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十一話 夏と水

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 伯父が運転する車の中でココロは眠りにつきそのまま帰宅した。 

 ガチャン 

 扉が開かれる音を聞きつけたクックは玄関へやって来る。 

「ただいまー」
「オ帰リナサイ」
「ちょうどよかったクックさん、これテーブルに持ってって」
「ハイ」 

 伯父から荷物を渡され素直に受け取り、キッチン横のテーブルへ置く。戻ると続いて渡され、またテーブルへ置いてくる。 

「置イテキマシタ」
「じゃあ、はい、主さん」
「主!」 

 スースー寝息を立てているココロを渡され、お姫様抱っこをしてリビングのソファへ連れて行く。話したいのを我慢出来ず肩を軽く揺さぶる。 

「主、主」
「んううぅ……クックさん……?」
「ハイ」
「クックさんがいる……お家ついた……?」
「そうだよー。ココロちゃんおはよ」
「ナッちゃん……おはよう」 

 目を擦りながら起き上がりソファに座る。まだぼんやりとした意識の中、寝ぼけ眼でクックを見つめて今日の出来事を思い出しながら話し出す。 

「あのね……クックさん、動物園、楽しかったよ。色んな動物見れて、トリさんもたくさんいてね、ピヨさんのショーも見てきたよ」
「主が楽シカッタ、良イコトデス」
「これ見てみ。ココロちゃんと夏菜の体験」 

 ビデオカメラを伯父が見せてくれる。再生ボタンを押すとステージに上がった二人が映し出された。
 それを見たクックは興奮しがっつくようにしてビデオカメラの画面を見ている。
 
「主デス! 主テレビ出テマス!」
「これは動画だよ。このカメラで録画してんの。まあテレビの番組だってカメラで撮ってんだからおんなじか」
「主、夏菜、楽シソウデス。アチラのピヨも楽シソウデス」
「クックさんもいっしょに行けたらいっしょに楽しめるのに」
「亮一が記録を残シテ見セテクレマシタ。コレでワタシ楽シメマス。主が楽シイ、ワタシ、楽シイデス」
「そうなの? 今楽しいの?」
「ハイ。主が帰ッテ来タラ、楽シイデス」
「それって、楽しいじゃなくて嬉しい、じゃない?」 

 夏菜のささいな声掛けにほんのわずかな間を置いてクックは答える。 

「……ソウカモシレマセン。落チ着キマス」
「ココロちゃんがいないとそわそわしちゃうのかー。クックさん可愛いところもあんじゃーん」
「案外ペットって寂しがるみたいよ。ネコとか寂しくなると機嫌悪くなるって聞くし」
「ウサギも寂しくなると……ってよく言うよね。太郎丸も寂しくなってたのかな?」
「太郎丸さんは普段と変ワラズデス」
「あはは。太郎丸っぽい。あ、そうだココロちゃん。これあげる」 

 話題を変えてすかさず夏菜が手にしたのは、動物園の土産コーナーで買った、カゴからはみ出る程の大きさの水型ピヨぬいぐるみだ。それをココロの膝の上に乗せた。
 ココロは驚きと困惑の入り混じった顔を上げる。 

「どうして? ナッちゃんのおたんじょう日プレゼントなのに……」
「実は他に欲しいの買ってもらったんだ~。このぬいぐるみは入場券分の代金で買ってもらったの。だからうちは全然払ってな」
「はあ? 全然足りないって喚いてたくせに」
「あーもう! お父さんうるさい!」 

 話している最中に伯父が遮るように言葉を被せてきた為、夏菜は強めに声を張り上げた。 

「ちょっとはうちも出したけど……その、ホント、妹欲しかったから、それでなんかプレゼントしたいなって思ってさ」
「わたしにプレゼント? おたんじょう日じゃないのにもらっていいの?」
「いいんだよ。なんでもない日にプレゼントもらったって。なんかの記念って言うなら、そうだな……一緒に動物園行った記念ってことでさ。ね? ココロちゃんにもらってほしいんだ」
「……ありがとう、ナッちゃん」
「あ……! ココロちゃん笑ってる!」 

 笑ってると言われてしまえば照れてしまい、上げた口端をわざと下げて一文字に結び、顔を俯かせた。ココロは自分が自然と笑えていないことを自覚していない。笑うことが恥ずかしいわけじゃないのに、指摘されると急に恥ずかしさが上回ってしまう。
 
「ココロちゃん」 

 名前を呼ばれて顔を上げ、しっかり夏菜の顔を見る。
 夏菜は両方の人差し指を口角に押し上げて笑っていた。 

「嬉しい時は笑っていいんだよ。でも上手に笑えないな~って時はぎゅうってハグするの。そうすればなんでも解決!」
「ハグとはナンデスカ?」
「ぎゅうって抱きしめることだよ。クックさんもココロちゃんが帰ってきて嬉しいって言ってたからハグしちゃいなよ」 

 クックにとってココロが傍にいることは当たり前のようで、いないと落ち着かなくて、帰ってきた時は喜びもひとしおだと感じている。 

「主、イイデスカ?」 

 ココロは答える代わりに抱きついた。それが答えだ。 

「ヒナの時はできなかったから、クックさんをぎゅってできるのうれしいよ」 

 ココロも同じだった。両親と自分だけの生活から、クックがいる生活が当たり前になってきた。クックがいない時はどうしているかと気になり、会えば安心することできた。だから感謝している。しかしどうやって感謝を伝えればいいのかわからなかった。トリと人では言葉が伝わらない、だからただ頭を撫でてやっていた。それが日課だった。けれど今はこんなに立派に進化した。思う存分抱きしめることが出来る。 

「ヒナの時ケージが邪魔デシタ。主が帰ッテキタラスグに会イタカッタ。今ケージ無イ。解放サレテマス。ダカラズット一緒イラレマス」
「ケージがじゃま…………あ。だからよくケージから出てたんだ」
「はは、主想いじゃないか」 

 微笑む祖父に言われて、本当にそうだなと深く感じ入るココロだった。
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