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十話 大切なモノ
六
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「クックさーん」
「…………クァ……?」
ランドセルの定位置の横にいつも置いてあるケージ。そのケージの横で体育座りをして眠っていたクックは寝ぼけた様子で項垂れた頭を上げた。
「主、呼ビマシタカ?」
「うん。リリカちゃんたち来たから行こ」
「分カリマシタ」
のっそりと立ち上がり背筋を伸ばす。全長がニメートルを超すクックが立つと天井までの距離が近い。腕を伸ばせば着いてしまうくらいだ。
ココロが先に階段を降りていき、その後ろを付いていくとココロでは鳴ることのない爪の擦れる音や体の重みで低く鈍い音も混ざって聞こえてくる。
「おまたせ」
「あまり驚かないでくださいね。クックも驚いてしまいますので」
祖父が言葉でワンクッション置く。
凛々華も常磐の老婆も楽しみでうずうずとリビングに入ってきたココロを見ている。
「いいよクックさん」
「アノ、本当にイイデスカ?」
「いいんだよ、はずかしいの?」
リビングの扉から離れて中々入って来ない。手招きをすると、躊躇いつつおずおずとやって来た。
クックの姿を見た二人は驚嘆する。
「うわっ! 大っきい!」
「まあまあ、はああ~……立派なこっちゃ……!」
「えっ、この人本当にクックさん!?」
「そうだよ」
凛々華が疑うのも無理はない。小雛の面影が殆ど見られないのは他の進化形態にも言えることだが、クックの容姿は一線を画す。クックのような進化形態は類を見ないのだ。
「でもお話してるよ?」
「なんでか話せるみたい」
「まるでキュウカンチョウみたいやなあ」
「きゅうかんちょう?」
初めて聞く名称に首を傾げている凛々華に常磐の老婆が説明してやる。するとそんな鳥がいるのかと新たな知識で驚きと喜びを同時に感じたようで、クックを見ては更に目を輝かせている。
「しゃべれるトリなんてすごい!」
「話セルヨウニにナリタカッタデスカラ。オモチも話セタラ凄イデスカ?」
「うん、オモチもお話できたらすごい……あ、オモチと会ったことあるもんね」
「ハイ。一緒に走リマシタ。転ガルシテ、跳ビ回リ楽シカッタデス」
「ちゃんとおぼえててくれたんだね。本当にクックさんなんだあ……!」
「クックちゃん、アタシのことは分かる?」
凛々華に次いで常磐の老婆がクックに話しかける。
「常磐のオバアチャンデス。コノ首輪をクレマシタ」
「ああ~そうそう。首輪じゃなくて脚輪になっとーね。随分大きくなって巻けんもんなあ」
「おばあちゃん、くびわクックさんに付けたままでいい?」
「構わんよ。こうして立派に進化した姿を見せてくれたしなあ」
「首輪はミドリさんからだったんですね。その節はありがとうございます」
「いいのよぉ。使ってくれる子がいたら、首輪だって《あの子》だって使われて嬉しいって思っとるはずよ」
「ではやはりその首輪は《クロ吉》のなんですね。そんな大切な物ならお返しした方が……」
「ええ、ええ。ココロちゃんもクックちゃんもええ子やしな」
常磐の老婆は目を細めて懐かしむように首輪もとい脚輪を眺めている。
「クロ吉は飼ってたピヨでな、通常型のピヨで羽が黒かったんよ。アタシにとってはコンパニオンアニマルやった」
ココロも凛々華もその『コンパニオンアニマル』という言葉を知らず不思議そうな顔をしている為、常磐の老婆は説明を加える。
「コンパニオンアニマル言うんはな、簡単に言えば家族やな。ペットよりも身近な存在なんよ」
「へえ~すてきだねっ! じゃあオモチもそうかな?」
「クックさんも……」
「ただな、いくらこっちがそう思うてても認定はされないんよ。やけん正確にはコンパニオンアニマルとは言えん」
「どういうこと?」
「家族って言っちゃいけないの?」
「言うのは構わないが、法律上の括りとしてはペット扱いだな」
小学生の二人には難しい話で首をひねるばかりだ。
「ソレは悪イデスカ?」
「ペット以上の存在やったからねえ……同じお墓に入れてあげたかったんよ」
その決定的な単語を聞き、クロ吉はもうこの世にいないことを知る。
そして常磐の老婆は、クロ吉の為に墓を建てたことや、自分がいずれ入るのはクロ吉と同じ墓と決めていると話した。
一般的に人間とペットは同じ墓に入ることは許されていない。しかし例外としてコンパニオンアニマルは家族と認められており、同じ墓に入ることを許されている。他にも例外はあり、亡くなる前に有効な指示書を遺してあったり、一族とは無関係の墓を対象とすれば認められる。
コンパニオンアニマルの認定にはいくつか条件があり、人間と暮らしてきた歴史が長いこと、習性や獣医学が解明されていること、人間との共通感染症が解明されているかが挙げられている。
ピヨはどの条件も満たしていなかった。人間に発見されてから現在までの歴史は浅く情報量も少ない。
「おかしな話して悪いなぁ。まあ誰に言われようと大事なもんは大事。家族言うたら家族なんよ」
そう言いながら常磐の老婆は破顔し、祖父もつられて微笑んでいる。
しかしココロも凛々華も、墓の話をした後に笑っている大人を不思議そうに見ていた。
「…………クァ……?」
ランドセルの定位置の横にいつも置いてあるケージ。そのケージの横で体育座りをして眠っていたクックは寝ぼけた様子で項垂れた頭を上げた。
「主、呼ビマシタカ?」
「うん。リリカちゃんたち来たから行こ」
「分カリマシタ」
のっそりと立ち上がり背筋を伸ばす。全長がニメートルを超すクックが立つと天井までの距離が近い。腕を伸ばせば着いてしまうくらいだ。
ココロが先に階段を降りていき、その後ろを付いていくとココロでは鳴ることのない爪の擦れる音や体の重みで低く鈍い音も混ざって聞こえてくる。
「おまたせ」
「あまり驚かないでくださいね。クックも驚いてしまいますので」
祖父が言葉でワンクッション置く。
凛々華も常磐の老婆も楽しみでうずうずとリビングに入ってきたココロを見ている。
「いいよクックさん」
「アノ、本当にイイデスカ?」
「いいんだよ、はずかしいの?」
リビングの扉から離れて中々入って来ない。手招きをすると、躊躇いつつおずおずとやって来た。
クックの姿を見た二人は驚嘆する。
「うわっ! 大っきい!」
「まあまあ、はああ~……立派なこっちゃ……!」
「えっ、この人本当にクックさん!?」
「そうだよ」
凛々華が疑うのも無理はない。小雛の面影が殆ど見られないのは他の進化形態にも言えることだが、クックの容姿は一線を画す。クックのような進化形態は類を見ないのだ。
「でもお話してるよ?」
「なんでか話せるみたい」
「まるでキュウカンチョウみたいやなあ」
「きゅうかんちょう?」
初めて聞く名称に首を傾げている凛々華に常磐の老婆が説明してやる。するとそんな鳥がいるのかと新たな知識で驚きと喜びを同時に感じたようで、クックを見ては更に目を輝かせている。
「しゃべれるトリなんてすごい!」
「話セルヨウニにナリタカッタデスカラ。オモチも話セタラ凄イデスカ?」
「うん、オモチもお話できたらすごい……あ、オモチと会ったことあるもんね」
「ハイ。一緒に走リマシタ。転ガルシテ、跳ビ回リ楽シカッタデス」
「ちゃんとおぼえててくれたんだね。本当にクックさんなんだあ……!」
「クックちゃん、アタシのことは分かる?」
凛々華に次いで常磐の老婆がクックに話しかける。
「常磐のオバアチャンデス。コノ首輪をクレマシタ」
「ああ~そうそう。首輪じゃなくて脚輪になっとーね。随分大きくなって巻けんもんなあ」
「おばあちゃん、くびわクックさんに付けたままでいい?」
「構わんよ。こうして立派に進化した姿を見せてくれたしなあ」
「首輪はミドリさんからだったんですね。その節はありがとうございます」
「いいのよぉ。使ってくれる子がいたら、首輪だって《あの子》だって使われて嬉しいって思っとるはずよ」
「ではやはりその首輪は《クロ吉》のなんですね。そんな大切な物ならお返しした方が……」
「ええ、ええ。ココロちゃんもクックちゃんもええ子やしな」
常磐の老婆は目を細めて懐かしむように首輪もとい脚輪を眺めている。
「クロ吉は飼ってたピヨでな、通常型のピヨで羽が黒かったんよ。アタシにとってはコンパニオンアニマルやった」
ココロも凛々華もその『コンパニオンアニマル』という言葉を知らず不思議そうな顔をしている為、常磐の老婆は説明を加える。
「コンパニオンアニマル言うんはな、簡単に言えば家族やな。ペットよりも身近な存在なんよ」
「へえ~すてきだねっ! じゃあオモチもそうかな?」
「クックさんも……」
「ただな、いくらこっちがそう思うてても認定はされないんよ。やけん正確にはコンパニオンアニマルとは言えん」
「どういうこと?」
「家族って言っちゃいけないの?」
「言うのは構わないが、法律上の括りとしてはペット扱いだな」
小学生の二人には難しい話で首をひねるばかりだ。
「ソレは悪イデスカ?」
「ペット以上の存在やったからねえ……同じお墓に入れてあげたかったんよ」
その決定的な単語を聞き、クロ吉はもうこの世にいないことを知る。
そして常磐の老婆は、クロ吉の為に墓を建てたことや、自分がいずれ入るのはクロ吉と同じ墓と決めていると話した。
一般的に人間とペットは同じ墓に入ることは許されていない。しかし例外としてコンパニオンアニマルは家族と認められており、同じ墓に入ることを許されている。他にも例外はあり、亡くなる前に有効な指示書を遺してあったり、一族とは無関係の墓を対象とすれば認められる。
コンパニオンアニマルの認定にはいくつか条件があり、人間と暮らしてきた歴史が長いこと、習性や獣医学が解明されていること、人間との共通感染症が解明されているかが挙げられている。
ピヨはどの条件も満たしていなかった。人間に発見されてから現在までの歴史は浅く情報量も少ない。
「おかしな話して悪いなぁ。まあ誰に言われようと大事なもんは大事。家族言うたら家族なんよ」
そう言いながら常磐の老婆は破顔し、祖父もつられて微笑んでいる。
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