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関係を持ち始めてから
再会 三
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「待ってる間に世間話でもしましょうか。シャリーファはどうしてますか?」
出国してから約五ヶ月で何か変わったのか。
「異動させた」
「異動?」
「お前をスパイだと疑ったようだな。それはアルスを疑うことと同義。知己を侮辱した罪として異動させた。その他関与した者も同様にな」
「優秀な補佐官をやめさせたら、評判や信頼を失うんじゃないですか」
「左遷と捉えた一部の官僚からは不満の声はあったが、見せしめとし気の引き締めにはなった。必要があれば改革は行う。アルスの侮辱は私への裏切り行為。それに間違えるな。やめさせたのではなく異動だ。合わぬ部署で真価を発揮出来ず燻らせていては宝の持ち腐れというもの。シャリーファは好奇心旺盛で大胆且つ慎重さもあり諜報に向いている。他の者もそれぞれスキルを磨かせる為の異動。中には昇進の者もいる。何も問題は無い」
各々のスキルアップの為の斡旋であると言い切っているがやはり懸念を感じる。力不足だと判断して異動を勧めることはアレッシュも立場上あった。しかし今回の件は強引なように思える。
それと以前シャリーファが『ラー様はこんなことで裏切りだと見なさないわよ』と言っていた。しかし実際とは異なる。やはり官僚たちの見立ては間違っていて、ラーの理解には遠く及ばなかったということが分かる。
「仲が良くチームワークの取れてるメンバーが突然離れたら効率が悪くなるし、モチベーションも下がり、ストレスも溜まるもんですよ」
「職場は友を作る場ではない。働く場だ」
「それはそうでしょうけど、その人事は私情を挟んでるでしょう?」
「それ以上は口を噤め。これが私のやり方だ」
他国の問題に口を挟むものではない。だがこんなやり方が続くとしたらいつかは基盤が崩れるのではないかと心配になる。
「私はアルスを高く評価している。アルスを悪く言うことは許せない」
友を悪く言われたから腹いせに人事異動させるなどあまりにも体裁が悪い。しかし実際そのことをシャリーファたちに伝えることは無かっただろう。つまりここだけの話、愚痴を言いたかったのだ。
「その気持ちはアルス様に伝わってると思いますよ。アルス様の口からラー様の話も何度かお聞きしましたし」
「……そうか」
少し間を置いてラーが嬉しそうに微笑んでいる。アルスの話題は何かと楽しそうだ。
「変なこと聞きますが、何故そこまでアルス様を高く評価なさるんです?」
「お前が評価してないことの方が疑問だが」
「そう仰られても……」
アルスは前王ゴードの義理息子に当たる。全く血の繋がりが無いが本当の息子のように可愛がっていた。それを知っているからかアレッシュは妬いていた時期があった。アルスの性格も何となくゴードに似ていて、それが余計に反発するみたく心の底から好きにはなれなかった。
「私に選択肢は残されてなかったが、アルスは王にならない選択が出来た。迷っていたが困っている国民を放っておけないと決意を固めたと言っていた。立派な決断をしたものだ。自ら茨の道を歩むと決めたのだからな」
それならばラーも立派なものだ。幼い頃に両親を亡くし、他に兄弟はおらず十代で君主となった。当時は貧困であった国を親戚らと共に盛り上げ、苦難を乗り越え今に至る。
「アルスだけでは弱くとも夫人の内助の功がある。国民の支持が厚く、それは十分な強みだろう」
「国民の意見に耳を傾け、それで迷ったり惑わされたりしていると聞きましたが」
「それこそ夫婦で意見を出し合い、良い方向に持ってくだろう。それに兄との二分政治、そうそう悪い方向へ転がる事はあるまい」
「……まあ、俺は【今の政治には興味無い】ですが」
吐き捨てるようにトゲのある言い方になってしまった。アレッシュにとっては本当にどうでもいいことでしかないからだ。
「では前の政治には興味あったのか」
「……」
「お前は前王を話題に出すと様子が変わる。夢を託した者、そしてお前の想い人は前王なのか?」
「……分かりやすかったでしょうか」
「まさかとは思ったが」
アレッシュは短く溜め息を吐きながら腕を組み、再び王墓へ身体を向けた。今まで誰かにバレたことはなかったが、隠すつもりはなかった。
「ゴード様は俺にとって特別な人だったんですよ。憧れで、目標で、何もかも俺より先を行く。別れが急ってわけでもなかったのに、傍にいて、死が段々近づいていくのが解ってきて、俺は……絶望した」
影を落とした暗く悲痛な顔をするアレッシュ。
そんな彼を見て同情するが、ラーは疑問を口にせずにはいられなかった。
「前王が夢を託したのは本当なのか?」
「はい?」
「本当にお前に託したのか? 夢というのは野望でもあり、世襲であるなら息子であるアルスに託すのが自然だろう」
「それは……」
「お前宛に遺書や遺品はあったのか?」
「いいえ。表向きはただの一騎士でしたので、俺個人に残すことは有り得ないでしょう」
『表向き』という言葉は気になるが今はそんなことを気にしている場合ではない。
ここで下僕から車の準備が整ったと連絡が入った。公用車にはラーのみが乗るのだと思っていたら無理矢理乗せられる。そもそもの目的はアレッシュがアルスに報告する為であり、ラーが先に到着しても意味が無い。公用車に乗るのは数度目だが、母国では初めてで緊張の度合いが違う。ラーの国ではアトラクション感覚で乗れたが、母国では顔馴染みが多く、目撃されたら何かと厄介である。
出国してから約五ヶ月で何か変わったのか。
「異動させた」
「異動?」
「お前をスパイだと疑ったようだな。それはアルスを疑うことと同義。知己を侮辱した罪として異動させた。その他関与した者も同様にな」
「優秀な補佐官をやめさせたら、評判や信頼を失うんじゃないですか」
「左遷と捉えた一部の官僚からは不満の声はあったが、見せしめとし気の引き締めにはなった。必要があれば改革は行う。アルスの侮辱は私への裏切り行為。それに間違えるな。やめさせたのではなく異動だ。合わぬ部署で真価を発揮出来ず燻らせていては宝の持ち腐れというもの。シャリーファは好奇心旺盛で大胆且つ慎重さもあり諜報に向いている。他の者もそれぞれスキルを磨かせる為の異動。中には昇進の者もいる。何も問題は無い」
各々のスキルアップの為の斡旋であると言い切っているがやはり懸念を感じる。力不足だと判断して異動を勧めることはアレッシュも立場上あった。しかし今回の件は強引なように思える。
それと以前シャリーファが『ラー様はこんなことで裏切りだと見なさないわよ』と言っていた。しかし実際とは異なる。やはり官僚たちの見立ては間違っていて、ラーの理解には遠く及ばなかったということが分かる。
「仲が良くチームワークの取れてるメンバーが突然離れたら効率が悪くなるし、モチベーションも下がり、ストレスも溜まるもんですよ」
「職場は友を作る場ではない。働く場だ」
「それはそうでしょうけど、その人事は私情を挟んでるでしょう?」
「それ以上は口を噤め。これが私のやり方だ」
他国の問題に口を挟むものではない。だがこんなやり方が続くとしたらいつかは基盤が崩れるのではないかと心配になる。
「私はアルスを高く評価している。アルスを悪く言うことは許せない」
友を悪く言われたから腹いせに人事異動させるなどあまりにも体裁が悪い。しかし実際そのことをシャリーファたちに伝えることは無かっただろう。つまりここだけの話、愚痴を言いたかったのだ。
「その気持ちはアルス様に伝わってると思いますよ。アルス様の口からラー様の話も何度かお聞きしましたし」
「……そうか」
少し間を置いてラーが嬉しそうに微笑んでいる。アルスの話題は何かと楽しそうだ。
「変なこと聞きますが、何故そこまでアルス様を高く評価なさるんです?」
「お前が評価してないことの方が疑問だが」
「そう仰られても……」
アルスは前王ゴードの義理息子に当たる。全く血の繋がりが無いが本当の息子のように可愛がっていた。それを知っているからかアレッシュは妬いていた時期があった。アルスの性格も何となくゴードに似ていて、それが余計に反発するみたく心の底から好きにはなれなかった。
「私に選択肢は残されてなかったが、アルスは王にならない選択が出来た。迷っていたが困っている国民を放っておけないと決意を固めたと言っていた。立派な決断をしたものだ。自ら茨の道を歩むと決めたのだからな」
それならばラーも立派なものだ。幼い頃に両親を亡くし、他に兄弟はおらず十代で君主となった。当時は貧困であった国を親戚らと共に盛り上げ、苦難を乗り越え今に至る。
「アルスだけでは弱くとも夫人の内助の功がある。国民の支持が厚く、それは十分な強みだろう」
「国民の意見に耳を傾け、それで迷ったり惑わされたりしていると聞きましたが」
「それこそ夫婦で意見を出し合い、良い方向に持ってくだろう。それに兄との二分政治、そうそう悪い方向へ転がる事はあるまい」
「……まあ、俺は【今の政治には興味無い】ですが」
吐き捨てるようにトゲのある言い方になってしまった。アレッシュにとっては本当にどうでもいいことでしかないからだ。
「では前の政治には興味あったのか」
「……」
「お前は前王を話題に出すと様子が変わる。夢を託した者、そしてお前の想い人は前王なのか?」
「……分かりやすかったでしょうか」
「まさかとは思ったが」
アレッシュは短く溜め息を吐きながら腕を組み、再び王墓へ身体を向けた。今まで誰かにバレたことはなかったが、隠すつもりはなかった。
「ゴード様は俺にとって特別な人だったんですよ。憧れで、目標で、何もかも俺より先を行く。別れが急ってわけでもなかったのに、傍にいて、死が段々近づいていくのが解ってきて、俺は……絶望した」
影を落とした暗く悲痛な顔をするアレッシュ。
そんな彼を見て同情するが、ラーは疑問を口にせずにはいられなかった。
「前王が夢を託したのは本当なのか?」
「はい?」
「本当にお前に託したのか? 夢というのは野望でもあり、世襲であるなら息子であるアルスに託すのが自然だろう」
「それは……」
「お前宛に遺書や遺品はあったのか?」
「いいえ。表向きはただの一騎士でしたので、俺個人に残すことは有り得ないでしょう」
『表向き』という言葉は気になるが今はそんなことを気にしている場合ではない。
ここで下僕から車の準備が整ったと連絡が入った。公用車にはラーのみが乗るのだと思っていたら無理矢理乗せられる。そもそもの目的はアレッシュがアルスに報告する為であり、ラーが先に到着しても意味が無い。公用車に乗るのは数度目だが、母国では初めてで緊張の度合いが違う。ラーの国ではアトラクション感覚で乗れたが、母国では顔馴染みが多く、目撃されたら何かと厄介である。
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