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関係を持ち始めてから
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ラーの寝室。天蓋付きキングサイズベッドでアレッシュとラーは並んで横になっている。気怠そうな表情からは疲労が窺えるが、相変わらず肌ツヤは良い。今夜も二人は盛んだったのだろう。
「野暮なことを聞くが、お前よくマラをくわえたり尻を舐めたり出来るな」
「俺は愛情深いので」
「そう簡単に愛を紡ぐものではないぞ。私のことを愛しているのか?」
「マジで聞くだけ野暮だぜ。こんだけ身体を重ねといて言わせる気か?」
「キスもしないしな」
「あーー……まあな」
ーーマニスも、か……
今までも数回身体を重ねるとキスを求めてくる人はいた。始めに唇へのキスはしないと伝えてあったにも関わらず、身体を重ねたことによってそれ以上を求めようとする。身体だけでは足りないと。
「……野暮用を思い出したんで俺は帰らせてもらう。いいよな」
「……勝手にしろ」
夜を共にした後、ラーが満足して眠るまで一緒にベッドで過ごす。そして朝を迎える前にアレッシュは立ち去る。それが毎度のことだったが今回は違った。
ラーは目覚めているし、きっと満足のいく答えも聞いてはいない。
だがアレッシュにとってそれは偶々気まぐれにそうしていただけあって、今回が特例だったわけではない。さっさと衣服を整えてラーの寝室を後にした。
答えたくなかった。逃げたかった。
ーー逃げたかった? 俺が?
戦争の最中、戦略的撤退はあったにしても、私情で逃げ出したことなんて一度も無い。恋愛面でもそうだ。駆け引きという場面で退くことはあった。相手が食い下がることはザラにあり、それを宥めるか切り捨てることも。必ず当たり障りなく巧く決断してきた。なのに今回、答えを言わなかった。というより、言えなかった。
『愛しているのか?』
『キスもしないしな』
ラーの言葉が的確に自分の痛い所を突いてきた。一瞬動揺し咄嗟に言葉を返せなかった。いつものように流すことは出来たハズ。しかし何故かそれも出来ずにただ【がっかり】という抽象的な気持ちが湧いたことに驚いたり、戸惑ったり、あの数秒の間に混乱が生じたのは確かだ。
ーーああ……調子狂う。クソッ……もっと巧く言えただろ……苛々するぜ
「チッ……」
自身がこんなにも混乱した状態になっていることが腹立たしい。
深夜に帰る道。一年を通して比較的温暖な気候の国だが季節は冬。寒さに慣れた身体である為、大して寒いと感じているわけではないのだが、今はどうにも突き刺さるかのように風が冷たい。数分前までの体の温もりとのギャップが余計にそうさせる。
「おいおーい、そこの兄ちゃん。夜中に散歩かい?」
下卑た笑いを浮かべた見知らぬ男二人が前に立ち塞がる。出で立ちからして貧民程ではないが良い出の輩でもなさそうだ。
ーーそういやこの前女将が夜になったらおかしな奴がうろついてるって言ってたな。もしかしてこいつ等か?
「観光でこぉんな夜中に出歩いてるってことは繁華街かどっかで遊んできたんだろぉ」
「おれたち今金に困っててよぉ。ちぃーっとばかし恵んでくんね?」
「善意で有り金全部くれてもいいんだけどぉ……どうだい?」
男二人は変わらずニヤニヤと笑いながら腰からわざと見えるように刃物をちらつかせている。
ーーはぁ、めんどくせえ……
「何か言ったらどうだい兄ちゃん」
「ビビって声も出せねぇってか?」
「……俺は今最っ高に虫の居所が悪ぃんだよ」
「はっ? いぎっ!!」
「うえっててて!!」
アレッシュが話しながら歩み寄ると、瞬時に男たちの手首を捻り上げ刃物を落とし、次の動きでは一人を足払いし、もう一人には腹へ膝蹴りをかます。怯んだ隙に胸ぐらを掴み上げ倒れた男に叩きつけていた。
「ぐおえぇえっ!!」
「ゴホゴホッ、ゲホッ!! こ……んの……クソがああああッッ!!」
ヒュンッ
ザザーッ
鋭い刃物が風を切ってアレッシュ目掛けて飛ばされた。避けられれば地面に刺さるわけでもなく滑って土埃を立てる。
「危ねえな」
「んがっ!! はぁッ、ごぶぉっおェッ……!」
刃物を投げた男の腹にアレッシュの拳が思い切りめり込むと、唾液か胃液かの体液を吐き出し男は倒れた。
叩きつけられ下敷きにされたもう一方の男はへっぴり腰になりながら逃げ出そうとしていた為、そのガラ空きな背後から首へ手刀を入れ気絶させた。
胸ポケットからハンカチを出すと、地面に転がった刃物を包み上げる。そしてわざとその刃物で自身の腕を軽く傷つけ血液を垂らした。それから男一人を肩に抱え、もう一人は首根っこを掴み引き摺る。向かったのは交番で、男二人を引き渡した。あたかも怪我を負わされた被害者の顔をして。
後日。下宿屋に警官がやって来ると任意で深夜にうろついていた経緯を聴取された。勿論でっち上げた内容をさらりと答えただけなのだが。
引き渡した男二人は脅迫、窃盗及び傷害罪で起訴されることになるのはまた別の話。
「野暮なことを聞くが、お前よくマラをくわえたり尻を舐めたり出来るな」
「俺は愛情深いので」
「そう簡単に愛を紡ぐものではないぞ。私のことを愛しているのか?」
「マジで聞くだけ野暮だぜ。こんだけ身体を重ねといて言わせる気か?」
「キスもしないしな」
「あーー……まあな」
ーーマニスも、か……
今までも数回身体を重ねるとキスを求めてくる人はいた。始めに唇へのキスはしないと伝えてあったにも関わらず、身体を重ねたことによってそれ以上を求めようとする。身体だけでは足りないと。
「……野暮用を思い出したんで俺は帰らせてもらう。いいよな」
「……勝手にしろ」
夜を共にした後、ラーが満足して眠るまで一緒にベッドで過ごす。そして朝を迎える前にアレッシュは立ち去る。それが毎度のことだったが今回は違った。
ラーは目覚めているし、きっと満足のいく答えも聞いてはいない。
だがアレッシュにとってそれは偶々気まぐれにそうしていただけあって、今回が特例だったわけではない。さっさと衣服を整えてラーの寝室を後にした。
答えたくなかった。逃げたかった。
ーー逃げたかった? 俺が?
戦争の最中、戦略的撤退はあったにしても、私情で逃げ出したことなんて一度も無い。恋愛面でもそうだ。駆け引きという場面で退くことはあった。相手が食い下がることはザラにあり、それを宥めるか切り捨てることも。必ず当たり障りなく巧く決断してきた。なのに今回、答えを言わなかった。というより、言えなかった。
『愛しているのか?』
『キスもしないしな』
ラーの言葉が的確に自分の痛い所を突いてきた。一瞬動揺し咄嗟に言葉を返せなかった。いつものように流すことは出来たハズ。しかし何故かそれも出来ずにただ【がっかり】という抽象的な気持ちが湧いたことに驚いたり、戸惑ったり、あの数秒の間に混乱が生じたのは確かだ。
ーーああ……調子狂う。クソッ……もっと巧く言えただろ……苛々するぜ
「チッ……」
自身がこんなにも混乱した状態になっていることが腹立たしい。
深夜に帰る道。一年を通して比較的温暖な気候の国だが季節は冬。寒さに慣れた身体である為、大して寒いと感じているわけではないのだが、今はどうにも突き刺さるかのように風が冷たい。数分前までの体の温もりとのギャップが余計にそうさせる。
「おいおーい、そこの兄ちゃん。夜中に散歩かい?」
下卑た笑いを浮かべた見知らぬ男二人が前に立ち塞がる。出で立ちからして貧民程ではないが良い出の輩でもなさそうだ。
ーーそういやこの前女将が夜になったらおかしな奴がうろついてるって言ってたな。もしかしてこいつ等か?
「観光でこぉんな夜中に出歩いてるってことは繁華街かどっかで遊んできたんだろぉ」
「おれたち今金に困っててよぉ。ちぃーっとばかし恵んでくんね?」
「善意で有り金全部くれてもいいんだけどぉ……どうだい?」
男二人は変わらずニヤニヤと笑いながら腰からわざと見えるように刃物をちらつかせている。
ーーはぁ、めんどくせえ……
「何か言ったらどうだい兄ちゃん」
「ビビって声も出せねぇってか?」
「……俺は今最っ高に虫の居所が悪ぃんだよ」
「はっ? いぎっ!!」
「うえっててて!!」
アレッシュが話しながら歩み寄ると、瞬時に男たちの手首を捻り上げ刃物を落とし、次の動きでは一人を足払いし、もう一人には腹へ膝蹴りをかます。怯んだ隙に胸ぐらを掴み上げ倒れた男に叩きつけていた。
「ぐおえぇえっ!!」
「ゴホゴホッ、ゲホッ!! こ……んの……クソがああああッッ!!」
ヒュンッ
ザザーッ
鋭い刃物が風を切ってアレッシュ目掛けて飛ばされた。避けられれば地面に刺さるわけでもなく滑って土埃を立てる。
「危ねえな」
「んがっ!! はぁッ、ごぶぉっおェッ……!」
刃物を投げた男の腹にアレッシュの拳が思い切りめり込むと、唾液か胃液かの体液を吐き出し男は倒れた。
叩きつけられ下敷きにされたもう一方の男はへっぴり腰になりながら逃げ出そうとしていた為、そのガラ空きな背後から首へ手刀を入れ気絶させた。
胸ポケットからハンカチを出すと、地面に転がった刃物を包み上げる。そしてわざとその刃物で自身の腕を軽く傷つけ血液を垂らした。それから男一人を肩に抱え、もう一人は首根っこを掴み引き摺る。向かったのは交番で、男二人を引き渡した。あたかも怪我を負わされた被害者の顔をして。
後日。下宿屋に警官がやって来ると任意で深夜にうろついていた経緯を聴取された。勿論でっち上げた内容をさらりと答えただけなのだが。
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