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第五回
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「本日はありがとうございました」
百瀬さんは笑顔でお辞儀をして袖へ戻っていった。拍手で見送り、司会の進行で着々と進み、約一時間のトークショーは終わりを迎えた。
「楽しかった……最高の時間だった」
余韻に浸ってニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべながら座っていたら、他の客は颯爽と講堂を出ていく。
「あっ! そうださっきの返さないと!」
我に返るとトークショーの前にぶつかった男性のペンのことを思い出した。慌てて青木という男性が入っていった部屋の前へ向かう。部屋の扉からは電気の灯りや中の人たちの声が漏れてくる。
「どうしよう、中に入っちゃマズイよね。誰かここ通らないかな」
扉には関係者以外立入禁止と札が掛けられている。
「どうしよう……絶対不審者じゃん。公民館の人に渡しとけばいいかな」
寄りかかった壁から背中を離して出口に向かおうとする。
「こんなところで何してるんだ」
「うえっ!? あ、さっきの!」
青木と呼ばれていた男性が前から歩いてきた。
「あの、すみません! さっきぶつかった時にこれが落ちてて渡そうと思ってて!」
鞄からペンを取り出して見せる。近づいてきた青木さんの顔は厳めしい顔から途端に安心したような柔らかい表情となる。
「探していたんだ。これは大切なペンだったから。見つかって良かった……」
「そんな大切なものだったんですか……本当にごめんなさい。あたしがぶつかったせいで」
「ああ、すまない。こちらもさっきは急いでいてピリピリしていたんだ。届けてくれてありがとう」
意外と怖くなさそうな人で良かった。これでこっちも安心して帰れる。
「いえ、それじゃあ失礼します」
「……ちょっと待ってくれ。キミ、この前もトークショー来ていたよな?」
「はい?」
「百瀬のトークショー」
なんでこんなことを聞いてくるのか不思議だ。客層の中で女子高生は珍しいから知っているのか。
もしかしたらストーカー?
不審がる姿を見て察したのか、カードケースを取り出して中から名刺を出して渡してきた。
「青木颯太。百瀬のマネージャーだ」
「マネージャー……え? ええ?」
それから何回も「え?」と繰り返してしまう。自分の耳が信じられない。
「百瀬のマネージャーだ。キミ、よく百瀬のトークショー来てたから覚えてるよ」
「嘘!?」
「嘘じゃない。だから声をかけたんだ」
「マネージャーさんに会えるなんてヤバい!」
「ああ、そっちか。そっちも嘘じゃない。正真正銘マネージャーだ」
話が噛み合っていない気がする。混乱しているあたしには何か気の利いたことが言えるわけもなくて。
「え、あの、お仕事ですか?」
「それはそうだ」
「あ、そうですよね、百瀬さん来てましたもんね!」
すっかり頭が回らない。
そんなあたしを見て呆れているのか一息溜め息を吐いてから、青木さんは静かに声を掛けてくる。
「別に今言わなくてもいいことだが、せっかく会ったし伝えておこうと思ってな」
「え? 何をですか?」
検討もつかない。こんな初めて会った人に何を言われるのか。
「キミ、エキストラ登録してるだろう?」
「は、はい。一応……」
「三十周年記念番組のエキストラにキミは選ばれていた。何の番組かは分かってると思うが、郵送で届く筈だ」
あたしは何を言われたのかよく理解が出来なかった。
青木は言って満足したのか関係者以外立入禁止の部屋に入っていってしまった。
その場にいても仕方ない為、帰ることにした。そして帰宅すると自分宛に封筒が届いていた。封を開けて中身を取り出して確認し、膝から崩れる。
「……やった……嘘……でしょ。エキストラ、通った……わああああん! ああぁ……あああっ……!」
スーパー戦隊三十周年記念、歴代のヒーローが集まる特別番組のエキストラに選ばれていた。天井を仰いでひたすら泣いた。ほんの少しの戸惑いと、目一杯の嬉しさを胸に。
百瀬さんは笑顔でお辞儀をして袖へ戻っていった。拍手で見送り、司会の進行で着々と進み、約一時間のトークショーは終わりを迎えた。
「楽しかった……最高の時間だった」
余韻に浸ってニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべながら座っていたら、他の客は颯爽と講堂を出ていく。
「あっ! そうださっきの返さないと!」
我に返るとトークショーの前にぶつかった男性のペンのことを思い出した。慌てて青木という男性が入っていった部屋の前へ向かう。部屋の扉からは電気の灯りや中の人たちの声が漏れてくる。
「どうしよう、中に入っちゃマズイよね。誰かここ通らないかな」
扉には関係者以外立入禁止と札が掛けられている。
「どうしよう……絶対不審者じゃん。公民館の人に渡しとけばいいかな」
寄りかかった壁から背中を離して出口に向かおうとする。
「こんなところで何してるんだ」
「うえっ!? あ、さっきの!」
青木と呼ばれていた男性が前から歩いてきた。
「あの、すみません! さっきぶつかった時にこれが落ちてて渡そうと思ってて!」
鞄からペンを取り出して見せる。近づいてきた青木さんの顔は厳めしい顔から途端に安心したような柔らかい表情となる。
「探していたんだ。これは大切なペンだったから。見つかって良かった……」
「そんな大切なものだったんですか……本当にごめんなさい。あたしがぶつかったせいで」
「ああ、すまない。こちらもさっきは急いでいてピリピリしていたんだ。届けてくれてありがとう」
意外と怖くなさそうな人で良かった。これでこっちも安心して帰れる。
「いえ、それじゃあ失礼します」
「……ちょっと待ってくれ。キミ、この前もトークショー来ていたよな?」
「はい?」
「百瀬のトークショー」
なんでこんなことを聞いてくるのか不思議だ。客層の中で女子高生は珍しいから知っているのか。
もしかしたらストーカー?
不審がる姿を見て察したのか、カードケースを取り出して中から名刺を出して渡してきた。
「青木颯太。百瀬のマネージャーだ」
「マネージャー……え? ええ?」
それから何回も「え?」と繰り返してしまう。自分の耳が信じられない。
「百瀬のマネージャーだ。キミ、よく百瀬のトークショー来てたから覚えてるよ」
「嘘!?」
「嘘じゃない。だから声をかけたんだ」
「マネージャーさんに会えるなんてヤバい!」
「ああ、そっちか。そっちも嘘じゃない。正真正銘マネージャーだ」
話が噛み合っていない気がする。混乱しているあたしには何か気の利いたことが言えるわけもなくて。
「え、あの、お仕事ですか?」
「それはそうだ」
「あ、そうですよね、百瀬さん来てましたもんね!」
すっかり頭が回らない。
そんなあたしを見て呆れているのか一息溜め息を吐いてから、青木さんは静かに声を掛けてくる。
「別に今言わなくてもいいことだが、せっかく会ったし伝えておこうと思ってな」
「え? 何をですか?」
検討もつかない。こんな初めて会った人に何を言われるのか。
「キミ、エキストラ登録してるだろう?」
「は、はい。一応……」
「三十周年記念番組のエキストラにキミは選ばれていた。何の番組かは分かってると思うが、郵送で届く筈だ」
あたしは何を言われたのかよく理解が出来なかった。
青木は言って満足したのか関係者以外立入禁止の部屋に入っていってしまった。
その場にいても仕方ない為、帰ることにした。そして帰宅すると自分宛に封筒が届いていた。封を開けて中身を取り出して確認し、膝から崩れる。
「……やった……嘘……でしょ。エキストラ、通った……わああああん! ああぁ……あああっ……!」
スーパー戦隊三十周年記念、歴代のヒーローが集まる特別番組のエキストラに選ばれていた。天井を仰いでひたすら泣いた。ほんの少しの戸惑いと、目一杯の嬉しさを胸に。
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