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十話 大切なモノ

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 翌日。事前に連絡しておいた凛々華が家に遊びにやって来た。その隣には予想していなかった人物、常磐の老婆もいた。 

「えっ、どうしてときわのおばあちゃんがいるの?」
「来る時に会ったんだよ。ときわのおばあちゃんもクックさんがしんかしたら見せてって言ってたから」
「クックちゃんが進化したと凛々華ちゃんに聞いてついてきてしもうたと。予定になかったとに急に押しかけて悪かね」
「ううん、またこんど会ったら言おうと思ってたからよかった」 

 連絡先を知らず常磐辺りを散歩しているという情報しか知らなかった為、次いつ会えるか分からなかった。凛々華が偶然会い連れてきてくれたお蔭で手間が省けた。
 玄関から上がるよう促すと凛々華は靴を脱ぐ。
 常磐の老婆も玄関から上がり、凛々華と自分の靴の向きを変えて整えた。杖は玄関に立て掛けておき両手を背中に回して歩き出す。 

「かぜ大丈夫?」
「うん。もうねつ下がったよ」
「風邪引いとったんね。そりゃ可哀想になあ」
「っ……」 

 かわいそうって言われるのなんかやだな……わたしはかわいそうって思ってないのに。しんぱいしてくれてる言葉なのに、なんだかいやな気分…… 

 その常磐の老婆の『可哀想』という言葉に反応を見せるが、頭をブンブンと横に振り何でもないと言い聞かせ気を持ち直そうとする。
 リビングに入りテレビ前のソファに案内し二人に座ってもらう。 

「おばあちゃんはお茶とかがいいかな?」
「何でも構わんよ」
「そう?」 

 来客用のコップを二つ出し、一つにはアップルジュース、もう一つのコップには伯母と祖父がよく飲んでいる水出しのコーン茶を注ぐ。凛々華にはアップルジュース、コーン茶を常磐の老婆へ渡した。 

「ありがとう」
「ありがとうね」
「どういたしまして」 

 コップを渡したタイミングで和室に繋がる襖が開かれる。和室からは祖父が顔を覗かせる。
 祖父の存在に気づいた凛々華は緊張した面持ちで声を掛けた。 

「あ、あの、こんにちはっ」
「こんにちは」
「あら、ケンさんじゃない?」 

 声に反応して祖父が顔を向けると、確信に変わったのか常磐の老婆は朗らかに笑む。 

「やっぱり! 偶然やねぇ。お邪魔してます」
「ミドリさん。いやあ、ご無沙汰してます」
「ときわのおばあちゃんをしってるの?」
「散歩している時に会ったことがあってな。でも最近は見掛けて無かったからな。ご加減はいかがですか」
「ええ、ええ。ぼちぼちやよ。……それにしてもココロちゃんのおじいちゃんがケンさんだったなんてねぇ」
「私はここにミドリさんがいらっしゃることが驚きですよ。どういった繋がりですか?」
「うふふ。ちょっとしたお節介をしただけやよ。なあ? ココロちゃん」
「う、うん」 

 全てを語らないのはきっとココロに配慮してるからだろう。ココロが遊んでいて余所見をしてぶつかったことを注意したと言えば、ココロがまた叱られてしまうだろう。叱られて学ぶこともあるが、そう何度も繰り返さずとも理解出来たことならばそっとしておくことも重要で、繰り返すことで却って不快にしてしまうことだってある。 

「あっ、クックさんつれてきていい?」
「そうね。その為にお邪魔しとるもんなぁ」
「うん! しんかしたクックさん見れるの楽しみ!」
「じゃあちょっとまってて」 

 即座に話題を当初の目的に戻し、それからリビングを出て階段を昇っていった。
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