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テラスで脱いで見せて(光江SIDE)

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トレードマークの銀髪を隠すのを辞めると同時に短く切り揃えた佐藤晴香。
彼女を変えたのは、実にわかりやすく新しい--いや、もしかしたら初めての「恋人」ができたからだろう。

ある日、私は事務所にほど近い路上で、車を降りる彼女を見かけた。
運転していたのが正にその「恋人」と言うか、むしろ女房然と振舞う、健康的な女性だった。
チョロQにでもありそうだな、というような赤色の小型乗用車を降りて歩き出そうとする佐藤晴香を「あ、待ってよ晴香たん」などと大声で呼び止めたかと思うと、鮮やかとでも言うべき身のこなしで自分も車を降りて、弁当なのか軽食なのかが入っているらしき紙袋を手渡している。

「ちょっと大きな声で呼ばないでよ」と面倒くさそうに紙袋を受け取りながらも、佐藤晴香の態度の刺刺しさには隙があった。
そんな彼女の様子をいちいち真に受ける事もなく、その女房然とした女性は「今日も頑張ってねぇ」などと言いつつ車に戻っていく。

その彼女の首筋に、なんとなく赤みを帯びた跡が見えたような気がして、私はその場に釘づけになってしまったのだ。

……まさか、あの佐藤晴香が、ねえ、と。
少なくとも私は、彼女がずっと憧れ恋していた対象が、この女性ではない事を知っていたから。

私と出会ってから、佐藤晴香は「実らない恋」に苦しんでいた。
だからこそ、こんな風に誰かに求められ大切にされる喜びというものを理解できるようになったのかもしれない。
そういう意味では私も、同じような経験をしているし、決して人に対する態度が宜しくないと言える方の佐藤晴香に対して、多少親心のような気持ちも芽生えてはいるだろうが、彼女が決して、人の痛みのわからない人間ではないのもわかっているつもりだ。

*-*-*-*-*-

天は二物を与えずということわざがあるけれど、それは事実だと思う。
但し「一物のみ与える」と言っていない事が重要だ。天は二物を与えず、同じ人間にやたらと多くの物を与えるという意味でこのことわざが正しいのだと私は理解している。

そして私はそういう人間との縁に恵まれているとも思うのだ。

出会った時から憧れて、どうにかこうにか拝み倒して抱いてもらった松浦美咲という人もその一人だし、その後に出会った山元容子という人もそうだ。

私には、ずば抜けた美貌も、頭の良さも、商才も、お金も、人脈も、本当に何も持っていなかった。
持っていない事に気付いたのが早かったせいで随分無理もした。背伸びもしたし手傷も負ったと言えるだろう。

天には与えてもらえなかった「物」を、一つ一つ手に入れてきたという自負はある。
でも、そんな事で得られるものなど知れているのだ、という事もまた私は知っている。

山元容子という人に出会って、彼女には全てが与えられていると思った。
そんな事は誰の目にも明らかだろうが、私はそれをどれだけ欲しくても手に入れられない事をよく知っていたから、それが生きる上でどれだけのアドバンテージになるのかという事も良くわかるだけに、素直に悔しいと思った。

当初は何もわからず私から彼女に近づいたけれど、途中から自分の惨めさが際立つような気がして近づくのが億劫になった。
それなのに、彼女はやたらと私を自分の屋敷に招いた。
いつどういうきっかけでそうなったかはあまり覚えていないけれど、会えば必ず身体を重ねるようになっていた。

性的エネルギーや欲求についても、私は到底彼女にはかなわないと思っていたので、所詮数あるセフレの一人程度に思われているのだろうと感じていたけれど、彼女は明確に私を「気に入っている」と言葉にして伝えてきたのだ。

「それは単に身体の相性がいいってだけの事ではありませんか」
「あら?…お互いにそう思えるという事が貴重な事なのよ、そう思わない?」
「……」

ある日彼女の屋敷に招かれ、メイドが注いだ紅茶を、慣れない手つきでちびちびと飲んでいた時の事だ。
初夏を迎え緑色の濃くなりかけている庭の景色がよく見えるテラスに設えられたテーブルセットに、私と彼女が就いている。

知らないうちにメイドは姿を消していて、二人きりになってしまっていた。
テラスは寝室へと繋がっていて、その気になりさえすればガラスの扉一つでベッドに潜り込む事ができる。
…そんな部屋はこの屋敷にいくつあるのか、私は知らないけれど。

セフレなんて吐いて捨てるほど抱えているであろう彼女が、何を貴重に思うのかなどわからず、私は答えに詰まってしまった。

「貴女も、わかっているはずよ」
「…悪いとは、思ってませんけど」

そんなのは照れ隠しでしかなく、既に彼女の前でさんざん乱れた姿を披露してしまっているし、彼女もまた--他に誰に見せているかは知らないけれど、それなりに恥ずかしい姿も私に見せているのだろう。

彼女のいつものスタイルである所の、タイトな黒のロングワンピース。
そのスリットから覗く足を彼女が組み替える仕草を見ているだけでも、何か匂い立つようなエロスを感じてしまう自分が恥ずかしい。

「それよりも…ちゃんと着けて来てくれてるのかしら」
「……」

顔だけは恐ろしくベビーフェイスの彼女が、明日の天気を尋ねるかのような爽やかな口調で、以前に彼女から贈られた、非常に際どいデザインの下着の事を言い出した。

受け取った当時、包装などにはブランド名の記載がなく、どういう出所のものなのか私は確認できなかったけれど、試着してみておそらくこれは、彼女が個人的に繋がっているであろうデザイナーにでも頼んで作らせたものだろうと直観した。
「次に会う時には、是非付けて来てね」とにこにこ笑顔で言われただけなので、別に従う必要もなかったはずなのに、私の身体はまるで彼女の従属物であるかのようにその事を覚えていて、今日は彼女の望み通りにその下着を着けて来た。

「…一応」
「本当?嬉しい」

ぽんと手を叩いて彼女が笑顔になる。その表情は実に愛らしい。

「じゃ、早速見せて」
「…ここで、ですか?」
「誰もいないしここで良いんじゃない?」
「え……」

恥ずかしい。私有地とは言えここは屋外だ。ここで服を脱げと言うのか。

事の最中ならともかく、シラフでそれはちょっと、と躊躇する。
それに、日々努力はしているものの、太陽光の下でも堂々と晒せるほど、私は身体のラインにも、素肌の美しさにもこれといった自信はない。

「…貴女は綺麗よ、間違いなく」
「……」

本来なら、私より何倍も、生まれ持ったものも含め手間もお金もかけて磨き上げた美貌の持ち主である所の彼女にそんな事を言われても、白々しいと跳ねのけるべき所なのに、その時の私はすっかり彼女との逢瀬に染められて反論する心さえも奪われていたのかもしれない。

それに彼女が私に嘘を吐いたり、おだてたりする必要性など皆無だ。
だから私はなんとなくでも、彼女が私に本当の事しか言っていないという事だけは理解していた。
また、同時にここで私が素肌を晒しても、彼女は私を蔑む事などしない事もわかっている。

彼女の望みを邪魔しているのは、あくまでも私の羞恥心だけだった。

「…私だけってのはちょっと、だから…貴女も脱いでくれますか」

彼女は一瞬目をぱちくりさせたけれども、ほとんど間髪入れずに「勿論よ」と答える。
言い終わるかどうかのうちに早速スカートの中に手を差し入れてストッキングを脱ぎ始めようとするので逆に私が焦った。

とっさに「脱がせて、くれませんか、恥ずかしいので」と呟いてしまい、そのまま相手の衣服を脱がせ合う形になってしまった。
結果的に相手の間近で互いに肌を晒す恰好になり、こちらは恥ずかしいし相手は全然余裕の調子でまぶしいぐらいの白い肌を晒してくるので目のやり場に困ってしまう。

「…あ」

そんな中、彼女の着けているノンパテットブラに目が奪われた。
…この人の実年齢って、私よりいくつ上だっけ、と思わず考えてしまう。
バストは大きいとは言えないが程良いサイズで、それが垂れる事もなく生地だけのブラに収まっているのに驚愕した。

「…そんなに見つめられると、こっちが恥ずかしくなっちゃうわね」

珍しく照れ笑いして見せるあたりも反則だろう。頬がほんのりと赤く染まっていて小憎らしい。
肌になじむモカブラウンカラーのブラとショーツだけの姿になった彼女は、「私の方が出遅れちゃったわね」と笑いながら私の着ているベージュのセットアップを一気に脱がせてきた。

その手際は実に鮮やかで、そこらの男より効率的に脱がせているのに服を傷める事はしない。
ジャケットとタイトスカートを剥ぎ取られ、ストッキングも脱がされてパープルのブラウスをはだけさせた所で、彼女の目が細められる。

「…堪らないわね、やっぱり」
「?」

彼女は目だけで「知らないの?」とでも言いたげに私の顔を覗き込んでくる。
屋外故に通り過ぎる風が、すっと私の胸元を撫でていった。

…下着の事を言っているのかと私は思った。
彼女に贈られたのは、繊細なレースのみで仕立てられたブラジャーとショーツのセットだ。レースの縁は暗く、細かい刺繍の部分は明るいグレーで、いくつものトーンを使い分けた色に仕事の細かさを感じる。
バストトップは微妙に透けそうで透けない仕立てになっており、いかにもな勝負下着感はないものの、大部分は肌が透けるデザインで、そういう目で見れば十分セクシーである。

「じゃ、教えてあげる」
「…下着の事じゃない…んですか?」
「違うわよ」

なぜかブラウスだけは剥ぎ取られぬまま彼女は私の手を引いて寝室へと移動した。
ゆっくりとベッドに押し倒されて、これからまたいつものような濃厚な時間が始まるのかと思うと、自然と胸が高鳴ってしまう。

「…服を着れば、貴女は女の、セックスの匂いがほとんど消えるのよ」

それの何が「知らない」事なのだろうか。空気読みに自信があるはずの私が、どうもついていけてない感覚を覚える。

「だから、脱がせた時のギャップが堪らないのよ」
「……」

記憶を必死に探るが、過去の誰からもそんな事は言われてこなかった。
だからきっと、私は彼女に疑いの目を向けていたのだろう。

「…誰にも、言われてないのね」

私は黙って頷いた。そしてほんの少しだけど、はっとする。
…彼女にないものの一つが、これなのかと。

彼女は、こみ上げてくる欲望を抑えるかのように、むしろ丁寧な動きでゆっくりと私のブラウスを脱がせていった。
わずかに触れる指先にすごく高い温度を感じたから、私は彼女の昂ぶりを直観的に察して、彼女を焦らしている優越感に浸る。

…でも。
それは誰もがそうだろうけど、下着姿で昂ぶりを隠さない山元容子という人に見つめられれば、こちらもそれだけで体温がぐっと上がってしまう。内腿の間が熱くなってしまう。
焦らされているのは、彼女の方なのかそれとも自分か、わからなくなる。

じっとしていられず、私は両手を広げて彼女の背中に回し、彼女の胸を覆う布をそっと外した。
彼女もまた同様に、私の背中に手を回して、器用にブラホックを外し、肩紐をずらしていく。

そうやって一瞬抱き合うようにして互いの背中のホックを外し、離れながらそれを相手の肩や腕から抜き取る動作は、そのまま上半身を全て裸にしてしまう行為だ。
抜き取ったブラジャーをベッドの外に落とせば、目の前には何度も見たはずの身体がある。毎回見とれてしまうのだけれど。
そんな一瞬の隙を突いて、争うように胸先にしゃぶりつこうとするが一歩私の方が遅かった。

「あ、はぁ……」

屋敷に呼ばれるのはいつも昼間だ。夜でもいいのに、なぜか毎回昼間なのである。
のどかな庭園の風景がよく見える寝室で、いつも私はこんな風にされるのだ。

同じ行為であるのに、昼間にするとやたらといやらしく感じてしまうのは何故なんだろう。
声もあまり出したくないのに、それは相手が山元容子であるという時点で無理な相談である。

私は観念して、与えられる愉悦に身を委ねる。そうする事が最も賢明な選択だと、知っているから。

「…あん」

彼女の小さな唇が私の乳首を捉え、舌先は休みなく動いてその先端をどんどん尖らせていく。
反対側の乳首は指先でこねられ、さするように弄り回される。

「あ、あっ…ん」

一瞬にして股間に溢れるものを感じて、内股を擦り合わせてしまう。
そこへ容赦なく彼女の膝が差し込まれていき、両脚は閉じる事を許されず、だらしなく開いた場所は、きっとショーツも透かしてしまうほどに濡れているだろう。

「あん、あぁ…っ」

私は両手を彼女の背中に回し、撫でるようにそれを下へと下げていく。
そのまま彼女のショーツに指をかけ、下げられる所までずり下ろしてから、そっと彼女のお尻を撫でた。
彼女の身体が敏感にその動きに反応し、乳首を舐めていた唇が私の唇にかぶさってくる。

「ん、んん……」

手が届くようになったので、私は彼女の太腿まで下げたショーツの中に指を差し込み、彼女の秘部をまさぐった。
「んん」と、私の口内に彼女の嬌声が響く。

「……」

唇は重ねたままで、私は視線だけで訴える。早く指を入れて欲しい、と。
彼女は心得たように、キスしたまま私のショーツのクロッチをずらして脇から指を押し込んできた。
ぬかるみに指を沿わせるだけで、勝手にそれは秘唇の内側へと導かれていく。

…自分で濡らしておいて言うのもどうかと思うが、指で擦られるだけでもヌルヌルして気持ちが良い。

私は、四つん這いの恰好の彼女の秘部にわざと激しく指を突き入れる。
入れるついでに彼女のもう一つ、後ろの穴にも愛蜜をまぶした指を突っ込んでみると、彼女は悲鳴にも似た声を上げた。

…どうせすっかり開発済みなんでしょと思いながら、きつく締まるその穴の中で可能な限り指をくねらせる。

「あん、いやん、そんな…」

彼女がわずかに唇を浮かせてそんな事を言うので、これはまさか初めてなのかと思って動きを止めると、彼女は「そんな奥まで弄られちゃうのは初めてかも」などと呟いた。

飛び起きてしまいそうなほど驚いたが、どうやら嘘ではないようだった。
まあ少々の愛撫なら経験済みなのだろうけれど。

「…きつくて、抜けないんだけど…」
「やだ、嘘、そ…ああっ、あん」

狼狽えながらも彼女は新しい快感に浸っているようで、それを眺めているのも気分が良かった。
彼女の余裕のなさは、私の膣内に挿入された指がただ痙攣するばかりで、私の内壁を探って楽しもうともしない所からも明らかだった。

…彼女のこの場所がそれほど触られていない事など、考えられるだろうか?
私はなおも疑わしく思いながらも、空いた片手で彼女の小さな頭を引き寄せ、強引に舌を絡ませキスをする。

彼女は「ん、ん」とうめいて、それでも私の舌に自分の舌をいやらしく絡めてくるので、ちょっと悔しくなって彼女の膣内をより激しく穿ってしまった。
彼女は咳き込むように息を吐いて身体を震わせている。

家柄、経済力、商才、人脈、品格、知性、美貌。
他にもたくさんの物を天から与えられた女が、私の目の前で無防備な姿を晒している。
どこの馬の骨ともわからぬ女に、アヌスまで暴かれ、それでも快感に浸ってしまう自分を隠さない。

「…容子さん」
「…っ、んふぁ……容子、でいいのよ」
「……」

何か、超えてはいけない所に来てしまったような気がした。
いけない。私は多分、この人を抱く私以外の人間に嫉妬しているのだ。
それは…良くない事だと思う。

それでも、彼女が遠慮なく撒き散らす淫靡なオーラに充てられて、私は何度も彼女の名を呼び捨てにして、そして詫びるような気持もあって彼女のショーツを片足だけ脱がせた状態で、激しく秘部にしゃぶりついた。

「あ、あっ…あん、…ダメよ、貴女も…」

身体を反転させながら彼女もまた私の秘部に唇を寄せた。
顔が遠くなった文、漏れ出る喘ぎ声はかえっていやらしく響いて聞こえるし、自分の喘ぎ声も彼女にそう受け取られているのだろうと思うと、それだけでも震えるほど興奮した。

「……んん」

彼女の身体からは、高貴なローズの香りが漂う。それはおそらくフレグランスによるものだろうが、彼女の愛蜜もまた、ローズの香りがした。
…そんな人、この世に探せば多分何人かはいるのかもしれないが、少なくとも私がこれから先に出会うかもしれない人の中で、他にいる気はしない。

「…ねぇ、どんどん溢れてくるよ?…容子のここ…」
「あっ、ん…んぐ…」

キングサイズのベッドの上では、かなり動いても落ちる心配はないけれど、私たちは行きがかり上その中央ではなく、変にずれた位置で身体を重ねている。
私の下敷きになっている容子は、喋ろうとしながらその前に私の愛蜜を飲み込んだようだった。頼んでもいないのに。

今日を境に、私たちは当分会わないようにするべきだと思っていたから、その前に私は彼女の身体を隅々まで堪能したかったし、彼女の記憶に少しでも残る女でいたいと思った。
これが好き負けというやつなのかもな、と思いつつ、同時に私は彼女からそれなりの好意を伝えられていた事にやっと気づいてそれを嬉しく思う。

「…今だけ、容子の全部が欲しい」

思うだけのつもりが言葉に出てしまった。
いけないと思う前に「いいわよ」という声が返ってくる。

…この人の、こういう所が良くない。相手をつけ上がらせるではないかと思うけど、今つけ上がっているのは自分なのでスルーした。

*-*-*-*-*-

「あ!…っんん、あはぁ」

容子の偽竿を借りて、彼女を奥まで貫く。それも何度も、飽きる事もなく。
…理由は感嘆。彼女が男にはどんな顔で喘いで見せているのかも知っておきたかったからだ。

腰の動きを止める事なく身体を起こして彼女を見下ろすと、小刻みに乳房や髪が揺れて、あんあん喘ぐ彼女の声も、やはり揺れている。
強烈な全能感を覚えてこちらもアドレナリンが放出され、腰を動かし続けているはずなのに疲れを感じない。

彼女のイキ顔もしっかり見ておきたくて、私は彼女の乳首を指先でこねながら大きく腰を回した。
同時に「気持ちいい?」と彼女の耳元に囁きかける。

…何だか、こういうテクニックは以前に彼女から施されたような既視感も覚えたが、あまり気にならなかった。

偽竿がずれるか抜けるかぐらいしそうなほど、お互いに思い切り愛蜜を迸らせる。こぼれた蜜がどちらのものかさえ判別するのが難しいぐらいに。

「あ、イっちゃってる…いっぱい、い…あぁ」

そしてまた実感するのは、彼女との身体の相性というものが間違いなく良いのだという事。
心でどう思おうと、身体は離れ難いと感じている。
きっと何年か経っていても、また身体を重ねれば溶けてしまうぐらいに感じ合う事ができると、どういうわけだか確信している。

「わかった…ここでしょ?」
「ひ、あぁぁっ」

今わかった訳ではない。地味にずっと知っている所だったけれど。
それでも彼女は初々しいぐらいに鮮烈な声で、身体には貯めておけないぐらいに感じている事を伝えてくる。

「い、一緒に…気持ちよくなりたい」
「私だって、めちゃくちゃ気持ちいい」
「……んぁ、あ、また…っ」
「どうしよう、腰止まらない…」
「続けて、いっぱい…いいから」

先祖返りと言う訳ではないが、二人して初めてみたいに、切羽詰まったように互いを求め合ってしまう。
喉もカラカラだし、関節だって痛いぐらいなのに。そしてきっと容子もそれは同じだろう。

部屋が薄暗くなり日没を迎えた事がわかっても、私たちはまだまだ互いの身体を求め続けた。
ベッドサイドの小さなスタンドの明かりに照らされた彼女の身体もまた、陰影をまとって違う意味で妖艶に見えた。

…自分が男でなくて良かったとさえ思う。
私にもし、射精の能力があったなら、きっと彼女の顔にも身体にも、もしかしたら膣内にさえ容赦なく吐精しているかもしれないと思ったからだ。
そうできない事が悔しいというより、正直ほっとした。

「…容子も、好きなように、して」
「……」

何度も絶頂したはずの容子もまた、どこにそんな体力が残っていたのかと思うほどに激しく私の膣内を貫いてきた。
そもそもの所で申し訳ないが、私も相当の愛蜜をこぼしてぐしょぐしょにしてしまった偽竿を、そのまま容子が装着しているだけでも卒倒しそうなぐらい興奮したのに。
…本当は不潔だとか思うべきものなのだが、容子の愛蜜まみれになった偽竿が、今度は私の秘部に撃ち込まれているのだと思うと、それは私の体内で容子の愛蜜と自分のそれが混じり合うのだと思えて、それもまたひどく私を高ぶらせた。


容子を攻めてばかりいたので、私の中でくすぶっていた欲望は簡単に絶頂までの坂道を駆け上がっていく。
ほんの数回突かれただけで、私の身体は跳ねて絶頂した事を容子にもわかるぐらいに知らしめていた。

「ふふ、すごく可愛い反応するんだもの…ずるいわ」
「え……や、あぁん」
「ほら、…これでしょ?」
「あぁっ、それ、そこダメ…また……っちゃうっ…」
「うふふ、何度でも…イって見せて…ね」

声にならない声が漏れて意識が飛びそうになる。あるいは何度か飛んだのかもしれない。
涙が出そうになった気がして慌てて我に返ったけど、身体は止まらない。

「あ、あぁ…もっと…」

こんなに長時間にわたり、忙しいこの人を引き留めていいのだろうかという考えが頭をよぎるがそれは言葉として発するまでには至らなかった。

「あぁ、また、イくっ…おかしくなっちゃう」
「うん…またイって見せて」

こんなに連続絶頂した経験はそれまでにはなくて、私は正直戸惑うばかりだった。
でも、どうすれば抜け出せるのかもわからないし、抜け出したいとも思っていない。
だから本当に気絶するまで続けるかもしれないなと思ったが、何度目かの時に疲れ果ててしまい、それを察した容子に抱き寄せられるようにして、私は眠りに落ちたのだった。

*-*-*-*-*-

その後しばらくは、本当に私たちは会わなかった。
理由は特にない。と言うかそれを知る必要性もない。

それでも、忘れた頃になんとなく連絡を取り合い、時間が合えば身体を重ねる事もある。
つまり彼女との関係は、厳密に言えば切れていないのだろう。
しかしどこかで、彼女の中でのブームが過ぎれば多分私は一人になるだろうと感じてはいる。

彼女に近づき身体を重ねる中で、なぜか私は納得していた。
天が彼女にいくつもの「物」を与えるには、それなりの理由があったからなのだろうと。

今の私はそのうち一つか二つぐらいは手に入れる事ができたと言えるだろう。
そうして思うのは、彼女もまた天から与えられた「物」を、いつでも、いくらでも放棄する事はできたろうし、努力なしにはそれらを維持できなかったはずなのだと。

更に思うのは。
彼女にはセックスの才能も、きっと天から与えられてはいるだろうが、自分自身を全て開放できる相手にはあまり恵まれないであろう事。
それと、おそらく私と同等かそれ以上に、身体の相性の合う人間は、多く現れないだろうという事だ。

己惚れるわけではなく、なんとなくそれがわかるのだ。
彼女が今、どんな人に夢中になっているかは知らないけれど。

私が立ち上げたアプリ開発チームのメンバーは全員女性である。
女性同士の出会いを目的としたアプリだから…と言う訳ではないが、私はメンバーがこのアプリで女性と出会う事、付き合う事を特に禁じてはいないし、私自身もその恩恵を受けている。

日々そんなメンバーをからかいながらも、私は無意識に探しているのだ。
心も身体も明け渡す事のできるようなセックスができる相手として、彼女を超える存在を。

…でもまだ出会っていない。アプリまで駆使している私がそうなのだから、彼女もおそらく似たような状況ではないかと推測している。
テクニックがあるとか、いやらしいとか、そんな風に相手から好かれる事はあるけれど、私がダメなのだ。

松浦美咲という人には憧れのまま、実らぬ恋をして終わった。
山元容子とはそうではない。憧れではあったけど、浅からぬ因縁を感じたし、事故で終わらせるには関係を深め過ぎた。

もしかしたらそんな風に思っているのは私だけかもしれないけれど。
次に彼女と会う時には、一人前の実業家として、彼女と本当の意味で対等に逢瀬を重ねたいと思っている。
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