Black Baby

朝陽ヨル

文字の大きさ
上 下
2 / 7

優勝

しおりを挟む
 どう進もうとか考えなかった。どうせ優勝なんて無理だから。じゃあどうして参加した? それはあの男の言葉にムカついたから。

『貴女は自分の欲を知りたいと思いませんか?』

 知りたいと思った。
 それを他人から提示されて、知れる機会が与えられて、苛つきが増していく。苛々して歩くペースが速くなる。分岐点があっても迷うことはない。
 何故だろう。こんなに道があるのに迷わない。行き止まりにならない。
 本当に辿り着く場所があるのか? ゴールは、終わりはあるのか?
 ドクン、ドクンと胸が高鳴る。緊張しているからじゃない。これはきっと興奮しているから。今までこんなスムーズに事が進んだことがない。いっそのこと、ずっと終わりが無い方がいいとすら思える。
 右、左と適当に進む。しかし止まることはなかった。まるで自分が道を作っているようだ。
 ……疲れた。
 二時間は歩き通しだ。さすがに疲労が溜まる。
 もうそろそろ……着いてもいいだろ……。
 そう思ってしまった。だからかもしれない。曲がり角を進んだ先。赤い扉があった。

「ぱんぱかぱーん!」

 どこからか分からないが、あのテンションの高い司会の声が聞こえてきた。

「あなたがこの場所へ一番乗り~優勝でーす!!」

 は? ……嘘、だろ……? あたしが……優勝……?
 あたしの思いを他所にその司会は話を進めようとあたしの願いを促す。

「さあさ、あなたはご自身に勝ったのです! その扉を開くことであなたは欲しいモノが手に入ります! 欲しいと思いませんか? そう思われるなら、さあ……その場所への扉を開いて下さい」

『貴女は自分の欲を知りたいと思いませんか? そう思われるなら、さあ……この場所へ赴くとよろしいですよ』

 あの謎の男の言葉が頭を過ぎる。酷く、似ている。

「おい! あんたさっきの男だろっ! 隠れてないで顔見せろ!!」

 誰もいないのに叫んだ。でも確かにいる。誰かが。
 いくら待っても返事がない。それどころか、他の参加者が一向に誰一人として来ない。
 ………おかしい、だろ。これは夢か? こんなこと、現実にある筈がない。自分の欲しいモノが手に入る。たかが迷路を攻略しただけで。主催には何の利益もないのに。何の企みがあるかも分からない……それが闇市だ。……でも、夢なら覚めなくていい……。こんなつまらない現実に戻るくらいなら……。
 扉に手を掛ける。力を入れ、思い切り引っ張った。
 あたしの欲しいモノって何だ!?
しおりを挟む
ランキングに参加しております。清き一票をよろしくお願い致します!ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

処理中です...