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「遊びに行くのって他の人も呼ぶのかなって。二人きりならデートって言うだろうし、
他に誰か呼ぶなら違うって言うと思って。遠回しに確認したかったんだよね」

 はぐらかすというよりもそれとなく理由らしい理由を適当に答えた。
 それを聞いた山下は不安そうな顔をしている。

「つまり、二人きりはダメだったということですかね」
「そうじゃないよ。ホント、ただ単に人数が知りたかっただけ。行く場所も知らなかったからヒントになるかと思って。行く場所によって服装も変わるでしょ?」
「それはすみません、やっぱり言っておけば良かったですね」
「ううん。秘密だったから着いた時ビックリしたし、ワタシのやりたいこと覚えててくれたんでしょ? 嬉しかった。ありがとね」

 微笑みを浮かべてお礼を述べれば、山下は下を向いて「どういたしまして」と小さく笑った。
 その時、後におやつをあげた、負けてしまった猫の中の一匹が斎藤へ寄ってくる。

「もうおやつ無いよ」

 猫に話しかけても返事はなくソファに飛び乗る。そして斎藤の隣に姿勢を低くして座った。

「来てくれた……」

 近づいたら逃げられるを繰り返していた為、自ら近づいて来てくれた猫に思わず感動する。触ったら逃げてしまうかもと思いつつこんな近くにいるのだから触らずにはいられない。そっと手を伸ばして背中に触れた。
 びくっと身体を震わせたが、それでもおとなしくその場に止まっている。そのままゆっくりと撫でていると、眠そうに目を細めていた。

「よかった、かわいい……」
「絵になりますな」
「何言ってんの」
 
 パシャッ。

 シャッター音が確かに聞こえた。音がなった方へ顔を向けると、スマートフォンを構えた山下がいる。

「斎藤さんもかわいいですよ」
「んばっ! バカじゃないの!?」

 褒められて照れていた輩が、自分が言う側となると照れもせずサラリと言ってのける。 
 斎藤は顔を真っ赤にして眉を跳ねさせ声を張り上げた。

「というか勝手に撮らないで! 消して!」
 からかっているわけではないのだが、「ダメですか?」なんて冗談めかして言うものだから、斎藤も「ダメったらダメッ!」と思い切り断っていた。
 二人のやり取りに驚いた猫は颯爽うと他の猫たちのもとへ去ってしまっていた。




「そろそろ出る?」

 部屋にある掛け時計を見ると意外と時間が経つのは早いと感じた。正確には覚えていないが、キャットルームに入って二時間以上経過していた。猫を追ってみたり見つめて待ってみたり、猫じゃらしで遊んで、ソファに座って棚に置いてある漫画を読んで休憩し、再びおやつを買ってきて猫たちにあげたりと満喫していたのだ。

「そうですね。あっという間でした」
「そうだね。楽しかった」
「はい」

 別れを惜しみつつ猫たちに手を振り出口から出る。手を消毒して、それから動物のグッズを見て回る。あまりグッズを買わない斎藤だが、これも良い機会だと目に留まった招き猫のキーホルダーを二つ手に取り、山下が見ていない隙に買った。

「帰りますか?」
「うん。山下君は何か買ったの?」
「家族にちょっとしたお菓子を」
「そっか」
「斎藤さんは何か買ったんですか?」
「私もちょっとしたものを買ったよ」
「そうなんですか」

 何を話していいかお互い分からず、話題に困りながら視線をさ迷わせた。
 動物園を出て駅に向かいながら見慣れない土地でぼんやりと景色を眺めている。無言でいると会話をしている時よりも不思議と相手を意識してしまう。学校では有り得ない距離感で隣を歩くと、微かに手の甲が触れあった。
 そして山下の厚ぼったい手が斎藤の小さな手に優しく重なる。目を合わさず、無言で手を繋いで歩いている。触れた手はとても温かく、ごく自然と駅までそうしていた。
 駅に到着すると斎藤から手を離して先にホームへ入っていった。
 丁度良いタイミングで電車がやってきて乗車する。席はガラリと空いており客は少ない。端の席に二人は座ると電車は発車する。

「疲れましたね」
「ね。ちょっとだけ眠い」

 あくびをする斎藤。つられて山下もあくびをする。

「着くまで寝てて良いですよ」
「山下君も眠いでしょ」
「大丈夫です。起きてます」
「そう。じゃあ少しだけ」

 目を閉じて俯く。頭上から「おやすみなさい」と囁くようなかすれ声が耳を抜けていった。そこから意識は飛んでいく。こくこくと頷くように頭が上下し、体は横に振れ、肩がぶつかる。
 肩で支えて、山下はただ真っ直ぐ斎藤を見つめていた。
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