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朝陽ヨル

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一章〈love turn〉~初デートは素直に~

三 拓視点

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 なんだ? 急に大人しくなりやがって。まあいい、その方がマシだしな

「はぁ、ここが鎌倉か」

 古びてるっていうか……キレイな所もあって……なんだったか趣? があるっていうか……

「チョコ、ちょっとそこで買い物いい?」

 駅から歩いてすぐの通りには店がたくさん並んでいた。食べ物のいい匂いも漂ってくる。有馬はその中でとある店を指した。

「ああ。ここで待ってる」

 俺は人通りが多いので道の端で待つことにした。
 なんだあの店……皿とか置いて……骨董屋……? にしてもここも人通り多いな……

「お待たせ」
「早ぇな」
「買うもの決まってたからな。はい」
「?」

 布?

「風呂敷だよ。端掴んで」
「はぁ? 何で」
「いいから」

 掴んでどうすんだよ……あ、なんかサラサラして手触りいいな……柄も派手すぎねぇし……割と好きかもしんねぇこういうの

「……で、俺もこっちの端を掴めば……ほら! 手繋いでるみたいじゃないかい?」
「はあ? んなことの為にコレ買ったのかよ。くだらねえ」
「恋人らしいことしたいじゃないか」
「……」

 ………わけ、わかんね……

「手じゃねぇし……」
「触れたらチョコが困るだろう?」
「ああ当たり前だッ!!」
「だから、ね?」

 う……、……んな、無駄にいい顔で笑ってんじゃねぇよ……何でそんな嬉しそうなんだよ
 抑え気味のその笑顔。バカみたいにキラキラしてない分、落ち着いた表情はきっと万人受けすること間違いない。

「………し、仕方ねぇな。この通りだけだからな。迷わない為に仕方なくやるだけだからな!」
「うん、……チョコはやっぱり優しいな」
「は、はぁ!? んなことあるかバカッ!!」

 優しいとかっ……マジでバカじゃねぇのっ!? だから、んな顔してんな! 笑ってんじゃねぇよ!

「この通りは人多いし、狭いからぶつからないように気をつけてな?」
「ああ……言われなくたって分かってるし」

 風呂敷……ひらひらして、なんか掴み所なくて、キレイな柄で……コイツみてぇ……

「チョコ。そんな暗い顔してないで、ほらアレ! 鶴岡八幡宮だよ」
「……ああ」

 まだ遠いけど……デケェな……。名所だけあって人多い……

「んわっ!?」

 ちょっ、肩に手!
 抱きすくめるみたいに肩にそっと置かれた手。触れた箇所からじわじわと熱が帯びてくる。

「ちょっとだけ我慢してて。すぐ抜けるから」

 わ……吐息がくすぐった……んな真面目な顔して……、なんだよ、コレ……
 自分の耳と有馬の口が近くて、静かに掠れた声が響いてぞくりと背筋が震える。


✿✿✿✿✿


「よし、抜けたー」

 道幅が広いところまでやってくると、有馬との距離が少しだけ離れた。けれど肩には手が置かれたままだ。

「チョコ平気?」
「……平気じゃねぇ。早く離せ」
「あ、ごめんごめん。つい触りたくなって」
「変態が……」
「はは。……あ、もう大通りだから風呂敷もおしまいか……」
 
 ぎゅっ

「待て。こっちは……まだいい。触れて……ねぇから。知らねえ場所で迷うかもしれねえし」

 俺は何を言ってんだか。ただの気まぐれだ。本当に迷ったら困るし。こいつの弱点を見逃すわけにもいかねぇし

「そうか? 嬉しいな。まだ手繋いでていいんだ」
「だから手じゃねぇし」

 コイツ………案外、天然かもな。こんだけのことでこんなに笑うなんて。つられて俺も笑えてきた。

「近づいてきたな」
「デケェな……初めてみたわ」
「あっちの舞殿は結婚式挙げられるらしいよ」

 有馬が指すのはいかにも和の雰囲気のある建物だ。普段は上がることが出来ないようになっている。そんな特別な場所らしい。

「へぇ、記念になるな。……結婚式ってそういうもんか」
「うん。古風でいいな……チョコ似合いそう」
「ぶっ!! おまっ、似合うか!!」

 大人しかったのに突然きやがったな変態トーク。花嫁衣装が男に似合ってたま……

「え? 袴とかいいと思うのに」
「………」

 そっちかよ!! ややこしい……。いや、普通そっちか。ヤベ……コイツの影響か? もう末期かもしんねぇ……しかもなんで俺が女側だよ

「袴ってキチッとしてていいよな、あの禁欲的なのが」
「…………」
「少しだけ脱がしてみて、はだけた感じが堪らない。横から手を突っ込んだりして」
「やっぱり変態じゃねぇか! 少しは見直したと思ったのによぉ!」
「えっ?」

 あ、ヤベ……

「惚れ直した?」
「んなこと言ってねぇよ!! 聞き間違いも甚だしいな!!」
「チョコは中々本音を言ってくれないから困ったもんだね」
「言ってんだろ!」
「………本当に、ね」
「っ……?」

 困り顔、それがしっくりくるかもしれない。
 何だその……変に寂しそうな……そんな顔、すんじゃねぇよ……

「ああそういえば、舞殿では静御前が舞う予定だったらしいよ」

 無理やり話戻したな

「誰だし」
「源義経の奥さん」
「へぇ……予定? 舞ってねぇの?」
「うん。頼朝に無理やり連れてこられて、義経を捨てて自分の為に舞えって命令したんだよ」

 やたら詳しいな……

「じゃあ命令に従わなかったわけか」
「そう。義経を愛していたからね」

 うわっ……こういう美形が言うとそういう歯の浮くようなセリフがハマるっつーか……うわぁ……

「悲劇だよな……従わないからあそこで無理やり公開プレイ」

 !!??

「バラされそうでハラハラドキドキな」
「そんな歴史なのかよ!? 頼朝サイテーだな!」
「従わないなら無理やり従わせる設定があったかもって」
「……………それはテメェの妄想か」
「無かったとは言いきれないだろ?」

 ……嫌だ……そんな歴史。コイツの脳内ぜってードぎつい蛍光ピンクだろ。

「あっ! チョコ、見てみて! 巫女さんいるよ!」

 売り子の話か。んな顔赤らめて騒ぐなよ、テメェは女子か。

「まあ、珍しいけどな」
「巫女さん可愛いよな」
「そうか……?」

 嫌な予感しかしねぇ……

「あの衣装が特に!」

 やっぱり……コイツ男が好きだもんな。女は眼中に無いってか
 
「ちょっと店寄って行こう」
「は……? あ、おいっ!」

 行っちまうし……風呂敷放してんじゃねぇかよ。……まあいいか。面白ぇのあるかもしんねぇし。

「チョコっ! 御守りだ!」
「見ればわかるっての。沢山あるな」
「チョコにはこれだよな」
「あ?」

 安産祈願。

「ふざけんなッ!!」
「あははは、冗談。じゃあこれ」
「……安全健康?」
「うん。チョコ、体質大変だろうから」
「………!」

 ……真顔でんなこと言うな。いつもそうしてれば………いや、何でもねぇし。

「俺はコレにしよ。すみません、コレとこっちの支払いお願いします」
「ちょっおい! いいって!」
「いいの。俺からのプレゼントだから」

 そう言って買っちまうし……
 小袋に入った御守りを受け取る。有馬も自分用に買った小袋を大事そうに手で包んでいる。

「テメェは何買ったんだ?」
「……内緒」

 苦笑い……

「気になる?」
「っ……はんっ! 気になるかバーカ!」
「はは、だろ?」
「………」

 さっきから何だよ……真顔だったり困った顔したり、その自嘲してるみたいな顔とかイライラする。

「ここは見て回ったし、次はちょっと歩くよ」

 またヘラヘラしやがって。何なんだよ気味悪いな……何か言いたいことでもあるなら言えばいいだろが。

「チョコ、いい?」
「あ゛?」
「えっと……怒ってる?」
「……別に」

 何か言うことねぇなら俺も何もねぇし。つか、俺といてコイツ楽しいのかよ?

「そっか。じゃあ………コレ」

 離した風呂敷をまた掴みだした。

「また狭い道通るからさ。また手繋ぎたいなって」
「……………やってやらなくもない」

 これくらいなら付き合ってやらなくもない。俺が出来ることなんて限られてるしな。

「……ありがとう」

 ドキッ
 うわ……何その笑顔。なんか……ゾワゾワなる……風呂敷越しにこのおかしなもどかしいのが伝わるとか、そんなことねぇ……よな? 隣歩いて……背高いし、こいつ黙ってりゃ美形だしモテるタイプだよな、きっと。何で俺に寄って来たんだよ? 独りの俺を可哀想とか思ったのか? ウゼェ……んなのいらねぇし……
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