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朝陽ヨル

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二章〈together〉~待てば待つほど焦らされて~ 

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 目に入れても痛くない寧ろ食べちゃいたいくらい可愛いチョコのデレが見れたから、今の俺は胸がいっぱいさ。
 教室を出て会合を行う為の会議室がある特別棟へと向かう。
 特別棟は少し離れた場所にある。特別と言われるだけあって設備が整っている。一般生徒でも入れるが入れない部屋もあり、パスワードを打ち込んだりカードキーや指紋認証など様々な防犯システムが展開されている。厳重なシステムが敷かれた部屋程、重要視されているのだろう。
 俺は一般生徒よりの学級委員長だから厳重なところには入れないし別に興味もない。
 何も無くても入れる部屋には備品とか資料とか色々あるから、そのテの物が好きな人には面白い所かもしれないね。
 お、前を歩いているのは……
 肩につくかつかないかくらいの茶髪をハーフアップに結っている学生。俺よりも身長が高く体格も良い。左腕には腕章が付いており生徒会のメンバーであることが分かる。この情報から導き出される人物は一人しかいない。

「どうも」
「なんだお前まだこんなところにいるのか。早く先に行ってろ」
「冷たいなー」

 この冷たい態度の人は俺の兄で生徒会長なんだ。兄と言っても義理のだけど

「こういう集まりにはトップが最後に遅れて入るのが定石だろーが」

 はて、定石ってどんな意味だったかな?

義兄にいさんはそういう演出が好きだよな」
「何事にも演出ってのは大事だぞ弟。まずは場を盛り上げてこそ生徒会長だ」

 生徒会長ってそんな役割だっただろうか? 他にもあると思うんだけど。この義兄はそういう変なこだわりがある人だ

「ええと……先に行ってればいいんだね」
「ああ。本当は最初から会議室で偉そうに待ち構えているのがベストなんだが、アイツのせいで成り立たないしな」
「それをしたいなら会議室に泊まるしかないね」
「そんなしち面倒なことしてる暇があるなら他にやるべきことをやってる方が有意義だ」
「ふふっ、だろうね」

 俺と兄さんは似てるってよく言われるけど、本当は全然似ていない。顔は兄弟だから仕方ないけれど性質が大分違う。弱点なんか特に。

「無駄話はいい。さっさと行け」
「貴方も行くんですよ」
「吾妻」
「副会長」

 やって来たのは副会長の吾妻千歳あづまちとせさん。兄の右腕と呼ばれていて秘書のような人。見た目は黒髪眼鏡なサッパリと清潔感があって本当に秘書のようだ。この人は凄い。なにせこの俺様ゴーイングマイウェイな義兄が認めて信頼してる友人なんだ。

「こんにちは。有馬君」
「こんにちは」
「暢気に挨拶してねぇで早く行けっての」
智継ともつぐ
「へえへえ」

 促されると素直に言うことを聞いている。まるで吾妻さんが義兄を影で操ってるんじゃないかと思うくらいだ。
 吾妻さんがこんなにも凄いと思えるのは、兄が本当に凄い人だからだ。何が凄いって言葉一つじゃ表すことは難しい。俺も詳しくは知らないけど、義兄がこの学校にとって革新的なことをやってのけたということだけは知ってる。上級生や先生方も一目置く存在であることは確かだ。
 会議室には既に俺たち以外全員集まっていた。俺、副会長、遅れて義兄の順に入り着席する。
 今回の会合はニ学年の学級委員長、風紀委員、生徒会が集っている。会合でしか会わないメンバーもいるから見てる分には楽しい。
 しかーし!! 今はこんなことよりチョコと楽しくなりたかった! だってチョコが自分から話しかけてくれたんだよ? そしてあんなにデレてくれたんだ。本気で会合をサボっちゃおうか悩んだくらいさ

「おい、藍庭」
「なんだい?」
「余所見をするな。浮わつくな。話に集中しろ」
「わかっているよ。で、何の話だい?」
「はぁ……」

 この口うるさい小姑みたいなのが通称鬼の風紀、佐倉さくらだ。毎回会合には一番乗りで着席しているらしい。一体何分前からいるのか。

「修学旅行についてですよ。最終報告と確認です」
「成る程。最近はこの話しかしていませんからね!」

 進行を務めている吾妻さんが答えて下さる。気が利くし何より優しい。

「お前のクラスのアンケートをざっと見たが空欄がやたらと多かった。真面目に説明したのか?」
「そりゃしたさ。アンケートだし気軽に書いてくれたまえーって言っといた」

 そう答えたら佐倉はまたぶつぶつと文句を言ってくる。
 これくらいで怒っていたら胃に穴が空いてしまうよ。はぁ……早く会合が終わってほしいな

「集団行動時、各班行動時、自由行動時の注意事項の把握、現地の情報収集を各自しておくように。自由行動の範囲はクラス毎に任せる。その采配は学級委員長に任せることとする」
「宿泊先の手配等は終わっていますし、生徒会からは他に特記事項はありませんね。あとは二年生の皆さんで気をつけて楽しんできて下さい」

 義兄と吾妻さんが話してほぼまとまりつつある。最終チェックだから結構かかると思ってたけど、意外と早く終わるかも

「ではアンケートの集計を行います」
「アンケートの集計を今からやるんですか!?」
「最終会合の日以外にいつやれと?」

 佐倉の冷ややかな言葉や眼差しには動じることは無いんだ。けど義兄の視線は鋭くて緊張する。心の中を見透かされてるみたいで無言でも圧力を感じるのに更に口が開かれる。

「説明をしたばかりだが、自由行動の采配は学級委員長に任せると言ったな。アンケート内容は自由行動の行き先について。アンケートを集計し、結果からどうクラスメートをまとめ指示するのか、効率的に理解させるのに何が必要となるのか事前に対策をする。行き当たりばったりで意義の無い修学旅行にはしたくないと思わないか? なあ
「……はい。しっかりと対策します」
「藍庭のクラスは未記入が多かったようだな。なら自由度が増すだろう。ただ奔放を許してるわけじゃない。遊びに行くと勘違いしてもらっては困る。独自に考え行動することで個々の思考判断能力を養う為だ。いかにそのまとまらないクラスメートたちをまとめ上げるのかリーダーシップが問われるな。期待してるぞ」
「…………尽力します」

 真っ直ぐ俺を見ながら微笑んでくる。会議室に入る前は全く笑わなかったのに。それが逆に怖くてぞわりと背筋が寒くなる。家族間での冷たさではなくて、赤の他人に向ける冷たさ。声のトーンは穏やかだが抑揚が無くて淡々としていて、まるで敵意でもあるような錯覚さえ覚える。
 学校内では俺たちが兄弟だと知っている人は限られている。吾妻さんは知ってる一人で、だから会議室に入る前の廊下でのやり取りは兄の素で、今は完全に作っているのだろう。俺もそれに合わせて上級生に話すような話し方になっている。どうして俺たちが兄弟だと知られていないのか、それは苗字が違うからだ。

「アンケートの集計とまとめをするのに不都合があるのなら答えてみてくれ」
「……ありません」
「そうか。なら始めよう」

 義兄の静かな説教が終わりアンケートの集計を開始する。
 こうなったらもう成るようにしか成らないな。なるべく早く片付けられるように頑張ろう。待ってて、チョコ!
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