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付き合ってから
謝恩メロディ
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二月。ローランはChirpのバックヤードで休憩中の鵠から遊園地のペアチケットを受け取った。
「ありがとう。コレどうしたんだ?」
「買い物のくじ引きで当たった」
「すごっ! せっかく当たったんなら行けばいいのに」
「騒がしいところ嫌い。それと勉強に集中するから遊んでる暇無い。バイトも今月で辞める」
「そうなのか!? 残念……せっかく仲良くなったのに」
「たまに食事しに来る。それは店長への感謝も含んでる。でも上司だから渡しにくい」
「そっか。じゃあ代わりに渡しとくよ。これの礼は団子でいい?」
「ん。期待しとく」
団子が好きな鵠にとっては一番の礼だろう。ポーカーフェイスがこの時ばかりは崩れていた。
芳しい匂いにつられて厨房へ行くとグルが調理している。
「いい匂い。これ……カツ?」
「おう。お前よくカツサンド食うだろ? あのカツを出汁と溶いた卵で煮てるんだ」
「カツって揚げてますよね? それを今度は煮るんスか? すごい凝った料理……そのままでも十分ウマイのに」
「この手間がうめえんだよ」
「家でも料理するんスか?」
「嫁さんの手料理食いてぇから作らねぇ。これも嫁さんに教えてもらって、ライスに乗せて食うとスゲーウマいんだ」
「へえ~。恋人とか奥さんの影響で食べ物好きになるってよくありますよね。俺も仁さんのお蔭でコーヒー好きになったし」
「砂糖とミルクであま~くしたやつな」
「別にいいだろ、苦いのは得意じゃない。そういえば仁さんから聞きましたよ。猛アタックして結婚したって」
「そりゃあ苦労したのなんの。会った瞬間ビビッときて絶対この女と結婚したい! って思ってよ。初めは怖がられて避けられて連絡先交換するまでが長かった」
興奮気味にグルは深皿を用意してご飯を盛り付けながら話し続ける。
「何回かデートして、そっからはスピード婚よ」
「す、すごい!」
「かわいいんだぜ~ほら」
火を止めてポケットから携帯機器を取り出し画面を見せてくれる。映っているのはグルと、ほとんど身長差の無い黒髪ストレートの女性。丸顔でぽっちゃりしている。
「まさに大和撫子だろ?」
「おおー!」
「このツヤツヤな黒髪と豊満なボディにやられた」
なんとなくだが、この人が作ってくれる料理はきっと美味しいんだろうなと直感した。
「あ。そうだ忘れてた。……これ、アルに渡しといてくれ」
「しわしわなんスけど」
「伸ばせば使えるって」
渡されたものはくしゃくしゃになった紙で、伸ばしながら開くと旅行券であることがわかる。
「嫁さんが殴った詫びに渡せって」
「それってグルさんが直接渡さないと意味なくないスか。すぐ帰ってくるだろうし」
「もう既に謝ったしこういうの照れ臭いんだよ」
「はあ」
今は仁一人で近くの店へ買い物に出ている。鵠が渡しづらいのは分かるが、グルのは代わりに渡していい物なのか迷いどころである。
――長い付き合いでグルさんがこういう性格ってことも分かってそうだからいいのかな?
グルはカツ煮を盛り付けてカツ丼にし、さっさとバックヤードに持っていった。
すると仁が帰ってくる。
「お帰りなさい」
「ただいま。美味しそうだったから買っちゃった。ローランくんの分もあるよ」
「ありがとうございます」
バックヤードに全員集まる。鵠とグルの『今渡すなよ』と語りかけてくるような視線が突き刺さってくる。
そんなことは露知らず、仁はニコニコしながら買ってきた物を取り出した。
「レジ横に新発売って書いてあったから食べたくなって」
「随分赤いスね」
「チョリソーだよ。ピリ辛なやつ」
「舌がバカになりそうだな」
「だからトッピングの激辛ソースはやめといたよ」
そう言って仁はチョリソーにかぶりつき満足げに食べている。
――本当にソーセージ好きなんだなあ……夢中になってるのかわいい……
仕事が終わり家に帰ったきた仁に、鵠からのチケットとグルからの旅行券を見せる。二人の言っていたことを話して渡すと仁は戸惑う様子を見せた。
「これ示し合わせたのかな……旅行券が遊園地方面の交通かホテルで使えるみたいだし、合わせたら結構な金額だよ。僕に直接渡すと返されると思ってローランくんに託したのかな」
「あんまり深く考えてなかった……でも鵠は悪くないんスよ!」
ローランが慌てた様子で鵠をフォローすると、仁はいつものように微笑む。
「わかってるよ。こういう物をかしこまって店長に渡すのって勇気いるだろうし、グルの奥さんが親切な人で、グルが強がりなところも知ってる。せっかくのご厚意だから使せてもらうよ」
「はあ~よかった」
「だから一緒に旅行行こう?」
「へ、あ、はいっ! 喜んで!」
鵠からチケットを渡された時にきっと一緒に行くだろうと考えてウキウキしていたが、改めて考えると日帰り旅行ではなく宿泊旅行だということに気づいて緊張する。
――日帰りデートと違って泊まってきたってわかるし、いつもと違うところで寝るってちょっとエッチな感じが……妄想しすぎ?
「連休取れそう? 仕事始めたばかりだしまだ難しいかな」
「大丈夫スよ。もう友達みたいな感じで話しやすいし頼んでみます」
「フレンドリーだね。さすがはローランくん」
「みんなが優しいだけっスよ。それに最悪、半休取って旅行の後に仕事に行くのもアリだし。仁さんと旅行行きたいっス!」
「うん。楽しみにしてるよ」
「ありがとう。コレどうしたんだ?」
「買い物のくじ引きで当たった」
「すごっ! せっかく当たったんなら行けばいいのに」
「騒がしいところ嫌い。それと勉強に集中するから遊んでる暇無い。バイトも今月で辞める」
「そうなのか!? 残念……せっかく仲良くなったのに」
「たまに食事しに来る。それは店長への感謝も含んでる。でも上司だから渡しにくい」
「そっか。じゃあ代わりに渡しとくよ。これの礼は団子でいい?」
「ん。期待しとく」
団子が好きな鵠にとっては一番の礼だろう。ポーカーフェイスがこの時ばかりは崩れていた。
芳しい匂いにつられて厨房へ行くとグルが調理している。
「いい匂い。これ……カツ?」
「おう。お前よくカツサンド食うだろ? あのカツを出汁と溶いた卵で煮てるんだ」
「カツって揚げてますよね? それを今度は煮るんスか? すごい凝った料理……そのままでも十分ウマイのに」
「この手間がうめえんだよ」
「家でも料理するんスか?」
「嫁さんの手料理食いてぇから作らねぇ。これも嫁さんに教えてもらって、ライスに乗せて食うとスゲーウマいんだ」
「へえ~。恋人とか奥さんの影響で食べ物好きになるってよくありますよね。俺も仁さんのお蔭でコーヒー好きになったし」
「砂糖とミルクであま~くしたやつな」
「別にいいだろ、苦いのは得意じゃない。そういえば仁さんから聞きましたよ。猛アタックして結婚したって」
「そりゃあ苦労したのなんの。会った瞬間ビビッときて絶対この女と結婚したい! って思ってよ。初めは怖がられて避けられて連絡先交換するまでが長かった」
興奮気味にグルは深皿を用意してご飯を盛り付けながら話し続ける。
「何回かデートして、そっからはスピード婚よ」
「す、すごい!」
「かわいいんだぜ~ほら」
火を止めてポケットから携帯機器を取り出し画面を見せてくれる。映っているのはグルと、ほとんど身長差の無い黒髪ストレートの女性。丸顔でぽっちゃりしている。
「まさに大和撫子だろ?」
「おおー!」
「このツヤツヤな黒髪と豊満なボディにやられた」
なんとなくだが、この人が作ってくれる料理はきっと美味しいんだろうなと直感した。
「あ。そうだ忘れてた。……これ、アルに渡しといてくれ」
「しわしわなんスけど」
「伸ばせば使えるって」
渡されたものはくしゃくしゃになった紙で、伸ばしながら開くと旅行券であることがわかる。
「嫁さんが殴った詫びに渡せって」
「それってグルさんが直接渡さないと意味なくないスか。すぐ帰ってくるだろうし」
「もう既に謝ったしこういうの照れ臭いんだよ」
「はあ」
今は仁一人で近くの店へ買い物に出ている。鵠が渡しづらいのは分かるが、グルのは代わりに渡していい物なのか迷いどころである。
――長い付き合いでグルさんがこういう性格ってことも分かってそうだからいいのかな?
グルはカツ煮を盛り付けてカツ丼にし、さっさとバックヤードに持っていった。
すると仁が帰ってくる。
「お帰りなさい」
「ただいま。美味しそうだったから買っちゃった。ローランくんの分もあるよ」
「ありがとうございます」
バックヤードに全員集まる。鵠とグルの『今渡すなよ』と語りかけてくるような視線が突き刺さってくる。
そんなことは露知らず、仁はニコニコしながら買ってきた物を取り出した。
「レジ横に新発売って書いてあったから食べたくなって」
「随分赤いスね」
「チョリソーだよ。ピリ辛なやつ」
「舌がバカになりそうだな」
「だからトッピングの激辛ソースはやめといたよ」
そう言って仁はチョリソーにかぶりつき満足げに食べている。
――本当にソーセージ好きなんだなあ……夢中になってるのかわいい……
仕事が終わり家に帰ったきた仁に、鵠からのチケットとグルからの旅行券を見せる。二人の言っていたことを話して渡すと仁は戸惑う様子を見せた。
「これ示し合わせたのかな……旅行券が遊園地方面の交通かホテルで使えるみたいだし、合わせたら結構な金額だよ。僕に直接渡すと返されると思ってローランくんに託したのかな」
「あんまり深く考えてなかった……でも鵠は悪くないんスよ!」
ローランが慌てた様子で鵠をフォローすると、仁はいつものように微笑む。
「わかってるよ。こういう物をかしこまって店長に渡すのって勇気いるだろうし、グルの奥さんが親切な人で、グルが強がりなところも知ってる。せっかくのご厚意だから使せてもらうよ」
「はあ~よかった」
「だから一緒に旅行行こう?」
「へ、あ、はいっ! 喜んで!」
鵠からチケットを渡された時にきっと一緒に行くだろうと考えてウキウキしていたが、改めて考えると日帰り旅行ではなく宿泊旅行だということに気づいて緊張する。
――日帰りデートと違って泊まってきたってわかるし、いつもと違うところで寝るってちょっとエッチな感じが……妄想しすぎ?
「連休取れそう? 仕事始めたばかりだしまだ難しいかな」
「大丈夫スよ。もう友達みたいな感じで話しやすいし頼んでみます」
「フレンドリーだね。さすがはローランくん」
「みんなが優しいだけっスよ。それに最悪、半休取って旅行の後に仕事に行くのもアリだし。仁さんと旅行行きたいっス!」
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