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九話 進化

ニ 挿絵あり

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「帰らないと」 

 リビングの大きな窓から外を見るとすっかり日が落ちて辺りは暗くなっていた。いつから眠ってしまったのか、どれくらい眠っていたのか、今が何時なのかも分からない。 

「帰リマショウ」
「うん。……あ……う」 

 立ち上がると膝が笑う。疲れやさっきまでの恐怖で体が言うことをきかない。手で膝を抑えると震えは治まるが、歩けるまで時間がかかりそうだ。 

「つかれちゃったみたい……ぜんぜんうごけないや」
「動ケナイノデアレバ、コウシマショウ!」
「ひゃあっ!?」 

 急に近づかれたと思ったら体を持ち上げられ肩に担がれてしまった。頭がクックの肩甲骨の辺りに位置し、尻がクックの顔の横という干された布団のような態勢で、逆立ちのまま落とされるのではと恐怖を感じる。 

「コレナラ主の役に立テマス!」
「こここわいっ! 下ろしてっ!」
「コレは駄目デスカ?」
「だめ!」
「駄目デスカ……」 

 一喝するとクックはココロを下ろした。そして後ろを向くとガクンとしゃがみ、膝を抱えて項垂れた。 

「ゴメンナサイ、主を怖ガラセテシマイマシタ……」 

 後ろを向いていて、そもそも頭巾で表情は分からないのだが、弱々しい声音からして落ち込んでいるのだろう。
 大きな図体を縮こませている姿はなんだかおかしかった。広くて大きな背中を丸めていて、それがとても逞しいのに寂しく思う。 

 しんかしてこんなに大きくなっても、クックさんはやっぱりやさしいんだ。わたしのためにしてくれようとしてるんだもん 

「こわかったけど、クックさんはこわくないよ」 

 そう言いながら丸まったクックの背中に覆い被さるように抱きつく。大きな背中はこのまま寝てしまいそうな程心地よい温かさで安心する。 

「わっ!?」
「コレナラドウデショウカ?」 

 クックが突然立ち上がり、手はココロの膝裏に回り体重を支えて、所謂おんぶしている状態となる。 

「コレも駄目デスカ……?」
「これならこわくないよ」
「ソウデスカ、良カッタデス。デハ帰リマショウ」
「まって。ケージもってかないと。でも、もうクックさんは入らなそうだね」
「今のワタシの体デハ難シイデスネ。デスガワタシの寝床デスカラ持ッテ行キマショウ」 

 床に置いてあるケージを片手に抱え、もう片方の手でココロを支えている。
 そしてココロはクックの肩に手を置いて落ちないようにしっかりと摑まる。ショルダーバッグも掛けて、これで帰る準備は整った。 

「帰る道はなんとなくしかわからないけど……帰れるかな……」
「大丈夫デス。帰巣本能で帰レマスカラ」
「きそ……ほんの?」
「ワタシもナントナクワカル、トイウコトデスヨ」 

 クックの共感してくれる言葉や優しい声音がとても落ち着く。まるで今までに何度も聞いたことがあるような気さえしてくる。靴を履き、戸締まりを確認する。
 そしてココロを乗せたクックは、伯父、伯母、祖父、太郎丸のいる家を目指して歩み始めた。
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