一時的にはお怒りだったろうとも思われた。
その後冴子様から詳しく聞いた訳ではないが、帰宅後美咲様は特に感情的であった様子はなかったのだろうと思う。さすが大人だ。
今回の件は仕事での不在だし、その時とは意味合いが違うのだけれど。
しかし冴子様の事だから、むしろ浮気旅行で不在にされる方が精神的には堪えられるタイプなのかもしれない。仕事の事となると案外、冴子様は繊細なのだ。
「まあ役に立たないから連れて行かないという理由ではないのもわかってますし、私の認識が古めかしいというだけの事なんですけどね…」
と、冴子様は古めかしいメイド職の私に向かって呟く。
「着替えて来ます」冴子様はそう言いながら席を立つ。
私は鍋から目を離せないので、キッチンに立ったままで「はい」と応じた。
まだ暑さの残る季節だし、ミルクティーは冷たくして出すのも良さそうに思ったが、先ほどの様子からして冴子様は暑がっていなかったから、帰宅してから少々時間が経っているのだろう。
このお部屋のエアコンはしっかり効いていて、むしろ身体の表面は冷えてもおかしくないと思ったから、アイスミルクティーの案は却下した。
「……」
着替えると言った割には時間がかかるなと思っていたら、冴子様はシャワーを浴びているらしい。
汗を流して気持ちをリセットさせたかったのかもしれない。
私はコンロの火を止めて冴子様が出て来るのを待つ事にした。その間に夕食の準備も始めていく。
「あ、なんか…すみません、用意してくれてたんですよね」
言いながら部屋着姿で現れた冴子様はかなりぬるめのシャワーを浴びる事で、あえて身体をしゃっきりさせたようだ。
私は「…いえ」とだけ答えて出来上がったロイヤルミルクティーを冴子様に差し出した。
程良く冷えた身体に温かい飲み物を流し込んで冴子様の気分も上がってきたようである。
私は、冴子様が浴室に消えている間に考えた事を伝えてみた。
「あの…冴子様、先ほどのお話ですが、宜しければ私、その間こちらに来る頻度を増やしましょうか?」
「……え」
驚いた冴子様とまともに視線がぶつかった。
「だって梨々香さん、お店とか……あと…その」
言いたい事はなんとなくわかる。マコさんの事を気にしているのだろう。
「それが…大丈夫、なんです」
本当に偶然なのだが、美咲様が不在にされる期間と、マコさんの合宿研修の日程が重なっていたのだ。
素直にそれを言うべきかどうか迷ったのは、何だか嘘臭く思われそうな気がしたからで。
あの夜--タワーマンション高層階をリノベーションした新設スイートルームで--複数人での交わりを体験して以降、マコさんは急にセックスが上手くなった。
…と言うよりも、攻め方が上手くなったと感じる。
真性どSなお姫様キャラである所の佐藤晴香を交えての逢瀬だったからか、部分的に苛烈な攻めもあって私の記憶は所々欠けていた。
それも、事後にマコさんとその時の話をする中で判明したのだけれど。
マコさんはしばらくの間「りりちゃんがエッチ過ぎて、それなのに自分は手も足も出なかった」と悔やんでばかりいた。
私はほとんど我を忘れてしまっていて、呆れられても仕方ないと思いながら流れに身を任せていたのだけれど。
それでも、あの長時間にわたる交わりの中では佐藤晴香と梢さんによる、濃密だがヒリヒリするようなやり取りも目の当たりにして私は凄く興奮したのを覚えている。
マコさんに「リリにもあんな風にして」とおねだりしたのは記憶から消失していたのだが。
マコさんのテクニックが上達するにつれ、私達の逢瀬はだらだらとしたものから少し変化しつつあった。
体力面ではマコさんに圧倒的なアドバンテージがあるのであちらは余裕なのだろうが、私が感じ過ぎて消耗すると、彼女は私の身体を気遣ってほどほどの所で切り上げるようになったのだ。「りりちゃんにはお店や他の仕事もあるんだし、そちらを犠牲にさせたくはない」と。
つまりマコさんは、私が体力的な限界を迎えてもなお、愉悦を追い求めてしまう性質であるのを既に理解しているという事になる。
「その…マコさんもちょうど合宿で、居ないので」
「はぁ……、なんでそういう偶然が起きるんでしょうね」
そうなのだ。状況的には冴子様との接点が増えろ増えろという方向にあるようで、複雑な気分になる。
その時期冴子様が生理でなければ…いや、あったとしても?蓄積するものはあるだろう。
それについて具体的に考えると身体が疼いてしまいそうなので辞めておく事にした。
…そもそも冴子様の中に蓄積するものがあったとしても、その解消相手として私が選ばれるかどうかはわからないのだし、気持ちを切り替えて話を続ける。
「もし、ご希望でしたら…そういたしますので」
「考えておきます、多分…お願いすると思いますけど」
「かしこまりました、正式な所は後日で構いません」
「…はい」
しばらくして美咲様も帰宅され、夕食の配膳を終えた所で私はお部屋を後にした。
…実は、お二人の食事する様子をなんとなく眺めているのは好きだったりするのだけれど。
きっと食事の後半には、もっとゆったりとした雰囲気になって、それからお二人それぞれか、一緒にかわからないけれど入浴したりして、その後はスキンケアをしたり動画を見て寛いだりしつつも徐々にそれっぽい雰囲気になるのではないか…というのはあくまでも私の想像にすぎないのだけれど。
美咲様が冴子様にちょっかいを出したり、逆に冴子様がいきなり美咲様を押し倒したりする感じで交わりが始まるのだろうか、などと考えていると身体が熱くなってしまうのだ。
私はその妄想だけで十分、自慰に没頭する事ができる自信がある。
…でも今はまだ、あのタワーマンション高層階での一夜の事が忘れられなくて、前触れもなくついその時の一場面を思い出しては顔が火照るぐらい、自分の意識としても身体にも、刻み込まれた感覚が残っていた。
だからもし、この後帰宅して自慰にふけるとしたら、はじめのうちは冴子様と美咲様との交わりを妄想して、それがいつの間にかあの夜の出来事の記憶へとスライドして…といった具合に意識を彷徨わせるのだろうなと思う。
「……」
それぞれについて考えているとどうにも我慢できなくなってきた。
車を運転しながら心の中で「マコちゃん」と呟くけれども彼女は本日夜勤である。
冴子様達はもう、食事を終えているだろうか…まだかな、と思ういながら駐車場に車を止めて勝手口から自宅に入った。
鍵をかけ二階に上がると、私は着ていたメイド服を脱ぎ捨てる。
ついでに下着も全て脱いで全裸になると、そのままベッドに倒れ込んだ。
「……はぁ」
枕に顔を埋めて溜め息を吐く。
それから顔を挙げて、枕を抱えつつ再びベッドに伏せた。
羽毛の詰まった枕は、私の体重と腕の力でギュッと潰れる。
「……んー」
両脚は閉じたまま、下半身をシーツに擦り付ける。
それから、適当にベッド上に寄せてあった薄手の肌掛け布団をわざと頭から被り、周囲の視界を遮った。
そうして再び「はぁ」と溜め息を吐くと、布団の中で声がこもって変にいやらしく聞こえる気がした。
抱えた枕にもう一度顔を埋め、これを一体誰に見立てているんだろうと自問しながらもギュウギュウ抱きつくのを止められない。
「……ん、ふぁ」
掌でリップを拭い、目を閉じて枕にキスをする。
…疑似でもそれっぽくなるように、自分の唇で音を立てながら。
「…はぁ」
わずかな呼吸音でさえも、布団の中でこもるので煽られてしまう。
「……っあ」
身体を屈めると、ふいに枕の角が秘部をかすめて思わず硬直した。
それが気持ち良かったので、枕へのキスは辞めて下方にずらし、角で秘部を探り感じる場所を擦る事に集中し始める。
「あ……ぁ」
刺激自体はささやかなものだが、ショーツを履いていない所へ直に擦れる感じが新鮮で堪らない。
枕にはカバーがかかっている事だし多少汚しても構わないという気になって、私は枕の上で身体を前後に動かして胸や秘部を擦り続けた。
「あ、……っん」
かすれた自分の喘ぎ声が、布団の中でこもって聞こえる。
だんだんと体温もこもって熱くなってもいるのだが。
「……っ」
枕に身体を擦りつけながら、私は頭だけを布団の外に出した。室温が涼しく感じられる。
「あ……はぁ、ん」
声は開放された空間に響いて、普段の自慰と同じ感覚を覚えた。
それに安心したような感慨を覚えて、私は更に声のトーンを上げていく。
「んっ、は……あん」
身体が、肌掛けと枕、シーツに擦れてカサカサとした音を立てている。
激しく身体を動かせば、その音も派手になりいかにも擦っていますという状況が音だけでもわかってしまうほどだ。
しかしそんな乾いた音に混じって、太腿の間からは別種の音もし始めている。
…感じている事を裏付ける、艶めかしい蜜が内腿を濡らす、粘着質な水音だ。
「あん、だめ……」
指の使用はあえて禁じ、枕の角による摩擦刺激だけでオーガズムを目指していく。
この調子ならさほど無理なくその時を迎えられると思った。
「…あ、あ……ん、もう…」
何度か枕の角が良い場所に引っかかるように擦れた瞬間、あっさりと私は達してしまった。
同時に、花弁の間からだらしなく蜜がこぼれ、内腿を伝い落ちる感触があった。
「……マコちゃん」
知らずそう呟いたけど、実際に誰に秘部を弄られる妄想で達したのかは判然としない。
冴子様だったかもしれないし、佐藤晴香だったかもしれないし、梢さんだったかもしれないのだ。
「あ……あん」
緩慢だが、自力では止める事のできない膣のビクビクという痙攣が止まないうちに、再び枕が擦れて私はもう一度絶頂近くの所にまで意識を飛ばされた。
「やだ……止まらない……ん」
それによって私はもう、ちゃんとした刺激が欲しいという欲望に逆らえなくなり、布団を払って仰向けになり、わざと両脚を広げた。
誰かの偽竿に貫かれる時みたいに、膣口がほとんど真上を向くような角度になるまで両膝を引き上げていく。
その態勢でも溢れた蜜は垂れてしまうけど、私は気にしなかった。
「入れて…」
口ではそう言うけれど、私が妄想しているのは…偽竿は入れてもらえず、代わりにじっくりと秘部を観察され指先で弄られるだけの、お預けプレイだ。
目を閉じて、秘部に意識を集中させる。
既にひどく濡らしているそこを、黙って見つめられている状況を想像するだけで、更に身体が熱くなった。
「………っ」
自身の指先で花弁の縁をなぞり、それから人差し指の第一関節だけをその隙間に潜らせる。
浅い所を探るように弄りながらも、目指すのは刺激を待ちわびている萌芽だ。
ほんの少し動かすだけでも指先に蜜が絡み、そのまま萌芽の先端をかすめるようにつつく。
「・・んぃ、はぁ……!」
たったそれだけの刺激なのに、やたらと派手に喘いでしまい恥ずかしくなるが、そんな姿も含めて観察されたがっているのが私なのだ。
「もっと、弄って…っ」
指先はあくまでも優しく、ソフトに萌芽の先端に触れて動いている。
けれども私は滑稽なぐらい感じて、シーツを汚してしまうくらいだらしなく蜜を溢れさせていた。
「あ…っ、あぁぁ」
酷く呼吸が乱れて、そして間もなく二度目の絶頂に達する。
花弁の間は自動的に開いて、そこから更に多くの蜜がどくどくと溢れているのを感じた。
…そう、その先にある秘穴に、もっとしっかりとした質量のものを入れて欲しいと主張するかのように。
でも私自身はもう十分気持ち良くなれたという実感があり、そこの主張は無視して後始末を始めた。
上半身を起こすと、部屋の床に散らばったメイド服やショーツが目に入り、自分のあさましさに羞恥を覚える。
シーツも汚してしまったし、それも洗濯しないといけない、と思いながら私は衣服を拾い集めた。
……こんな調子で、美咲様不在の所に冴子様と二人で過ごすのは大丈夫なのかと自問しながら。
いつも通り食材を購入して、それを手に美咲様と冴子様の暮らすお部屋へ入った途端、空気からして普段と違うと感じる。
冴子様だけが帰宅している状況で、私は極力平静を装いキッチンへと歩を進めた。
「お帰りなさいませ」
後から入った私が言うのも変かもしれないが、メイドの性と言うのかついそんな言葉をかけてしまう。
冴子様はただダイニングチェアに座っているが、姿勢はうつむき加減だし、こちらを見るでもなく「お疲れ様です」と力なく声を発するのみで。
とりあえず、食材を調理台に置いて冴子様のもとへ向かい表情を伺った。
「如何されましたか?」
「……考えているうちに、落ち込むような事でもないかなとは思うんですが、やっぱり微妙にショックなんです」
「…はい」
聞けば、美咲様が容子様と一緒に近々台湾へ出張されるとの事。
つごう4日間の滞在らしいが、美咲様の秘書である冴子様は当然自分も同行するものとばかり思っていたのに、実際に言い渡された指示は日本での留守番だったそうで。
「何故か愛美さんが二人に同行するらしいです」
「そうですか…」
これはもう、愛美が容子様の事業後継者として育成され始めているという事で間違いなさそうだ。
それと同時に思ったのは、冴子様が悔しがっているポイントは…自分ではなく愛美がお二人に同行するという事でもあろう。
単に容子様と美咲様だけで行くのであればこうはならなかっただろうから。
「…でもまあ、リモートで会議もメールも普通にできる訳だし、私がこっちに残って、というのも合理的なようにも思ってきてはいるんですけど」
「…はい」
冴子様の気持ちは、なんとなくだが理解できる気がする。
けれどもそれを言葉にして「わかります」とまで伝えるのには躊躇して、ただ話を聞く立場を貫いた。
「あの…ご出張の目的というのは、視察か何かでしょうか」
「そうです」
なるほど。
ひょっとすると、台湾か、もしくはアジア圏内への新規出店計画でもあるのだろうか。逆に台湾の高級ホテルを参考に、コンセプトを取り入れたホテルを国内で新規展開する為の視察かもしれない。
「…そうなると、その間冴子様もお忙しくなりますね」
「…そうかも、しれませんけど…」
多少気持ちが持ち直してきたようで、どんよりとした空気は若干緩和された気がする。
私は冴子様に断りを入れて傍を離れ、ロイヤルミルクティーを淹れる事にした。
その前に、買い込んだ食材を手早く整理し冷蔵庫に納めていく。
*-*-*-*-*-
茶葉をミルクで煮出して作るロイヤルミルクティーはけっこう手間がかかるけど、濃くてしっかり甘味のある味わいは他には代え難い。
鍋を見張っている間精神的には緊張するが、何とか冴子様の機嫌を取るために、できる事をしたいと思ったのだ。
4日間とは言え、美咲様の居ないこのお部屋で冴子様一人で過ごすというのは寂しいだろうと思う。
…そんな風に考えていると、よせば良いのに真逆のシチュエーションに自分が加担した事を思い出してしまった。
……そう、私と冴子様が逃避行宜しく数日間留守にしていた間、美咲様は一人このお部屋で過ごしていた。
ここは元々美咲様が一人で暮らしていたお部屋ではあるものの、それでも唐突に置き手紙一つで冴子様が居なくなった訳だから、さぞかし驚いたろうし、一時的にはお怒りだったろうとも思われた。
その後冴子様から詳しく聞いた訳ではないが、帰宅後美咲様は特に感情的であった様子はなかったのだろうと思う。さすが大人だ。
今回の件は仕事での不在だし、その時とは意味合いが違うのだけれど。
しかし冴子様の事だから、むしろ浮気旅行で不在にされる方が精神的には堪えられるタイプなのかもしれない。仕事の事となると案外、冴子様は繊細なのだ。
「まあ役に立たないから連れて行かないという理由ではないのもわかってますし、私の認識が古めかしいというだけの事なんですけどね…」
と、冴子様は古めかしいメイド職の私に向かって呟く。
「着替えて来ます」冴子様はそう言いながら席を立つ。
私は鍋から目を離せないので、キッチンに立ったままで「はい」と応じた。
まだ暑さの残る季節だし、ミルクティーは冷たくして出すのも良さそうに思ったが、先ほどの様子からして冴子様は暑がっていなかったから、帰宅してから少々時間が経っているのだろう。
このお部屋のエアコンはしっかり効いていて、むしろ身体の表面は冷えてもおかしくないと思ったから、アイスミルクティーの案は却下した。
「……」
着替えると言った割には時間がかかるなと思っていたら、冴子様はシャワーを浴びているらしい。
汗を流して気持ちをリセットさせたかったのかもしれない。
私はコンロの火を止めて冴子様が出て来るのを待つ事にした。その間に夕食の準備も始めていく。
「あ、なんか…すみません、用意してくれてたんですよね」
言いながら部屋着姿で現れた冴子様はかなりぬるめのシャワーを浴びる事で、あえて身体をしゃっきりさせたようだ。
私は「…いえ」とだけ答えて出来上がったロイヤルミルクティーを冴子様に差し出した。
程良く冷えた身体に温かい飲み物を流し込んで冴子様の気分も上がってきたようである。
私は、冴子様が浴室に消えている間に考えた事を伝えてみた。
「あの…冴子様、先ほどのお話ですが、宜しければ私、その間こちらに来る頻度を増やしましょうか?」
「……え」
驚いた冴子様とまともに視線がぶつかった。
「だって梨々香さん、お店とか……あと…その」
言いたい事はなんとなくわかる。マコさんの事を気にしているのだろう。
「それが…大丈夫、なんです」
本当に偶然なのだが、美咲様が不在にされる期間と、マコさんの合宿研修の日程が重なっていたのだ。
素直にそれを言うべきかどうか迷ったのは、何だか嘘臭く思われそうな気がしたからで。
あの夜--タワーマンション高層階をリノベーションした新設スイートルームで--複数人での交わりを体験して以降、マコさんは急にセックスが上手くなった。
…と言うよりも、攻め方が上手くなったと感じる。
真性どSなお姫様キャラである所の佐藤晴香を交えての逢瀬だったからか、部分的に苛烈な攻めもあって私の記憶は所々欠けていた。
それも、事後にマコさんとその時の話をする中で判明したのだけれど。
マコさんはしばらくの間「りりちゃんがエッチ過ぎて、それなのに自分は手も足も出なかった」と悔やんでばかりいた。
私はほとんど我を忘れてしまっていて、呆れられても仕方ないと思いながら流れに身を任せていたのだけれど。
それでも、あの長時間にわたる交わりの中では佐藤晴香と梢さんによる、濃密だがヒリヒリするようなやり取りも目の当たりにして私は凄く興奮したのを覚えている。
マコさんに「リリにもあんな風にして」とおねだりしたのは記憶から消失していたのだが。
マコさんのテクニックが上達するにつれ、私達の逢瀬はだらだらとしたものから少し変化しつつあった。
体力面ではマコさんに圧倒的なアドバンテージがあるのであちらは余裕なのだろうが、私が感じ過ぎて消耗すると、彼女は私の身体を気遣ってほどほどの所で切り上げるようになったのだ。「りりちゃんにはお店や他の仕事もあるんだし、そちらを犠牲にさせたくはない」と。
つまりマコさんは、私が体力的な限界を迎えてもなお、愉悦を追い求めてしまう性質であるのを既に理解しているという事になる。
「その…マコさんもちょうど合宿で、居ないので」
「はぁ……、なんでそういう偶然が起きるんでしょうね」
そうなのだ。状況的には冴子様との接点が増えろ増えろという方向にあるようで、複雑な気分になる。
その時期冴子様が生理でなければ…いや、あったとしても?蓄積するものはあるだろう。
それについて具体的に考えると身体が疼いてしまいそうなので辞めておく事にした。
…そもそも冴子様の中に蓄積するものがあったとしても、その解消相手として私が選ばれるかどうかはわからないのだし、気持ちを切り替えて話を続ける。
「もし、ご希望でしたら…そういたしますので」
「考えておきます、多分…お願いすると思いますけど」
「かしこまりました、正式な所は後日で構いません」
「…はい」
しばらくして美咲様も帰宅され、夕食の配膳を終えた所で私はお部屋を後にした。
…実は、お二人の食事する様子をなんとなく眺めているのは好きだったりするのだけれど。
きっと食事の後半には、もっとゆったりとした雰囲気になって、それからお二人それぞれか、一緒にかわからないけれど入浴したりして、その後はスキンケアをしたり動画を見て寛いだりしつつも徐々にそれっぽい雰囲気になるのではないか…というのはあくまでも私の想像にすぎないのだけれど。
美咲様が冴子様にちょっかいを出したり、逆に冴子様がいきなり美咲様を押し倒したりする感じで交わりが始まるのだろうか、などと考えていると身体が熱くなってしまうのだ。
私はその妄想だけで十分、自慰に没頭する事ができる自信がある。
…でも今はまだ、あのタワーマンション高層階での一夜の事が忘れられなくて、前触れもなくついその時の一場面を思い出しては顔が火照るぐらい、自分の意識としても身体にも、刻み込まれた感覚が残っていた。
だからもし、この後帰宅して自慰にふけるとしたら、はじめのうちは冴子様と美咲様との交わりを妄想して、それがいつの間にかあの夜の出来事の記憶へとスライドして…といった具合に意識を彷徨わせるのだろうなと思う。
「……」
それぞれについて考えているとどうにも我慢できなくなってきた。
車を運転しながら心の中で「マコちゃん」と呟くけれども彼女は本日夜勤である。
冴子様達はもう、食事を終えているだろうか…まだかな、と思ういながら駐車場に車を止めて勝手口から自宅に入った。
鍵をかけ二階に上がると、私は着ていたメイド服を脱ぎ捨てる。
ついでに下着も全て脱いで全裸になると、そのままベッドに倒れ込んだ。
「……はぁ」
枕に顔を埋めて溜め息を吐く。
それから顔を挙げて、枕を抱えつつ再びベッドに伏せた。
羽毛の詰まった枕は、私の体重と腕の力でギュッと潰れる。
「……んー」
両脚は閉じたまま、下半身をシーツに擦り付ける。
それから、適当にベッド上に寄せてあった薄手の肌掛け布団をわざと頭から被り、周囲の視界を遮った。
そうして再び「はぁ」と溜め息を吐くと、布団の中で声がこもって変にいやらしく聞こえる気がした。
抱えた枕にもう一度顔を埋め、これを一体誰に見立てているんだろうと自問しながらもギュウギュウ抱きつくのを止められない。
「……ん、ふぁ」
掌でリップを拭い、目を閉じて枕にキスをする。
…疑似でもそれっぽくなるように、自分の唇で音を立てながら。
「…はぁ」
わずかな呼吸音でさえも、布団の中でこもるので煽られてしまう。
「……っあ」
身体を屈めると、ふいに枕の角が秘部をかすめて思わず硬直した。
それが気持ち良かったので、枕へのキスは辞めて下方にずらし、角で秘部を探り感じる場所を擦る事に集中し始める。
「あ……ぁ」
刺激自体はささやかなものだが、ショーツを履いていない所へ直に擦れる感じが新鮮で堪らない。
枕にはカバーがかかっている事だし多少汚しても構わないという気になって、私は枕の上で身体を前後に動かして胸や秘部を擦り続けた。
「あ、……っん」
かすれた自分の喘ぎ声が、布団の中でこもって聞こえる。
だんだんと体温もこもって熱くなってもいるのだが。
「……っ」
枕に身体を擦りつけながら、私は頭だけを布団の外に出した。室温が涼しく感じられる。
「あ……はぁ、ん」
声は開放された空間に響いて、普段の自慰と同じ感覚を覚えた。
それに安心したような感慨を覚えて、私は更に声のトーンを上げていく。
「んっ、は……あん」
身体が、肌掛けと枕、シーツに擦れてカサカサとした音を立てている。
激しく身体を動かせば、その音も派手になりいかにも擦っていますという状況が音だけでもわかってしまうほどだ。
しかしそんな乾いた音に混じって、太腿の間からは別種の音もし始めている。
…感じている事を裏付ける、艶めかしい蜜が内腿を濡らす、粘着質な水音だ。
「あん、だめ……」
指の使用はあえて禁じ、枕の角による摩擦刺激だけでオーガズムを目指していく。
この調子ならさほど無理なくその時を迎えられると思った。
「…あ、あ……ん、もう…」
何度か枕の角が良い場所に引っかかるように擦れた瞬間、あっさりと私は達してしまった。
同時に、花弁の間からだらしなく蜜がこぼれ、内腿を伝い落ちる感触があった。
「……マコちゃん」
知らずそう呟いたけど、実際に誰に秘部を弄られる妄想で達したのかは判然としない。
冴子様だったかもしれないし、佐藤晴香だったかもしれないし、梢さんだったかもしれないのだ。
「あ……あん」
緩慢だが、自力では止める事のできない膣のビクビクという痙攣が止まないうちに、再び枕が擦れて私はもう一度絶頂近くの所にまで意識を飛ばされた。
「やだ……止まらない……ん」
それによって私はもう、ちゃんとした刺激が欲しいという欲望に逆らえなくなり、布団を払って仰向けになり、わざと両脚を広げた。
誰かの偽竿に貫かれる時みたいに、膣口がほとんど真上を向くような角度になるまで両膝を引き上げていく。
その態勢でも溢れた蜜は垂れてしまうけど、私は気にしなかった。
「入れて…」
口ではそう言うけれど、私が妄想しているのは…偽竿は入れてもらえず、代わりにじっくりと秘部を観察され指先で弄られるだけの、お預けプレイだ。
目を閉じて、秘部に意識を集中させる。
既にひどく濡らしているそこを、黙って見つめられている状況を想像するだけで、更に身体が熱くなった。
「………っ」
自身の指先で花弁の縁をなぞり、それから人差し指の第一関節だけをその隙間に潜らせる。
浅い所を探るように弄りながらも、目指すのは刺激を待ちわびている萌芽だ。
ほんの少し動かすだけでも指先に蜜が絡み、そのまま萌芽の先端をかすめるようにつつく。
「・・んぃ、はぁ……!」
たったそれだけの刺激なのに、やたらと派手に喘いでしまい恥ずかしくなるが、そんな姿も含めて観察されたがっているのが私なのだ。
「もっと、弄って…っ」
指先はあくまでも優しく、ソフトに萌芽の先端に触れて動いている。
けれども私は滑稽なぐらい感じて、シーツを汚してしまうくらいだらしなく蜜を溢れさせていた。
「あ…っ、あぁぁ」
酷く呼吸が乱れて、そして間もなく二度目の絶頂に達する。
花弁の間は自動的に開いて、そこから更に多くの蜜がどくどくと溢れているのを感じた。
…そう、その先にある秘穴に、もっとしっかりとした質量のものを入れて欲しいと主張するかのように。
でも私自身はもう十分気持ち良くなれたという実感があり、そこの主張は無視して後始末を始めた。
上半身を起こすと、部屋の床に散らばったメイド服やショーツが目に入り、自分のあさましさに羞恥を覚える。
シーツも汚してしまったし、それも洗濯しないといけない、と思いながら私は衣服を拾い集めた。
……こんな調子で、美咲様不在の所に冴子様と二人で過ごすのは大丈夫なのかと自問しながら。
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※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
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