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富士田 権太郎
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「よぉー麻弥」
「……ゴン」
闇市に到着して真っ先に話しかけてきたのは富士田権太郎だった。と言っても、闇市にはイベントが無い日にはほとんど人の出入りなど無く、偶然いたのが権太郎だ。
「どうした? 今日は何も無い日じゃなかったか?」
「ゴンはどうしているんだ?」
「おいおい麻弥ちゃーん、人の話聞いてくれよー」
「聞いてる。で? あたしの質問に早く答えろ」
「わあ……相変わらず麻弥ちゃんは我が道を突き進んでいておじさん安心ー」
「そのちゃん付けやめろ。気持ち悪いって言っただろ」
「自分が言ったことはちゃっかりしっかり覚えてるのね……」
こうふざけた話し方をが、この闇市内で一番話しやすい人物であるのは確かで。闇市に世話になっていた時に一番話していたのはこの男。他のメンバーに会ったことはあるが、みんな似たような性質だった気がする。
……自分と同じような、死んでるみたいな目をして。人生に疲れて、辟易して、諦観してる。そんな奴等ばっかりだった気がする。覚える気にもならなかったから曖昧な記憶しかない。
権太郎はめんどくさそうに、よく言えば眠そうに、後頭部を掻きながら言った。
「俺はいつもヒマしてるから、ここで時間潰してるのよ~。麻弥も一緒にど? おじさんの暇潰しに付き合わない?」
「構わない」
「そっかそっか、麻弥ちゃんはいつも忙しくていらっしゃるから………ってぇええええ!! いいのぉおおお!!?」
あたしの返答が予想外だったのか非常に驚くゴンの顔が可笑しい。
「あっ、ひど~い麻弥ちゃん! そんな笑わないでよ~」
「は? 笑ってないし」
「鏡を見てみろよ。そのカワイー顔が映るからさ」
「ふざけたこと言ってるとそのドタマぶち抜くぞ」
「……はい、ごめんなさい」
素直に頭を下げて謝罪する権太郎。頭を上げればまたあのへらへらした顔をしている。
「全く……麻弥には口説き文句も通用しないのな」
「またふざけたこと……」
「ふざけてないんだけど?」
「っ!」
あたしは目をカッ開いた。何が起こったのか脳が追い付いてない。権太郎に壁際まで追いやられて、押し付けられて、身動きが取れない。
「俺は本気だ」
権太郎の表情が逆光で見えない。声がいつものチャラけたモノとは違っていて、静かで冷静で、まるで別人のような錯覚さえ覚える。
「離せ馬鹿ッ!」
「離さない。麻弥……俺とここにいればいい、ずっと。そしたら……」
「離せって言ってんだろが!!」
「ッ!!」
押さえつけられていた腕はそれ程強い力ではなかった。腕を振り払って顔面を殴ってやった。
「~~~いったぁあーッ!!」
殴られた箇所を押さえながら涙目で見てくる権太郎。ざまあみろ。
「ふんッ、ずっとそうしてろ」
そう吐き捨てて、あたしはその場を去ろうとした。権太郎に背中を向けると……。
「また来いよ」
その声はやけにハッキリと聞こえた。
「次は……………分かってるだろ?」
その問いに答えず、あたしは闇市を出ていった。微かに体を震わせて。
どうしてこんな反応をするのか自分でも分からない。ただショックだったのかもしれない。アイツも所詮は男だったのかって。
あたしはただ、何も分からないまま家路に着いた。玄関を開けると羅蔵が迎えに来る。
「まや、おかえりなさい!」
その屈託の無い笑顔を見て、あたしは無意識に羅蔵を抱きしめていた。
「……ゴン」
闇市に到着して真っ先に話しかけてきたのは富士田権太郎だった。と言っても、闇市にはイベントが無い日にはほとんど人の出入りなど無く、偶然いたのが権太郎だ。
「どうした? 今日は何も無い日じゃなかったか?」
「ゴンはどうしているんだ?」
「おいおい麻弥ちゃーん、人の話聞いてくれよー」
「聞いてる。で? あたしの質問に早く答えろ」
「わあ……相変わらず麻弥ちゃんは我が道を突き進んでいておじさん安心ー」
「そのちゃん付けやめろ。気持ち悪いって言っただろ」
「自分が言ったことはちゃっかりしっかり覚えてるのね……」
こうふざけた話し方をが、この闇市内で一番話しやすい人物であるのは確かで。闇市に世話になっていた時に一番話していたのはこの男。他のメンバーに会ったことはあるが、みんな似たような性質だった気がする。
……自分と同じような、死んでるみたいな目をして。人生に疲れて、辟易して、諦観してる。そんな奴等ばっかりだった気がする。覚える気にもならなかったから曖昧な記憶しかない。
権太郎はめんどくさそうに、よく言えば眠そうに、後頭部を掻きながら言った。
「俺はいつもヒマしてるから、ここで時間潰してるのよ~。麻弥も一緒にど? おじさんの暇潰しに付き合わない?」
「構わない」
「そっかそっか、麻弥ちゃんはいつも忙しくていらっしゃるから………ってぇええええ!! いいのぉおおお!!?」
あたしの返答が予想外だったのか非常に驚くゴンの顔が可笑しい。
「あっ、ひど~い麻弥ちゃん! そんな笑わないでよ~」
「は? 笑ってないし」
「鏡を見てみろよ。そのカワイー顔が映るからさ」
「ふざけたこと言ってるとそのドタマぶち抜くぞ」
「……はい、ごめんなさい」
素直に頭を下げて謝罪する権太郎。頭を上げればまたあのへらへらした顔をしている。
「全く……麻弥には口説き文句も通用しないのな」
「またふざけたこと……」
「ふざけてないんだけど?」
「っ!」
あたしは目をカッ開いた。何が起こったのか脳が追い付いてない。権太郎に壁際まで追いやられて、押し付けられて、身動きが取れない。
「俺は本気だ」
権太郎の表情が逆光で見えない。声がいつものチャラけたモノとは違っていて、静かで冷静で、まるで別人のような錯覚さえ覚える。
「離せ馬鹿ッ!」
「離さない。麻弥……俺とここにいればいい、ずっと。そしたら……」
「離せって言ってんだろが!!」
「ッ!!」
押さえつけられていた腕はそれ程強い力ではなかった。腕を振り払って顔面を殴ってやった。
「~~~いったぁあーッ!!」
殴られた箇所を押さえながら涙目で見てくる権太郎。ざまあみろ。
「ふんッ、ずっとそうしてろ」
そう吐き捨てて、あたしはその場を去ろうとした。権太郎に背中を向けると……。
「また来いよ」
その声はやけにハッキリと聞こえた。
「次は……………分かってるだろ?」
その問いに答えず、あたしは闇市を出ていった。微かに体を震わせて。
どうしてこんな反応をするのか自分でも分からない。ただショックだったのかもしれない。アイツも所詮は男だったのかって。
あたしはただ、何も分からないまま家路に着いた。玄関を開けると羅蔵が迎えに来る。
「まや、おかえりなさい!」
その屈託の無い笑顔を見て、あたしは無意識に羅蔵を抱きしめていた。
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