99%興味【打ち切り】

朝陽ヨル

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二章〈witnesssee〉~初めての嫉妬~

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 ーー日曜日。
 待ち合わせ場所で待っていると時間通りに有馬がやって来た。

「おはようチョコ」
「ん……、はよ」
「今日も変わらずキュートだな! 制服の一体感というかペアルックみたいなのもいいけど、個性の出る私服もチョコらしさが出ていていいね」
「またわけわからんことを……制服は制服だろ。ペアルックってな……」

 有馬の言うことは理解し難いことがよくある。いちいち全てに応えていたら疲れてしまうので三割くらいは聞き流してる。
 服装の話になると俺もまじまじと有馬の格好に目を向ける。

「お前は……シンプルだな」
「シンプルいいだろう?」

 ビッグシルエットの白Tシャツにボディバッグ。下は黒のスキニーパンツとスニーカーでスッキリとまとまっている。
 俺も同じようにTシャツと下はチノパン。別に悪いとは思ってないが、有馬と比べるとややガキくさいような気がする。
 きっとスタイルの差もあるような気もする。土台が良ければ服のセンスが悪くてもある程度補填されるし、センスも良いなら相乗効果でより良く見えるものだ。
 
「チョコも素敵だよ」
「~~っ! う、うっせぇ! 早く行くぞ!」

 さらっと急に褒められるのは心臓に悪い。
 ヤバイ、もう顔が暑くなってきた。このキラキラ笑顔を向けられるとどうも調子が狂う……
 予定は買い物。二人で買い物。これといって特別なことではないが、学校以外のプライベートで二人きりで出掛けるということに特別感があって柄にもなく浮き足立っている。

「どこ行くんだ?」
「近くのデパート。ノートと、あとコンパス買わないとだね。次の数学で使うらしいから」
「ああ、そう言えば言ってたな。じゃあ俺も買っとくか」

 そんなまともな会話をしながらデパートに着く。文具を買って、それから本屋に寄って雑誌をざっと立ち読みする。有馬は参考書や問題集のコーナーを眺めている。
 ……アイツも案外真面目だよな。問題集なんか見てる。元々あんなだから委員長に選ばれたとか? アイツの場合立候補だろうけど

「俺の顔に何か付いてる?」
「いや……別に」

 有馬が戻ってくると読んでいた雑誌を棚に戻した。
 高ニだし、就職とか進学のことを考えるとそういう勉強に力を入れないといけないのは俺も同じなんだよな……
 グキュルルル……
 腹の虫が鳴いてる。朝はあまり食べなかったからか鳴るのが早い。

「そろそろ昼食べようか。俺も減ってたから」
「あ、ああ……」
「何がいい? そこのファストフード?」
「安いしそこでいいか」
「うん」

 トントン拍子に決めてくれるのは助かる。有馬は数冊参考書を買って、それからファストフード店に入った。適当にセットを頼んで席に着く。有馬の持ってきたトレーの上には一人分とは思えない量が乗っている。バーガーが三つある時点でカロリーが大変なことになりそうだ。

「そういやお前……大食いだったな」
「いっぱい食べないとお腹空くだろ? ファストフードって軽めのものが多いから」
「肉も入ってるし脂っこいからがっつりしてるんじゃ……」

 手掴みで食べられるとあって軽めのものもあるが、有馬の注文したものは明らかに軽めのものではない。いただきますと言ってから顔に似合わず豪快にバーガーを頬張る。ポテトを摘まんで、シェイクを飲んで、またバーガーを頬張って。見てるだけでも気持ちがいい。

「どうしたんだい? 冷めちゃうよ?」
「ん、ああ」

 言われて俺も注文したバーガーにかぶりつく。量を比べると俺が少食のようだ。
 俺が食べ終わるのと同じくらいに有馬も食べ終わった。
 腹を休める為に席から立たず、残っているジュースを飲みながらのんびりと寛いでいる。 

「食べるの早ぇな」
「そうかい? ……ふふっ、チョコは少食だな」
「普通だっつの」

 買い物をしてから一緒に飯を食う。友達なら普通にすることで、別に特別な関係じゃなくてもすることだ。けれど俺たちは恋人同士で、二人きりで出掛けている今はデートの内に入るのだろうか。
 昨日のメールからやたらそわそわしちまって、バカみたいに嬉しくて。有馬はどんな気分なんだろう? 有馬もデートだと思ってメールしたのか?

「……なぁ、チョコ」
「んあ?」
「この後さ……俺の家に来ない?」
「え……」

 思わず固まる。その後の言葉が出てこない。即答出来なかったのは、予想していなかったことと本当に行っていいのかということと、他人の家に行ったことが無くて心の準備が出来てないということで逡巡している。

「い、嫌、かな……?」
「……い、行く……」
「……え、あ、来てくれるかい!?」

 有馬も心無しか不安そうな顔をしていた。俺が行くと答えると破顔して喜んでいるのが見て取れる。
 嬉しそうな顔しやがってゴールデンレトリーバーが浮かんでくる。でも、そんな顔されるのは嫌じゃねぇ
 前に言われたことを思い出す。家に呼ぶのは特定の人、特別な人しか呼ばないと。だから実際にお呼ばれされたのは嬉しいことだ。

「うん、じゃあ行こう! 前に話したボルシチをご馳走したいんだ」

 そういやそんな話してたな
 有馬の家に行くことに決まり、デパートを出て案内されるがままついていく。

「お前の家って遠いのか?」
「ちょっと遠いかな。学校からだと一時間くらい」
「うわ……」
「ここからならそんなにかからないよ」

 ああ、だからこっち方面に待ち合わせしたのか。つまり、今日は家に呼びたかったってことだよな?

「ふぅん……」
「え、どうしたんだい?」
「別に」

 昨日メールしてくれればこんなに緊張することは無かったのに。もしかしたら有馬も人を家に呼ぶことに緊張しているのかもしれない。

「ちょっと家に連絡入れるよ」
「ああ、じゃあ俺も」

 ご馳走になるということはきっと夕飯になるだろう。母親に夕飯はいらなくなったとメールしておく。
 あっ、家に邪魔するってことはなんか手土産とか必要だよな

「なあ、家族って何人だ?」
「どうして?」
「家に邪魔するし手土産でも買おうかと思ってよ」
「ああ、手土産なんていいよ。行くの急に決まったことだし。それに今日はいないしね」
「そうなのか。夜勤ってことか?」
「夜勤とも違う気はするけど……俺もよく知らないんだ」
「ふうん」

 家族のこと聞くのって初めてかもしれない。困ったような顔してるけど、聞くのはマズかったのか?

「じゃあ日持ちするもんにするわ」
「いや……いつ帰るか分からないし、それにお菓子とか食べるような人じゃないからさ。だからホント気を遣わないでいいよ」
「はあ、そうか。じゃあ今回はやめとくか。つーかいつ帰るか分からないって……」

 どういうことだよ。そもそも家族何人かって聞いてんのに。

「セーニャ!」
「アーシャ?」

 女の声が聞こえたが別に構わなかった。周りの客だろうと思ったらからだ。しかし有馬が反応したことに驚く。有馬が向いた方に俺も視線を向けると、最近見たことのあるブロンド髪が映った。
 あのブロンド女!!
 ブロンド髪の女がやってくる。さり気なく有馬にボディタッチをしたのを見逃さなかった。

「あら、この前のコじゃない。セーニャ仲良しなの?」
「モチロンさ。俺の大事な人だよ」
「やめろ」
「えっ……」
「んなことベラベラ他人に話してんじゃねぇよ」

 ……違う。俺が言いたいのはそういう風に当たりたいわけじゃねぇのに……

「なーに? 照れてるの?」
「えっと……まあ、チョコは照れ屋だからね」
「これからお家? ワタシも一緒に行っていい?」

 やめろよ。来るなよ。そんなの有馬が許すわけねぇだろ

「ああ、もちろんだよ」

 は? もちろんって……俺たち今からお前の家に行くんだよな? 家に呼ぶのって特定の人しかって言ってなかったか? 特別だからって、それで今日行くんじゃないのかよ

「…………もういい」
「チョコ?」
「…………もう、いいって言ってんだよ」

 イライラする。この女にも、有馬にも。

「勝手にその女と行けよッ!!」
「あっ、え、チョコ!?」

 俺は全力で、アイツ等が見えなくなるまで走った。どこかもわからない中をひたすら。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 久々に全力で走った。もう、疲れた。

「わけわかんねぇよ……」

 堂々と俺の前で家に誘うってどうかしてんだろアイツ。向こうから言ってきてたけど、それでも意味は同じだ。家に行くことに変わりはない。

「……あの女も特別ってことなのかよ」

 あんな風に見せつけなくてもいいのに仲良さそうなアピールしやがって。有馬の中じゃ恋人は何人いてもいいとかそういう考えなのか? それとも男女で一人ずつとか? バイってそういうのアリなのか? もしくは俺はただの……いわゆるセフレ……? 一度ヤッたからもう満足したとか……?

「……好きなんじゃねぇのかよ……っ」

 大事な人ってなんだよ……有馬は俺とブロンド女が会ったの見たことねぇし、あんな初めて会うヤツにいきなし大事な人だって紹介すんのおかしいだろ。男同士だし。有馬がバイだって知ってるならそれもわかるが……でも
 有馬のああいう非常識なところは本当に理解し難い。二股をかけている。その相手に大事な人だと紹介する。意味が分からない。

「そういやどこだ」

 デパートから出てひたすら走っていたから町中ではある。この辺りは初めて来た場所で全然知らない。

「あーーーー……クソッ」

 自己嫌悪しながら歩いていたら公園を見つけた。入ってベンチに座る。項垂れて大きく溜め息を吐いた。

「はぁ……どうすんだよ」

 せっかく有馬が買い物に誘ってくれたのに。家にも行くって言ったのに。人に道でも聞けばすぐに帰れるだろう。しかしこのまま帰ってしまうのは勿体無い気もする。

「見つけたっ……迷える仔羊ちゃん……!」
「……早ぇよ、見つけるの」

 がむしゃらになって走ったが、体力無いからきっと実はそんなに走ってない。
 有馬は俺の前で跪く。

「……ごめん、チョコ」
「何に謝ってんだよ」
「わからない。でも俺が何かしてしまったんだろう? チョコが何に怒ってるのか知りたいから教えてほしい」

 座ってる前に有馬がいるから立ち上がれず逃げられない。
 真剣な顔をしている。きっと怒ってる。
 でもそれはこっちも同じだ。

「……さっきの女」
「アーシャのこと?」
「お前の……彼女かよ」
「そんなわけないじゃないか! 俺にはチョコがいるだろ!?」
「女を普通家には呼ばねぇよ。彼女以外は」
「…………」

 黙るなよ。やっぱりそうなのかよ……

「チョコ、先に謝っとくよ。ごめん」

 な、なんだ? 殴るのか?

「んあッ!!」

 抱きしめられる。前から力強く。急な温もりに体が過剰に反応する。抵抗しても全然力は緩まない。

「っん……やめっろ! 離せ!!」
「離さない!!」

 そう強く言って、更に有馬の腕に力が込められる。

「俺の恋人は拓だけだよ!」
「……ッ……」
「こうやって抱き締めるのも、一緒に出掛けるのも、キスしたいと思うのも拓だけだ」

 ああ……ホント、この天然は……!

「こんな所で言うことじゃないだろ」
「今言わないと、またどこかに行っちゃいそうだから」

 そう言って有馬が唇を重ねてきた。ほんの一瞬だけ。

「ね、俺の家に行こう」
「……」

 俺は黙り有馬の服の裾をそっと掴んだ。
 キスで丸め込まれたとかそんなんじゃない。有馬の真剣な顔と言葉を信じてみようと思った。だから家についていくことを決めた。
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