上 下
71 / 85
十一話 夏と水

しおりを挟む
 ステージ下には親子が何組か既に並んでおり、その列の後ろに並ぶ。 

「皆さん、ステージの上は滑りやすいので気をつけてくださいね」 

 前の組についていき階段を昇りステージへ上がる。会場全体が見渡せるステージは熱気に包まれていた。 

 わあ……水の近くなのにぶわあってあつい……それに……おきゃくさんもたくさんいて、こんなに見られるのはずかしいな…… 

 会場を見回してみるとちらほらと会場を出ていく客はいるがまだ大半は残っている。ココロはがちがちに緊張しながら気にしないように水槽へ目を向けて、滑らないように足へ力を込めている。 

「はーい。ではピヨたちを呼びますね」 

 ピピーッ 

 飼育員が笛を吹くと水槽内で自由に泳いでいた水型ピヨ三羽が水槽に入ったままステージ脇へ集まった。 

「はい、ではハイタッチ~」 

 前の組から順番にハイタッチをしていく。
 ハイタッチをする度に水型ピヨは一度潜り、再び水面へ顔を出している。 

 水がたのピヨさんってふしぎなお顔……トリさんだけど、ちょっとおサカナさんっぽい。ヒレあるし、大きいし、さわったらかたいのかな? やわらかいのかな? 

「次の方どうぞ。お二人ですか?」
「そうでーす。ココロちゃん、滑らないように気をつけるんだよ。フリじゃないからね」
「うん? わかった」 

 夏菜のフリという言葉の意味はわからなかったが、とにかく滑らないようにゆっくりと慎重に足を前へ出していく。
 夏菜も一緒についていき隣で待機する。 

「キュウッキュウッ」
「水がたピヨさんたち、こんにちは」
「こんにちはお嬢ちゃん、手を前に出しておいてね」
「はい」 

 飼育員の言われた通り手を水型ピヨに向けて突き出しておく。
 すると横並びしているニ羽が同時に水面近くを尾ビレで水をかき、まるで立ち上がっているように見える。そして胸ビレでそれぞれの水型ピヨがココロと夏菜の手の平に触れた。 

「わあっ……! かたかった!」
「意外とがっしりしてたね」
「ありがとうございました~それでは前に進んで、もう一羽にも良かったら触っていってね~」 

 別の飼育員に誘導されて、待機していたもう一羽の水型ピヨの頭を撫でさせてもらえた。 

「キュイキュイ~」
「わっ。なつっこいピヨさんだ」 

 鳴きながら頭を擦りつけるようにして動く水型ピヨ。
 次の人が来るまで存分に触らせてもらい、ステージから降りた後も二人のテンションは高まったままだ。 

「濡れてるのにさらさらしてて気持ち良かったね!」
「うん。ネコさんみたいにさらさらしてた」
「そうそう! ネコっぽい!」
「お嬢ちゃんたち楽しんだね~」
「え? って、お父さん何撮ってるのさ!?」 

 伯父がビデオカメラを向けながら向かって来る。
 夏菜は嫌そうな反応をしているが、ココロにとっては嬉しい気持ちになった。
 伯父に続いて伯母と祖父もやって来る。どうやらショーをやっている間は座れず立ったまま鑑賞し、ショーが終わった後は会場の出入口付近の席で座りながらビデオカメラを回していたらしい。 

「もう勝手に撮らないでよ! 出演料いただきますからね!?」
「はあー? いっちょ前に女優気取りですか。へーへー、なんかうまいもんでも買ってあげますよ」
「よし、交渉成立です」
「なにやってんのよ、おかしな親子ね」 

 夏菜と伯父で小芝居をしてそれに伯母が笑ってツッコミを入れている。それはとても自然な流れで行われていた。 

 ーー伯父さんと伯母さん、なっちゃんといるとパパとママって感じ。とっても楽しそう。わたしのパパとママとはぜんぜんちがうけど、家族って感じ…… 

「パパ……ママ……」 

 口をついて出てきた言葉は両親のことだった。今は何をしているだろうか、きっと忙しく仕事をしているんだろうと自問自答する。 

「ココロ、水型のピヨを触ってどうだった」 

 祖父から話しかけられたら、考えていたことをやめてさっきまでのことを振り返る。 

「あのね、大っきくてかたかったよ。その後に頭さわってみたらやわらかくてサラサラだった。ネコさんみたいだったの」
「ほお、そうか。ネコみたいな触り心地なのか。触れて良かったな」
「うん。ナッちゃんのおかげでさわれた」
「えっ。なんのこと?」
「ナッちゃんがいっしょにいてくれたからさわれたんだよ。だからありがとう」 

 そう言って軽くお辞儀をするココロを見て、夏菜は目を丸くしながら口元が緩み、やや頬を紅潮させつつココロに抱きついた。 

「あ~~もおっ! ココロちゃんかわいすぎー!! やっぱ妹に欲しいっ!! っていうかもう一緒に住んでるし実質妹じゃない!?」
「ナッちゃん、くるしい……」
「あっ、ごめんごめん。嬉しくてつい。嬉しいこと言ってくれたからソフトクリーム食べにいこ! もちろんお父さんのおごりで!」
「へいへい」 

 イベント会場を出ていき、約束通りソフトクリームを食べ、動線上にある店で土産を物色することとする。入場ゲートで夏菜が話していた通り、友人や自分への土産を大量にカゴへ入れていた。その中にはカゴからはみ出る程の大きさの水型ピヨのぬいぐるみも入っている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...