Golden Spice

朝陽ヨル

文字の大きさ
上 下
53 / 59
気持ちを自覚してから

繁栄の刺激

しおりを挟む
 授与式のことが放映され、職場では同僚からも上司からも『おめでとう』とたくさんの祝福の歓声が上がった。嬉しくないと言ったら嘘になるが、アレッシュにとっては重要なことではなく喜びは薄い。だが仕事後が楽しみで、皆へ接する顔はいつも以上ににこやかだった。

「……貴方、なんだか今日気持ち悪いわ」

 横目で不審そうな目で見てくるシャリーファがいた。昨日も来ていたが本当に仕事で来ているのか疑いたくなる。

「悪かったな。今日は久々に予定が入って機嫌が良いんだよ。アンタはどうなんだ? 今日も先輩に会いに来たんじゃねえの?」
「は、はあ? そんなわけないでしょ。誰があんな人にっ……仕事で来て、今だってついでに貴方に話しかけてあげたのよ!」

 ほんのり顔を赤く染めて怒りを露にしてこの過剰な反応、そしてこの言い草、絶対脈アリだろう。手を上げてやれやれと呆れながら対応する。

「へいへい。仕事で来たんなら、何がご用件ですかー」
「貴方が呆けてる間に他の人に手続きしてもらったわよ。今は待ってるだけ」
「あっそ」
「ああそうだ、栄誉勲章おめでとう」
「ん、ああどうも」
「あんまり嬉しそうじゃないわね」
「嬉しいには嬉しい。だが俺には過ぎたる物って気がして素直に喜べないんだよな」
「そっ。謙虚なことね。認めてもらえたのだから誇るべきよ。努力をしても気付かれず認めてもらえない人が大勢いるというのに。ある意味嫌みだわ」
「嫌みを言ってるつもりはねえよ」

 会話を続けようとしたが、隣の窓口でシャリーファが呼ばれて行ってしまった。きっと戻って来ることはないだろう。シャリーファの方が嫌みったらしい性格をしている。そして努力家。彼女が言っていた『気付かれず認めてもらえない人』というのは自身のことを指している。悔しいから当たりに来た。それが分かっている為、もし彼女が戻ってきてもただ慰めの言葉を伝えることしか出来ないだろう。
 アレッシュは子供の頃から優秀だった。愛想が良くて大人受けが良く、気さくな性格と頼り甲斐があって友人も多い世渡り上手。身体能力が高く、知能もそこそこで悪くはない。存在感を放っていた。そして運良く、目立たないことも出来た。周りに溶け込み違和感がない。子供の頃は子供と遊び、大人とも遊んだ。飲み屋にいても仲の良い大人が連れてきたのだろうと溶け込み、たくさんの情報を得てきた。騎士としてある程度の地位を手に入れて、指示を出しておけば騎士の仕事は成り立った。上層部に潜り込んでも、地位があるのだからいるのは当然かと黙認されることもあった。いつの間にか王の近くにいても、誰も文句を……違和感を告げなかった。
 昔から何でも出来るように見られた。しかしもちろん出来ないことだってある。別に他人を見て羨ましいと思うことはない。自分の方が大抵出来ることが多いのだから。
 嫌みを言わずにさらっとやってのける。大抵の人は憧れを抱くことが多かったが、彼女にはそれが嫌みったらしく映ったのだろう。シャリーファのように敵対心を持って真っ向からぶつかってくるタイプは周りにいなかった。気の強い人は嫌いじゃない。

 ーー……いやいや、初対面で煽ってきたヤツいた。マニスがあんなだからな……そりゃあ気の強さで言ったらトップクラスだし、気が強いヤツに好感持てるのは自然なことだよな

 夜が待ち遠しい。
 呆けていても仕事はしっかりこなせるのがアレッシュだ。テキパキと仕事をこなし、さっさと退勤する。何かの悪いフラグは簡単にへし折っていった。今のアレッシュを止められる者などいない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

冥府への案内人

伊駒辰葉
BL
 !注意!  タグはBLになってますが、百合もフツーも入り交じってます。  地雷だという方は危険回避してください。  ガッツリなシーンがあります。 主人公と取り巻く人々の物語です。 群像劇というほどではないですが、登場人物は多めです。 20世紀末くらいの時代設定です。 ファンタジー要素があります。 ギャグは作中にちょっと笑えるやり取りがあるくらいです。 全体的にシリアスです。 色々とガッツリなのでR-15指定にしました。

処理中です...