70 / 85
十一話 夏と水
五
しおりを挟む
食事を済ませて園内をある程度見て回った昼下がり、夏菜は腕時計の針が示す時間を見てはっと気づきココロの手を引いた。
「やばっ! 今日のメインイベント始まっちゃう!」
「わっ! ナッちゃんどうしたの?」
「ココロちゃんも前で見たいよね? 急がないと前の席取られちゃうから急ご!」
「う、うんっ!」
「うちとココロちゃん先に行ってるからね!」
「はいはい。私たちはゆっくり行って後ろの方で見てるわよ」
「りょーかい! いこっ」
伯母の了承を得ると、ココロは夏菜と手を繋ぎながらイベント会場へ向かって走っていく。この動物園は水族館が併設されており、隣にドーム型のイベント会場がある。
「あー良かった~ギリ席あったよ~」
ショーが始まる三十分前だというのにイベント会場は客で賑わっている。ココロが席を取っておき、夏菜が飲み物を買って戻ってきた数分後には後ろの席まで客がひしめき合っていた。
「うっひゃ~これじゃじいちゃんたち座れないだろうな」
「おきゃくさんいっぱいだね」
「そうだね。それだけこのピヨショーをみんな楽しみにしてるってことだよ」
「ピヨさんのショーなのに水そうがあるよ?」
会場の中央にはたっぷりと水が張られた大きな水槽があり、それを囲うように観覧席が設けられている。ココロと夏菜は前から四段目の席に座っている。
「ピヨショーは珍しい水型ピヨのショーなんだよ。水型って見たことある?」
「ううん、ない」
「うちも。テレビでは見たことあるけど、生で見るのは初めてなんだ」
「楽しみだね」
「うん、楽しみ」
飲み物を飲みながら他愛もない話をして待ち、時間になるとイベントを進行する飼育員が水槽のすぐ横のステージへやって来て一礼する。
「皆さーん、こんにちはー!」
大人から子供まで多くの観客が挨拶を返す。それから飼育員の前座で小話をしていると、どこからか鳴き声が聞こえてくる。
「キュウウ~」
「おやおや~この鳴き声は? あーーっ! 誰かがやって来るぞ~!」
「キュッキュウー!」
水槽の下部から影が上部へ泳いでステージへ飛び出してきた。水型ピヨ三羽である。ステージにあらかじめ設置してある台へそれぞれ飛び乗った。
「お~っと! 来てくれたのは水型ピヨだー!」
「ピヨさんだ! ピヨさん来た! かわいい!」
「ねー! かわいいね!」
「あれが水がたのピヨさんなんだ」
水型のピヨは群青色の体に横広の大きめなくちばし、トリであるがサカナのようなヒレが付いている。そして特徴的な真ん丸の目は濁ったような色をしている。 体長は一・五メートル程。
「はーい、では皆さんにご挨拶~」
飼育員の合図で水型ピヨたちは一斉に胸ビレを挙げて振っている。
「手ふってくれてる」
ココロも小さい手を水型ピヨに向かって振り返した。
ショーの始まりはここからで、飼育員の笛の音や手の合図で水型ピヨは行動を移す。
まずはバスケットボールサイズのゴムボールを用意し、飼育員が投げたボールをくちばしや頭、胸ビレや尾ビレで打ち返していく。その次はピヨ同士でバレーボールをする。胸ビレ、頭と続いて高く上がったボールを最後はくちばしでつつきアタックの成功だ。観客の拍手音が会場に響く。
「すごい! ピヨさんたち上手!」
「うんうん! 器用だね~!」
ココロも夏菜も水型ピヨのショーに興奮して見入っている。
それから水型ピヨたちは水槽へ入り、天井から吊り下げられているボールを回転ジャンプして尾ビレで叩いたり、別の位置に吊り下げられている輪っかくぐりをする。
そしてショーの終盤。天井に吊り下げられている小さめの風船がある。
「これから水型ピヨの得意技、水鉄砲であの風船を割ります。しかし的が高い所にあるので当てることはと、て、も、難しいです! 皆さんの応援が必要なので、皆さん応援よろしくお願いします!」
「だってさココロちゃん、応援しないと!」
「うん!」
「「がんばれー!」」
会場の客、主に子供がそろって「がんばれ」と声援を送る。
「たくさんの応援ありがとうございます! ではピヨたち、準備はいいかなー?」
ピーッ!!
笛の合図で水型ピヨは水を口へ含み、そして水鉄砲を発射した。結果は外れてしまった。
「あ~~っ!! 残念! もう一回、もう一回やってみましょう! 皆さん、また応援お願いします! さっきよりも大きな応援を!」
「ピヨさんたちがんばれー!」
珍しくココロが大きな声を出している。それだけ頑張ってほしいと願っているようだ。
会場が一体となり応援する中、二回目の挑戦。
ピーッ!!
気合いの入った水型ピヨの水鉄砲が発射される。そしてそれは見事に風船へ命中し割ることが出来た。
「成功しましたーー!! 皆さん応援ありがとうございましたーー!!」
「やったね、ピヨさんたち風船われたよ!」
「あんな高いとこまで水鉄砲飛ばせるのスゴイよね!」
風船割りは大いに盛り上がり拍手が響き渡る。水型ピヨたちは飼育員のから餌をもらってから優雅に水槽の中を泳ぎ回っている。
「これで水型ピヨのショーは終わりとなります。皆さんありがとうございました~! そしてこの後はショーではないんですが、水型ピヨとハイタッチの体験が出来ます! 体験希望される方はステージの下へお願いしまーす!」
「わあっハイタッチ体験だって! どうする?」
「や……やりたい、けど……はずかしい。……ナッちゃんは?」
「せっかくだしハイタッチしたいな~。でもココロちゃんが行かないならやめよっかな~」
「……行く、だからナッちゃんも行こう?」
「オッケー! じゃあステージ行こう!」
ココロが体験に参加出来るように優しい誘導尋問がされた。そして二人はステージ下へと向かう。
「やばっ! 今日のメインイベント始まっちゃう!」
「わっ! ナッちゃんどうしたの?」
「ココロちゃんも前で見たいよね? 急がないと前の席取られちゃうから急ご!」
「う、うんっ!」
「うちとココロちゃん先に行ってるからね!」
「はいはい。私たちはゆっくり行って後ろの方で見てるわよ」
「りょーかい! いこっ」
伯母の了承を得ると、ココロは夏菜と手を繋ぎながらイベント会場へ向かって走っていく。この動物園は水族館が併設されており、隣にドーム型のイベント会場がある。
「あー良かった~ギリ席あったよ~」
ショーが始まる三十分前だというのにイベント会場は客で賑わっている。ココロが席を取っておき、夏菜が飲み物を買って戻ってきた数分後には後ろの席まで客がひしめき合っていた。
「うっひゃ~これじゃじいちゃんたち座れないだろうな」
「おきゃくさんいっぱいだね」
「そうだね。それだけこのピヨショーをみんな楽しみにしてるってことだよ」
「ピヨさんのショーなのに水そうがあるよ?」
会場の中央にはたっぷりと水が張られた大きな水槽があり、それを囲うように観覧席が設けられている。ココロと夏菜は前から四段目の席に座っている。
「ピヨショーは珍しい水型ピヨのショーなんだよ。水型って見たことある?」
「ううん、ない」
「うちも。テレビでは見たことあるけど、生で見るのは初めてなんだ」
「楽しみだね」
「うん、楽しみ」
飲み物を飲みながら他愛もない話をして待ち、時間になるとイベントを進行する飼育員が水槽のすぐ横のステージへやって来て一礼する。
「皆さーん、こんにちはー!」
大人から子供まで多くの観客が挨拶を返す。それから飼育員の前座で小話をしていると、どこからか鳴き声が聞こえてくる。
「キュウウ~」
「おやおや~この鳴き声は? あーーっ! 誰かがやって来るぞ~!」
「キュッキュウー!」
水槽の下部から影が上部へ泳いでステージへ飛び出してきた。水型ピヨ三羽である。ステージにあらかじめ設置してある台へそれぞれ飛び乗った。
「お~っと! 来てくれたのは水型ピヨだー!」
「ピヨさんだ! ピヨさん来た! かわいい!」
「ねー! かわいいね!」
「あれが水がたのピヨさんなんだ」
水型のピヨは群青色の体に横広の大きめなくちばし、トリであるがサカナのようなヒレが付いている。そして特徴的な真ん丸の目は濁ったような色をしている。 体長は一・五メートル程。
「はーい、では皆さんにご挨拶~」
飼育員の合図で水型ピヨたちは一斉に胸ビレを挙げて振っている。
「手ふってくれてる」
ココロも小さい手を水型ピヨに向かって振り返した。
ショーの始まりはここからで、飼育員の笛の音や手の合図で水型ピヨは行動を移す。
まずはバスケットボールサイズのゴムボールを用意し、飼育員が投げたボールをくちばしや頭、胸ビレや尾ビレで打ち返していく。その次はピヨ同士でバレーボールをする。胸ビレ、頭と続いて高く上がったボールを最後はくちばしでつつきアタックの成功だ。観客の拍手音が会場に響く。
「すごい! ピヨさんたち上手!」
「うんうん! 器用だね~!」
ココロも夏菜も水型ピヨのショーに興奮して見入っている。
それから水型ピヨたちは水槽へ入り、天井から吊り下げられているボールを回転ジャンプして尾ビレで叩いたり、別の位置に吊り下げられている輪っかくぐりをする。
そしてショーの終盤。天井に吊り下げられている小さめの風船がある。
「これから水型ピヨの得意技、水鉄砲であの風船を割ります。しかし的が高い所にあるので当てることはと、て、も、難しいです! 皆さんの応援が必要なので、皆さん応援よろしくお願いします!」
「だってさココロちゃん、応援しないと!」
「うん!」
「「がんばれー!」」
会場の客、主に子供がそろって「がんばれ」と声援を送る。
「たくさんの応援ありがとうございます! ではピヨたち、準備はいいかなー?」
ピーッ!!
笛の合図で水型ピヨは水を口へ含み、そして水鉄砲を発射した。結果は外れてしまった。
「あ~~っ!! 残念! もう一回、もう一回やってみましょう! 皆さん、また応援お願いします! さっきよりも大きな応援を!」
「ピヨさんたちがんばれー!」
珍しくココロが大きな声を出している。それだけ頑張ってほしいと願っているようだ。
会場が一体となり応援する中、二回目の挑戦。
ピーッ!!
気合いの入った水型ピヨの水鉄砲が発射される。そしてそれは見事に風船へ命中し割ることが出来た。
「成功しましたーー!! 皆さん応援ありがとうございましたーー!!」
「やったね、ピヨさんたち風船われたよ!」
「あんな高いとこまで水鉄砲飛ばせるのスゴイよね!」
風船割りは大いに盛り上がり拍手が響き渡る。水型ピヨたちは飼育員のから餌をもらってから優雅に水槽の中を泳ぎ回っている。
「これで水型ピヨのショーは終わりとなります。皆さんありがとうございました~! そしてこの後はショーではないんですが、水型ピヨとハイタッチの体験が出来ます! 体験希望される方はステージの下へお願いしまーす!」
「わあっハイタッチ体験だって! どうする?」
「や……やりたい、けど……はずかしい。……ナッちゃんは?」
「せっかくだしハイタッチしたいな~。でもココロちゃんが行かないならやめよっかな~」
「……行く、だからナッちゃんも行こう?」
「オッケー! じゃあステージ行こう!」
ココロが体験に参加出来るように優しい誘導尋問がされた。そして二人はステージ下へと向かう。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる