5 / 59
ラーと逢う前の過去話
哀悼
しおりを挟む
ああ……もう、こんな季節か。全く、暑苦しい……忌々しい……な。
暑いことが嫌なわけじゃねぇ。虫の音が煩わしいわけでも、海が嫌いでもない。寧ろ好きな方だ。
ただ……思い出させる。あの方との思い出を。
あの方は、いつも俺の先を進んでいた。年齢は遥か上で、知識も剣の腕も経験も、勿論権力も地位もほしいままにしていた。
憧れて、追い掛けて、近づいて、恋焦がれて、我慢出来なくて、焦って、許されて。
そして――愛した。愛された。
ガキの頃、訓練場で稽古をつけてくれたこと。
仕官の約束を交わしてから必死にもがいた期間。
仕官して顔を合わせた時の焦燥。そして衝動と歓喜。
主従としての遣り取り。
二人きりの時のみの競争。
仲間と国の裏切り。
自然への旅。
思い出が溢れて、零れて、もう収まりきらないってのに……俺はまだ、あの方を欲していた。俺の中をあの方で埋め尽くせばいい。
……心酔してんだ。
今でもずっと、きっと死ぬまで。
ただただ、あの方のことを考えたら……いや、何をしていてもあの方のことを考えていた。考えるよりも先に感じて。
心も身体も大人になっても、あの方の前じゃいつまでもガキで。
ずっと、いつまでも一緒にいられるだとか、信じていれば大丈夫だとか、そんな子供じみたことを考えたこともあった。
けれども時は待っちゃくれねぇ。
楽しい嬉しい幸せな………あの時間は、もう返って来やしない。
あの方と過ごした時間は鮮明に覚えてる。瞳を閉じればまだあの方がいるんじゃないかと錯覚する。
夢幻のように儚く――。
イっちまった。
イかれた。
イった。
あの方は…………逝った。
そう……ちょうどこんな暑い日に。
こっちじゃお盆だとか、墓参りする習慣があるらしい。
それに則って母国へ帰る。
母国へ帰れば家族が、友人が、仲間がいる。
俺には会う資格なんか無ぇってのに、な……。
笑っちまうよ。そんな大事なモンと一人の男を天秤に掛けたんだぜ?
ホントに笑える。笑える話だ。滑稽だろ。
国を狂わせた張本人。犯人を誰も知らないんだぜ? 知ってるのはあの方と俺だけ。
今となっては俺しか知らない事実。
『誰も犯人を知らない。だから、資格を喪失したことにはならない』
それは詭弁だ。けれどあの方はそれで良いと言った。
俺の『気まぐれ』で大事なモノを失う必要はない、と。『気まぐれ』なんかじゃねぇさ。本気だった。全てを失っても欲しかった。
結局はあの方の配慮で、力で何もかもがもみ消された形になったわけだ。
母国に着き、真っ先に向かったのは思い出の場所。
――――訓練場。
初めて出逢ったこの場所に、俺は墓を建てた。名は刻まず、シンプルな墓を。
その辺りを綺麗に掃除し、墓の前で手を合わせた。
「きらびやかな装飾より、貴方は自然を愛した……。ですから、こういう仕様も悪くないでしょう?」
返事はなくとも、きっとこう返ってくるだろうと想像して。
「貴方の言う通り、しっかり会いましたよ。友人にも、仲間にも、家族にも。貴方の望みでしたから」
まるで目の前にいるかのように話した。そうだいるんだ、此処に。
「俺は約束を守る男なんでね。惚れ直しましたか?」
こんな時、高らかに笑うんだ。とても笑顔が綺麗で、笑い皺の似合う人。
だから俺も高らかに笑った。
こういう辛気くせぇのは俺には似合わない。そうでしょう、ゴード様。
暑いことが嫌なわけじゃねぇ。虫の音が煩わしいわけでも、海が嫌いでもない。寧ろ好きな方だ。
ただ……思い出させる。あの方との思い出を。
あの方は、いつも俺の先を進んでいた。年齢は遥か上で、知識も剣の腕も経験も、勿論権力も地位もほしいままにしていた。
憧れて、追い掛けて、近づいて、恋焦がれて、我慢出来なくて、焦って、許されて。
そして――愛した。愛された。
ガキの頃、訓練場で稽古をつけてくれたこと。
仕官の約束を交わしてから必死にもがいた期間。
仕官して顔を合わせた時の焦燥。そして衝動と歓喜。
主従としての遣り取り。
二人きりの時のみの競争。
仲間と国の裏切り。
自然への旅。
思い出が溢れて、零れて、もう収まりきらないってのに……俺はまだ、あの方を欲していた。俺の中をあの方で埋め尽くせばいい。
……心酔してんだ。
今でもずっと、きっと死ぬまで。
ただただ、あの方のことを考えたら……いや、何をしていてもあの方のことを考えていた。考えるよりも先に感じて。
心も身体も大人になっても、あの方の前じゃいつまでもガキで。
ずっと、いつまでも一緒にいられるだとか、信じていれば大丈夫だとか、そんな子供じみたことを考えたこともあった。
けれども時は待っちゃくれねぇ。
楽しい嬉しい幸せな………あの時間は、もう返って来やしない。
あの方と過ごした時間は鮮明に覚えてる。瞳を閉じればまだあの方がいるんじゃないかと錯覚する。
夢幻のように儚く――。
イっちまった。
イかれた。
イった。
あの方は…………逝った。
そう……ちょうどこんな暑い日に。
こっちじゃお盆だとか、墓参りする習慣があるらしい。
それに則って母国へ帰る。
母国へ帰れば家族が、友人が、仲間がいる。
俺には会う資格なんか無ぇってのに、な……。
笑っちまうよ。そんな大事なモンと一人の男を天秤に掛けたんだぜ?
ホントに笑える。笑える話だ。滑稽だろ。
国を狂わせた張本人。犯人を誰も知らないんだぜ? 知ってるのはあの方と俺だけ。
今となっては俺しか知らない事実。
『誰も犯人を知らない。だから、資格を喪失したことにはならない』
それは詭弁だ。けれどあの方はそれで良いと言った。
俺の『気まぐれ』で大事なモノを失う必要はない、と。『気まぐれ』なんかじゃねぇさ。本気だった。全てを失っても欲しかった。
結局はあの方の配慮で、力で何もかもがもみ消された形になったわけだ。
母国に着き、真っ先に向かったのは思い出の場所。
――――訓練場。
初めて出逢ったこの場所に、俺は墓を建てた。名は刻まず、シンプルな墓を。
その辺りを綺麗に掃除し、墓の前で手を合わせた。
「きらびやかな装飾より、貴方は自然を愛した……。ですから、こういう仕様も悪くないでしょう?」
返事はなくとも、きっとこう返ってくるだろうと想像して。
「貴方の言う通り、しっかり会いましたよ。友人にも、仲間にも、家族にも。貴方の望みでしたから」
まるで目の前にいるかのように話した。そうだいるんだ、此処に。
「俺は約束を守る男なんでね。惚れ直しましたか?」
こんな時、高らかに笑うんだ。とても笑顔が綺麗で、笑い皺の似合う人。
だから俺も高らかに笑った。
こういう辛気くせぇのは俺には似合わない。そうでしょう、ゴード様。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
21
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる