上 下
85 / 85
十四話 わかり合いたい気持ちと想い

しおりを挟む
「マミちゃんはなんでいつもエラそうにしてるの? パパとママはエラいかもしれないけど、マミちゃんがエラいわけじゃないよね?」
「はあ? なにそれ。バカにしてるの? このっ」
「うっ……!」
「主!」 

 愛美に前から両肩を突き飛ばされて尻もちを着いた。クックが近寄るが、ココロは立とうとせずにその座った姿勢のまま愛美を見上げている。
 愛美は罪悪感からかそんなココロに見られて怯んでいる。 

「人のどりょくを自分がやったみたいに言うのはかっこわるいよ」 

 真顔で真っ直ぐに愛美を見据えて伝えた。
 するとじわじわと愛美の目尻には涙が溜まっていく。 

「……んで、……なんでぇ……なんでっ! そんなこと言うのぉ……! あたしのことぜんぜんしらないくせに……わるく言わないでよッ!」 

 涙ぐみ、強い語調で言い切ると終いには本格的に泣き出してしまう。 

「じゃあもっとおしえて」
「…………え?」
「マミちゃんのことぜんぜんしらないから、もっとおしえて。わたしも、わたしのことおしえる。それでちゃんとおともだちになろう?」 

 真顔だったココロの顔は自然と柔らかく微笑みに変わる。
 ココロのそんな顔を初めて見た愛美は目を丸くしたり、渋面を作ったり、戸惑ったりと複雑な気持ちとなってしまい何も答えることが出来なかった。
 黙っている愛美に返事待ちのココロ。互いに言葉を発さずゆっくりと時間が流れていく。
 ココロはどうしたもんかと考えながら立ち上がろうとしっかり地面に足底を着いて前のめりになった途端、愛美が手を伸ばしてきた。ココロはその手をつかんで立ち上がる。 

「マミちゃん、ありがとう」
「……いいよマミで。あたしもちゃん付けしないから。……ともだち……なるんでしょ」
 
 目を逸らしてぶっきらぼうに話す愛美。
 もしかしたらお友達なろう作戦は成功したのかもしれない。言いたかったこと、伝えたかったことを言えた。だからすっきりした気分で緊張せず笑顔になれた。 

「えっわっ、なななに!?」 

 ココロは愛美を抱きしめる。これは夏菜から教わったこと。まだ上手に笑顔になるには難しいから。 

「うれしいって時はこうしたらいいよって教えてもらったの」
「……あっそ」 

 突然の出来事に慌てる愛美だったが、ココロが『うれしい』と言っているのだから嬉しいならいいかと満更でもなく、愛美からもココロを抱きしめる。しかし何か言いたげなクックにじっと見つめられると居心地が悪く「もういいでしょっ」と言って離れた。 

「パパママの為に色ンナコトシテル、マミは努力家で偉イ……と、フランソワ言ッテマス」
「色んなこと?」
「パパとママのおてつだいしてる。会社の人とかおきゃくさんが来たら、パパのじまんだって言ってもらえるように、あたしがんばっておもてなしするの」 

 系列会社のシャンプーの使い心地や宣伝、お菓子の味や見た目の感想、子供たちの評判などを伝えているとのこと。 

「へえ、すごいね。かっこわるいって言ったのごめん。マミ、かっこいい」
「そうだよ、あたしがんばってるんだから! ……かっこいいって言われるのはじめてだけど、ちょっとうれしい」
「キィキェーッ」
「マミ、可愛イ、カッコイイと言ッテマス」
「そうなの? えへへ、フランソワもチョーかわいくてかっこいいよ」 

 満面の笑顔でフランソワに抱きつく愛美。
 フランソワも長い首やくちばしを愛美の頭に擦りつけたり押し当てている。花型ピヨの愛情表現とされている行為だ。 

「うれしい時……こうやってぎゅってしたくなるものなんだね。なんかふしぎ」
「ぎゅってした人にうれしいってつたわるの、まるでまほうみたいだよね」
「まほう? それステキ!」 

 自分だけが思っていた魔法。元気にしてくれる祖父の言葉の魔法、夏菜から教えてもらったハグして嬉しさを伝えられる魔法。ココロにとってそれらを他の人にも共有できて、共感されたことが嬉しかった。 

「……ねえ、たまごからふかさせたって本当?」
「ん? うん、本当だよ」
「そっか……あたしはたまごからふかさせてないの」
「え? ヒナからいっしょにいるって……」
「ヒナだったけどすぐに小ビナになったよ。だからね、ココロがたまごからふかさせてそだててるって言ったから、なんかすっごくまけた~! って思ったの」
「そうだったんだ」
「ココロもフランソワのことみんなみたいにきれいって言ってくれたけど、ココロの…………クックさん見たら本当にくやしくなって……」
「どうしてくやしいの?」
「だってめずらしいもん。そんなしんかけいたい見たことないし」 

 クックの進化形態は今までに見たことも聞いたことがない新しいものだとピヨ専門医から言われて珍しいことは知っている。だが珍しいからといって悔しいという愛美の気持ちはわからない。 

「フランソワより人気出ちゃうかも……」
「クックさんはここの公園だと人気だけど、フランソワちゃんは色んなところで人気でしょ? どっちの方が人気なんてわかんないし、どっちも人気でいいと思う。ピヨさんみんな人気だもん」
「…………そっか。それもそうだよね」 

 対抗心や嫉妬のような気持ちが完全に払拭されたわけではないが、ココロへの気持ちをこれから少しずつ切り替えていけそうだ。
 それから天海宅へ戻り、愛美は祖父に騒ぎ立てたことを素直に謝った。
 祖父は帰ってきた二人の表情や雰囲気が柔らかく変化していることに気づき安堵する。 

「帰ってきたことだし、かき氷食べるか。イチゴとメロンどっちがいい?」
「「イチゴ!」」
「キィッ」 

 ココロと愛美の息がぴったり合い、フランソワも嬉しそうに鳴いている。
 人数分のかき氷を作り、ピヨには麦茶を与えて和やかな時を過ごす。外はまだ明るいが時刻は夜となり、家から迎えの車を呼んで愛美たちは帰っていった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

くたに拓
2021.03.12 くたに拓

クックさんとココロちゃんのやり取りにほっこりし、ココロちゃんの葛藤に胸がぎゅーっとします。
これからどうなっていくのかどきどきしながら読ませて頂いています。

解除

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。