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三章〈summer days〉~冷や汗は努力の雫~
二 有馬視点
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八月のロシアは日本みたいに暑くなくてちょっと肌寒いくらい。アーシャの婚約解消のことを話すって考えたら余計に寒く感じる。
家に到着。ロシアの家も豪邸で、むしろ日本の家よりも大きい。普段パーパ一人が暮らすには広すぎる。広いのがステータスなのかもしれないけど。もちろんお手伝いさんが毎日やって来て家事をしてくれている。
「セーニャ」
「パーパ!」
家主兼俺のパーパ登場。手を広げてる胸に抱きついた。
「久しぶり! 調子どう?」
「悪くない。セーニャはどうだ」
「すっごい元気だよ」
「旦那様」
「おお千慧。千慧も変わりないか」
「ええ、お変わりなく」
両親が抱き合ってキスする。別に変わった光景じゃないけど、日本じゃあまり見かけないから久しぶりって感じがする。
一家団欒、と言うには色々足りない。義理の兄は来てないし、みんな黙って夕食を食べる。それから談笑なんてほんの数分だった。
パーパは好きだけど年に数回しか会えないし、マーマは日本で一緒に暮らしてるのにあまり話す機会がない。仮初めの家族みたいだ。
マーマがシャワーを浴びている間がチャンス。マーマがいるとまともに話が進まなそうだから。マーマがシャワーへ向かったタイミングで俺はパーパに声をかけた。
「パーパ、話しておきたいことがあるんだ」
「なんだ?」
「……婚約の話なんだけど」
「ああ、ピョートルの娘のアナスタシアだろう? 仲良くやってるのか」
「アーシャとは仲良くしてるけど……」
どうしよう、言わないといけないのに……喉まで出かかってるのに言えない……
「前にピョートルと一緒にここに遊びに来たことがあったな。明るくていい子だ。彼女を嫁にもらったら家庭が明るくなりそうだな」
パーパは嬉しそうに話してる。そんな笑顔を俺は壊さないといけないのか……心苦しい……。でも、それでも俺は……
「パーパ、聞いてほしい。俺……アーシャと話し合ったんだ。それで…………婚約を……解消したい」
言った……! 言ってしまった……! 凄くドキドキしてる。パーパがどんなこと言うのか……怒られるかな……呆れる? まさか勘当とか……
「そうなのか……二人が話し合った結果がそうなら受け入れるしかないな」
「えっいいの?」
「いいとは? 二人で決めたんだろう?」
「そりゃあそうだけど。でも婚約ってパーパが決めたんだろう? よく知らないけど、政略結婚みたいなそういうあれこれがあるんじゃないの? あっさりしすぎじゃない?」
「何を言ってるんだ。婚約はお前たちが決めたんだろう」
「ええ? どういうこと!?」
「セーニャとアナスタシアの仲が良いから婚約したって聞いたぞ。だからパーパは了承しただけだよ」
「聞いたって誰に?」
そう質問した時、タイミング悪くパーパのスマホから着信があった。パーパは電話しながらリビングから出ていった。
本当にタイミングが悪い。漫画みたいな展開だ。漫画ならここでパーパが仕事が入ったからこれから行かなきゃってなって聞けず終いになるんだ
数分経過してパーパが戻ってきた。
「すまん、セーニャ。仕事でトラブルがあったらしく急遽行かないといけない」
「ほら~やっぱり!」
「やっぱり?」
「パーパ、一生のお願いだから婚約のこと誰に聞いたのかだけ言って!」
「セーニャ……一生のお願いは一回しか使えないんだぞ? こんな時に使っていいのか」
「じゃあ一生じゃないお願い! 誰に聞いたか教えて?」
パーパにしがみつきながら目を大きく開けて困り顔で見つめた。
この時のパーパは分かりやすく顔がニヤニヤするからきっと嬉しいんだと思う。こういう風に迫って欲しい願望がありそう
「しょうがないな、可愛いセーニャの頼みだから教えてあげよう」
ガチャン
扉が開く音が聞こえてきた。それはもちろんマーマが戻ってきたということ。パーパの電話が長引いたせいだ。
「千慧、会社でトラブルがあったそうだから今から行ってくる」
「まぁっそれは大変ですわね。お気をつけていってらっしゃいませ」
「ああ」
ああじゃないよ! 多感な息子の前でイチャイチャチュッチュばかりして! 俺だって早くチョコとしたいのに……じゃなかった、今はそれどころじゃない
「パーパ、さっきのは……」
「マーマに聞いてみるといい。それじゃあ、行ってくるよ」
マーマには唇、俺には頬にキスしてパーパは行ってしまった。余程急ぎのトラブルみたいだ。
マーマに聞く……? でも婚約のことはマーマから聞いたのに……
「……ねえ、マーマ」
「なに?」
「俺とアーシャの婚約のことだけど……パーパが決めたことだったんじゃないの? パーパに聞いたらさ、俺とアーシャが決めたって言うんだよ。でもマーマはパーパが決めたって言ったよね」
「最終決定は旦那様よ」
「最終じゃなくて最初に決めたのは誰なの」
「それを知ってどうするというの。もう決まったことよ」
「決まったことでも撤回出来る。俺とアーシャは話し合ったんだ。二人とも合意して、婚約を解消することにした」
静かなリビングにひとつ溜め息が漏れる。マーマは眉間にしわを寄せながら、片手でそのしわを揉んでいる。
「ふざけたことを言わないでちょうだい。そういう冗談は嫌いよ」
「冗談じゃないよ」
「はぁ……有馬、わがまま言わないで。決まったことはそう簡単には覆らないわ。それにアーシャとの婚約はメリットばかりなのよ。アーシャの父親、貴方にとっては叔父ね。あちらも大企業を立ち上げているし、結婚すればコネができる。出世が約束されるの。より勢力を拡大させることだってーー」
「そんなのマーマの理想じゃないか」
話を遮って俺は声を荒げた。頭に血が上って、アドレナリンでも分泌されてるんじゃないかってくらい攻撃的な思考が頭を巡ってくる。
「俺はマーマのお人形じゃないんだよ!」
「有馬!」
リビングを飛び出して、一応用意されてる自分の部屋に駆け込んだ。ベッドしかないからベッドに飛び乗ってベッドカバーをくしゃりと掴む。
最悪……反抗期かな。頭が冷えたらまた聞いてみよう……
家に到着。ロシアの家も豪邸で、むしろ日本の家よりも大きい。普段パーパ一人が暮らすには広すぎる。広いのがステータスなのかもしれないけど。もちろんお手伝いさんが毎日やって来て家事をしてくれている。
「セーニャ」
「パーパ!」
家主兼俺のパーパ登場。手を広げてる胸に抱きついた。
「久しぶり! 調子どう?」
「悪くない。セーニャはどうだ」
「すっごい元気だよ」
「旦那様」
「おお千慧。千慧も変わりないか」
「ええ、お変わりなく」
両親が抱き合ってキスする。別に変わった光景じゃないけど、日本じゃあまり見かけないから久しぶりって感じがする。
一家団欒、と言うには色々足りない。義理の兄は来てないし、みんな黙って夕食を食べる。それから談笑なんてほんの数分だった。
パーパは好きだけど年に数回しか会えないし、マーマは日本で一緒に暮らしてるのにあまり話す機会がない。仮初めの家族みたいだ。
マーマがシャワーを浴びている間がチャンス。マーマがいるとまともに話が進まなそうだから。マーマがシャワーへ向かったタイミングで俺はパーパに声をかけた。
「パーパ、話しておきたいことがあるんだ」
「なんだ?」
「……婚約の話なんだけど」
「ああ、ピョートルの娘のアナスタシアだろう? 仲良くやってるのか」
「アーシャとは仲良くしてるけど……」
どうしよう、言わないといけないのに……喉まで出かかってるのに言えない……
「前にピョートルと一緒にここに遊びに来たことがあったな。明るくていい子だ。彼女を嫁にもらったら家庭が明るくなりそうだな」
パーパは嬉しそうに話してる。そんな笑顔を俺は壊さないといけないのか……心苦しい……。でも、それでも俺は……
「パーパ、聞いてほしい。俺……アーシャと話し合ったんだ。それで…………婚約を……解消したい」
言った……! 言ってしまった……! 凄くドキドキしてる。パーパがどんなこと言うのか……怒られるかな……呆れる? まさか勘当とか……
「そうなのか……二人が話し合った結果がそうなら受け入れるしかないな」
「えっいいの?」
「いいとは? 二人で決めたんだろう?」
「そりゃあそうだけど。でも婚約ってパーパが決めたんだろう? よく知らないけど、政略結婚みたいなそういうあれこれがあるんじゃないの? あっさりしすぎじゃない?」
「何を言ってるんだ。婚約はお前たちが決めたんだろう」
「ええ? どういうこと!?」
「セーニャとアナスタシアの仲が良いから婚約したって聞いたぞ。だからパーパは了承しただけだよ」
「聞いたって誰に?」
そう質問した時、タイミング悪くパーパのスマホから着信があった。パーパは電話しながらリビングから出ていった。
本当にタイミングが悪い。漫画みたいな展開だ。漫画ならここでパーパが仕事が入ったからこれから行かなきゃってなって聞けず終いになるんだ
数分経過してパーパが戻ってきた。
「すまん、セーニャ。仕事でトラブルがあったらしく急遽行かないといけない」
「ほら~やっぱり!」
「やっぱり?」
「パーパ、一生のお願いだから婚約のこと誰に聞いたのかだけ言って!」
「セーニャ……一生のお願いは一回しか使えないんだぞ? こんな時に使っていいのか」
「じゃあ一生じゃないお願い! 誰に聞いたか教えて?」
パーパにしがみつきながら目を大きく開けて困り顔で見つめた。
この時のパーパは分かりやすく顔がニヤニヤするからきっと嬉しいんだと思う。こういう風に迫って欲しい願望がありそう
「しょうがないな、可愛いセーニャの頼みだから教えてあげよう」
ガチャン
扉が開く音が聞こえてきた。それはもちろんマーマが戻ってきたということ。パーパの電話が長引いたせいだ。
「千慧、会社でトラブルがあったそうだから今から行ってくる」
「まぁっそれは大変ですわね。お気をつけていってらっしゃいませ」
「ああ」
ああじゃないよ! 多感な息子の前でイチャイチャチュッチュばかりして! 俺だって早くチョコとしたいのに……じゃなかった、今はそれどころじゃない
「パーパ、さっきのは……」
「マーマに聞いてみるといい。それじゃあ、行ってくるよ」
マーマには唇、俺には頬にキスしてパーパは行ってしまった。余程急ぎのトラブルみたいだ。
マーマに聞く……? でも婚約のことはマーマから聞いたのに……
「……ねえ、マーマ」
「なに?」
「俺とアーシャの婚約のことだけど……パーパが決めたことだったんじゃないの? パーパに聞いたらさ、俺とアーシャが決めたって言うんだよ。でもマーマはパーパが決めたって言ったよね」
「最終決定は旦那様よ」
「最終じゃなくて最初に決めたのは誰なの」
「それを知ってどうするというの。もう決まったことよ」
「決まったことでも撤回出来る。俺とアーシャは話し合ったんだ。二人とも合意して、婚約を解消することにした」
静かなリビングにひとつ溜め息が漏れる。マーマは眉間にしわを寄せながら、片手でそのしわを揉んでいる。
「ふざけたことを言わないでちょうだい。そういう冗談は嫌いよ」
「冗談じゃないよ」
「はぁ……有馬、わがまま言わないで。決まったことはそう簡単には覆らないわ。それにアーシャとの婚約はメリットばかりなのよ。アーシャの父親、貴方にとっては叔父ね。あちらも大企業を立ち上げているし、結婚すればコネができる。出世が約束されるの。より勢力を拡大させることだってーー」
「そんなのマーマの理想じゃないか」
話を遮って俺は声を荒げた。頭に血が上って、アドレナリンでも分泌されてるんじゃないかってくらい攻撃的な思考が頭を巡ってくる。
「俺はマーマのお人形じゃないんだよ!」
「有馬!」
リビングを飛び出して、一応用意されてる自分の部屋に駆け込んだ。ベッドしかないからベッドに飛び乗ってベッドカバーをくしゃりと掴む。
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