99%興味【打ち切り】

朝陽ヨル

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一章〈eccentric〉~声に出さなきゃ伝わらない事だってある~

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 俺は言葉が少ねぇから。肝心なこと言わねぇから。だから勘違いされる。言わねぇと……言いたいこと。言っておきたいこと
 わななく唇を開いて、呼吸を繰り返して硬いものを詰まらせたような喉を少しずつ慣らしていく。少しだけ吸った空気、その分だけの声量を出していく。

「……………楽し、かった……鎌倉。……他に、もっと……楽しくて、お前が……お前といると……俺、楽しくなってきてさ……」

 …………限界。恥ずかしくて死にそう。声も体もガタガタしてっし、カッコ悪ぃ……目頭が熱い
 これ以上喋ると泣きそうで、堪らえようと手のひらで強く目尻を押さえつけた。また俯いていたら上から鼻をすする音がして顔を上げたら予想外のことが。

「チョコ……」
「……!?」

 コイツの顔を見てギョッとする。
 何でコイツが泣いてんだよ。しかも号泣だな!

「チョコがそんなに俺のことで心打たれてたなんて……!」
「ま、まあ……」
「俺っ、感動しすぎて興奮してきたよ!」
「はぁ。……こ、興奮?」

 コイツが言うとおかしな風にしか聞こえねぇんだが……

「やっぱり俺……チョコと離れるの嫌だ。チョコともっといたいし触れたい。恋人に戻りたい」
「んなっ」

 また直球で……!

「……だめか?」

 泣きながら赤くしょぼくれた顔して、なんつーこと聞いてくるんだ。これはズルいだろ

「バラすのやめたからさ」
「テメッ! バラす気でいたのかよ!?」
「チョコが興奮すると思って……良かれと思って考えていたんだ、公開プレイ」

 はあ? こ、公開……ぷ、ぷれい?

「ままま、待て。なんだそのぷれいとかも意味分かんねぇけど、バラすってそういうことか? 俺の体質のことをバラすってことじゃねぇの?」
「え? 違うよ。そんな人のプライバシーの侵害なんてするわけないだろ?」
「その公開ぷれいとかってのも侵害な気がするんだが……」

 なんだよ……じゃあ違ったのか? 脅しじゃねぇってことは付き合うとかそういうのは……アレは……え? ガチってことなのか?

「公開プレイ抜きなら、また俺と付き合ってくれる?」
「つ、つ、付き合うとか……つかさ、なんで俺にそんなつっかかってくんだよ。男なら他にたくさんいんだろ、男子校だし。俺を選ぶの意味が分かんねぇ」
「…………興味、かな」

 微笑んでそんなことを言われて内心ではウンザリする。予想通りの答えだった。
 やっぱりな。一人でいるのが珍しいからとかどうせそんなだろ

「あの時さ、お前、珍しく残ってただろ? いつも早く帰ってたのに」
「……ああ……先公に呼び出しくらってたからな」
「だから珍しいなって。そう思ったのと……ちょっとだけ、寂しく感じたからさ」
「……哀れみかよ」
「チョコにじゃないよ。俺自身がだよ」

 コイツが?
 普段の有馬を見てるとそんな風には思えない。そう思えるだけで、実際は他人が何をどう抱えているかなんてわからないものだが。

「あの時、さっき言ってたクラス日誌書いててさ、書き終えてからぼんやりと考えてたんだ。何やってんだろうなって……ほんの少しだけ虚しくなってね」

 ……コイツでも虚しいって思うんだな

「チョコに話し掛けて、そしたら一目惚れした」
「は、はぁ!?」

 初対面じゃなかったし一目惚れとは言わないだろなんて、そんなことを言う程今の俺には余裕がない。
 じりじりと間合いを詰めてくる。今の今まで号泣して泣き腫らした顔のヤツが、真顔で近寄ってくる。

「ねぇ、ちゃんと……恋人になりたい」
「こ、困るっ!」

 声を張り上げた。さっきとは大違いな程、声がよく通る。それもそのハズ、全力で焦っているからだ。
 男同士でなにすりゃいいんだよ!?

「……キスまでしたのに」
「あれはチゲェ! 大仏とだッ!」
「じゃあ……大仏とならいい?」
「い、嫌だ! 大仏なんかよりお前と……」
「「………………」」

 うがあああああああッ!! なんだ今のぉおおおおおおッ!! 訂正!! 今すぐ訂正だ!! 今のは俺が言ったんじゃねえええええええっ!!

「いいっいっい今のナシ! チゲェ、マジで! マジで間違えっつか、大仏よりかはってことで! いや、だから」

 しどろもどろと手を意味もなくひらつかせたり、目線を彷徨わせたり、その場でぐるりと回ってみたり、体も頭も大混乱だ。
 そして有馬はそんなことはお構い無しに満面の笑みでどんどん近寄ってくる。

「チョコ」
「……っ」

 肩掴んで……っ

「ちゃんと、大仏じゃなくて俺として欲しい」

 顔……近い。息かかって、目が真剣で……ヤベェって……心臓が壊れそう。痛いし苦しい……

「拓とキスしたい」

 このタイミングで名前とか……! どんだけカッコつけだよ!
 イラッとするよりもトキめいたらしい正直な自分の心にイラッとする。もう本当に鼓動がうるさくて痛くてムカつく。

「バカ……かよっ。……~~~~んあっ……と、えと、か、軽く…………ち、ちょっとだけ、なら……」

 承諾しちまった。俺の方がバカだろこれ。クソッ……んなキラキラ笑顔すんなよ。それ見ると俺もなんか変になんだよ

「ありがとう」
「うっ……」

 ヤベェっての……コイツの笑顔……顔がいい分上乗せ効果っての? 男の俺でも……ぐらっとなるっつか……あああ……近づいて……くるっ

「ん……」

 やわらけ……あのゴムみてぇな臭いとかしねぇ。……当たり前か

「……はぁ……っ」

 マジでちょっと……

「チョコ……」

 そんな目で見るな……

「もっと……だめ?」

 崩れそうだ……

「あぁ……しろよ」

 見つめられて吸い込まれそうだと思った。吸い寄せられた、と思うのが正解かもしれない。目を、唇を見て……ゾクゾクして……シャツのしわを掴んで引き寄せた。今度は自分から唇に触れる。

「……んっ……、ン……」
「は……、……チョコ……」
「……あり、……まぁ……」

 どこもかしこも熱くて目の前がクラクラする。
 人の感触が嬉しかったから。俺が認められたみてぇで……嬉しかったから……
 受け入れた自分に、もっとと崩れた理由を後付ける。これで本当によかったのか。それはまだわからないけれど、今はとても心地良いと感じた。
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