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八話 気持ちのズレの訪れ

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 ココロはクックに話しかけることなく目指している場所に向かってただひたすら歩いていく。通学路を通り抜け、いつも遊びに行く公園や広場も横を素通り。向かっている場所は隣町だ。元々住んでいた家に向かおうとしている。子供の足でも行くことは可能な距離なのだが、伯父夫婦の家から元の家までの道をココロは知らない。ココロは今、走る車内で見た記憶を頼りに当てずっぽうで歩いている。 

「このお店見た気がする」 

 店の並びや看板を見て行く道を判断している。ケージを持ちながらである為、歩く速度も通常より遅い。暫く進んで行くと公園が見えてくる。 

「……来たことないこうえんだ」 

 声に出した通り今までに来たことの無い知らない公園で、車止めを避けて入っていく。その公園の何が気に留めたのか。それは下に潜り込めるドーム型の混合遊具だ。ドーム型のコンクリートから雲梯が地面に向かって伸びており、別の角度には滑り台が付いている。
 ココロは雲梯の下をくぐり抜けてドーム型コンクリートの空洞に潜り込んだ。 

「ちょっとここで休もう」 

 初夏の日差しは心地いいものだが幾分歩き疲れており、日陰となる場所は休憩するには丁度良い。座った接地面はひんやりと冷たい。
 ケージを地面に置き、クックを手のひらに乗せてケージから出してやる。クックを見る目は普段より温度が低い。
 《クックを見ている目》というよりも《何も見ていない目》。正の感情が込められていない、そんな目をしている。表面上は虚ろに見えるその目の奥には、どろどろとした浅黒い負の感情が渦巻いていた。 

「……今のお家にはママもパパも帰って来ないの……。むこうのお家でまってたらきっと帰って来るよ。だからクックさんもいっしょに行ってまってよう? むこうのお家にいれば、おそくたって帰ってきてくれるから……」
「ピィ……」
「「わーっ!」」
「ピギョッ!?」 

 走る足音と甲高い複数人の声が聞こえてきて、ココロは咄嗟にクックをケージに戻す。
 幼稚園児二人と母親らしき女性二人が公園に入ってきた。
 休憩する筈がこのままここにいるのは居辛く、居たことがバレてしまうのも嫌で、ケージを持って立ち上がり、入ってきた人達から死角となる反対側の出口まで走っていき公園から出ていった。
 公園から出た後は来た道を戻ってみたり、直感で進んでみたりを繰り返していた。空が夕焼けに染まる頃、見覚えのある風景が目に映る。 

「ここしってる! 多分あっちに……」 

 予想しながら進み、思い描いていた建物が並んでいると嬉しくなる。本当に辿り着くことが出来るのか半信半疑だった。あとは知っている道を進むのみで、足取りが軽くなり歩く速度が上昇していく。自分がよく遊んでいた公園を見れば確信した。元いた家に近づいているのだと。 

「ピッ……ピギョッ……ギョッ」
「もうちょっとだよ、もうちょっとでお家につくからね」 

 ガタガタと揺れるケージ内ではクックがしょっちゅう鳴いていた。
 その鳴き声にやっと気付いたココロ。無心に歩き続けて気づかなかったが、クックを気にかける程の心のゆとりがやっと出来たようだ。 

「いっぱいゆらしちゃってごめんね。またどこかケガしてない?」
「ピギョギョギョッ!」
「ふふ、元気そう。もうちょっとでお家つくからがんばろうね」
「ギョッ」 

 クックが返事をしてくれる。クックが一緒にいてくれる。それはココロにとっての支えだ。今もケージごと移動をしており強制的ではあるが、それでも嫌がる素振りを見せずにいてくれる。だからココロは諦めずにいられる。もう迷うことはない。見覚えのある街並みを突き進んで行くだけだった。 
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