癒やしは囁きと共に

朝陽ヨル

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付き合ってから

蟠り 三

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 年の一大イベントはクリスマスであり、国内にいる友人や家族と別れを惜しみながらパーティーをして過ごした。クリスマスは年を越してからも続く。そして一月半ばに仁のいる家へ引っ越した。
 家具や食器など日常生活に必要な物はほとんど揃っており、ローランが持ってきた物といえば服くらいで引っ越してから新しく買ったものはベッドくらいだろう。寝室には既に仁用の外国から取り寄せた大きなベッドが置かれている。日本製のベッドでは身体がはみ出してしまうからと、前まであったベッドは処分して新しく買い替えたようだ。
 そしてその寝室は三階にある。そう、三階に。ローランはてっきり二階で同棲するのだと考えていたがそうではなかった。三階が含まれていることは引っ越してから知った。

 ――三階があるのは知ってたけど他の人が住んでるのかと思ってた。だって家の中に階段見当たらないし! 物を置く部屋と寝室が別なんて十分過ぎる広さだよ

 階段は外壁の横についている。しかし実は家の中にも階段があるのだが、それは扉を一枚隔てて存在していた。扉を開けなければ一見階段があるようには見えない。そしてその階段は梯子になっている。何故わざわざそんなややこしい内装なのか仁に尋ねてみると『秘密基地みたいで楽しくない? 隠し通路とか、秘密の抜け穴みたいな感じで』と子供のような笑顔を見せてくれた。

 ――ああああもうっ! この笑顔かわいいし素敵すぎて胸がキュンキュンする! ……あ、そっか、グルさんと住んでたんだし、きっとグルさんの意見もあったんだろうな。こういうの男心をくすぐるよなあ

「あとはプライベートを守る為でもあるよ。一緒に暮らしてても一人になりたい時ってたまにあるでしょ。そういう意味で二階と三階はきっちり分けようってなったんだ。でもこれはグルとのルールだから、不便ならリノベーションする?」
「いいえっ、このままで! 俺も秘密基地みたいでワクワクするし。そうだ、俺たちもルール決めましょ。家事の分担とか」

 話し合い二人の家でのルールを決める。ローランは料理が出来ないので料理は仁が。ローランは掃除を。ゴミ捨てや買い物、洗濯は気づいたり手が空いた方がすることになった。その他の細かいルールは住みながら気づいた時点で増やしていくことになった。

「全然実感湧かなかったけど、とうとう一緒に住めるんスね」
「ふふ、そうだよ」
「あの……」

 ソファに座りながらローランはもじもじとしながら視線を合わせないでいたが、思いきって仁に抱きついた。迎えに来てくれた空港では我慢した。今はもう家の中で誰の目も気にすることはない。仁も抱きしめ返してローランの顔を上げさせ軽くキスを落とす。

「ようこそ我が家へ。それと、おかえり」
「ただいま」

 そしてまた二、三とキスを繰り返した。
 
「夜は歓迎会しようか。食べに行くならどこがいい?」
「リクエストしていいなら仁さんの手料理が食べたい!」
「でも料理ならこれから毎日僕が作るよ?」
「俺にとって仁さんの料理はすっごい贅沢っス。だってChirpには、仁さんに会って仁さんの淹れたコーヒーを飲みに行ってたくらいだし、それを毎日なんて夢みたい。同棲記念だからこそ、仁さんの料理で特別感を味わいたい」

 自分が特別な人間だとは思わない。そんな自分に熱く真っ直ぐなお願いをしてくれる恋人。胸が高鳴り嬉しさや温かな気持ちが溢れてくる。仁はやや紅潮している。

「そんな風に言われたら照れちゃうな。……うん、それじゃあ腕によりをかけて作らないとね。アレルギーとか食べられないものってある?」
「アレルギーは無いっス。うーん……日本の料理はあんまり知らないし……向こうだと魚があんまり食べられなかったから魚
食べたいかも……あ、ステーキとかナイフを使うものはちょっと」
「お肉嫌いだっけ?」
「切らないですぐ食べられるような細かいのとか、骨付きチキンとかは好きっスよ。ナイフが苦手で」
「そっか。じゃあ形式ばったコース料理よりバイキングとかの方がいいのかな。いっぱい食べられるし」
「え、え? 仁さんが作るんスよね!?」
「あはは、もしも今後外食したくなったらの話だよ。それじゃあ買いに行こう」

 近くのスーパーで買い出しをして食材を揃えた。帰ってきてからすぐ調理に取り掛かる。しっかりとエプロンを身に付けて。
 作っている行程を見たいが、まだ荷解きがまだでローランは部屋の片付けをすることになった。そして一時間も経たない内に呼ばれディナータイムとなる。

「いい匂い」
「順番に持ってくるから座って待ってて」
「楽しみッス!」

 テーブルの上にはランチョンマットとナイフ以外のカトラリー、真ん中には鍋敷きが置いてある。最初に運ばれてきたものは見たことのない綺麗な前菜だった。

「旬の大根と生ハムロールです」
「うわっうわっ何これ!? すっごいオシャレ!!」
「どうぞ召し上がれ。飲み物はお茶でいいかな」
「なんでも!」

 コップに緑茶が注がれ仁も着席すると、ローランが先に料理に手をつける。生ハムの塩味とマリネされた大根の酸味でサッパリしている。二つありカリフラワーとパプリカの黄と赤が色違いでそれぞれ乗っていて目でも楽しい。

「最初からすごい美味しいしヤバッ」
「喜んでくれて料理人冥利に尽きるよ」

 仁は料理学校に通っていたのだ。それは美味しいに決まっている。それから次々とサラダ、スープ、魚のムニエルがテーブルに並ぶ。

「次はこれ。じゃーん」
「チーズ!」

 ミトンをはめて持ってきた熱々の鍋の中には溶かしたチーズが入っている。その他にバケット、ソーセージ、野菜の盛り合わせの皿が置かれた。

「ローラン君にとっては定番料理だよね」
「よく知ってますね」
「アルス様に聞いたことがあって」

 ローランの母国ではチーズフォンデュが定番料理であり、祝い事には欠かさず出される料理である。

「これに好きなのフォンデュして食べよう」
「うわ、それ最高!」
「ソーセージ好きだから色んなの用意しちゃった」

 ドイツ産、アメリカ産、日本産、仁の生まれが関連するソーセージが揃っていて微笑ましくなる。余程ソーセージが好きなのだろう。
 野菜やソーセージをチーズに絡めて食べたり、バケットにはチーズを乗せてオリーブオイルと黒胡椒を振りかけてアレンジしたり楽しい。

「冬って温かい鍋物たべたくなるけど、無性にアイス食べたくなる時ない?」
「そうスか?」
「僕はね。だからアイス買ったんだ」

 チーズフォンデュが終わると最後にデザートが出てくる。バニラアイスにエスプレッソをかけて完成する。

「アフォガードだよ。ちょっと酔いたい時とかはリキュールをかけたりしてもいいね」
「最後の締めまでオシャレッスね」

 驚きの連続でわくわくと心が踊るようだ。冷たいアイスに熱いエスプレッソ。掬う箇所によって甘味と苦味の差があり、固い部分と程よく溶けた部分が食感の違いを生んでいる。

「コース料理とチーズフォンデュでバイキング形式を混ぜてみたんだけどどうだった?」
「楽しかったしどれも最高でした! こんなすごいのたくさん作ってくれてありがとうございます!」
「どういたしまして。美味しそうに食べてくれるからこれからもたくさん作るね」

 ――これから太りそう~

 そう予感しつつも新生活に期待が膨らむのだった。不安も大きいが、楽しみの方が何倍も大きい。
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