Black Baby

朝陽ヨル

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繋がり

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 ああ……私はこんな幸せでいいのか、なんて心の中で呟いてみる。

 気まぐれに参加したイベントでたまたま優勝して、欲しかったモノなのかも判らない可笑しな子供を手に入れて、羅蔵が《出来て》。

 それでも迷って、またあの闇市に行って。救いを求めて。いるかも分からない人に会いに行って、会ったら会ったで逃げ出した。

 あたしは……臆病だ。好意を、愛情を向けられると逃げたくなる。

 ……あ、れ……? そういやあいつ、なんでいたんだ……?

 あの日、何も無い日だった。闇市は何も無い日はただの物置場みたいな、廃棄場みたいな、そんな所よりも何も無い場所。人も寄り付かない。そんな所にアイツは一人で何をしていたんだ?

 まるで……あたしが来ることを知っていたみたいな。

 ゾワッと背筋に悪寒が走る。でも何故か安心感みたいなモノもある。どんだけおめでたい頭なんだ。

 ゴン、お前って何?

 次に会ったらそう言って問いただしたい。知りたい。答えを知りたい。

『麻弥……俺とここにいればいい、ずっと。そしたら……』

『次は……………分かってるだろ?』

 分かんねぇよ……! 次会ったら分かるのか……? だったら会ってやるよ。

 そう思ってやたら長く感じる夜。羅蔵と繋がっている夜。あたし達は今、満たされている。普段は服で隠れた綺麗な漆黒の翼。今日は月明かりに照らされて、より一層綺麗に見える。


「ねぇ、麻弥。……ずるいよ」

「は?」

 何か様子がおかしい。いつもはもっと、うるさい位喋ってるのに今日は静かだ。というより、ついさっきまではうるさかった。今、急に静かになった。

「俺といるのに、他の男のこと考えてるでしょ」

「!!」

 確かにゴンのことは考えた。むしろ、なんで今、最中にあいつのことを考えたのか自分でも分からない。
 羅蔵は知った風に言って、大人びた顔であたしを見てくる。その表情は月の光が逆光でよく見えないけど、声色で分かる。冷たい顔をしている。

「羅蔵、わ、悪い……」

 羅蔵といてあたしは変わった。心配したり、怒ったり、一緒に笑ったり、悲しんだり、相手を気にかけるようになった。それは、羅蔵に対してだけだけど。それでもあたしは変わったんだ。だからあたしは、羅蔵に何かしてやりたい。

「謝らないで。麻弥は素敵だから目移りしちゃうのは当然だよ」

 違う。あたしはそんな大した人間じゃない。

「そうですよね~?」

「!?」

 羅蔵から羅蔵じゃない声が聞こえる。この声は、あの司会者のような気がする。

「貴女はそんな出来た人間じゃない。むしろ底辺にいるようなクズだ」

「あ!?」

「けれど美しい」

「……意味が分からねぇよ」

「俺にも分からないなー」

「ゴン!?」

 今度はゴンの声に変わった。なんだ、何が起きているのか分からない。

「せっかく俺がお嬢ちゃんの時から目ぇ掛けてやったのにな~」

「し、知らねぇよ!頼んでねぇだろが!」

「ツンデレもかわいいが、大概にしねぇと……相手、いなくなっちまうぜ?」

「ハッ。あたしには最初から誰もいねぇよ」

「俺も?」

 羅蔵の声に戻る。寂しそうな、傷ついたみたいな、そんな声で。

「俺もいらない?」

「違うっ!」

「----」

「え?」

 ぶつぶつと呟く。
 
 今、何て言ったんだ?

「麻弥……俺……」

 そう言って羅蔵は、あたしをベッドの上で押さえた。表情は逆光で分からない。

「俺……、おかしくなりそう……おかしくなる……!麻弥……!」



〈……ニ……ゲ、テッ……!〉



 その声はとても人間とは思えなかった。逃げて、そう聞こえた。あたしは言葉を返そうとしたが、返せなかった。首を締められていたから。

「ッ……、ぁ……ぞ……ッ」

 苦しくても、辛くても名前を呼んだ。だが段々それが出来なくなる。締めつけられる力は強まるばかり。

「……っ……」

 これはあたしの執念だ。たとえその姿が、もうあの羅蔵とは違っても。あたしは羅蔵の腕を掴んだ。微かに力が緩んだ気がする。だから話しやすくなった。

「……羅蔵っ!……あたしは……、あんたを……」

【愛してる】

 その言葉を羅蔵が聞くことはなかった。

 目の前には、穏やかに笑った麻弥の首が転がっていた……。 

 結局、あたしの【欲しいモノ】って何だったんだ?

『貴女は自分の欲を知りたいと思いませんか?』

 分からないじゃねぇか。バカヤロー……。でも、まあ……いいか。あたしは死んだ。羅蔵の手で。あたしの息子、あたしが唯一愛した人、それに殺されるなら本望だ……。



 END
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