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十一話 夏と水

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 天海宅の玄関前に一人の少女が立っている。年齢は二十歳前後、日焼けした小麦色の肌にショートカットの茶髪。荷物でパンパンになっているボストンバッグを肩に掛けていてみるからに重そうだ。 

「ただいまー」 

 扉を開けて元気良くあいさつをし、靴を脱いで玄関から上がる。するとカッカッと何かが擦れるような音が階段の上の方から聞こえ、階段の下へ移動し降りてくる人物を見上げる。否、いたのは人ではなかった。 

「ううわああっええええっ!?」
「クアックアアアッ!?」 

 クックと鉢合わせ互いに驚き大声で叫ぶ。
 その声を聞きつけてリビングから一番始めにやってきたのはココロだ。 

「クックさん!?」
「クァ~ッ主~」
「ととっトリが喋った!? ……って、は、え? うそ、ココロちゃん!?」 

 少女はココロを見るなり二度目の驚きを体感している。
 遅れて伯母と伯父もリビングからやって来る。 

「お帰りなさい」
「お帰りー」
「ただいま……ねえ何でココロちゃんいるの? というかこのでっかいトリなに!? サプライズならココロちゃんだけで十分なんだけど!」
「あれ? メールして………………あ、なかったわ! てへぺろっ」 

 ぺろっと舌を出す伯父の動作を横で白い目で見る伯母。伯父のことは放っておき少女へ向き直る。 

「ココロちゃんは春からうちで預かってるのよ」
「へえー。ビックリしたけど嬉しい!」
「お姉ちゃん、わたしをしってるの?」
「知ってるよ。ココロちゃんは覚えてないかな? よくナッちゃんって呼ばれてたんだけど」 

 そう言われると頭の中で『ナッちゃん』と反復しじわじわと記憶が整理されてきて、思い出し「あっ!」と声を上げた。 

「わかった! 遊んでくれてたお姉ちゃんだ!」
「そうそう。や~久しぶりだよ~」 

 ドサッと重そうなボストンバッグを床に置きココロを抱きしめる。
 ココロも安心した表情をしながら腰に手を回して抱きしめ返した。
 少女の名前は夏菜。伯父と伯母の娘である。 

「それでさ、あのでっかいトリは!?」
「クックさんだよ」
「クックさん……って名前?」
「ココロちゃんが飼ってるピヨなのよ」
「うそピヨなの!? 可愛くないね!」
「ぷっ……はははっ! 夏菜、直球すぎ!」
「えっ」 

 顔を上げて伯父に顔を向けた後、再びココロに視線を戻す。
 ココロは何とも思ってないような不思議そうな顔をしている。
 変わったといえばクックの反応だ。先程までは驚いていたが、今は体を縮こませて体育座りをしながらしょんぼりしている。 

「ワタシ可愛クナイデスカ……?」
「可愛くはないわね」
「……ッ!?」 

 伯母の言葉に一層落ち込みを見せている。
 そこで伯父がフォローを入れる。 

「筋肉ゴツいしかっこいいからイイじゃん。俺は可愛いのよりクックさんを推すね」
「別に全てが可愛くないわけじゃないのよ? 性格は懐っこいし」
「クックさんのかぶってるのかわいいよ。おしゃべりもよくしてくれるしおもしろい」 

 三者三様の意見を聞いた夏菜はうんうんと頷いてあたかも納得といった表情を浮かべている。 

「なんかよく分かんないけど面白いピヨだね! さっきはいきなり出てきてびっくりしたけど、ピヨって言われるとそうかもって感じするよ」
「おっ、意外とすんなり受け入れてんじゃん」
「ちゃんとトリって言ってるし」
「だって脚なんかめっちゃくちゃトリじゃん。太くてキョーリューみたいだけど。そりゃあ服着てムキムキなトリとか初めて見たけどさ、ピヨってまだよく分かってないトリなんでしょ?」
「まあそうね」
「さすがは俺たちの子供! 当たり前にとらわれないっていうか、臨機応変っていうか、目の付け所が違うよねー」
「あっははは。お父さんなに言ってんのかよく分かんない」
「この人がよく分からないのは前からでしょ」 

 笑いながら荷物を持ってリビングへ向かっていった夏菜。
 夏菜の言葉に返して伯母も一緒にリビングへ戻っていく。 

「ウチの女性陣マジヒデー……」 

 ココロは項垂れる伯父の裾をつかんでくいくいと引っ張り見上げながら一言。 

「伯父さんもおもしろいよ」
「……ココロちゃんのそういうとこ、結構好き」 

 姪のさり気ないその一言が伯父の心にぐっと響いて久しぶりに感動していた。 
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