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九話 進化

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 朝の天気予報で夕方頃から雨が降ると聞いていた。降る前に太郎丸の散歩を済ませてしまおうと思い立った憲造は、ハーネス付きリードを太郎丸に付ける。数十分家を空けるだけだが一応ココロに宛ててメモを残した。 

「よし、行こう」
「コケーッココ」 

 施錠して家を出る。ただ散歩をするだけでもピヨは運動になるのだが、太郎丸は運動好きで自分の歩みの遅さでは退屈かもしれない。 

「少し走るか」 

 リードを軽く引っ張りながら走る動作に移ると、太郎丸は感じ取ったのかバサバサと翼を羽ばたかせて跳び上がり地面に着地すると走り出した。憲造の走る速さに合わせているのか、前を走っていてもリードは弛んでいる。 

「はあ……年取ったな」

 数分走っただけでも憲三は息を切らしてしまい、立ち止まり肩で息をする。年齢を重ねることは抗えないものだが、こうも年を実感すると少し物悲しい。 

「ココッ」
「コケーッ」
「おおっ!?」 

 太郎丸が動くとリードが引っ張られついていくと雌の通常型ピヨがいた。どうやら太郎丸の目当ては彼女のようだ。 

「おや、ケンさんじゃないか。こんにちは」
「こんにちは」 

 導かれた場所は町内会館の前だ。今日は町会があったようで近所の知り合いが大勢集まっている。 

「そんな息切らしてマラソンかい。若いね~」
「どうだい一杯お茶でも」
「太郎丸くんはうちの子にぞっこんみたいだしねえ」 

 確かに走って疲れて喉が渇いている。
 太郎丸の様子を見ても当分はこの場所から離れなそうだ。
 一杯だけと断りを入れ、誘われるがまま会館へと足を踏み入れた。温かいお茶を出され他愛もない話に花を咲かせる。ただそれだけのことで時間が刻々と過ぎていった。
 時計に目をやる頃には、あと五分で十八時を回ろうとしていた。一杯のお茶で長く居座り過ぎたのだ。憲造はその場にいる町民に軽く挨拶を交わし会館を出た。
 空は曇りポツポツと小雨が降っていてコンクリートを濡らし跡を残していく。本降りになる前にと早歩きで太郎丸を連れて帰宅する。天海家は十八時になると必ず施錠することが決められており、ココロの門限としている。 

「ただいま」 

 玄関から太郎丸を抱えてリビングへ向かい、庭に置いてある桶に水を張り太郎丸を入れてやる。散歩から帰るとこうして脚だけ浸けてタオルで拭いてから家に入れるようにしている。 

「ココロ! ……ココロ!」 

 二階にいるであろう孫の名前を呼んだが返答は無い。 

「聞こえないか。それか寝てるのか?」 

 太郎丸を拭く新しいタオルを持ってきてもらおうと考えていたが、仕方がないなと思い太郎丸を手から離す。
 しめたと太郎丸は桶から出ていきさっさと庭を駆け回っていった。 

「よっこらしょ」 

 立ち上がり新しいタオルを持ってきて、それから逃げ回る太郎丸を呼びながらおやつで気を惹き、近寄って来たところをすかさず抱えて脚を拭いてから家の中へ放った。 
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